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ボイスリアクト  作者: 夕村奥
第一章
5/31

竜人族

「ドシュー―――ン」

「ドシュー―――ン」

「ドシュー―――ン」

あいつは俺たちを追いかける最中に何度も俺たちに向けて光の玉を撃ってきた。俺たちはそいつから逃げながらヘンリーがその攻撃を盾で防ぎ、そのまま数分が経過し、そいつは声が聞こえるくらいの距離まで近づいた。

「お前たちは何者だ?」

「なぜこの迂回路を知っている。この迂回路を普通は知らない。お前たちは事前に許可を取ったのか?」

「とりあえずお前たちそこに手を後ろに組んでひざまずけ」

その竜人族が俺たちにそう言ってきた。当然俺たちはその勧告を無視して逃げ続けた。それにそいつは激怒したのかいきなり毒の液体を俺たちにかけてきた。その攻撃をヘンリーが受け止めたのだが、偶然盾の外側にその液体がすこしだけ飛び散って、ヘンリーの前足にかかってしまった。

「やばい、かかったかも」

「大丈夫ですか、ヘンリーさん?」

「何とか大丈夫です。少しかかったくらいですからそこまで心配はないです。されども猛毒ですから途中で少ししびれてくるかもしれません」

「ここで止まった方がいいんじゃない?あなた」

「そうだな。ヘンリーさんの体力がこれ以上削れたらやばいからな」

「ヘンリーさんここで止まりますよ」

「まだ進めます」

「いいや、ヘンリーさん猛毒浴びたじゃないですか」

「でも少量ですよ」

「いつその猛毒が効いてくるのかわかりませんよ」

「そうですね。ここであの竜人族と相手しましょう」

「おう!」

「はい」

彼らはヘンリーのことを他の誰よりも信頼している。しかし信頼しすぎるがあまりどうも彼に期待しすぎている。ヘンリーも昔はとても強い剣士だったのだが、今は大幅に弱体化した犬であるから絶対大丈夫というわけではない。彼らもそれはわかってはいるようだが、つい期待してしまうのだろう。やがてその竜人族が彼らの前に立ちふさがった。彼の様子はどことなくこの光景に不信がっていてそれでいて憤怒していた。彼らはその竜人族の様子を見て、昔の威勢はどこに行ったのだろうか、足がすくんでしまった。それを見た竜人族が槍をヘンリーに向けたと同時に片方の足を突き出し、彼めがけてすばやく槍を突き刺そうとした。ヘンリーはその仕草で攻撃を予測していたようで以外にすんなり交わしたのだが、彼の次の一撃はあまりにも早く俺たちには目に見えなかった。

「ドォーーン」

その竜人族はヘンリーにとびかかるときから気功玉の準備をしていたらしく、槍を持っていなかった手からヘンリーが槍の攻撃をかわした瞬間光の玉を放出したのだった。その攻撃をヘンリーはかわすことができず、盾の用意も完璧にできないまま直撃までとはいかなかったが、最大の半分くらいのダメージを食らった。

「ヘンリーさん!」

「あの竜人族結構なやり手じゃないか?」

「どうしましょうあなた。ヘンリーさん助けないと」

ヘンリーはその攻撃を食らって地面にたたきつけられた。幸い地面は芝生だったのであまり大きな傷にはならなかった。

「大丈夫ですよ、皆さん。私が今の攻撃でやられるわけないじゃないですか」

「ヘンリーさん」

「ヘンリーさん」

「ちっ、やっぱりだめか」

竜人族がそういって今度は彩子の方にとびかかってきた。俺はそれを目にとめることはできずにそのまま竜人族の肩からその槍が彩子に向けて飛んできた。彩子はその攻撃をなんとか見切ることができたので剣でその攻撃を跳ね返した。

「彩子さん、平気ですか?」

「ヘンリーさん、平気ですよ。なんとか」

なんだ、こいつら。普通はさっきの攻撃で気絶しているところが。こいつらはやはりほかの冒険者一行とは違うわけか。

「ヘンリーさん、俺なにをすべきなのでしょう」

「あの竜人族とはステータスがあまりにも違い過ぎるのでなるべく弱みを出さないようにしてください。あの竜人族に悟られて集中攻撃をされればひとたまりもありません」

「わかりました。悟られないようにします」

こいつら、この犬は防御力に長けてて攻撃を当てようとしても盾ではじかれる。当てることができても、ピンピンしてやがる。あの女も俺の槍は普通は見えないはずだが、まさか剣ではじかれるとは。こいつらどうなってるんだ。まさか、数か月前に来た冒険者の仲間か。あの冒険者の仲間であれば何ら不思議はない。あの冒険者は俺とゼクで挑んだ相手だった。その日はおなじ仲間のイリュヴァは雇われておらず、アジトには俺とゼクがいた。その冒険者は湖から見える迂回路を進んできた。俺たちはその姿をアジトから見かけて気づかれないようにその冒険者にゼクの旋風波と俺の気功玉をお見舞いした。しかし、その攻撃は見事に打ち消されていた。つかの間、その冒険者が俺の目の前に現れておなかに強烈な一撃を食らわせた。ゼクはその光景をみてすかさずとんできて大剣をその冒険者めがけて振り下ろした。しかしゼクの攻撃が当たらない。いや、ゼクの攻撃が当たるべきところに当たらないのだ。俺はおなかを抑えながら肘をつきその光景を見届けていた。ゼクがこのままではらちが明かないと思ったのか、魔法陣を出現させ、特殊魔法の攻撃力を3倍に上昇する魔法をかけ始めた。しかしその魔法は発動まで30秒はかかり、その間何もできないのだ。俺は冒険者に襲われると思ったのだが、その冒険者は何もせず特殊魔法をかける時間をゼクに与えたのだ。そのときはなぜなのだろうと思ったが、結局今もそれについてはわからず仕舞いだ。きづけばその特殊魔法は完成した。ゼクは大技の旋風波をより強く打とうと念を強くこめ始めた。

「ハアーーーーーーーーーーーーーーァッ」

「ゴオオオオオオオオオオオオオオ」

「フュー――――ヒューーーーー」

「・・・・・・・」

「ドリリリリャリアアアアアアア!!」

その冒険者に直径20メートルはある渦の塊が飛んできた。岩や森を木々を薙ぎ払いながら一直線に向かってきた。その光景は自然災害といっても過言ではないくらいの迫力だった。さすがにこれを食らえばひとたまりもないと当時は思ったのだがそれは違ったのだ。ひとたび冒険者にまとわりついたが束の間、その渦が少しずつ弱まっていき、やがて消滅したのだ。俺はそれを見届けて死を覚悟した。もう勝ち目はないと思った。すかさず冒険者がゼクの顔面に膝蹴りを食らわせ、もう片方の足で吹っ飛ばした。ゼクは意識はもうろうとしていたのだが何とか立ち上がり、俺と共に直近の町に転移したのだった。ゼクが一日一度だけ使えるどんな時間がかかる大技でも1秒で使うことのできるスキル短縮があったおかげで俺たちは生き延びることができた。しかし本気でその冒険者が俺たちを殺そうと思ったらとっくに殺されていたのかもしれない。でも生きている。なぜあんな場面で生き残ることができたのだろう。あの冒険者に殺す意思はないというのか。俺たちの国は争いが比較的多く族同士でしばしば争いが起こっていた。そんな国で生まれて育ったのだから俺たちの常識は襲うことが前提であった。昔は俺でも立派な冒険者だったのだが、ある時愛する友達と別れてから俺は少しづつ悪の道に進んでいったのかもしれない。そこで出会った仲間が竜人族のゼクとイリュヴァだった。イリュヴァは人一倍人に関心があり、いつも人助けを怠らない人物だった。困っている人を見ると助けなければならないと考えすぎたあまりある時自分を見失ってしまった。俺たちは慰めようとしたのだがそれを聞かない。それからか俺たちの盗賊の仕事に参加するようになり、今に至るわけだ。ゼクはリーダー気質があり、他の誰よりも頼りになる人物だった。彼は昔竜人族の俗称をしていたらしい。そういうのもあって周りに目が届き、弱い部分をすぐ見定めるところがあった。しかし、自己管理能力が弱く他人が悪いことをしていると見過ごせない部分があった。そこで俺たちと出会い盗賊の仕事をしていくにつれ、ゼクは人から奪った金品を竜人族に渡したいと思い始め、盗賊の仕事にも参加するようになった。俺たちはしょうがなくこの仕事を続けているのだが、あいつにはまともな仕事をしてもらいたい。竜人族の族長、いや副族長でもいい。それ以外でももっといい仕事はあるからと言っているが聞く耳を持たないのだ。彼はやがてこの盗賊のリーダーとなって人間たちを襲っている。

「おいお前ら、この道どうやって知った?」

「そんなのもともとですよ」

「そんなわけあるか。まあ、捕まえて必ずはかすけど。

「できるものならしてみな」

「随分やる気だけど俺だって結構冒険者歴長いんだぜ」

竜人族が手のひらを前に突き出してきた。俺たちはあの光の玉が出るんだろうと思い、それに備えて少し離れたが、次の瞬間俺たちの後ろに現れ、俺たちに槍を右から左へ振りかざした。

「シュンッッッッ」

「ドガンッッ」

すかさずヘンリーが特大の盾を出してセーフだったのだが、そのままそいつが俺たちの上に飛び上がって毒の液体をかけてきた。ヘンリーが特大の盾を俺たちの頭上に設置したのだが、その液体が漏れて俺たちに少しかかってしまった。俺と彩子は毒耐性を持っていなかったので、すこししびれて動けなくなってしまった。それに乗じてそいつが特大の気功玉の準備をした。おそらくけりをつけるためだろう。俺たちは彩子が持っていたバッグの中から解毒薬を取り出して俺たちの患部に振りかけた。たちまち状態は良くなったのだが、遅かった。

「デュ―――――――ンッ」

これまで見た気功玉とは大きさが桁違いだった。これはまずいと思って逃げようとしたのだが間に合わなかった。

「ドシュー――――――ンッ」

ヘンリーはあの特大の盾を出した。

「ドッッパ――――ン・・バババ」

「バリバリバリバリ・・・」

「バリンッ」

俺たちはそこで終わったと思ったのだが、ある人物がそれを受けとめていた。

「グウウゥゥゥゥゥ」

「彩子!」

「彩子さん!」

「・・・・・あなたたちは逃げて・・」

「そんなわけにはいくか!ヘンリーさん、どうにか切り抜ける方法ありますか。いや、あるでしょう?」

「この気功玉をはじき返すことは私にはできません。できるならあなたの方が可能性はあります」

「なわけ。俺のステータスではどうしようもできないよ。俺の数値知っているでしょ」

「あなたにはボイスリアクトがあるじゃないですか。いけますよ」

「ごめん、もう無理・・・・」

「彩子ーーーー!」

「ピン」

「スススススス・・・」

彩子がその気功玉に吹き飛ばされる寸前、森の木々の緑の葉が彼らのもとへ集まってきて、彼らの前にとても大きなシールドとなって彼らを守った。気功玉はその葉の集合したシールドに直撃し、気功玉の構成分子が渦のカタチを描きながら、完全に消滅した。あの気功玉がぶつかった割に音はとても小さかった。これもボイスリアクトの力なのか。そういうのは俺にはわからない。俺はボイスリアクトを使わなかったし何も考えていなかった。生きることだけ精いっぱいでそれ以外のことなんて。

「ん?」

俺のポケットに何かが入っている。ポケットの中身を確認すると、それカシの葉だった。たしかボイスリアクトで生成できるものは長い間触れてきたものだったな。でもこれはポケットに入れていただけだったし、そもそもこのカシの葉がどんなものなんて全く知らないぞ。いったいなぜ機能したのか。

「何が起きたんだ・・・まさか・・・」

俺の全力の気功玉を受け止められてしまった。どんな相手であれ大半はこの気功玉で葬ってきたのだが、なぜこれすら効いていないのだ。そもそもさっきの葉の集合体は何なのか?あの葉っぱはどこから来たのか。それでも葉っぱが集まったところで跳ね返すことはできないくらいの威力だった。あの葉の塊は誰が制御しているのか。その葉には付与魔法が?俺には意味は分からない。しかしこの森でこんな現象は見たことがない。間違いなくこの中の誰かが関与しているはずだ。必ず捕まえて原因を突き止めなければ。

「ダ――――!」

その竜人族は俺たちに向かって走って向かってきた。ここまでの気迫は見たことがない。そこまで俺たちが危険なのだろうか。それはそうなのだろう。あいつはこの迂回路を知らないはずだといった。その迂回路を俺たちが通っているのだから、その理由を突き止めたいよな。だが俺はここで止まっている場合じゃないんだ。早くこの森を抜けて洞窟を抜けて大都市に行って情報を集めなければ。それにそこにはあの冒険者がいるはずだ。その冒険者に会えばこの世界のことがもっと知れるはずだ。

「ダダダダダダダ!」

その竜人族は俺たちに槍で高速で連撃してきた。ヘンリーがすかさず盾を俺と彩子の前に出現させ、巧にその盾を動かし俺たちを連撃から守ってくれた。その後、なにやら水色のオーラを身にまとい始め、肘を体の後ろに下げ、槍を体の中心まで持っていった。その直後無言で俺には見えない速度で渾身の槍の一撃を俺たちに繰り出した。ヘンリーが小さな盾を二重にしてその攻撃を受け止めようとしたが、それを貫通し俺たちに向かってきた。しかし彩子が渾身の一撃を剣で受け止めた。

「くそ、なんで届かないんだ!」

「あいつになんて言えばいいんだ。」

「くそ!」

その竜人族は俺たちの目の前から消えて、おそらくアジトに向けて森の奥めがけて走り出した。

「逃がすか!」

俺たちはそのあとをつけようと走り出した。

「皆さん、わざわざ追いかけなくてもよいのではないですか?」

「今逃げたのは何か意図があるのかもしれん」

「意図があるかはわからないけど、ここの情報について聞き出すのもいいと思うわ」

「しかし、あの竜人族の俊敏性は高いです。私が道をふさぎますのでついてきてください。」

そういってヘンリーは猛スピードでその竜人族を追いかけた。そのスピードは竜人族より早く、短時間でその竜人族に追いついた。道をふさいだヘンリーに向けて槍をクロスに振り回し、目くらましをして斜めの方向に逃げ始めた。ヘンリーはそれを追いかけようとしたところ、いきなり振り返って槍を斜め下に振りかざしてヘンリーにめがけて振り上げた。ヘンリーはその攻撃を間一髪に盾で受け止め、その竜人族の腕にかみつき、逃げないように引き留めた。

「ズルズルズル・・・・」

ヘンリーはその竜人族の腕を口でくわえたまま、後ろに引きずって彼らが追いつきやすいようにした。引き合いが数秒行われたのちその腕から紫色の液体がにじみ出てきてヘンリーがその腕を離すと、そのまま森の奥に消えていった。しばらくして彼らがヘンリーの元にたどり着いたときその竜人族は姿を消していた。俺はこの森の情報が集まらず少しがっかりしたが、超級冒険者と戦って無事で済んだことに安堵している。

「ヘンリーさん無事ですか?」

「大丈夫です。すみません逃がしてしまいました」

「いいんです。いいんです。あの超級冒険者に会って無事で済んだんですから」

「でもあの竜人族が逃げていった先ってほかの仲間のアジトがあるんでしょ。大丈夫なの。」

「そうだな。この先他の超級冒険者が追ってきたらますますまずい気がするな。何とか逃げ切ることができるのか?」

「おそらくここから数十キロは離れているそうですから往復なら結構時間はありますが。竜人族は人間よりはるか上の身体能力を持っているので最悪今から一時間くらいで追いつかれる可能性だってあるでしょう。それについさっき姿を消した上級冒険者が呼んできている場合はもっと早く追いつかれるでしょう。残り半分もないですので早く森を抜けましょう」

「そうですね」

「おう!」

そして俺たちはそこから迂回路に戻って走れる限り走って森の出口を目指した。走っても走っても抜けない森。散々注意したのにもかかわらず敵に見つかりいい加減うんざりしたのだが、ここまで努力して今更投げ出してどうする。しっかりしろ、俺。ここを出て、あの洞窟に立ち向かっていかないといけない。今バイクを使えば確実に逃げることはできるだろうが燃料もそんなに余裕はない。逃げないと命が危険なときに使うべきだ。今は逃げ切れる可能性が十分にあるからここで使うのは適切じゃないと思う。そうだろ、彩子!

「そうね」

「・・・なに?」

「なにかあなたの声が聞こえているような気がして」

「そうか?」

「気のせいだと思うわ」

「そう」

「皆さん、何かありましたか?」

「なんでもありませんよ」

「そうですよ」

「しかしこの迂回路ってあとどれくらいですか?」

「私にもわかりません。わかることはあの湖の入り口が中間点というところだけです」

「湖の出口から結構来たんですから、もうすぐそこですよね」

「希望はそうですね。でも湖の入り口まで結構かかりましたからまだ全然来てないこともありますかね」

「驚かさないでくださいよ。ヘンリーさん」

「ヘンリーさんって面白いですね。」

「面白いですか?私ってそんなに面白いですか?」

「わんわんわん」

「わんわんわーん」

「いきなりテンション変えないでください。調子が狂います」

「彩子さんもいきなりテンションが変貌するときもありますね。お互い様です」

「わたしよりヘンリーさんの方が多いですよ。」

「いいや、私より彩子さんの方が」

「二人とも、体力は温存しておくべきだぜ」

「そうね」

「私もついやってしまったてやつですよ」

あの竜人族が去って1時間、俺たちはずっと走り続けた。しかしやはり森の出口にはたどり着かない。普通は歩いて二日かかるコースなんだから。追いかけてくる冒険者は何者なのだろう。他にも超級冒険者はいるという話だが今日はいないということはなかろうか。そうであればとてもうれしいものだが。そんなことを考えていると何やら彩子が何かを発見したようだ。

「ヘンリーさん、なにか遠くに何か見えません?」

「なんですか?」

「ほら、あそこになにか家が見えませんか?」

「何か見えますね。あれは家ですか?いや、集落ですね」

「おお、あんなところに集落があるのか」

「しかし、人は見当たりませんね」

「どうしてでしょう?集落には人はいるでしょう」

「おそらくあの集落はずいぶん昔にすむのに適さなくなり、使われなくなったのでしょう」

「どうですか、あの集落で人休憩しませんか?」

「いいわね、隠れるのにも向きそうだわ」

「逆に隠れていると判断されて集中砲火を受けるのかもしれませんよ」

「大丈夫ですよ。あの竜人族と対応したときにそこまで考えてないそうでしたから」

「そうですか、わかりました。あの集落で休憩しましょう」

そして俺たちは迂回路を外れ、その集落の一つの建物で休憩をとった。俺たちが選んだ建物はその集落の中でも比較的小さく、しかし手の込んだつくりの家だ。その家の中には様々な食器が飾られていたがその食器はほこりが全体についていた。

「この分だと住んできた人はずっと昔にこの集落を捨てたんでしょう。しかし食器がそのままというのが気になる。他の集落に移るには食器を持っていくだろう。わざわざ現地に行って買うこともできるが、荷馬車かなんかで運んで行った方がいいだろう」

「でも智也さん、ここはすっと昔から略奪者たちが横行していてこんな集落絶対見つかったと思うんです。しかしそのままにされている。これは何か理由があるはずです」

「二人で話しているとこすみませんがこのテーブルにコップが置かれてあるんですが、このコップはちょっと不思議でほこりがついていないんです」

「だしかに不思議だな」

「そうですね。普通はずっと使われていなかったら他の食器同様ほこりがつくはずです」

「この世界にはほこりが付着しない魔法とかあるんでしょうか?ヘンリーさん」

「聞いたことないですね。自然現象の効果を無効化する能力なんて見たことないです。しかしボイスリアクトなら話は別でしょう」

「またボイスリアクトですか。さっきの木の葉の盾もボイスリアクトの効果でしょうか?」

「恐らくそうでしょう。しかしあのような効果は見たことがありません。やはり私が見込んだだけはありました」

「そんな褒めないでください。調子乗っちまいますよ、俺」

「ヘンリーさん。さっきも言いましたが智也を調子のらせるのはなるべく避けてください」

「だって、ほら」

彼女が指示した先にはいかにも調子のよさそうな智也がなにやら何かを語りながら一人芝居をしていた。

「やっぱ俺って、すげぇよなあァッ、あよい」

「よよよよよよよよっとっとっ、さー」

「ほいほいほいほいほい、はっ」

「智也さん、智也さん、おーい。返事してください」

「智也さん、」

「智也さん!」

「おい、智也いい加減にしなさい!」

「はいっ」

「おお、彩子。悪かったぜ。ついいつもの癖で」

「智也さんもこういうところあるんですね」

「そうなんですよ。私や彼の友達や同僚が褒めればいつもこんな感じなんですよ。次からは気を付けてくださいよ」

「全く褒めないのもちょっと寂しい気がしますよ。彩子さんはそこんとこどうしていますか?」

「彼の気持ちを考えてほんとに必要なときに言うように心がけているつもりです。しかしうまくいかないことが多いです」

「そうなんですか。皆さんも大変ですね。まあ、お互いに頑張っていきましょう」

「そうですね。頑張りましょう」

「さっきの話に戻りますがこの世界には自然現象にまで作用する魔法は存在しません。作用させられるものはただ一つ。智也さんがお持ちのボイスリアクトだけです。机の上のあのコップには誰かが使っていた痕跡はないですか?」

「ないですね。私がそれを見た時はずっと誰もそれに触れていなくて、まるで外から断絶されているようでした」

「おそらくそれはそのコップに特殊な何かがかけられていますね。ちょっと私が鑑定してみます」

「ヘンリーさんそんなこともできるんですか。鑑定が使えると戦うべき相手とそうではない相手を区別することができて便利そうです。それに誰が超級冒険者なのかあらかじめ知ることができて立ち回りがよくなりそうです」

「私の鑑定スキルは長い時間をかけて剣士であった頃に身に着けたもので、モンスターに変えられたときに鑑定スキルなどが引き継がれたのです。鑑定スキルはもともと所持している場合もありますが、レベルを上げて身に着ける場合も多いです。私の場合はレベル55でそのスキルが発現しました。それまではその冒険者やモンスターのことを調べてから挑むようにしていたのですが、鑑定スキルで調べなくても一瞬で見れるようになったのでレベル上げがより効率的になりましたね。しかし鑑定スキルというのはそこそこレアでしてレベル60になっても発現しない場合もあるそうです。中にはレベルを引き上げても引き上げても鑑定スキルを会得出来ないこともあり得ます。このスキルは偶発的なもので所持できるかどうかは運次第です。なので鑑定スキルよりもそのボイスリアクトで使いこなすことをお勧めします。さきほどあの異世界から来た冒険者の話をしましたよね。その冒険者は初めはそこまで使えなかったのですがこの世界で過ごしていくにつれみるみる精度を上げてゆき、それであの洞窟を抜けることができたのです。あの洞窟をいかに異世界からきて比較的ステータスが高いと言ってもあそこまで短時間であの洞窟を突破することは不可能です。やはりそれはボイスリアクトの力でしょう。その男の素質もあったのでしょうが、あなたにも何らかの素質があるはずです。聞いた話ですがそのアイテムはその人の内面と大きくかかわっているみたいです。その人がどんな環境で過ごし、何を考えて、何をしていたのか。そしてどの人とかかわってきたのか。その集合体がボイスリアクトの創造値という素質で表されます。その冒険者の素質はある一つの側面ではとても強力なのですが、その他の側面ではとても弱いことなんてこともあるのです。それがこの世界なのです。たしかにこの世界はレベルとステータスで区切られているのですが、それは分かりやすいから使っているということでしょう。もともと、人間にもモンスターにもステータスなどは存在しなかったのですから、それはだれかが初めて使いだしてその他の人間がそれを広めたのでしょう。この世界は私が来た世界とほとんど変わらず人間が支配しています。モンスターは人間より確かに強いですが、人間がこの世の中の常識をつくっているのですから、実質人間の方が上です。やがて人間はステータスが高い人間ほど有利に動けるような仕組みを自ら作り始めました。やはりある程度階層を決めておいた方が、この世界を維持しやすいのでしょう。しかしステータスでこの世界のすべてを決めようとしたことで、うまく回らないことが起き始めました。それはそうでしょう。もともとこの世界はステータスなんてものが前提で動いていなかったのですから。ですから、ボイスリアクトは新たなものを生み出せる能力でステータスに干渉しないものを生み出すことができるのでステータスに関わらないというのでしょう。なのでボイスリアクトは素晴らしいアイテムなのです。なので智也さんのような素晴らしい感性の持ち主から奪うなんてことはあってはいけないのです。わたしが必ず守り抜きます。任せてください」

「さっきもそういいましたが。でもあの竜人族の攻撃から身を守ってくれてありがとうございます。これからもできることならお願いします」

「私からもお願いします。ヘンリーさんと出会えて本当にいろいろなことが学べました」

「当たり前ですよ。私もあなたたちを守りたいからこのたびに参加しているのです。必ず守り抜きます」

「約束ですよ」

「任せてください!」

彼らは握手をした。もちろん犬はそんな芸当はできたいのだが彼らのその姿は握手と言ってもいいくらい様になっていたのだ。

「それでさっきのコップの鑑定はできましたか?」

「さっきのコップには特殊な魔法がかけられていまして、それは時間停止の魔法でした。これは自然現象に干渉する魔法です。まさかボイスリアクトから生成されたアイテムでかけられたものなのでしょうか。であればなんでこんな誰もいない集落の一つの家に?」

「時間停止なんてことができたら何でもありじゃないですか。でもこんなものに時間停止の魔法をかける必要なんてあったのでしょうか」

「まだ私には何もわかりません。しかしこの魔法にはリアクターが必ず関わっています」

「この集落にもリアクターが来てたなんてな。それに一番驚いたのだが」

「私にはこの魔法の原理は何もわかりません。この世界の常識を超えています」

彼らが話していたその時、大きな音が外に響いた。

「シシャシャシャシャ・・・」

「ヒューヒューヒュー」

「ドッッッカー―ッンッ」

「ガラガラガラガラガラ」

彼らは家の外側で何やらえらいことが起きていると悟って、窓からその光景を確認すると、二人組の男がある倉庫の前で立っていた。そのそばには直径数メートルほどの渦が巻いていて、その倉庫を破壊しているようだった。彼らは見つからないように、そのそばを離れ彼らのいた家の2階に行き、再度それを確認すると、その倉庫は粉々になっていた。残っていたのは木材の瓦礫と倉庫に入っていたものだけだった。その男の一人はとてもガタイが良い竜人族だった。彼の肩には大剣が装備されており、その存在感だけでこちらが圧倒されるほどだった。その竜人族はその次に隣の大きな家に向けて下から手のひらを少し差し出したと同時にその前に数メートルの渦が出現した。その渦がその随分頑丈そうな家にぶつかると、煉瓦でできた外壁をいとも簡単に破壊し、そのまま渦が大きくなったのもつかの間家全体を飲み込み、その家が全壊した。集落に佇んでいた立派な様相はこの時には見る影もなかった。そのままその隣の家を攻撃するのかと思いきや、その男が周りのすべての家めがけて剣を振り回し始めた。大剣の風圧で彼がいた近く建物は大きく損傷し、遠くの建物も被害は少し小さくなるだけで大きく損傷した。やがて彼らの目の前にもその攻撃は届いた。

「ドオオォォォンッッ」

「ギュンッ」

その斬撃が少しだけ彼らの建物の内部にまで届いた。しかし斬撃は幸い彼らには当たらなかった。その後、その竜人族と赤い服を着た男はその場から立ち去って行った。彼らは何者なのだろう。おそらく超級冒険者だろうがあそこまで規格外のものがいたことにおそらく彼らも驚いただろう。

「危なかったな、彩子!」

「ヘンリーさんも大丈夫ですか?あの竜人族は何者なのでしょう?」

「さっきのものはゼクという竜人族で強力な旋風波という必殺技を持っています。竜人族の族長でおそらく盗賊の中では実力はトップクラスでしょう」

「そうなんですね」

「先日言っていた超級冒険者ですね。はじめの竜人族はどんな奴なんでしょう。その竜人族よりはあるかに化け物じみていますが」

「その名はパドンファといって毒の液体を放出するので有名なやつでして、私たちも結構毒を食らいましたよね。液体なのでとても厄介でいくら防御してもかかることが多いのです」

「パドンファというんですね。俺たちもあの攻撃食らいましたがやはり毒が一番厄介でしたね」

「解毒剤持ってきてよかったわ」

「それで、あの人たち行きましたよね?このまま抜けますか?」

「どこかで見張っているのかもしれません。少し待ちましょう」

「そうだな」

「そうね」

彼らはそのまま数時間待ち続けた。その間あのコップのことを考えていたのだが、見当もつかなかった。いったい誰があんな魔法をかけたのだろう。なぜかけなければならなかったのか。俺たちはそのことについては分からなかった。

「でも、あの竜人族このままみすみす逃がすことなんてないでしょう。かならず先回りして待ち伏せしているはずだわ」

「そうだな。ヘンリーさん、どうしたらいいでしょう」

「実はこの集落から迂回路の反対側に森を抜けた先にとある荒野があります。その荒野をひたすら進むとある町が見えてきます。その町はオアシス都市でとても賑やかなのです。しかし、荒野がそこそこ危険でブラックウルフが出るといううわさが出ています。それに体長数メートル、場合によっては10メートル越えのワームが出るとのうわさもあります。ブラックウルフの平均ステータスは880、ワームの平均ステータスは730で上級冒険者並みです。強いものでは1000を超える場合もあるでしょう。何より恐ろしいのはそれらの群れです。それらが一頭でいる場合が最も多いですが、群れで行動する場合はブラックウルフの場合は5頭程度、ワームの場合は8頭程度で行動します。ワームは移動速度が遅いのであまり怖くないのですが、ブラックウルフはとても速く、おそらく私と同じくらいなのであの竜人族よりは速いです。なので容易に追いつかれるでしょう。幸いブラックウルフは賢いのでこちらの優勢を見たら、逃げ出すかもしれません。しかし油断は禁物です。5匹と言わず最大で20匹の群れがここ数年で確認されております。見つかればとても危険です。荒野は敵に見つかりやすいので、十分注意すべきと言えるでしょう。それでそのオアシス都市トランドルは大都市セレントリウス行きの列車が通っています。その列車で10日ほどの旅になりますがセレントリウスに行くことができます。そこから列車でウェーゼに向かうことができます。しかしあの洞窟を抜ければあと10日ほどでつくでしょうがそのルートで行くと2か月ほどかかってしまうでしょう。私はあなたたちに無駄な時間は過ごしてほしくないのです」

「そもそも旅に無駄なんてあるのか?」

「そうだわ。旅が無駄なんて誰が言ったの?」

「あなたたちはもっと成長するのにいい機会があるはずです。私はできるだけ皆さんの助けになりたいのです」

「でも俺たちはいくら不利な状況になってもヘンリーさんにできた借りを返したい。俺はヘンリーさんと共に旅をしたい。もちろん、彩子と一緒に」

「それなら洞窟だって私と一緒に旅をしますよ」

「ヘンリーさん多分洞窟で私たちを逃がすつもりですよね。俺たちはあんたを見捨てるつもりはないです。お願いします。俺たちと一緒に来てください」

「・・・・本当ですか・・・ありがとうございます」

「・・・・・・」

「わんわんわん」

「わんわんわーん」

ヘンリーは恒例の雄たけびを始めた。ヘンリーは自分を大切にしてくれる仲間を見つけてとてもよかったと喜んでいる。その雄たけびに彼らものって大合唱を始めた。こんなことをしている場合じゃないのかもしれない。でも喜びに浸ることもとても大事であることも事実である。

彼らはそのままその家で一晩を共に過ごした。

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