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ボイスリアクト  作者: 夕村奥
第一章
6/34

不安

今朝は彩子が一番に目覚めた。彩子は先日の智也の仕打ちを忘れていない。智也は時々彩子にちょっかいをかけてきて彩子はそれにうんざりしているのだ。彩子は自分が一番に目覚めたことに気づいて、まず一階に降りてあのコップの置かれている机に座った。その机には昨日のようにコップが置いてあった。コップはいつも通り外界から断絶されていて時間が停止しているようだった。彩子はそのコップを触ろうとしたのだが、コップに触れるとそのコップを移動させることができた。時間が停止しているはずなのにそのコップに触れることができたのだ。当然彼女は驚いた。この出来事でますます彼女はそのコップに疑問を持つようになった。ヘンリーの話だとそのコップはボイスリアクトが関わっているというとのことだが、それだとますます気になる。その理由は智也がボイスリアクトを所持しているからである。彼女は彼がそのコップを生み出せる素質を持っているのはわからないが、実際にボイスリアクトで初めにバッグ、その次にお金、テント、バイクなどを生成できたのを見ているので信じないわけにはいかない。しかし彼女はそれについて本当に信じられないでいた。この世界に来てから彼が少しずつ新たなものを生成している事実に向き合えないでいる。ヘンリーは智也を尊敬していたのだが、彼女は智也のことをまだ尊敬できないでいる。彼女は机に両肘をつきながら智也のボイスリアクトのことを考えていた。やがて2階につながる階段の方に向かい、階段を静かに駆け上がるとヘンリーと智也のいる寝室に気づかれないように入った。

「わあっ!」

「おおっ!」

「ねー驚いた!あなたかっこ悪い!」

「ん?彩子か。今何時だ?」

「そんなことよりもあなたかっこ悪い!」

「ん?そうか?それよりも今の時刻は?」

「あなたなら時計も出せるでしょ!自分で見れば?」

「おう。彩子今日なんか機嫌が悪いな」

「そんなんじゃないわよ」

「そうか?」

「わんわんわん」

「ヘンリーさん。さ、下で一緒に過ごしましょう」

「彩子さん?いま早朝ですよ?」

「さ、いいですから」

「わ、彩子さん。おねがいですから前足を引っ張らないでください!」

彩子はヘンリーの足を握って下に降りていった。俺は疑問に思ったがその時は早朝でしかもとても眠かったのでもう一度目をつぶった。一度起きてから再度寝ることほどこの世に幸せなことはない。彩子はヘンリーを連れて階段の前まで来た。すると彩子は階段の先の一階の床を見てからヘンリーの目を見て彩子がヘンリーを抱えて階段を下りて行った。ヘンリーは彼女の様子を見てとても新鮮な気持ちになった。彼女がヘンリーを抱えているときの彼女は少し恥ずかしそうにしていた。

「こしょばいですよ。彩子さん」

「ちょっといいでしょう。こうしたくなったんですから」

「少し我慢してください」

彼らは階段を下りて机の側まで来た。それから彼女がこういった。

「昨日の智也の能力がとても信じられないでいるのですが、智也はどこにもいかないですよね」

「何を言ってるんですか、彩子さん。智也さんはどこにも行かないですよ」

「でも昨日の彼の能力の一部を見て不安になってきたんです。彼が強くなってどっかに行ってしまう気がして」

「そんなことはありません。彼はずっと彩子さんの見方ですよ。昨日もずっと彩子さんのことを気にかけてたみたいですよ」

「本当ですか、私、心配で」

「心配いりませんよ。もし彼が彩子さんを見捨てようとしても私からガツンと言ってやります」

「ボイスリアクトの性能はとても気になりますよね。私も初めて見た時にはとても驚きました。はじめは興味よりも怖い気持ちの方が優勢だったんですけど。でも、ここまでボイスリアクトのことを好きになってしまいました。あなたもいつか受け入れられるようになりますよ」

「ならいいんですが。でも、やっぱり気になります」

「大丈夫ですよ。私はあなたたちを守り抜くと決めたんですから。二人に何かがあったら私に相談してください」

「ん、ん、ん、ありがとうございます」

彼女はヘンリーの優しさに触れて涙をこらえきれなかった。このような優しさに触れたのは数年ぶりだった。彼女が中学生の時、学校に着いたとたん忘れ物に気づいて家に取りに帰った時のことだった。彼女は全力疾走で彼女の家まで走り、家の玄関の呼び鈴を鳴らしたのだった。

「はーい」

「わたし、彩子!」

「ガチャッ」

玄関のドアが開き、母親が家の中から姿を見せた。

「ねえ、忘れ物したんだけど。ぞうきん忘れちゃった」

「そうなの、彩子!ちょっと待っててね」

彼女の母親はそう言って家の中に入っていき、すぐにドアを開けて雑巾を彩子に差し出した。

「これで大丈夫よね」

「さあ、行きなさい」

そのとき彼女はとても安心しきったような目で母親に背を向け学校に向かって走り出した。全力で学校から走ってきたので体力は残っていなかったが、ふり絞れるだけ振り絞って学校に向かった。走っているとふと母親のことが思い出されていて彼女はとてもうれしい気持ちになっていった。

「ん、ありがとう」

彼女はそう独り言を言って、学校に走っていったのだった。

「ありがとうございます、ヘンリーさん。あなたと話して少しもやもやが取れた気がします。」

「それならよかったです。私も彩子さんが相談してくれてうれしいです」

彼女はヘンリーに自分の中の気持ちを吐き出してすこし心が楽になったようだ。ヘンリーも彼女の手助けをできてうれしいと思っているようだ。

「わんわんわん」

彼らが話あっている最中に誰かが階段を下りてきた。

「ヘンリーさん、彩子さん、おはようございます。ヘンリーさんとても元気ですね。何かあったんですか?」

「ああ、彼女から面白い話が聞けましてね」

「彩子!何かいいことがあったのか!」

「そんなのないわよ」

「そうなのか?」

「そうよ!」

「ところでヘンリーさん、今日の行程はどうしますか?」

「やはり荒野を進む方が安全でしょう。昨日の竜人族が出口付近で待ち伏せしてる可能性が高いです。あきらめるまで待つという手もありますが、彼らは私たちを追うのをあきらめない可能性もあるでしょう。ですから荒野の方を進んだほうが安全でしょう」

「そうですね、まだ毒を吐く方の竜人族だったら何とかなるかもしれないけど、あの大柄のたしかゼクといった超級冒険者には勝てる気がしませんからね。俺もヘンリーさんの案に賛成です」

「私もです」

「でも、俺だってこんなところであきらめたくない。必ず強くなってあの洞窟の謎を解き明かしてやる」

「そうね。私もあの洞窟のことをもっと知りたいわ。今でも被害が出てるんでしょう?このまま見過ごすわけにはいかないわ」

「それであの荒野はどう切り抜けるべきなのでしょう。それで都市で何ができるんでしょう。そこの駅を使うことは分かるんですけど、他にできることはあるんですか?」

「あの荒野にはまずこの集落を出てずっと森の中を進んでいけばたどり着きます。その荒野は先日も言いましたがブラックウルフとワームが注意すべきモンスターでしょう。荒野は見つかりやすいですから周りによく気を配っていてください。なるべく私も周りのモンスターが出ないような道を選びますが、それでも見つかる場合があります。荒野にはなにもないですから、怪我をすると休めるところや隠れるところがないですから、一度襲われれば危険度が大きく上昇します。なので、モンスターに見つかることは極力避けなければならないのです。その荒野はとても広く、あのオアシス都市まで片道5日はかかります。その道中で数多く野宿することになります。夜には夜行性のシャドーウルフがたまに出没します。シャドーウルフの平均ステータスは1200ととても高いです。シャドーウルフは単独で動くでしょうから3人で戦えば勝てると思いますが、もしかすると仲間を呼んでくる場合もあるでしょうから、確実に深手を負わせる必要はあるでしょう。覚悟を決めてください。その荒野の途中にオアシス都市トランドルがあります。その都市は交通の要衝で様々な荷物や情報が交換されている場所でもあるのです。その都市に行けば必要な情報が手に入るかもしれません。それにそこは様々なギルドがあって自分で入れるギルドを決めることができます。ギルドで仲間や情報を手に入れることができるかもしれません。それ以外にもいろいろなことができるでしょう。皆さん、その都市でこの世界のことをたくさん知りましょう」

「そのトランドルって都市ってそんなよさげな場所なのにどうして初めに教えてくれなかったんですか!」

「私にはあなたの時間を奪うことはできなかったのです」

「いいんですよ。私もヘンリーさんに私たちのことを伝えておけばヘンリーさんも私たちに言えたのですから俺たちが悪いですね」

「それはありません」

「お互い様ですね」

「そうですね」

「はははは」

彼らはまた笑いあった。今日からも大事な長旅をするというのに随分と陽気である。しかしそれが彼らの強みのかもしれない。どんな困難も笑い飛ばせる。彼らは笑いあってこれまでの困難を乗り越えてきたのだ。

「彩子!あの都市に行ってこの世界のこと調べまくろうぜ。面白そうだな」

「そうね。ヘンリーさんも一緒に」

「当たり前だろ。俺たちは全員で一人だからな」

「もう!あなたってそんな冗談よく言うわね」

「そうか?」

「そうよ、けっこう恥ずかしいわよ」

「そうですね。私もそう思ってました」

「そんなのこと言わないでくださいよ」

「おれいつもそういうこと気にしないんです」

「それで、ギルドはドランドルにどれくらいあるんですか?」

「私が見た時にはざっと30はありましたよ」

「30!そんなにあるんですか?」

「すごいわね。そんなにあれば選び放題だね」

「30のギルドがあるんだったら、他もすごいんだろうなあ」

「そうね。でもまずそこに行かなくちゃいけないわね」

「そうだな。まずいかなくちゃ始まらないよな」

「皆さん、ご飯にしませんか?いつも通り智也さんお願いします」

「また俺ですか。なんか雑用係みたいなんですけど」

「クリエイト・・・・・カツドン」

彼らのついていたテーブルの上にかつ丼が3つ出現した。彼らはいつものように神秘的なその光景に心酔した。彼の出す料理は少しずつではあるが精度が上がっているようだった。彼らはこの世界にきて元の世界に戻りたいと思ったことはあるのか?それは本人にしかわからないが今は楽しんでいて帰りたいと思ってはいないだろう。この世界に、あの町に、この森に来て何を彼らは学んだのだろう。それはあまりにも少しづつでわかりにくいのだが確実に少しづつ成長している。これから彼らにはどんな困難が待ち受け、どんな喜ばしいことがあるのだろうか。たとえつらいことがあっても頑張ってほしいものだ。

「キャッ」

「ワン!」

「朝からかつ丼なの?あなたどんな神経してるの!?」

「今日を無事に切り抜けようという意思表示だ」

「ただ意思表示するだけで朝食をきめないでよ!」

「おう!でも、冷めるから早くべたほうがいいぞ!」

「もう、あなたったら。そんなんだからいつまでも」

「ははは、智也さんらしいですね」

「俺も食べるぞ。いただきまーす」

「ガブガブムシャムシャ・・」

「もうあなた汚いわよ!」

「・・・おうっぇ・・・・・」

「大丈夫?」

「あのーすみません智也さん。私かつ丼こんなに食べられないのですが」

「おお、ごめん。リゾットだったよな」

「クリエイト・・・・・リゾット」

ヘンリーの目の前に皿に盛られたリゾットが現れた。ヘンリーはその光景に目を光らせながらリゾットにかぶりついた。ヘンリーは食事をするときにはいつも尻尾を左右に振るのであった。彼らはその後かつ丼の容器を収納してその家を後にした。

「この家もいろいろお世話になったな。こんなに大きな傷がところどころについてしまっていたのか。それでも俺たちは無事だったんだよな」

「この家にも攻撃届いていたからね。しかしあんな熾烈な攻撃を受けてたのに私たちは無傷だったのって改めてみてもすごいことだわ」

「さあ、皆さん。荒野に向かいましょう」

彼らは心の中でお別れを言ってその家を離れ、集落をでた。帰り間際に見たコップはいつも通り隔絶されていたようにぽつんと佇んでいた。集落を出て森を歩いているときもコップや荒野のことを考えていた。荒野はいったいどんなところなのか。そういえば森では野生のモンスターと戦ったことはなかった。どういう風に出現し、どんな風に戦うのか。彼らはその思念で不安になる。しかしそういう時に3人で過ごしたときが頭によぎることがある。その時を思い出して彼らは時々励まされる。想い出に励まされることもあるということを彼らはその時再確認したようだ。これからどのような旅が訪れるのだろう。もしかして新たな仲間と出会うのだろうか。もしくは別れが訪れるのだろうか。どちらにしても旅は出会いもあれば別れもある。彼は特にリアクターなのだから困難を乗り越えてほしいものだ。

「ねえ、あれって」

「わんわんわん」

「やっとこの森を抜けましたよ」

「おお、びっくりした」

「またですか智也さん。いい加減慣れてくださいよ」

「広いわね、本当にこの先に都市ってあるんですか?」

「ありますよ。途中にも小さな町や村もありますがどうしますか?」

「その村ってどんな村なのでしょうか?」

「リュゴンとセイユという村が有名です。リュゴンにはとても強い冒険者がいまして私も戦ったことがあります。ヨシキという名でレベルが95もあってその村の守り神の役割を担っています。今でもヨシキがリュゴンを守っていて、その村にはヨシキと対戦を希望する冒険者が多数集まり、リュゴン主催で大会が開かれています。その大会もとても面白いですよ。その大会は月に3回開催されていて、直近であと3日後に開催される予定です。高レベルの戦いを見ることができるのでとても見ものですよ。わたしもその大会に何回か出ましたよ。はじめのころは2回戦や4回戦で負けていたのですが熟練を重ねて途中からは最後まで残るようになったのですよ。そしてあのヨシキとよく戦ったものです。ヨシキは昔私のライバルでした。結局3勝3敗で引き分けで優劣はつかぬまま。でもこれでよかったのです。私もこの姿になって強さの優劣はそこまで重要でもないということを知りました。この姿になってよかったのかもしれませんね。しかしヨシキと決着をつけられずとても悔しいです。いつか戦いたいです。かなわぬ夢ですが・・・。少し脱線しましたが二つ目のセイユの村は今は村から都市へ発展著中です。多彩な武器や防具が売っていて、とても貴重なアイテムも見つけられるかもしれません。それにセイユは国からの指定地でとても厳重に守られています。また、最近経済も発達しておりギルドの数も村にしてはとても多いです。たしか数年前は9でしたか」

「リュゴンって村とても気になります。行ってみましょうよ」

「そうなの?私はセイユの方が気になるわ」

「大会見てみたいです。ヘンリーさんのライバル。どれほどのものか気になるぜ」

「私はセイユのレアアイテムとか見つけてみたいわ。役に立つものが見れるかもしれないし」

「ヘンリーさん、どちらの村も回ることはできないのでしょうか?」

「可能ですができれば時間はかけたくないですね」

「俺はその大会を見に行きたいのですが」

「私だってレアアイテムはとても重要だと思うわ」

「お前、その村は化粧品や骨とう品をたくさん見たいから行きたいんだろ?」

「あなただって戦いとか子供っぽい」

「はあ?戦いは男のロマンなんだよ!」

「美しいものだって女には欠かせないわ!」

「二人ともケンカしないでください。旅の疲れで不安なのは私も一緒です」

「じゃあどちらも行きましょうか。わたしも時間がないとかいって悪かったです」

「俺たちもたびたびすみません」

「いいんですよ、取り返していけばいいんですから」

「ヘンリーさんって結構強気ですね」

「私もヘンリーさんのようになりたいです」

「私だって昔は未熟者でしたよ。時間がたって頑固になっただけですよ」

「ところでヘンリーさん?この世界は魔法で動いていると話していませんでしたか?原油も使われているんですか?」

「いかに魔法が動力源とはいえ、それだけでは限界があります。しかし、この世界は魔石が主となって使われていることも事実です。しかしこの世界はそれ以外の何らかのもので動かそうとする力が働きつつあります」

「であればそれもボイスリアクトの力でしょうか?」

「恐らくはそうでしょう。しかしそのリアクターに一番都合のよかったものを主に使うらしいです」

「じゃあなぜこの世界にわざわざ作用させたのでしょうか?魔石が使われていたなら別によかったでしょう」

「魔石は特に人工物の動力源にはなりにくいです。その点概念を超越するボイスリアクトならば人工物も動かせりことが可能でしょう」

「そうなのですか。つまりリアクターは人工物を利用してこの世界をうまく回すためにボイスリアクトを使ったのでしょうか?」

「そういうことですね」

「話がそれましたが今日の行程の話をしましょう」

「そうですね」

「じゃあまずここから近いリュゴンという町に進みます。おそらくここから一日ほど歩けばつくでしょう。そこで村を散策しましょう。そこの村は中規模ですか様々な商品がそろっています。皆さんの欲しい情報も手に入ることがあるかもしれません。村を出たくなったら私に言って下さい。私はその村の中心部の広場の木の下で休んでいると思います。それから先はその時に考えることにしましょう」

俺たちは森を出て、荒野に一歩踏み入れたとき妙にゾクゾクとしたと同時に胸の躍動を感じた。俺たちはあの森を抜けたんだ。これからどんなたびになるのか楽しみだ。俺たちは超級冒険者と戦ったんだ。モンスターの一匹や二匹どんなもんだい。ヘンリーさんの盾、彩子の剣防御、そして俺のボイスリアクト。あの危険な森を抜けることができた俺たちなら、これからの旅もどうにかなるだろう。そうだろ彩子!ですよね、ヘンリーさん!俺たちはこれから荒野の旅を続ける。

「あっっついなぁぁ」

「あついわね。普通に荒野って抜けられるのかな?」

「荒野は一日中太陽が照り付け、地面が熱を吸収しないのでとても熱いです。それに湿度も低く、脱水症状になりやすいので注意が必要です。」

「こんなところをモンスターに襲われたら、結構きついな。」

「そうね」

「しかしモンスターはこの日が照り付ける荒野を歩き回っているのか?さすがにタフ過ぎないか?」

「ボイスリアクト使ってみるか?ここじゃ誰も見ていないよな」

「お願いします、智也さん」

「クリエイト・・・・・クールウォーター」

「・・・・・・」

「え、」

「なにもでないわね」

「じゃあ」

「クリエイト・・・・・ウォーター」

乾燥した荒野の地上に一本の水が出現した。

「出た・・・・」

「そうね。状態を指定できないみたいね」

「この原理っていったいなんだ?結局わからないことだらけだ」

「これがボイスリアクトの奥深さなのでしょう。簡単だと使えないからこそ価値があるということでしょう」

「まあ、そうだよな。そんな簡単に新しいものバンバン生みだしたらそれこそ無敵だよな」

「そろそろ日が沈むわね。結局モンスターは出なかったわね」

「荒野ってモンスター本当に出るんですか?」

「荒野は過酷ですからね。草原やダンジョン、海よりは少ないでしょう。しかし油断は禁物です。夜はステータスの高いシャドーウルフが出てくるのですから」

「あの竜人族よりは弱いから大丈夫なんじゃないですか?そこまで警戒する理由は仲間を呼ぶからですか?」

「そうです。シャドーウルフは単体で行動しますが賢く不利だと感じれば仲間を呼びに行く傾向があります。おまけにそのモンスターは目がいいので一度呼びに行かれれば、逃げることができない可能性が高いです。私たちでも3体を相手にするのが精いっぱいでしょう。幸いそのモンスターは盗賊ではないので何か渡せば貴重品まで取られないのかもしれませんが、そのモンスターたちの裁量で殺される場合もあるかもしれません」

「やっぱり仲間を呼ぶからなのですね。しかも夜って全く見えないし、もしかしてとても危険じゃね?」

「だから危険なのです。私たちは夜が一番危険なのです。夜に襲われればまともに戦うことができません」

「ばれないようにするにはどうすればいいんですか?」

「まず、先日あなたがおつくりしたテントをつくってください。なるべく丈夫なもので」

「わかりました」

「クリエイト・・・・・テント」

彼らの目の前に黒いテントが出現した。そのテントは洞窟で出したものよりも数段丈夫に出来ていた。

「智也さん、省略できるようになったんですか?」

「そうですね、気づきませんでした」

「すごいですね。成長しましたね」

「もう日が完全に沈みましたね。とても怖いです。早くテントに入りませんか?」

「そうだな、彩子!今日も疲れたからな、寝ようぜ」

智也と彩子はテントの中に二人で入っていった。その姿はまるで出来立てのカップルのようだった。ヘンリーはその姿を見てすごくほっとしたようだった。彼は二人のサポートをすることが何よりの幸せだったのだ。

「クリエイト・・・・・ベッド」

「素敵ね」

「そうだろっ。さっきは心配かけて悪かった。ヘンリーさんにお前のことを聞いたんだ。俺はお前を見捨てるつもりはない。今はつらいかもしれないけどいつか必ず幸せにして見せる」

「ありがとう。そんなのっ、うれしいじゃない。でも、本当にありがとう」

彼らはベッドの中に入ってお互いに向き合った。そしてそのまま寝てしまった。ヘンリーはテントの中にいる二人の側に横になり、二人の寝顔を見届けながらぐっすりと目を閉じた。それからしばらくしてある動物がテントの周りにやってきた。

「ツンツンツン・・・」

「カリカリカリ・・・」

その動物はテントに鼻を擦り付けたり、手でなでたりしてからやがて去っていった。いったいその動物は何だったのだろうか。それから一時間ほどが経過して、何者かが彼らの寝ているテントの周りを囲み始めた。

「ササササササ・・・・」

「ザザザザザザ・・・・」

「ササッササッササッ・・・」

「カリカリカリカリ・・・」

「カリカリカリカリカリ・・・」

「ガリガリガリ・・・」

「グウウウゥゥゥゥゥゥゥ」

「ググロロオォォォ」

「グガッ・・・ググゥ」

「ガリガリガリガリ・・・」

俺たちは外の音を聞いて目を覚ましたのだが、何やら外で何者かが騒いでいる。いったいどんな奴なのか。まさか、シャドーウルフなのか。突然外から青色の光が差してきた。俺たちはいよいよまずいと思って防御の準備をした。

「ピカッ」

外側の光が一瞬消えたと思ったら、また明るくなり、我々のテントの上から半分がふきとんで行ったことに気づいた。外を見ると体長が1.5メートルほどの狼の周辺がまばゆい光で青く変色したのを見て、俺たちはテントから逃げ出した。その直後青い光が上半分がどこかに吹き飛んだ俺たちのテント直撃し、粉々に砕け散った。俺はそのことに激怒し、その狼に突撃したのだが、その狼が体当たりをしてきて、俺は後ろに吹き飛ばされた。その狼はそのまま俺の足に近づいてきて牙を向けてきた。その様子を見たヘンリーがその狼の横腹に突進して狼は横転した。仲間を見たところ全部で数は4らしい。残りの狼が一斉に俺たちに向かってきた。

「サッサッサッ・・・」

一匹の狼は丸いカーブを描きながら彩子の方に向かってきた。

「ザッザザッザッザザッ・・・」

他の一匹の狼は猛スピードで一直線に俺の方に向かってきた。

「ザザッザザッザザッ・・・」

他のもう一匹の方は彩子に向かっている狼と反対のカーブを描きながらヘンリーに向かってきた。

「グガガゥ」

2匹目の狼が俺にかみつこうとしたときに彩子がその攻撃を剣で受け止め、その狼を薙ぎ払った。その直後、彩子を狙っていた一匹目の狼が彩子の腹部めがけて体当たりをした。

「ズズズズズズズズ」

「グッ」

ヘンリーが彩子に気を取られているとすかざず3匹目の狼がヘンリーの首めがけてかみついてきた。

「ドシンッ」

幸いヘンリーは狼がかみつく前に盾を出して狼の攻撃を免れた。そのままヘンリーは彩子に体当たりをした狼に後ろから突進し、その狼は横転した。

「大丈夫か、彩子!」

「平気、少し痛いけど」

「傷薬はいいのか?」

「平気よ。それよりあなたの傷も大丈夫なの?立ててないみたいだけど」

「立とうとしてるんだけど、なかなか立てないんだよ。恥ずかしい限りさ」

2匹目の狼が再び俺めがけて牙を向けてきた。その直後、彩子のまわりに何やら光がまとわり始めた。そして彼女が剣を体の後ろに引いて構えた。瞬間、彼女が俺の前に瞬時に現れてその狼を弾き飛ばした。それから狼たちは俺たちの前から逃げていった。

「お前、その光、なんだ?」

「私にもわからない。あなたがちょっと危険そうだったから、やばいって思っただけだわ」

「ヘンリーさん、これって何かわかりますか?」

「その光ですね。よくあるスキルですよ。ステータス上昇効果ですね。あなたの場合は白い光でしたから攻撃と素早さが1.5倍になるスキルです。戦闘中、特にパーティーで戦闘している場合に発現することが多いスキルの一つです。昨日の竜人族の水色のオーラは攻撃と素早さが2倍になるスキルです。何よりよかったですよ、あなたたちが無事で。シャドーウルフが来たときはどうなるのかと思いましたが、何とかなりましたね」

「今日の戦闘でちょっと疲れましたね。またテント出さないといけなくなりますね」

「そうですよ。せっかく俺が頑張って出したのに」

「あら、クリエイト、なんとかって言っただけじゃない」

「いうだけじゃないぞ、考えながら言ってるんだぞ。というか言わなくても出せるんだぞ」

「本当ですか、ヘンリーさん」

「本当ですよ。最初は言いながらですが皆さん次第に言わなくても出せるようになるんですよ」

「やっぱりそうなんですね。私だって出したいなあ」

「じゃあ使ってみるか、彩子!多分無理だけど」

「私だって出来るもん」

「じゃあ、これがボイスリアクトだぞ」

「わあ、これがボイスリアクトなんだ」

「それを左右どちらかの手で握りながら念じてみるんだ。本当につくりたいと思ってみるんだ」

「わかったわ。クリエイト・・・・・ハンサムマン」

「おい、この俺がいながらそんなもんだすんか」

「あの時の仕返しです」

「そんなんじゃ返してもらうぞ」

「いいもーん。こんなものいらないもーん」

彼らはまたあのテントをつくって3人で眠った。今度はより強いテントをつくろうと心掛けたのだがそうはいかなかった。しかし夜が明けるまでシャドーウルフが襲ってくることはなかった。彼らは夜に起こされたからか朝になっても誰も起きなかった。3人の一人が眠りから目を覚ましたのはのは昼の少し前だった。


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