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「イブニール公爵のご尊顔を思い出せなくなってしまったのは、呪いのせいなのですね」


 わたしがそうつぶやくように言うと、イブニール公爵がわずかに身じろいだ。


「その通りですが……マクベル嬢はこれを荒唐無稽な話だとは思わないのですか?」


「ええ。実際に不可思議な現象が起こっておりますし、呪いの品は過去にも見たことがありますので疑うつもりはございません」


 呪いの品を嬉々として集めていた女性の顔を思い浮かべる。いたずらっぽい笑みを浮かべる歳上の彼女。こちらから会うすべはないので、生死も含め、その所在はわかりようがない。


「解呪の方法はわかっているのですか?」


 以前見た品について掘り下げられないよう、意図的に話題を逸らす。イブニール公爵はゆっくりと頷いた。


「真実の愛により、解呪されるとのことです」


 重々しく告げられた言葉に、思考が停止する。


「真実の……」


「愛です」


 繰り返し言わせてしまったことに罪悪感を覚える。

 真剣な語り口と紡がれたその言葉に差異がありすぎて頭がまわらない。


 真実の愛という単語が凄まじい破壊力をもってわたしの脳内を飛び交っている。


「正確には、心から愛し合うものどうしの口付けで解呪に至るそうなのです」


「なるほど……」


 真実の愛というそのひとつの単語さえ無視すれば、思考を脅かすことなく処理できそうだ。


(イブニール公爵の妻の座を誰が勝ち取るかで世間が賑わっていたことだし、どこかのご令嬢が愛を勝ち取るため呪いの品に手を出したと考えれば……あれ?)


 それはおかしい。


(心から愛し合うものどうしという縛りはなんの得にもならないような……妻の座を狙うなら、口付けした相手に心奪われるとかそういう呪いにするわよね……それなら単純な恨みつらみのほうが納得できるかも……それでもかなり遠回しな呪いだけど、望みに近いものがこれしか手に入らなかった……?)


「マクベル嬢?」


「あっ……申し訳ありません。つい考え込んでしまいました」


「急な話で悩ませてしまって申し訳ありません。すでに察していらっしゃるとおり、マクベル嬢には呪いの解呪を手伝ってもらいたいのです」


「……」


 今回は令嬢教育の成果を無事発揮して、イブニール公爵の言葉を笑顔で受け止めた。感情の乗らない表面だけの笑み。


 イブニール公爵は、先程までわたしが考え込んでいた内容を勘違いしたらしい。

 婚約の打診がきてそれを受けたことは、呪いのくだりですっかり脇に追いやられていた。一時的に忘れていたと言い替えてもいい。


(婚約のことは突然湧いた嘘みたいな話だったし、今でも夢じゃないかと思ってしまうところだけれど……)


 微笑みをたたえたまま、考える。


(解呪には真実の愛……心から愛し合うものどうしの口付けが必要で……えっ全然わからないわ。前提条件として愛し合うふたりが必要なのよね?わたしの心は問題ないけれど、公爵様は……?)


 ちらり、とイブニール公爵を窺い見てみても、どういう心情でいるのか慮ることは難しい。唯一見えている唇は、緩やかな弧を描いている。

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