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ボイスリアクト  作者: 夕村奥
第四章
41/42

獰猛

智也らパーティーは海の街ファートルまでの荒野の5分の1まで来た。2体のバンドーロは強敵だったがあっさりサルトが倒した。まだ5分の4残っているのだが、智也たちは踏ん張って進む。周囲に警戒しつつ、なにもない荒野を進んでいく。何もないゆえにモンスターは見つかりやすいがこの前のバンドーロとの戦いでは遠い距離でも届くことを証明した。さすがバンドーロである。ステータスも高いのでずいぶんと苦労をさせた。5分の1進むと、慣れてくるものである。のどが渇けば智也が水を出してくれるし、普通のパーティーよりは快適に進むことができている。また、智也はテントを出すこともできる。ついさっき智也はテントを出して、パーティーメンバーは休憩をとっていたのだ。この荒野には目印がほとんどない。この荒野でオリビアとオリバーはどうやって進んでいるのか、智也や彩子にはわからなかった。しかし着実に進んでいるのは間違いないので、智也と彩子は疲労困憊だが、オリビアらを信じて歩き続けている。皆休憩は何度かとって4日コースで進んでいる。オリビアがそれが一番安全だと思ったからだ。疲れがたまるとモンスターと対峙したとき、対戦、回避などが難しくなる。そうならないためにも疲労をなるべくためないように計画したのだ。なにも行き当たりばったりでこの荒野を進んでいるのではない。事前にある程度計画を立てて進んでいるのだ。だが、オリビアはオリバーに頼りきりであり、護衛につく彼に身を託している。だからこそ行動が軽く、自信を危険にさらしているだ。だがまだ5分の1しか来れていない。5分の4ほど残している。智也はこの状況をどう見ているのであろう。サルトが同行してくれていて安心しきっているか、不安で押しつぶされそうになっているのか、それとも何も思考していないのか。少なくとも智也は考え事をする人間で、最後の可能性はほとんどないだろうが。人は危険な状況なら悩む生き物である。それと同時に、リラックスの時間は危険を察知できない。今のパーティーはサルトとオリバーがいる結果、のんびりしている部分も介在して居る可能性がある。それがある時期に大きな障害となって降りかかる可能性もある。今、パーティーメンバー全員、周囲を警戒して進んでいる故、危機を回避できる可能性は高い。旅には危険がつきものである。だからこそ今の智也らのように注意して進む必要があるのだ。レグレド荒野に生息する魔物であるバーンドーロが何体も出現することがなければいいのだが。

「だいぶ進みましたね。あと二日と半日ってところでしょうか。まだまだ距離はありますが、頑張っていきましょう」

「では休憩にしますか?それともまだ進みますか?」

「俺は今にでも進んだほうがいい気がしますけど」

「では進みましょう。皆さま、いいですか?」

オリビアが念を押し、パーティーは休むことなく進むことにした。パーティーを組み、全員少しずつ打ち明けてきた。お互いの秘密は何個かあれど、パーティーメンバー同士の緊張がなくなっていくのはとてもいいことだ。智也らは自分の考えを伝えた。

「ちょっと不気味な気がするんです。その先には大きなモンスターが控えているような気がするんです」

「魔物の気配はありませんけど」

次の瞬間、土の中から猛スピードでモンスターが出現した。数は一体だが、こちらを見ているようだった。タリュードだ。このモンスターからは逃げられない。スピードが速すぎるのだ。タリュードはモンスターを一度見て、一瞬でオリビアの目の前まで現れた。そして攻撃を仕掛けた。

「ギイイイインッ」

だが間一髪でオリバーの剣がオリビアを守った。

「ちいっ」

タリュードは次は智也の目の前に現れ、おなか向けて剣を向けてきた。

「今度は!」

「ギイイイイインッ」

しかし、サルトがタリュードの攻撃を受け止めた。

「あのモンスター、言葉を発しましたよね」

「言い忘れてましたが、タリュードは言葉を話せるんです。でも人間の言葉には目もくれません。モンスターは基本的には人間などを攻撃してくるんです」

タリュードは今度はアルフィーに剣を向けた。

「まだまだいくぜー!」

「ギイイイイン、ギイイイインッ」

「これでもダメか!」

タリュードの攻撃からサルトがアルフィーの身を守った。

「しかしタリュードはここまで好戦的ではないはずですが。さっきのホワイトリザードもそうですが、モンスターが獰猛になっている!!?」

「どういうことですかオリビアさん!?」

「前ここを通ったことがあるのですが、ここまで好戦的ではなかったのです。モンスターたちは人を見ると襲ってきましたが、ホワイトリザードは攻撃を加えると逃げていきましたし、タリュードも急に命を奪いに来ることはめったにはなかったです。何か別の理由があるのかもしれません。これまでモンスターが獰猛になった時の理由が書かれた書籍を読んだことがあるのですが、伝説のモンスターが出現する前触れだったり、何者かの陰謀、例えばモンスターを強力にして人間界を滅ぼそうとするたくらみを持つ組織が絡んでいたり、もしくはボイスリアクトのエネルギーが悪い方向に向かったり、人間、獣人や竜人族も含まれますがの勢力が大きくなりすぎて、その影響でモンスターが狂暴化したり、様々な理由があるらしいのです。それに混沌期がかかわっている可能性もあるみたいです。今この世界は安定期を終えようとしていて、混沌期に入るらしいのです。それでモンスターが強力になったり、獰猛になったりしてきているらしいです。モンスターが獰猛になったり強力になったりする原因は様々ありますが、このような理由らしいです。混沌期と陰謀、またボイスリアクトが結びついている可能性もあるらしいのです。私はこれくらいしか知りませんが。でも智也さんが使うボイスリアクトはせ世界に悪影響をもたらしてないと思います。ボイスリアクトが悪影響を及ぼす可能性があるって私は信じたくなくて。それに悪い人がいるっていうのも信じたくなくて。私は人間が好きだから。私は人を信じたい。でも世界がどんどん悪い方向に行って。智也さん、どうか世界を救ってください。私にできることは何でもしますから」

オリビアが話している間にタリュードはサルトに倒されていた。タリュードは素早いがサルトよりは遅い。サルトがタリュードにとどめを刺し、タリュードは討伐された。オリバーとオリビアは魔石を取って、しばらくしてファートルへ向け歩いた。

「タリュードがここまで獰猛になっていたなんて俺知らなかった」

ウォーラーは動揺した様子で智也に語り出した。タリュードとは昔、遭遇したことがあって、その時は賢い魔物だと思ったよ。手に剣を持ち何者だ?と言ってきた。俺は人間だと答えた。その後、タリュードは剣を後ろに向けたんだ。そしてこういったんだ。俺はお前と戦う意思はないと。俺はびっくりした。まさかモンスターが襲撃してこないなんてと。だがほかのタリュードと遭遇したときは襲われたさ。だが命を取るほどではなった。だがさっきのタリュードは全く別物さ。一体なのがあったのか」

ウォーラーが話し終えると気分がよさそうな顔をして智也の元を離れた。しばらくしてパーティーは荒野を歩み出した。さっきのタリュードの獰猛な姿を思い出しながら。そして何時間かが経ち夜になった。すると前を歩いていたオリビアがこう言った。

「夜になったので休みましょう」

「じゃあテント出すぞ」

そういって収納魔法で収納したいくつかのテントを出した。

「まさかこのテントも智也がボイスリアクトで出したのか?」

「はい、そうです」

「すごいな智也」

ウォーラーやサルトが興味津々に智也を見つめた。

「だってよ。ボイスリアクトって誰でも使えるものじゃないからな。適正がないと使えないんだ。でもボイスリアクトってとても高価なものだったり、能力のことで盗賊だったり悪いギルドに狙われる可能性もあるらしいぜ。だから気をつけろよ」

「わかりました。じゃあご飯にしましょう」

「賛成です」

「待ってました」

「おう」

「今日はカレーにしましょう。智也さん、お願いします」

「クリエイト・・・・・・テンカリーズ」

すると皆の目の前に10皿のカレーが出現した。皆は嬉しそうにその光景を楽しんだ。

「おいしそうだな」

「ではいただきます」

智也はこのような旅も楽しいなと思いにふけっていたが、つい最近、オリビアがタリュードに襲われる場面を思い出し、何とも言えない気分になった。あと3日。無事にファートルまでたどり着くことは叶うのか。


俺はいつも一人で悩んでしまう。昨日、オリビアにあることを頼まれた。それが俺にできるのだろうか。俺はボイスリアクトを持っている。普通の人にできないことができるはずだ。でも俺にそれが務まるのだろうか。オリビアは俺を頼ってくれた。助けになると言ってくれた。でも俺はあまりよくできる人間じゃない。いつも失敗ばかりで、昔にはよく怒られたりした。それでも俺のことを気にかけてくれるのか。俺は実際にはステータスが低い。でも必ずできる人間になれると信じている。根拠のない自信だが。俺は結局どう思われたいのだろうか。世界は今未曽有の危機だ。いろんな場所で危機が迫っている。それは分かっている。だから俺は誰かの助けになりたいと思っている。だが俺に何ができる。今俺は何ができる?

「大丈夫?また智也悩み事してたでしょ」

彩子が俺の様子を見て話しかけてくれた。

「悩み事があるなら私とかオリビアさんとかに話してって言ったでしょ?」

「いや俺は大丈夫だ」

俺は大丈夫だ。大丈夫だ。大丈夫だ。

「今智也が何考えているかわからないけど、あなたがそんなに悩む必要はないと思っているよ」

今彩子は何を言っているんだ?いま世界は未曽有の危機で…

「今のあなたにできることは限られているんだから心配する必要はないわ。あなただってそう思っているでしょ」

俺は一体何を考えていたんだ。彩子の心配も振り切って自分自身のことも考えられなくなっていたのか?でも俺は一人で悩む人間だ。小さなことでも一人鵜で悩んで解決しようとしてしまう。でも解決できない問題だってあるはずだ。それも一人では無理な問題もあるはずだ。俺は一体…

「わかった。不安はひとりで抱えないこと。私でもオリビアさんでもサルトさんでもいいからちゃんと話してね」

「ありがとう彩子。自分を見失っていた。徐って元気になった気がするよ」

彩子は俺の返答を聞いてうれしように笑みを浮かべた。

「そう。よかった」

俺はこんな風に毎回俺が迷惑かけているんだよな。すまない彩子。こんな自分で。でも元気をもらえたよ。

「俺はできるかどうかわからないことしたいと思っている。でもこんな自分でもできるかどうかわからない。俺、どうしたらいいんだろうか。久々に落ち込んでしまって」

智也から打ち明けられた重い言葉。しかし彩子は難なくそれを受け止める。

「これまでここまで悩んでしまうまで抱え込んで。きつかったでしょう。でもあなたが好きなようにやればいいんだよ。大丈夫、あなたならできるわ」

俺は久々に大泣きしてしまった。だから俺は彩子が好きなんだ。こんな俺にも多くの愛情をそそいでくれる人は彩子しかいない。今、とてもうれしい。この気持ちは何物にも耐えがたい。

「もう一度言わせてくれ。ありがとう彩子」

俺は二度感謝の気持ちを伝えた。しかしそれだけでは全く足りない。俺は彩子からいろいろなものをもらった。学生時代だって彩子がいなければあそこまで楽しくなかったはずだ。本当に感謝だ。

「そういえばそろそろ寝る時間じゃない?」

「そうだ。明日朝早いからね寝なければ」

俺はしばらくの間涙が渇くことはなく、ちょっと恥ずかしかった。しばらくするとオリビアとオリバーが寝ているテントから声がしなくなった。きっと寝たのだろう。俺もそろそろ就寝だ。隣にいる彩子は眠そうに横になっている。俺も横になった。

「眠いけどなかなか寝付けないな、彩子?」

「彩子?」

彩子はぐっすり眠っていた。それにつられて俺も横になり目を閉じた。




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