二日
一週間前はヘンリーと共に3人で過ごしていた部屋で彩子と智也は一晩を共にした。彼らは二人での生活に少しづつ慣れつつある。しかし頼っていたヘンリーの姿が消え、そこにぽっかり心の穴ができていたのであった。彼らもそれを受け入れようとしているのだが、まだ心の溝はぽっかりとあいたまま。これまではヘンリーからこの世界の情報を手に入れていたのだが、今は頼れるものもおらず当然この世界の情報を探る手立てもない。それで彼らはこれからこの世界でどのように過ごしていくのかずっと考えているが全く決まらない。彩子は智也を励まそうとしているのだが智也はそこまで心が動かされない。やはりヘンリーがいなくなって気持ちの向ける先が何もないのだろう。彼は自分が彩子を守っていかなければならないことも考えているのだが、それと同時に自分に課せられたリアクターとしての使命を全うしなければならないこともあり、どちらを優先すべきかどちらも優先すべきか、どちらも優先しなければならないのなら今の自分にできるだろうかと考えている。もちろん彩子もヘンリーが姿を消してから調子が出ていないが、智也が元気を出してくれないから心配しているようだ。彩子は智也のことが好きでこれまでの元気で頼りになる智也に戻ってほしいのだ。しかし智也は一向に立ち直る兆しがない。彼女はそのことに戸惑いながらも、窓の外を見下げるとあの馬車がまた彼らの目の前に姿を現す影を見た。これは偶然なのだろうか。その馬車からある人物がキャビネットからドアを開けてから降りてきた。その人物は男性のようで60代くらいの様子だ。その男性は降りてからすぐにキャビネットのドアの横に立った。どなたかが出てくるのではと彩子は思ったのだが、案の定ある一人の少女がドアを開けて降りてきた。金髪で肌白の少女で身長は少し小さかった。少女はその男性に何かを言って、ある店に入っていった。その直前こちらを見上げてきた。そしていつものようにとっさに顔を下ろしてその店に入っていった。あの女性は何者なのだろうか?なぜあの人物は私に興味があるのか。彩子はそう思った。しばらくすると彼女はその店から出て、またこちらに目を向けようとちらっと顔を傾けたのだが、結局目を合わせずにその馬車のキャビネットに戻っていった。彼女は私に興味があるのか。だとしたら一体。彩子はその人物のことを思い出そうとしてみるがあのちらっと見る少女以外には見当がつかない。そのまま馬車はその宿の目の前を去っていった。
「なあ、彩子!今日どこに行く?図書館に行かないか?」
「え?」
「図書館で俺たちの能力について書かれている本があるかもしれないぜ。行かないか?」
「いいわね。私もあの本屋に行ってみたかったのよ。行きましょうか」
「じゃあ準備しようぜ。それと今日朝食店で食おうぜ」
「あらいいわね。いろいろ気になる店あるからね」
「そうと決まればワクワクしてきたぜ。な、彩子!」
「そうね。私も楽しみだわ」
俺たちは準備を終え宿屋を出た。彼らの目の前には一面の光が差し込み、俺たちはとても清々しい気分になったようだ。彼らはこれまでヘンリーにたくさん助けてもらった。しかしこれからは自分たちでやっていかないといけない。彼らは寂しさを胸に少しワクワクが混じったような気持ちで朝食を食べに行った。
「カララン」
「いらっしゃいませ」
この店はどうやらサンドイッチ専門店らしくとりどりのサンドイッチが壁に貼られた絵にに描かれてある。しゃきしゃきのレタスと濃厚そうなチーズにとても分厚い大きなベーコン2枚が挟まれてあるものや、大きなトマトになにやら特製のソースが浸されてその周りにたくさんのキャベツとチーズが2枚がさまれたものが看板に大きく描かれている。俺たちはこの店のおいしそうな看板を見ながら、それにかぶりつく妄想を始めると同時にウエイターが何やら話しかけてきた。
「ご注文はお決まりでしょうか」
「お決まりでしたらいつでも呼んでください」
そういって俺たちのそばを離れていった。そういえば久々に店に入ったな。この世界の店に入ったのはあの最初の町ぶりだな。あの時食べたポトフがとてもおいしかったのを覚えている。しかしあの店長は元気かな。もう一度行ってみようかな。
「ねえあなた。あの卵ハムカツサンドがいいわ」
「おお、お前随分がっつりだな。俺はベーコンチーズサンドにするわ」
「じゃあ呼ぶわね。すいません注文が決まったのですが」
「はい、注文を伺います」
「私は卵ハムカツでそっちはベーコンチーズでお願いします」
「かしこまりました。少々お待ちください」
「ねえあなたこの店結構いけてるけど、どうなの?」
「俺にもわからないよ。見かけはとてもおいしそうだけど」
「おいしそうに見えてあまりおいしくないのもあるわよね」
「俺はおいしくなくてもちゃんと食べるぜ。お前と違って」
「まあ失礼ね、私は食物に真摯だから全部食べるわよ」
「おう!そうでなくちゃな!」
「あなたったら、そういうとこ結構正直ね」
「おまえよりわな」
「お客様、お待たせいたしましたご注文の品です。何かあればまたお呼びください」
そういうとウエイターが去っていった。
「ガブッ」
「どうだ?おいしいか」
「結構おいしいわね。ハムと卵にカツの味がアクセントになっておいしいわ」
「俺も食べるか」
「ジュシュッ」
「うまいなこれ。この店のサンドイッチ結構いけてるな」
「そうね」
「ジュシュッ」
「ハーッジュシュッジュシュッ」
「ジュシュジュシュッ」
「まあうるさいわあなた。ちょっと静かにして」
「いいじゃんこれめっちゃおいしいんだよ。今日くらい許してよ」
「いつも今日だけ今日だけとかいってるけどいつもじゃない?」
「そんな細かいことはいいから。早く彩子も食べろよ、ほらっ」
「ねえあなた汚い」
俺たちはヘンリーのことを完全に忘れてサンドイッチを食べた。この村にもこんな店があるんだ。まだまだいろいろなものがこの村にいや、この世界に埋まっているはずだ。この店に来てよかった。せっかくこのゲームの世界に来たのだから楽しまないとな。俺はこの店に来てこの世界が少しだけ好きになったような気がする。そうだ、俺が世界観に影響を与えられるようになったら、まずこの店をいろいろな町や村に広めるんだ。絶対に面白くなるぞ。
「ガブッ」
「彩子!うまいか!」
「さっきも言ったでしょ。なんかテンション上がってない?」
「おうよ!うまいもん食べたらこれまでのことがどうでもよくなってきたんだよ」
「そうなの?」
「おう!」
「それならいいわ」
「クスッ」
彩子がサンドイッチをほおばりながら少し笑った。俺はその時この一週間で一番うれしい気持ちになった。ここ一週間彩子は本気で笑わなかった。一週間ぶりの本当の笑顔は俺にとって何よりの幸せだったのだ。しかしこの村にはこんないいものがあったのか。この世界にはまだまだ俺の知らないものが数えきれないくらいあるんだなあ。これからはどんな旅が待っているのかなあ。ああ、楽しみだ。
「ごちそうさま」
「おお、じゃあいくか」
そして二人はそのまま店を出て図書館に行った。彼らがその店を出た時、彼らはとても満足そうな表情をしていた。智也と彩子は図書館に行ってこの世界のどんなことを知ることができるのだろうか。ボイスリアクトのことが少しでもわかれば旅に大きく貢献するだろうが、他にも役に立つ情報が眠っているかもしれない。それにまだウェダーボイスリアクトのこともわかっていない。彼らの知るべきことはたくさんある。情報はこれからの選択に大きな影響を与える。どんな道に進み、どんなことをして、そんな人と出会うのか。図書館にはその情報が詰まっている。彼らには様々なことを学んでほしい。
「ここが図書館なの?見た感じ普通の建物だけど」
「入ってみようぜ」
「カララン」
その建物に入ると、通路わきにエントランスがありその奥に多くの蔵書が本棚に置かれていた。俺たちはまずエントランスに向かった。
「すみません。この図書館を使いたいのですが」
「ぜひお使いください。あなたたちは初めてですか?」
「はい」
「そうでしたら、このカードをお持ちください。このカードは本を借りるときにこのエントランスにきてカードをこの差込口に入れてから返却開始となります。期間は一週間借りることができます。では」
そういって受付の人は奥に消えていった。それにしても建物は狭いわりに結構な数の本が並べられている。図書館と言ったらあの町の図書館はギルド会員証がなければ入れないほいうことだったが、この図書館は違うのか。案外簡単に入ることができた。これから、この世界について調べなきゃならん。こうしちゃいられない。
「いくぞ、彩子」
「あそこの机にしない?」
「いいな。そこにしよう」
俺たちは図書館の本が置かれているそばの端っこの机を選んだ。側の本棚に勇者と書いてある本を見つけた。その本にはこう書いたあった。・・・勇者という存在はこれまでに6人ほど目撃されている。1000年前の勇者バルトはこの世界で最初に発見された勇者である。勇者バルトは当時世界が混乱期に差し掛かった時に現れ、混乱期を解消させたといわれている。バルトは最初期の勇者にふさわしく、人格にも身体的にも優れており当時暴れていた魔王ワリケートを討伐したといわれている。魔王が滅びた後もモンスターは暴れていたのだが、バルトはそのモンスターにも立ち向かい、やがて力尽きて倒れてしまった。混乱期でもありモンスターもより強力になっており勇者一人では処理できるレベルを超えていたことが原因の一つであると専門家は考えている。当時はそこまで勇者に対する理解者が多くおらず、頼りになる仲間もいなかった状態で大量のモンスターに立ち向かった。彼の勇姿は当時の人々に深く刺さったのだが、彼自身のことを理解できるものはおらず、最期は四方からモンスターに襲われて食われてしまった。2代目の勇者、割愛。その後、勇者に対する理解を深めるために学問をつくり、それを大学で学ばせた。そのかいあって3代目の勇者ピクロスは仲間にも恵まれ、王国の重要人となった。しかし、ピクロスは仲間ができて戦闘をする機会が減って、ステータスの上昇が前の勇者よりもなだらかであるとき強力なモンスターに襲われたときに殺されてしまった。しばらくして4代目の勇者が出現して、その時王国がその勇者を厳重に保護した。その勇者を保護した王国はミューグリッド王国である。ミューグリッド王国の国王ミューグリッド4世は勇者に仲間を紹介した。勇者トレンドリオンはその仲間、王国の選抜した超級冒険者の精鋭と旅を始めた。その3人の精鋭のステータスはとても高く全員レベルが90を超えていて、大楯の賢人ガードのステータスは2190、古代破壊兵器を操るミヴァのステータスは2230、そしてエルフ族出身のトリスのステータスが2210でどの人物もとても勇者の頼りになるの冒険者だった。勇者トレンドリオン一行の旅の最中、ある冒険者が現れ、勇者はその人物から攻撃を受けた。勇者一行はその後壊滅して、そのなかでトリスだけが生き残った。その詳細は割愛する。トリスは勇者が亡くなり、やることがなくなったので、エルフ村の警護をすることになった。その村の詳細・リオル村・山の奥地にあり豊かな土地に恵まれていて、さまざまな自然に囲まれる・人口3000人・面積100ha・盟主トリス・。5代目の勇者、割愛。6代目の勇者バルシクスでパーティーメンバーには賢者ドドン、魔導士ケルト、竜使いリュースがいる。賢者ドドンの必殺技はサーマードレインで使用場所の半径10メートル以内にいる人物の能力値を3割減少させる技。魔導士ケルトの必殺技はファイアボルトで対象物に特大の雷を宿った火の玉を浴びせる。竜使いリュースの得意技は召喚魔術で主にドラゴンを15体まで呼び出すことが出来る。ステータスはそれぞれ2200、2160、2130である。しかし最近になり勇者の報告が減っており、王国のギルドが調査しているのだがいまだに消息はつかめていない。勇者は主に超級冒険者というくくりではなく、超越者というくくりに位置する。詳細・・ステータスは冒険者用に用いられる場合が多く、モンスターのステータスと自分のステータスを見比べることで上下関係をあらかじめ知り、より効率的にモンスターを討伐することが出来る。冒険者のステータスは主に4つに分かれている。それぞれ下級、中級、上級、超級と区分されている。しかしモンスターは冒険者のステータス表示には含まれないケースも存在する。例は森の守り神プレトスや湖の捕食者バンドラなどがそれにあたる。勇者も一般にその4つの区分には属さず、超越者という区分に属する。超越者は勇者や異世界から来たものが超越者という区分に属する場合が多く、勇者や異世界から来た冒険者ムラセは超越者のひとりだ。彼らは現実世界に干渉する力を持っているので、単純にステータスでの力関係では測ることができない。それらは創造値という数値で決まる場合が多い。特に異世界から来たものには創造値がその能力との互換性が高い。勇者もその例外ではなく創造値が高いと超級冒険者とは比べ物にならない強大な力を発揮することが出来る。1代目の勇者バルトは創造値がとても高く、超級冒険者ではとても処理できなかったモンスターも簡単に討伐することが出来た・・・。
「勇者とは・・・」
「とんでもない人ばかりね・・・」
「創造値のことが書いてあるぞ」
「そうね。冒険者ムラセって知ってる」
「わからんが自分もこの名前見たことある。うちの国の人じゃないか?」
「たぶんね。でもこの人結構有名らしいわよね。図書館の本にも書いてあるんだから」
「これっていつ出版されたものなのかわかるか?この年が一体いつなのかわからないからな。今いつなのか分かればいいんだけど」
「たしか586という数字は見たわよ。何を表してるのかはわからないけど」
「この本には584って書いてあるぞ」
「じゃあ584ってことは2年前に出版されたものなんだろうね」
「そうだな。やっぱり最近のものなのか。しかし勇者ってどの世界でも必要とされていたんだな」
「この世界の勇者は行方不明になってるそうだけど」
「勇者って結構世界中の人から期待されているからな。義務を投げ出したくなったんだろうよ」
「この世界の人もいろいろあるのね」
「俺も勇者のことはわからんがこの世界に来たからにはたとえ勇者ですら争う必要のない世界にしたいと思っている。なんかワクワクしてきたぜ」
「リオル村って何なのかな?トリスっていうひとがいるらしいけど」
「勇者の側近だったなら創造値のことも知っているかもしれないぞ。なんか興味あるのか?」
「いいえ。気になっただけ」
「そうか」
それはそうと当時からモンスターは生息していたみたいだ。その時までリアクターは何をしていたのか。俺だったら戦う必要のない世界をいち早く作りたいところだ。彼らはその時代でもボイスリアクトを使うことが出来る人もいたそうだが、争いは昔から今まで起こり続けている。この世界に来てからこの町まで旅をしてきたが、全く争いが絶える気さえ起きない。いったい今は何が起きているのか。勇者が失踪したみたいだが、それが何か意味があるのか。俺にはその理由はわからない。しかしリアクターなのだから少しでも世の中に貢献したいし、なによりヘンリーもそれを望んでいるのだろう。ヘンリーの姿を見てから俺も変わったのかもしれない。ヘンリーはいつも正直でまじめでそして仲間想いでとても頼りがいのある人だった。俺もヘンリーに少しでも近づけるように頑張らないとな。
「彩子!行こうぜ!」
「急にどうしたの?」
「いいから」
「わかったよ」
彩子と智也はそのまま図書館の出口に向かって歩いて行った。彼らが出口にたどり着きドアを開けようとした次の瞬間、あの馬車が彼らの目の前に姿を現した。唐突に馬車が目の前に現れたので彼らは驚いたのと同時に馬車を避けながら横切ろうとしたところ、ある女性が窓から話しかけてきた。
「すみません、ちょっと道をお尋ねしたいのですが」
「はい」
「この村の広場まで行きたいのですが、場所が分からなくて・・・」
「広場なら、中央広場のことですか?」
智也が訪ねた。
「そうです!中央広場です!」
「それならこの道をまっすぐ行って分かれ道がありますから左折すれば見えてきますよ」
「そうですか。すみません私方向音痴なので一緒に行っていただけませんかね?」
「お願いします!」
「彩子、どうする?」
「たぶんあの人私たちのことに興味深々なんじゃないの」
「じゃあ、いきますか!」
「ありがとうございます!」
「ゴロゴロゴロ・・・」
「ザ、ザ、ザ、ザ・・・」
「皆さま今日はいい天気ですね・・・」
少女は窓越しに智也らに話しかける。
「そうですね」
「そのキャビネットの白い塗装きれいですね。とても上品で」
「そうですよね。オリバーがやってくれたんですよ」
「その、オリバーとは誰なんでしょう」
「オリバーは私の執事です。怒るときもありますが、とても優しいです。彼は騎手なので乗馬が得意で今も馬車を操縦してくれています」
「そうなんですか」
「皆さまもとても優しい方だと拝見しました。それに旅をしてらっしゃると聞きました」
「今は旅は中断しています」
「そうなんですね」
「そうです、ここで左です」
「わかりました。オリバー、左ね」
「ゴロゴロゴロ・・・」
そう言うと分かれ道に差し掛かり馬車が左に向かった。俺たちも馬車に合わせて分かれ道で左折した。そのまま彼らは話をしながら道を進んでいき、馬車は中央広場にたどり着いた。その中央広場に着くとカーテンを閉じたと思いきや、カーテンは開かれ少女はこう言った。
「ここは私の植えた木なんです。オリバーとここにどんな木を植えようと話して私はここにモミの木を植えようと決めました。この木は植えてから長い時がたちましたが、この木はここまで大きくなってくれました。このモミの木は植えられてからずっとこの町のシンボルとしてこの町の発展と共に成長してきました。オリバーもこのモミの木が大きくなってくれてとてもうれしいと言っていたところを見ました。私たちがこの村に行く道中に荒野を通っていた時、皆さまが楽しそうに歩いている様子を見ました。その時から皆様を遠くながら見守らさせていただいていたのですが、ある時皆さまの仲間がいなくなったことをオリバーから聞きました。私はその時からずっと皆さまのことが気にかかっていました。この町もこの木も皆さまが成長することを望んでいます。私は仲間がいなくなる辛さはわかっていませんが、このまま夢をあきらめてほしくないように思います。そこで私からお願いがあります。私たちを仲間に引き入れてくださいませんか?私達もあなたたちと旅がしたいのです」
「私からもお願いがあります。」
「オリバー!」
オリビアがとても喜んだ。
「私からも私たちをパーティーに入れていただけることを心から願っております」
「・・・」
「あなた、引き入れるべきだと思う?」
「俺も突然の出来事だったから、いまだに信じられんが」
「十分に話し合って決めようと思います」
「わかりました。私たちは基本的にここにいますから、いつでもどうぞ」
「ありがとうございます」
俺たちは彼らのいる中央広場を去っていき、いつもの宿屋に戻った。そこで俺たちは今日の馬車での出来事を考えた。あの女性がどんな人なのか俺は知らない。あの人物を信用できるのだろうか。俺は昔、女性に騙されたことがあった。その女性は俺に興味があるようなそぶりをよく見せていて、俺もそれについ惹かれてしまったのだ。後から知ったのだが、その女性は当時彼氏がいたみたいだった。しかしその女性は俺に興味を持っているようなそぶりを見せてくる。俺はその時すごくショックを受けたのだ。それ以外にも結構俺は騙されやすい性格で日常でもネットでもよく騙されていた。こんな俺が他人のことを簡単に信用できるはずがない。
「今日の少女、どう思う」
「わからない。どちらなのかは」
「そうよね。ちょっと考えてみましょう」
そこで俺は宿屋を出て、その人物らがいったい何者なのか探るために中央広場に向かった。そこには彼らの馬車があった。俺は彼らに見つからないように、その馬車の近くに向かった。するとキャビネットの中から声が聞こえた。その内容は分からなかったのだが、男性と女性が会話していることだけわかった。結局俺は何もわからずその中央広場を去ろうとしたところ大きなモミの木を見た。そういえばあの女性はモミの木を植えたといっていた。だとするとあのモミの木を植えた人は彼女の名前になっているはずだ。それで俺はいったん中央広場を離れ、この村のギルドに向かった。ギルドに入り、俺は木を植えた人物について聞き込みをした。数件のギルドで聞き込みをしたところ、その木を植えたのは王家の貴族男性だった。俺はその話を聞いてあの女性のことを考えた。その女性はまるで俺たちに嘘をついていないように見えたのだ。じゃあなぜ彼女の発言とギルドのものが食い違うのか。もしかしてどちらかが嘘をついているのか。俺はそのことについて悩んだ。しかしまったく結論は出ない。仕方がないのでもう少し違うところで聞き取り調査をすることにした。次は彩子があの女性がいつも入っている植木屋に入ってみた。そしてその店長にその木を植えた人を聞いてみた。するとその店長が言うには植えたのはあの女性らしい。店長は嘘をついていない様子だった。しかし、彼女がこの店長に嘘をついているのかもしれない。しかしどうしてもあの彼女が嘘をついているとは思えない。そうすればいいのか。あれこれと悩んでいると彩子がこの店に入ってきた。彩子が俺に近づくと彩子はこういった。
「あの女性は貴族らしいわよ。町できいてきたんだけど、あの馬車は貴族しか使えない特注らしいから。しかもその馬車には貴族の紋章が刻んであったのよ」
「しかしギルドから聞いた話だとあの木を植えたのは男性だったらしいんだ。ギルドが嘘を言っているおは思えないし」
「じゃあどちらなの?」
「結局わからないな」
「とりあえず宿屋に戻ってみるか」
「そうね」
俺たちは店主にお礼を言って、すぐその店を出るとすぐさま宿屋に入った」
「話を整理しよう。ギルドは王家の貴族男性があの木を植えたと言っている。で、植木屋の店員はあの女性が植えたと言っている」
「でもどちらも嘘をついているとは思えないよ。なにかまだ聞いてないからなのかな」
「でもこれで私たちが勘違いしているだけだったらとても申し訳ないわ」
「俺はあの女性嘘ついてないと思うけどな」
「私も思うけど、なにか都合が良すぎない?」
「そうだな。なにか都合が良すぎるとは思っているんだけど」
「また明日考えてみましょう」
「そうだな」
そうして俺たちは話し合いを一時中断して夕食を食べに外に出た。その時は日が沈みかけており、夕焼がまぶしかった。宿を出てしばらく進んで中央広場を横切る途中俺たちはあのモミの木のほうへ目を向けるとあの馬車がそこにあった。そのキャビネットの中は明かりがついていたようだ。俺たちがその中央広場を通り過ぎようとした瞬間、偶然かわからないがあの女性がカーテンを開けて外を見つめてきた。そのときその女性の目が俺の目と一瞬だけあったように感じた。そのあと俺たちはその広場を通り過ぎていった。店に入って俺たちは店に入った。その店内はなにやらなつかしい感じが漂ってくる。その店の客席にはラーメンが置かれていた。俺たちもそこでラーメンを注文した。少しのときがたちラーメンがやってきた。そのラーメンは間違いなく俺が昔どこかで食べたものだった。しかしどのラーメンだったのか忘れてしまった。俺がラーメンをそそる様子をじろじろ彩子が見てくる。たぶん俺の食べ方が汚いからだろう。そのあと彩子が自分の食事に手を付けたようだ。俺はそのラーメンがとてもおいしかったので替え玉を頼んだ。もちろんそれもおいしかったので全部完食した。彩子はまあまあと言っていた。それはそうだろう。なぜなら彩子だからだ。それから宿屋に戻るために歩いている最中、馬車はは当然のようにその場所に佇んでいた。そのまま俺たちは宿屋に戻った。
朝を迎えた。彩子の様子は絶好調のようだ。俺は昨日歩き疲れたので、少し調子が悪い。しかし彩子はいい調子なので今日はいろいろなことがわかるはずだ。彩子はいつものように窓の外を眺める。そういえばあの女性もよく窓を眺めるな。何か共通点があるのか?しかしまた彩子が気付いたようだ。それはまたあの彼女のことだろう。
「あ、また見つけた」
「また植木屋に入っていくよ」
「今日も入るのか。週に何回入っているのかなあ?」
「週に3日くらいじゃない?でも結構入ってくるけど何も買ってこない場合が多いよ」
「そうなんだ。あそこもう一度いってみる?」
「いいね。行きましょ」
すぐ支度をして彼女の入った植木屋に入ろうとしたが、入ろうとしてドアを開ける直前彼女が中から出てきた。胸に植木を抱えながら店を出てこようとした途中らしい。
「わあ!」
「おお!」
「皆さま、何をしてらっしゃるんですか?」
「俺もこういうとこ入ろうと思って」
「そうなんですか?あなたも植木にもお好みで」
「いや、そうでもないんだがちょっと気になってね」
「そうですか!うれしいです!」
「じゃあ、どうぞ」
「カララン」
「いらっしゃい」
その店の中にはとりどりの植木で彩られていて、それは大小問わず一つ一つが存在感を放っていた。その観葉植物を見るうちに自分の心の喧噪が和らいでいるように感じた。店内を一回りしてからこの店にあるモミの木の苗を見つけた。
「あなた、ここにきたけどどうするの?」
「買っていきたいけど、旅に持っていけないよなあ」
「そうね。この世界にきて何も土地を持っていないからね」
「すみません。あの女性が先ほど買っていたものってどんなものなんですか?」
「ああ、モミの木ですよ。あの女性はモミの木をよく購入するんですよ。あの方が結構買っていかれるんでこの店も結構助かっている状態です・・・」
「モミの木はそこまで皆が欲しがるものなんですか?」
「そういうわけではないんです。あの方は昔からこの木が好きなんです。昔執事のオリバーさんとあの広場に植える苗木をモミの木にしてから、なにやら買い続けているんですよ。もちろん、他も買ってくださるんですが」
「そうなんですね。ありがとうございます」
そういって俺たちはその店を出た。そして宿屋に戻った。あの女性はそんなにモミの木に興味を持っていたのか。だからあんなに堂々と言うことが出来たんだなあ。あの女性のこともすこしわかったような気がする。
「あの女性が言っていることもよくわかる気がする。俺たちが悩んでいたからすこし励まそうとしてくれてるんだよ」
「そうなの?でもやっぱりあの女性嘘をついていないように思えるな。信用できるのかもしれないね」
「仲間に入れるとなるとなあ。いつ旅を再開するのかもわかっていないし」
「一応もう少し考えてみない?」
「そうだな。もう少し時間を空けてみよう。もしあの女性が正直だったのなら大変申し訳がない」
その話し合いがひと段落してから、俺たちが少し外でゆっくりしたいと思い、広場に向かった。そこにはいつも通り馬車があったが構わず離れたところに寝転がった。
「きもちいいな。彩子!」
「そうね」
「今日も悩んだけど、こうやって休むとすっかり吹き飛ぶな」
「悩んでばかりじゃ何も決まらないよね。少し落ち着いてみる」
彩子はそう言って座れる場所まで行って腰を下ろした。しばらくして彼女の方に目をやってみると彼女は馬車の方を向いていた。しかし馬車の前にあの女性とオリバーが二人で座って休んでいるところだった。その二人はこちらの方に笑顔で手を振ってきた。俺は咄嗟のことだったので反応できなかったのだが、彩子は笑顔で手を振り返していた。俺も彼女に手を振り返そうとしたのだが、その時は彼女は手を振っていなかった。それに俺は少し落胆したのだが、彩子が俺の方に手を振ってきてくれた。すかさず俺が手を振り返すと、その女性が俺に向かって手を振ってきた。すかさず俺は手を振り返したが、その女性はまた彩子に手を振っていたのだ。当然彩子も手を振り返した。これは何だ、手ふりのキャッチボールか!俺は当然そのことに構っていられなかったので、彩子には手を振り返さなかった。するとなぜかキャッチボールは終わった。その光景に周りの人は少し笑っていたようだ。俺は無関係だと思いたかったが、しかしそういうわけではないだろう。そのあと、彩子がこちらによってきて何か話し出した。
「ちょっと今日、あの人誘ってみようと思うんだけど、いい?」
「え、そうなのか?・・・まあ、誘ってみないとわからないよな。誘ってみようか」
「じゃあ今から誘うよ」
「ええ!今からか!」
彩子はそう言ってあの女性の方に向かって、彼女に接触すると何やら話し始めた。彼女は即座にOkを出し、彩子と彼女でこちらにやってきた。
「オリバーさんと行かなくてもいいんですか?」
「大丈夫ですよ。3人で行きましょう」
「じゃああの店にしましょう」
俺たちは喫茶店に入って、なるべく周りに人のいないテーブルを選んだ。テーブルに着くとその女性がセルフサービスの水を3人分注ぎに行ってから戻ってきた。
「今日急に誘って悪いですね」
「いいえ、むしろ誘ってくれてとてもうれしいです。突然なのですが質問いいですか?荒野の途中うしろから猛スピードで私の馬車を追い抜いていたのですが、それ何なのですか。多分あなたたちですよね。あの時とても気になっていたので」
「おい彩子!またボイスリアクトの話だぞ。どうするこの話いうべきか?」
「わからないわ。でもこの人信用できそうだから行ってみたらいいんじゃない?」
「うーん」
「じれったいな。このお兄さんが出したんだよ」
「おい!彩子!何言ってるんだ!」
「いいじゃない。いってへるもんじゃないんだし」
「出したってどういうことですか?そんなものボイスリアクトしかないじゃないですか」
「えっ!もしかしてボイスリアクトについて知ってるんですか!?」
「はい。その装置は王国貴族内ではとても有名です。それがあれば様々なものを原料なしで生み出せると言われています。しかし適正があるみたいでもともと持っていた人しか使えないみたいでした。もしかしてあなた持ってるんですか?」
「ええ、持ってますよ」
「えーーーーっ」
「まさかあなた持ってたんですか。この世界に1000人しかもっていないというものを」
「おう!1000人しかもっていないんだろ。そんなじゃないか?」
「考えてみてください。100億分の1000ですよ。あまりにも価値が高いですよ」
「でも彩子のステータスもはかった時は1690もあったけどその方がすごいんじゃないの?」
「いいえ、ステータスの高いものは案外そこらへんにゴロゴロいます。ここから数十キロ離れますが、町があります。その町の冒険者には1800~1900の冒険者が数名おります。王国貴族の精鋭騎士の平均ステータスが1400でそれが100以上はいるのですが、ボイスリアクト所持者は王国内でも10名前後と言われています。確認されている数は8で今あなたが見つかったので9です。それくらい価値が高いものなのです」
「あの、俺ウェダーボイスリアクトというのを聞いたのですが、それって何かわかるんですかね?」
「それは国王でも一度しか見たことがないほど貴重なものです。その所持者は姿を消してしまいましたが、乱用すれば世界を滅ぼしかねないと言われています。なので王国はその所持者が現れれば、十分に適切な対応を心がけております。しかしその所持者はものすごく優しく、堅実な方だったのでむしろこの世界に様々な恩恵を授けてくださりました。たとえば鉄道の開通や船舶の航行なのです。その人物の巧みな技術でまさにこの世のものとは思えないほどの力でこの2つを王国内に行うことが叶いました。それ以外にもいるらしいですか、私は知りません。しかしボイスリアクトでもそのような能力を使うことも可能です。価値観すら変えてしまうほどの力を発揮するにはパーティーメンバーで行動することが必須ですが。ボイスリアクトでのそのような能力はパーティーメンバーの数によって増える傾向にあります。どのようなパーティーにするのかもとても大事なのですが、数が増えて不利益がなければいいと思います。しかしパーティーをつくるときも注意が必要です。どんな仲間をつくるのかも数と同様に重要です。私のような人がいれば十分に注意してください。といっても大丈夫そうでしたが」
「へえ、ボイスリアクトって数も重要なのか。でもパーティーメンバーも重要だと」
「ですから私を入れても不利益はないと思います。私もぜひ入れていただけるようそこのとこ計らいお願いします」
「わかりました。私からもお願いしたいくらいです」
「本当ですか!ありまとうございます!」
「あなた、なんかたのしくなりそうね」
「そうだな。久々にひやひやしだしてるわ。ワクワクするな」
「グ―――ッ、ハー―ッ」
俺たちは水を飲んでから、喫茶店を出た。その喫茶店での話はとても俺たちにとって有意義で役に立ちそうだ。ほんとに俺たちがあんな人と旅をしていいのかわからないが、ともに歩んでくれる人を断ってどうするんだ。俺は仲間と共にこの世界を歩むぞ。ここまで来たんだから、ヘンリーさんの分も頑張ろうと思う。
「今日はお話ししてほんとに楽しかったです。今度も一緒にどうですか?」
「いいですね。明日はオリバーと一緒に行ってもいいですか?」
「いいですよ。今度はオリバーさんも一緒に話しましょう」
「じゃあ」
「そういえば、お名前聞いてなかったですね」
「私の名前はオリビアです」
「皆さま、また明日」
俺たちはそのまま家に帰った。いまだに俺たちがあのような人と旅をできるなんて思っていたのだが、どうやら本当にできるらしい。そうだったら俺たちは旅を続けるしかないよな、彩子!。昨日と今日はいつもに比べとても長い一日だったように感じる。ハラハラドキドキした二日だった。