創造主
「わんわんわん」
「ん?」
「なに?」
「わんわんわーん」
「ああ、朝になったのか?」
「起きてください、みなさん」
「おお、びっくりした」
「また念話ですか?」
「ヘンリーさんいたずら好きですね」
「そうですか?みなさん今日は朝日を浴びなくていいんですか?」
「今日はこの森を危険なく切り抜けるための計画を厳密に立てないといけないから今日はいいです」
「そういえばヘンリーさん昨日ボイスリアクトで出すんですけど見てくれるんでしたよね」
「そうでした。私そのアイテムについては結構知っているので助けになるかもしれません。それに私自身そのアイテムについて少し興味があるのです」
「ボイスリアクトはいわばどれほどの価値があるんでしょう?」
「各ギルドでの鑑定では価値は上下するのですが、総じて金貨300枚ほどの価値があるそうです。そもそも価値をつけることができないし、あるギルドでは金貨1000枚はくだらないと言われています。しかし所持者しか使えないのでそれを調べて量産するための価値らしいので、実際に使えるんだったらその倍の価値はありますよ。それほどのものです。なので容易にボイスリアクトという名を口に出したら、絶対に狙われます。それと使っているところを見つけられないようにしてください」
「じゃあなんで私がこのゲームの世界に来た時にボイスリアクトを持っていたのでしょうか。それほど価値があり、使いこなすことが難しいんだったら相当の実力者に渡すのが賢明でしょう。なぜ私が持たされていたのでしょう。俺にはそこんとこわかりません」
「この世界は元の世界の何らかの能力が引き継がれて連れてこられるそうです。その能力がボイスリアクトの使用条件をクリアしていたことが理由の一つでしょう。もっともそれだけではないでしょうが」
「だったら使えるはずなんでしょうが、この世界にきてちょっと珍しいものですら生み出せていないんですよ。簡単なものだったらできるのですが」
「残念ながら私にはわかりません。しかし使うことができる素質は持っていると思われます。そうでなくては持たされるわけはないので」
「ちょっと、いい子と思いついたんだけど、あなた」
「彩子、どうした。なんかいい案見つかったか?」
「ずっと使ってたものを出せたじゃない?」
「おう!」
「だったらあなたが昔使っていたバイクを出してみたらいいじゃない?バイクならよく手入れしたり仕組みとかよく知ってたみたいじゃない。バイク仲間ともいろんなところに行ってたみたいじゃない?」
「そういえばそうだったな。昔よく使っていたバイクを出せなかったら、何かバイクに何か知らないかったり俺に何か足りないものがあるから出せなかったとかわかるな」
「出してみるか」
「クリエイト・・・・・マイバイク」
一晩彼らの眠っていた洞窟の中に一台のバイクが出現した。彼らはその光景を見てものすごく驚いた。
「精密なものでも出せるのか。まさかここまで高度の機械も出せるとは、ボイスリアクト恐るべし」
「でもガソリンって入ってるの?」
「今調べてみる」
俺たちは俺の愛車のバイクの中の燃料タンクを確認した。するとタンクの中に満タンの3割くらいのガソリンが入っていた。俺はその時このバイクを一人で乗り回していた時の記憶を思い出した。俺は大学生のころバイクの免許を取ってからお金と時間が許す限りバイクで都道府県をまわったものだ。俺は大学一年生の夏休みに俺の愛車のバイクを購入した。旅の道中でコンビニによってアイスを買って愛車の前でよく食べていたことを覚えている。バイクでの旅はとても楽しかった。たまにいい景色を見つけることがある。その景色を写真に残そうと思ってカメラを俺の愛車の購入と同時に家電量販店で購入したのを覚えている。そのカメラは特段高かったのだが、カメラで撮った写真はとてもきれいその光景をフィルムに収められていた。俺だけが抑えた景色を捉えた写真をアルバムに保存することが趣味だった。そのアルバムは元の世界の書斎に保管されている。
「おお、ちょっと入ってるぞ」
「ちょっとってどれくらい?」
「3割くらい」
「そう、結構走れるね」
「智也さん、この機械はどういうものなんですか?」
「これはバイクといって人を乗せて結構早く移動できる乗り物なんです」
「どれくらいの速度で走れるんですか?」
「そうですね、馬よりは早く走れますよ。平坦な道ではもっと早いですよ」
「すごいですね。これでもしも冒険者が襲ってきても逃げることができますよ」
「しかしそんな簡単に行きますかね。このバイクを持ち歩くわけにはいかないし。いったん収納して冒険者が襲ってきたときに出して逃げなければいけないんですよね。もしそのバイクが壊れて動かなくなればバイクをもう一度出せるのかもわかりませんよね」
「それもそうですね。ところで収納できるんですね」
「そうでした。最初組み立てたテントは置いて行ったのですが昨日は流石に見つかったらこの森に来ていることがばれると思って、何かできないかと試してみたんですよ。すると収納と言うとボイスリアクトで出したものだけ収納することができたんです」
「あんなものも収納できたのですか。便利ですね」
「あなた、ガソリン出してみた?」
「一応やってみるか」
「クリエイト・・・・・ガソリン」
「・・・・・・」
「やっぱりだめか。そんな簡単にはいかないよな」
「ヘンリーさん。この世界でとガソリンというものを知っていますか?」
「見ませんね」
「そうですか」
「なるほどそのバイクにはガソリンが必要だと」
「そうです。やっぱりないですよね」
「ないですね。私もこの世界にきて50年になりますが、ガソリンというのは知りません。この世界は主に魔石のエネルギーで動いています。この世界でつくられているものは魔石が多く使用されており、だからステータスを強化したり傷を早く治療したりできるのです。それ以外はやはり自然の力だったり人外の力が働いていると思われます。その力がガソリンに合致するかということですが、それはわかりかねます」
「でも少しガソリンが残っててよかったわ。これで危険から遠ざかることができるね」
「おうよ!」
俺たちにも希望が見えてきた。旅の最中でボイスリアクトと使いこなすことができずにどんなに頑張っても簡単なものしか出せなくてがっかりしていたのだが、今日精密な機械さえ出すことができて少し自信を取り戻しつつある。しかし結構悩むこともいろいろあるが楽しいこともあるんだな。あの時を思い出してそれを再び実感できた。しかし彩子と共にバイクで旅行したことは一度もない。それが楽しみでもあった。
「収納」
俺は相棒のバイクを収納した。いつも通りその光景に驚いた。この能力を見るときは本当に胸がどきどきしていい気分になる。だからまたこの能力を使いたい気持ちになる。この気持ちを忘れないようにして使いこなせるようにしていかないと。それはそうと彩子は最近私のことに賛同してばかりだ。なぜか意見をしてこないことがよくある。むかしから俺は結構自分の言いたいことはすぐいうタイプだったから、最近の俺の姿を見て少し嫌われてしまったのかもしれない。しっかりしろ、俺。今日はいいことがたくさんあった。これから自分のいいところを見せていけばいいんだ。
「スーーー」
そのバイクが空間の中に消えていった。その光景に一番驚いていたのは犬だった。ヘンリーはあのアイテムのことがとても気になっていたそうで、彼らがボイスリアクトで出して収納してを繰り返しているシーンをじっと見つめていたのだ。彼はおそらく彼らというかその能力を使えることにあこがれを持っていたのかもしれない。だから、ここまで彼らをサポートするのだろう。彼らは今日も調子が良い。ヘンリーと彼らはこの危険な森で少しづつ成長しているのかもしれない。それは心底彼が本当に望んでいるからなのかもしれない。彼らは洞窟を出て、迂回路をめがけて進んでいる。彼らははじめ湖に続く道中の広場で出会ってから談笑するまで仲良くなった。彼らの笑い声は森の中に突き抜けていったと思ったら、彼らの方に帰っていった。森に響く声。この森にその声にこたえるものなどいるのだろうか。そのまましばらく時がたち、彼らはもう一度迂回路にたどり着いた。
「やっと昨日来た場所にたどり着いたぜ。すごく手間かかったな」
「そうね。やっと戻ってきたって感じがするね」
「今太陽が結構上に昇っているから結構急がなければならないかもしれない」
「そんな急ぐ理由あるの、あなた」
「このまま突き進んで、一気にバイクでゴールだ。こんなに気持ちいいことはない」
「せっかくここまで来てもったいないわ。いままで結構頑張ってきたじゃない。危険を極力避けて安全に森を抜けるべきと思う」
「わんわんわん」
「私もそう思います」
「ヘンリーさんもそういってるから。いいじゃない」
「それにこれからあのレベル80の冒険者がほとんど勝てない相手がいるらしい洞窟があるじゃない。できるならそこで使いましょう」
「皆さん、あの洞窟ウィリオメトルに生息するモンスターはそこまで強くないらしいのですが、そこで雇われているものが先ほど彩子さんが言う通りベテラン冒険者でも歯が立たないほどの何らかの生物が出没するらしいです。そいつはモンスターなのか人なのかわからないらしいです。その何らかから逃げ帰ったものの話だとどうもその洞窟であった出来事を覚えていないようです。その洞窟についての証言はみんなバラバラでドラゴンだとか魔術師だとか皆そろって違ったことを言うのです。ある日とある上級冒険者一行が10人でその洞窟に入りましたが、逃げ帰ることができずにその洞窟で命を失うものもいればそこから逃げ帰ったものもいました。逃げ帰ったものの証言は皆異なるものでした。超級冒険者でも比較的弱いものであれば襲われる場合があるそうです。そこから逃げ帰ったものの話では超級冒険者であっても皆違う証言をしました。なのであの洞窟は奇妙で残酷な洞窟で有名で普通は会員証を発行してもらい、その洞窟に入ります。しかしその会員証は特殊な魔法陣に手の甲を触れさせることで発行されます。私もこれが奇妙に思って会員証の発行について調べたのですが何もわからず。わかったことはあの洞窟は会員証なしでは命綱なしで棒の上を渡るみたいな恐ろしいところだということだけ。この洞窟はとても恐ろしいので私は通ることをお勧めしません。会員証についてもよくわかっていないので避けるべきだと思います」
「難しいですね。あの洞窟を通らなければ大都市ウェーゼには行けないみたいなんです」
「ヘンリーさん他にあの洞窟を通る以外の道はあるんでしょうか?」
「それ以外だと海路なんてのもありますよ。湖を抜けてひたすらまっすぐ行ったところに中規模の町があります。その町の端に港があります。その港から中規模の都市のトルンという町に行く船があり、まずそこに船で渡ります。その港から次に大都市のセレントリウスという大都市行の船が巡行しています。その船に乗ってセレントリウスに向かいます。セレントリウスについたら、港を出て市街地を進んでいくと列車の駅が見えます。その駅の3番ホームの大都市ウェーゼ行きの列車に乗ると数日でウェーゼに着きます。それが一番安全な道でしょう」
「それ早くいってくださいよ」
「それなんですが、二つの注意事項があります。一つ目はトルンからセレントリウス行きの船に持ち込み検査がありまして、ボイスリアクトが見つかるとちょっと気がかりな点があります。二つ目はセレントリウス行きの船はモンスター乗り降り禁止というところです。つまり、私がついていけないのです。私もそのたびについていきたいのですが、トルンからセレントリウスまでの船はその船しかないのです。ですから、そこでお別れです」
「そんな悲しいこと言うなよ。トルンからウェーゼまで行けるほかの手段はあるんだろう?」
「トルンからはその他にはわからずの森や迷路のような構造の洞窟レイをぬける必要があります。そこを抜けるには結構かかります。私はあなたたちには早く強くなってもらいたいのです。わたしはそのようなところに連れてはいきたくないのです」
「仲間を置いていけるわけないだろう」
「そうね。私たちはあの洞窟ウィリオメトルを目指すよ」
「危険です。それよりはわからずの森を通る方が安全です。時間はかかりますが」
「時間は貴重です。なるべく無駄にはしてほしくないんです」
「でも俺たちはお前を連れていく。そう決めたんだ」
「一緒に行きましょう」
「でも・・」
「いいから、いいから俺たちと行こうぜ」
「でも・・」
「さすがに私たちはあなたを見捨てることはできません」
「っっっっっありがとうございますっっっ・・・・・」
「わんわんわんわんわん」
ヘンリーは大叫びで喜んだ。彼の選んだ相手は間違いではなかったとその時ヘンリーは確信したのだった。こんな姿で登場して異世界にきて間もない彼らに押し付けることも多々あったが、彼らはそれに答えてくれた。ヘンリーは昔普通の人間だったころのゲーム友達の優しさを思い出して胸をくすぐられた。ここまでうれしい気持ちは何年ぶりなのだろう。彼はそう思いながら尻尾を上下左右に振ったと思ったら、彼らの方を向いて吠えるのであった。
「あなたの声をきくと俺たちも感極まってくるよ」
「そうね。なんか胸の奥がムズムズする感じだわ」
「ちなみにあの洞窟をぬける裏技みたいなものってあるんですか?」
「ある人物がその洞窟に向けてウェーゼに向かったとの話はあります。その冒険者はとかの世界から来た冒険者でどうやらボイスリアトを持っているみたいでした。その方は結構な熟練者みたいでして、ボイスリアクトを巧みに使いこなしてたみたいです。その方はとても寛大な方で過去に何度もいろいろな店に回っては様々なアイテムを寄付していたそうです。そのアイテムがとても高価だったらしく、店側は受け取りたくないとのことだったのですがその冒険者は話を聞かずにたびたびに店に訪れてはアイテムを寄付していくらしいです。その冒険者が数か月前にその洞窟に行ったのですが、大都市ウェーゼの人によれば、その人物は洞窟から少し手傷を追っていたのですがほとんど無傷で出てきたらしいです。その様子を通行人から目撃されています」
「おい、彩子!この人物もしかして」
「そうね、あの武器屋に寄付した人じゃない?」
「この武器だってその人が寄付してくれたものでしょう」
「しかしなぜこんなものをわざわざ寄付しようとしたんだろうか?」
「わからない。でもその人物に好意があることは間違いないと思う」
「そうだな。でもこのロングソード、ここまでの実力者が創り出したものなのか。道理で結構持ちやすくて場所を取らないんだな。しかも扱いやすいし」
「そうなの?私のロングソードもとても扱いやすい。休憩中、試しに使ってみたんだけど蔦も簡単に切断できるものなんだけど、これは防御力も一級品らしいよ。あそこの武器屋の職人も何者か気になるね」
「そうだな。この世界は俺たちの知らないことだらけだ」
「そうね」
「知らないことが多ければ不安になることも多いが、彩子は大丈夫か?」
「平気。私だけだったら不安だったかもしれないけど、あなたもいるし」
「そうやって俺にすがりとおすんじゃないぞ。俺だっていざとなったら守ってやれないのかもしれないぞ」
「あら、旅の初めのころは俺が守り通すみたいなこと言ってなかったっけ?」
「もしものこともあるんだぞ。注意しておけよ」
「わかってる」
「皆さん、そこに休憩できるスペースがありますよ。休憩していきましょう」
「待って、あそこ罠があるんじゃない?」
「ここは迂回路の一区域だからな。多少警戒してもいいかもしれん」
「大丈夫ですよ皆さん。周りに誰もいませんので襲ってくる心配はありません」
「でも今日初めて迂回路に来たから心配。ちょっとその空き地確認しましょう」
「おうよ!」
まず初めに彩子が迂回路を少し外れて、その空き地に向かっていった。その空き地までに何か罠はないのか、そして空き地にも十分に気を配って罠が張られていないのか確認した。
「これって何?」
彩子が指をさしてこう発言した。指示された指の先にはある留め具が置かれていた。その留め具の先に一本の糸がつながっており、その糸は決して注意を張らなければ見えない細さでもし確認しなければ気づかなかっただろう。糸は地面の先につながっており、地面には何らかのでっぱりが見える。留め具はベンチに固定されていた。おそらくベンチに座れば何らかが起きて、地面が崩れるのだろう。俺たちはそれを見て立ち止った。旅に危険がないとは言えないが、こんな休憩スペースにも罠が張り巡らされているなんて。俺たちは改めてこの森の危険度を再確認した。おそらくこの世界でもこの森はとても危険な森なのだろう。こんな危険な森が世の中にあふれていたらもっと恐ろしい世の中になっているはずだ。彩子はどう考えているだろうか?ヘンリーさんも。こんな危険な森は早く抜けなくてはいけない。ここまで迂回して危険だということは残り二つの迂回路はもっと危険の可能性が高い。しかしこの罠は上級冒険者まではめてしまうのではないか?この森は中級冒険者以下のものを襲うのではないか?俺がこのことに頭を抱えていると、彩子が発言した。
「この留め具、なんか爪が甘いわね。結構昔につくられてそのまま放置されているみたい」
「もしかしたら罠はもしかしたら作動しいかもしれないぞ」
「ちょっと試してみない?」
「危険です。この罠はまだ作動するのかもしれないのです。私にお任せください。私が罠にかかります。あなたたちは離れてみていてください」
「待ってください。この罠が作動すれば敵に知らせられるかもしれないですよ。俺がこの罠をつくったら絶対に伝わるようにしますぜ」
「そうね」
「やっぱり触れないようにした方がいいんじゃない、あなた」
「そうだな。下手に罠を作動させて敵に見つかってしまえば最悪だ。このまま放置しておこう」
「せっかくのチャンスですが、やはりそうですよね。わかりました、そこの空き地で休憩せずに先に進みましょう」
「おうよ!」
「そうね」
彼らはそれからひたすらに迂回路の道を進んでいった。空き地を見つけては罠がないか確認しなければ休憩して食事をとる、あればスルーしてそのまま迂回路を進んだ。そしてしばらくしてかすかに湖が見えてきた。その湖はとても大きいがあの湖ほどの大きさではなかった。
「湖見えない?まさかあの湖なの?」
「そんな馬鹿な。」
「ヘンリーさん、あの湖って何ですか?」
「ああ、やっとここにたどり着きましたか」
「それで、この湖というのは?」
「この森には湖が全部で2つあり、一つ目があの湖で絶大王イカのベンドラという強力なモンスターが出現する湖。もう一つはそこまで強力なモンスターが出現しない湖です。しかしその湖にも中級冒険者に匹敵するモンスターも出現します。しかし私はそれくらいのモンスターを退治することはできますので、ご安心ください。必ずあなたたちを守り抜きます」
「これまでヘンリーさんちょっとした罠を見逃していたり、もしかしてポンコツなのか、彩子」
「案外そうかもしれないわね。でもここまで安全に来られたのもヘンリーさんのおかげだったりするし」
「そうだな。変なこと言った」
「大丈夫。それよりこの湖結構開放的ですけど敵に見つかりやすいんではないのですか?」
「そうです。なのでこれからこの湖をぬけるまで数キロですけど湖の周りの木々の後ろに隠れながら、この湖を渡ります」
「わかりました」
彼らはヘンリーのポンコツぶりを見て少々あきれる場面もあったが、少しずつ彼に対する信頼が築けてきている。彼はちょっと適当な部分はあるけれど嘘はつかない。だから、彼を信じることができるのだろう。彼の言動すべてを信じることはできていないが、彼の意志は彼らに届いているだろう。彼らはヘンリーにいつかその恩返しができるだろうかと少しずつではあるが考え始めているのである。
「これから見つからないように湖を通り抜けます。準備はいいですか?」
「はい」
「おう!」
「じゃあ、私の後ろについて行ってください。決してはぐれないように注意してください」
「わかりました」
「わかりました」
「ざざざざざ」
俺たちは森の茂みの中を進んでいった。早く湖をぬけられないかとそのときは考えていた。この湖さえ抜ければ残りは半分らしい。そしてラストスパートをかけてこの湖をぬける。そうだろ、彩子。湖を横目に見ながらその周りも警戒しつつ茂みの中を動いていたのだが次の瞬間ある龍のような人間が湖に向かって気功波をぶっ放してきた。
「ドゥドゥドゥーーーン」
「パパァァァァンンン」
水しぶきが湖に直撃して大きな音を立てたのを聞いて俺たちは尻がすくんだ。その龍のような人間の側には赤い装束を来たいかにも魔術師らしい人が1人そこに立っていた。龍の人間が気功波をぶっ放したその直後その魔術師がなにやら詠唱をはじめてそれから数秒後その魔術師が湖に向かってファイアボールを2発放った。
「パアアアァァァンン」
「パパアアァァァンン」
「ザパパパーーン」
それと同時に龍の人間はその魔術師と肩を組み、何やらそれについて言っているようだった。俺はそいつが何を言っているのかわからなかったが、おそらくそれについてほめていたのだろう。俺にはその気持ちはひとつもわからないが。次の瞬間湖のモンスターがそれに驚いて少しずつ姿を現してきた。そのモンスターはその二人組を見るや否や怒りの気持ちを抑えられず、絶叫してその二人組にとびかかった。そのモンスターはウナギのような外見をしていて、全長は10メートルはあった。そのウナギがとびかかるのを見て、魔術師は後ろに下がったが、竜の外見をした人間は前に出て何やら毒のような紫色の液体をそのモンスターに放出した。そのモンスターはそれにもろともせずに攻撃に移ったのだが、直撃するとだんだん体がしびれてきたようで、彼のもとにたどり着くまでにしびれて動けなくなったようだ。そのすきにその竜の人間が手をそのモンスターの方に向けて、その瞬間手から大きな光の玉が放出された。
「ドシューーーーーン」
「グギャアアアア」
その光の玉はそのモンスターを直撃し、そのモンスターは戦闘不能になり湖の底に沈んでいった。彼らはそれを見届けて、また二人でなにやらひそひそと話し合った。俺たちはそのすきにこの湖から早く抜け出そうと考え、茂みをなるべく早く移動しようと心掛けた。見つからないように。なるべく早くこの湖をぬけれるように。そのまま見つからなければ御の字だ。こんな恐ろしいやつと相手をすればおそらく無事ではないだろう。この光景を見届けて数時間で結構進むことができた。あの二人組とも結構離れることができた。よしこのまま見つからないでくれ。そう思いながら俺たちは無言でこの湖の周りの茂みの中を進み続けた。そのまま見つからなければよかったのだが、あの魔術師がこちらの方を見て、何やら竜の人間に話しているようだった。その瞬間、その竜の人間が手の平をこちらに向けてきて何か準備を始めたようだった。瞬間、その手から光の玉が俺たちがいる森の茂みに向かって飛んできた。
「ドシューーーーーン」
「やばい、これどうなるの?」
「任せてください!」
ヘンリーがそう言って緑色の蛍光色の大きな分厚い板が俺たちの前を覆った。
「バァーーーーーーン」
そいつはすかさずもう一発を撃ってこようとしたので、俺たちはいったん森の茂みから出て、動きやすいようにした。
「ドシューーーーーン」
竜の人間はもう一発撃ってきた。その光の玉は一発目よりずいぶん大きい。しかしスピードは遅かったのでなんとかかわすことができた。そういえば、そいつの側にいた魔術師は?まさか仲間を呼びに行ったのか?それはあまりにもまずい。早くここから立ち去らなければ。しかし、その竜の人間は猛スピードでここめがけて走ってきた。これは馬の全力疾走に劣らないというほど早かった。その速度があまりにも尋常じゃなかったのでおそらく数分でここまでくると俺たちは踏んで、なるべく遠くに逃げて戦いに挑もうという話になった。
「なるべくここから離れましょう。ここは湖もあってとても戦いずらいです。しかもあいつは竜人族で水辺ではより強くなりますます危険です。あいつはおそらく超級冒険者です。側にいた魔術師はおそらく上級冒険者で仲間を呼びに行ったものだと思われます」
「そろそろ本格的にまずくなってきたぞ」
「でもさっきヘンリーさんあの竜人族の攻撃受け止めていましたよね。ヘンリーさんが防御をして俺たちで攻撃すれば何とかなるんじゃないですか」
「そうですが、なるべく危険は避けるべきでしょう」
「もうここまで来たんだから、敵も追ってきているし戦うのは避けられないでしょ。俺たちもやればできるっていうところを見せてやろうぜ」
「そうね」
「相手について行かれて場所を悟られてほかの超級冒険者が来る場合が最も危険でしょう。じゃあ、皆さんあの竜人族倒しちゃいますか」
「やってやろうぜ」
「いきなりキャラ変えないでください。ヘンリーさん」
「いや、あなたたちと一緒だとなんでも乗り越えられるような気がしましてね。勝てるような気がするんです」
「そう簡単に行きますかね」
「そうだよな、彩子。簡単にはいかないかもしれない。でもこのままだと絶対に追いつかれるからやるしかないよな」
「そうね」
彼らは逃走を図りながらそんなことを話し合うのだった。もうすぐあの竜人族の人間が彼らに追いつくだろう。いざ彼らが超級冒険者竜人族と向かい合って戦っていくことはできるのだろうか。それは神のみぞ知るということなのかもしれない。しかし、神というのはこの世界に存在するのであろうか。この世界はもともとゲームの世界である人物がこの世界をつくったのだ。ということは彼が創造主であり、神なのだろうか。いや、彼が神を意図的に用意したのかもしれない。もしくは人間が神を必要として、神というのを無理やり置いたのかもしれない。それを知るのも創造主のみ。いったい彼はなぜこのゲームの世界をつくったのだろうか。