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ボイスリアクト  作者: 夕村奥
第一章
7/31

素質

「わんわんわん」

「ん?朝ですか。ヘンリーさん」

「わんわんわん」

「ヘンリーさん?」

「なによ、智也。また何かしたの?」

「大変です、皆さん。もう日があんなに高く昇っています」

「であれば今は昼ということですか?」

「そうです」

「そうなんですか。今から支度します」

「そうね」

「今日朝から出発すれば日が沈むまでに間に合ったのですが、今からだとまたこの荒野の真ん中で野宿になってしまいます。昨日のようにシャドーウルフに襲われる恐れがあります」

「大丈夫ですよ。俺たちもそれくらいわかっていますから。今日はバイクを使おうと思います」

「智也さん、その乗り物はガソリンがもったいなくて乗れないんじゃなかったのですか?」

「たしかセイユって村は原油が取れるんでしょう。その原油で何かできるかもしれないんです。ちょっとくらい使ってもまだ使えるから平気です」

「そのガソリンっていうのは石油と何か関係があるんでしょうか?」

「ガソリンは原油を精製してつくられるらしいですよ。詳しいことは知りませんけど」

「そうなんですか。でもガソリンが見つけられなかったらその乗り物が使えなくなってしまう恐れがあるんでしょう。やはり避けるべきです」

「そうですが、シャドーウルフに襲われることも危険だとやばいと思うぜ。彩子!」

「やはりもう一度あれ以上のシャドーウルフの群れと戦うと負ける可能性もないのでしょうか?」

「そちらがいいんでしょうか。バイクを使える状態にしておくが、シャドーウルフともう一度戦うかそれともバイクを使って確実に村にたどり着くのか」

「俺はバイクを使うべきだと思います。セイユにはやはり原油があるのでガソリンもどうにかなるかもしれないので」

「そうね」

「走ってもやっぱりつかないんですか?」

「一日中走り続けるのなら、その村にはたどり着くと思いますが難しいでしょう」

「そうですか。であれば乗り物を使います」

「わかりました。彩子さんもよろしいですか」

「私は大丈夫です」

俺たちは昨日ボイスリアクトで出したベッドを収納してから、テントの中の荷物を整理して、テントから荒野の地を踏んだ。夜にシャドーウルフに襲われてから今まで俺が再び出現させたテントを出た昼下がり。俺たちはテントを収納し、リュゴン村に向けて旅立った。俺たちは旅の道中、しばしば休憩をはさみながら少しづつ歩を進めた。それにしても荒野はとても暑い。今にもテントを出して休みたかったのだが、それでは全く進まない。多少は我慢をしなくては。それにリュゴンに着くまでに休憩中にモンスターに襲われればとても危険だ。俺たちは身の回りの安全に注意を払いながらひたすら続く荒野の上をひた進んでいった。今日の旅を始めてしばらくして日がそこそこ傾いてきたときだった。一台の馬車が俺たちの横を後ろから抜かしていった。その馬車の車体はとても豪華なつくりをしていて、俺たちはその車体に見とれていた。馬車の白いメッキが光に照らされて、俺たちにまばゆく鋭い光となって、俺の目に入ってきた。彩子はその光で少しばかりまばたきをしていて、顔を後ろに向けて目をこすった。ヘンリーはその馬車をすっと見つめていた。すると車体の窓からある女性がこちらをちらっと見つめてきた。その直後彼女の顔はカーテンの中に消えていった。馬車はそのまま俺たちの横を走っていき、完全に見えなくなった。俺はその彼女の顔をよく見ていたのだが、全く分からない。あの人物は何者だろう。気のせいなのだろうが俺にはとても近いオーラを感じた。この気持ちは何なのだろうか。あの馬車は車体だけでなくその飾りつけもとても豪華で一般人だとは思えなかった。おそらくお金持ちなのだろう。おそらく俺たちはあのようなお金持ちとかかわりあえることはできないだろうと思った。この世界にもお金持ちがいることを知って正直俺はがっかりしてしまった。俺はお金持ちとは縁のない生活をしていたのだ。親は普通のサラリーマンと専業主婦でそれでいて倹約家だった。おまけに子に厳しく、小さいころは贅沢をさせてもらえなかったのだ。このような俺がお金持ちを信じられるわけがない。なにか俺とそこには壁があるように感じている。俺も無駄なことだとは思っているが、無意識に考えてしまうのだ。俺とお金持ちは全く違う世界にいる。俺には関係ない異世界の存在なのだ。俺は子供のころそう教えられて感じて、大人になってもそう思っている。それで俺はお金持ちを見ては目をそらし、嫉妬して、憐れんだ。そうしないと自分に嘘をついているような気がしたからだ。いや、俺は今でも自分に嘘をつき続けているのかもしれない。俺はお金持ちを見るたびにいつもこう思う。だから目をそらしたくなるのだ。これは俺にはどうしようもない。なぜなら原因は無意識の俺の自己の内にあるのだから。ああ、彩子!お前は何を考えているのかな。俺はお金もあまり稼げずにお前に惨めな生活をさせてきたことはあったよな。さっきの馬車を見て俺を見捨ててしまわないのだろうか。とても心配だ。もしかしたらいつか俺のことを嫌ってどこかへ行ってしまうのかもしれない。だめだ。俺はいつもお前と一緒にいるから、どうか俺を見捨てないでおくれ。俺はなんて情けない人間なんだ。結局それは自分が原因じゃないか。俺がなにもしないから、変えられないからこのままなのではないか。結局俺のせいだよな。ああ、くそくらえだよな、彩子!

「ねえ、あなた。今日ツーリングするっていわなかった?あそこなんてどう?景色がとてもきれいね」

「・・・・・」

「ねえ、あなた?」

「・・・・・」

「あなたったら!もう!」

「どうしたんですか、彩子さん?」

「智也は考え事するといつもこうなんですよ。周りが見えなくなるんですよ」

「でもそういうところが智也らしくて好きです。あ、言わないでくださいよ。智也には」

「わかりました。彩子さんやっぱり智也さんのことが好きなんですね」

「そうです。なんか気づいたら好きになっていて。私なんかが似合うんですかね?」

「とてもお似合いですよ、彩子さん!」

「本当ですか!うれしいです」

「智也さんって結構几帳面なんですね。はじめは結構男前な人だと思ってしましたけど」

「そうなんですよ。智也は言葉だけ男前だけど、結構臆病で傷つきやすいんですよ。でも、智也にもいろいろいいところはありますよ」

「そうなんですね。本当に二人はお似合いですね」

「おお、彩子。なんて言った?」

「だからツーリング」

「あそこでしましょう。結構いい景色でしょ?」

「おう、そうだな」

「クリエイト・・・・・マイバイク」

彼らの目の前に智也のバイクが出現した。いつも通り彼らはその光景に雀躍した。

「いいから行きましょう。日が暮れるわ」

「キューキュッキュッキュッキュッ」

「ドゥドゥドゥ・・・・」

「ブ―――――ン」

「おーーっ」

「この景色きれいだわ。」

「このままこの荒野を抜けていこうぜ。」

「ワンワンワン」

「ブ――――ンッブー―――ン」

「速いですよ、皆さん。置いていかないでください!」

「まだまだ行くぞ」

「速すぎる、怖いよ!」

「ブ――――ン」

「それにしてもすげえきれいだな。感動したぜ。ヘンリーさんも気持ちいですよね」

「私は自力で走ってますよ!」

「ああ、忘れてました」

「考え事は大丈夫でしたか?」

「ああ、そのことなら吹っ飛びました。くよくよしてられないよなって。もう大丈夫ですよ」

「それならよかったです。さっきも彩子さんが心配してくれたんですよ」

「そうなのか?すまなかった彩子。許してくれ」

「それならいいわ。それよりカメラって出せないの?この景色取りたい」

「無理だと思うが、やってみるか」

「クリエイト・・・・・マイカメラ」

「・・・・・・」

「やっぱり出ないね」

「いっちょいくぜー」

「わんわんわん」

「まだまだいくぜー」

「わんわんわん」

「ちょっヘンリーさん右左に動いて目が回るぅ」

「彩子!いまヘンリーさん何してるんだ?」

「ヘンリーさんがバイクの右や左に移動しているのよ」

「わんわんわん」

「ヘンリーさん、バイクの目の前に出た!」

「おお、ヘンリーさん速いですね」

「当たり前ですよ。もっとすごいのできますよ」

「わおーん」

「今度はヘンリーさん、バイクをクロスに飛び越えた」

「お次は」

「わおーん」

「おおっ今度は走りながら一回転した」

「すごいな彩子!ヘンリーさんいいやつだな」

「そうね」

彼らはそのままでリュゴン村に向かった。彼らは念のためバイクを村から離れた場所で収納した。もしかしたらボイスリアクトの所持者として襲われるのかもしれないと思ったからである。それにしてもいったいあの馬車にいた少女は何者だろうか。智也はその少女になぜか親近感を抱いたようだ。一見智也とあの少女は何のかかわりもなさそうであるが、彼の感じたシンパシーは何だったのだろう。偶然感じたものかもしれない。しかし彼はその少女のことをバイクにいる間も考えていたようだ。彩子は気づいているのだろうか。ヘンリーはまったく気づいていないようだが。

「ヘンリーさんこの村って案外にぎやかですね」

「それはそうでしょう。この村は超級冒険者ヨシキが守護しているのですからヨシキを目当てに各地の冒険者が殺到するんですよ。中には県外から来る冒険者もいるらしいです。この村は月に3回ほど開催される闘技場での試合で大半の収入を賄っているんです。それでとても闘技場はにぎやかでそのための店も多く出展されています。屋台もありますので夜ご飯をこの中から選びましょうか」

「そうですね」

「でも、結構数多いわね。そういえばいつ試合始まるんでしょうか?」

「明日一回戦と二回戦と三回戦が行われ、次の日には四回戦と五回戦が、最終日には準決勝と決勝戦が行われます。そしてそこで優勝すればこの町の守り神ヨシキと対戦出来ます。ヨシキと対戦して勝ったのはギリル国出身の剣聖サンドリアと剣豪サルトと私ヘンリーくらいです。ヨシキを超える冒険者を見た時それはそれはとても興奮します。それがこの闘技場の一つの醍醐味ともいえるでしょう。当日は観客でとても混雑しますのでお互いに見つけられるように待合スペースを確保しておきましょう。私のお気に入りの中央広場のモミの木の下でいいですか。当日見失ったらそこに集合しましょう。ヨシキはものすごく強いので最終日に驚いてください。その強さは私が保証します」

「それより二人ともどれにしました?私はもう決めましたよ」

「俺は屋台はいいや。まず宿屋にいって自分で出して食べるわ」

「わたしはこの村名物のタピゴボにします。どうもこの村原産のタピタピが使われているみたいです」

「じゃあ俺は宿屋で待っていますから」

俺は明日が待ち遠しくて早く寝たくて宿屋に戻った。そこで夕食にぱっと食べれるスパゲッティを出した。

「クリエイト・・・・・スパゲッティ」

「・・・・・」

俺の目の前には何も出ない。いったいどうしたというのだ。これまでは出そうと思えばいつでも出すことができたのだ。今回だけできないことなんてないはずだ。これまでのあれは何だったんだ。それかもしかして今の俺には何かが足りない。俺にはその理由は分からなかった。今までの俺にはあって今の俺には足りないものは何なんだ?結局俺はそのことについて見当もつかず、宿屋から出て屋台の食べ物を見て回った。屋台には俺たちの知らないものしかなかったのだが、彩子がそこに現れた。

「あなた、宿屋に戻ったんじゃなかったの?」

「いや、やっぱり屋台で何か食べたいと思ってな」

「じゃあこれ食べてよ」

「これか?」

「はぅっ、ムシャムシャ」

「うまいなこれ、なんだ?」

「これはタピゴボっていうんだよ。ほらさっきヘンリーさんが紹介してくれた」

「ああ、それだな」

「それで、ヘンリーさんはどこにいるんだ?」

「ヘンリーさんはたぶんあの中央広場のモミの木の下にいると思う。一緒に行く?」

「おう!」

その村は大会の前日なのか賑やかで屋台もとても繁盛していた。村全体に散らばっている屋台群を横切りながら彼らはヘンリーのいる中央広場の方に向かっていった。

「ヘンリーさん」

「皆さん、ああ智也さんも」

「はい、」

「皆さん、そろそろ花火上がりますよ」

「本当ですか、ヘンリーさん!」

「おお、変に元気ですね、智也さん」

「もうすぐですよ。あと数分で上がるはずです」

「あなたも一緒に花火を見るのも久しぶりね」

「そうだな」

「みなさんも花火を見たことがあるんですか?」

「ヘンリーさんもご存じで」

「いや、知ったのは最近ですね。昔はなかったんですけどね。智也さんの国にもあったんですか?」

「私の国にはありましたよ。私の国ではしょっちゅう花火大会をやっていましてね、夏になれば近所のどこかでやっているくらい当たり前でしたね。これもボイスリアクトの影響なのでしょうか?」

「そうでしょうね。最近はとてもこの世界の変化が著しく、これはリアクターが関わっていますね。」

「ここでもリアクターですか。案外珍しくないかもしれませんよ」

「いいえ、智也さんはたぐいまれな素質を持っています。先日の木の葉の出来事忘れてませんよ。あのような光景はこれまで一度もみなかったのですから」

「でも俺木の葉のヤツしかまともに役に立ってませんよね」

「役に立っていないとかとんでもない。いろいろな物資を生成してくれるおかげでここまで来ることができたんですから。しかも役に立たない人間なんていません。人と人が関わりあっているんですから、皆さんお互いに迷惑をかけあって生きているのです。それに私はあなたをサポートするためについてきているんですから、むしろ私の方がもらい過ぎているくらいですよ」

「とんでもないです。俺の方ももらい過ぎていますよ。いつこの分を返せばいいのかななんて」

「私のことなんて気にしないでください。智也さんは彩子さんのことを守ってくれればそれでいいんですから」

「本当にたびたび気にかけてくれてうれしいです。ヘンリーさんも俺たち見捨てません。必ず守ります。そしていつか強くなったら恩返しをしに行きます」

「とんでもないですよ。私もさせてください」

「お二人さん、花火が上がりますよ」

「彩子!そろそろか」

「ピー――――――ッ・・・ピカッ・・バンッ」

「ピーーーーーッ、ピカッ、パンパンッ」

「ピーーピー―ピー―、ピカピカピカッ・・パンパンパンッ」

「きれい」

「そうだな。」

「ピー―――、ピカッ・・パカッ」

「ピュー――――――ッ、ピカッ・・・・・ドン!」

「おおー」

「ピュー―――――、ビカッ・・・・ドオンッ!」

「パチパチパチ・・・・」

各地から歓声が聞こえてくる。花火大会は成功のようだ。するとある一匹の犬が拍手を始めた。

「パンパンパン・・・」

その犬に目を向けるとその犬はヘンリーだった。

「ははははは」

「フュー――――」

犬が賢明に拍手をしているのをみて観客に笑いが起きた。その笑いと共に俺たちもその観客たちとともに笑った。そしてその花火大会は一生忘れない思い出になった。

「ヒュー―――――――、ビカッ・・・・・ドオンッ!」

最後の花火が打ち終わって観客は一斉に拍手をした。俺たちはそのあと変える準備をしてその中央広場を去った。そのまま屋台を抜けてから宿屋に戻った。俺は今日の出来事をみんなに告げた。その時皆は励ましてくれた。その優しさに俺はとてもうれしい気持ちになった。その時これからもこの3人で旅を続けたいと思った。そののち3人で同じ部屋で一晩を過ごした。


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