一人
俺は何をすべきだったのか。ここにいても何の役にも立たなかった。俺はサルトたちがモンスターと戦っているようすを眺めているだけだった。俺がいなくても彼らなら容易に倒せてんじゃないか。俺は自分の実力不足を痛感した。それにしても彩子は大丈夫なのだろうか。今頃ふぇりる山をオリビアさんたちと降りているところだろう。何とか無事にフェリル山を下り、近くの治療室まで連れていければいいが心配だ。この山は危険だらけでなかなか無事に下りられるとは限らない。強力なモンスターと出くわす可能性もある。オリバーさんと今頃一緒なら大丈夫だろうが、もしものことがあれば心配だ。俺は彩子のそばに入れないことを残念に思っている。今すぐに会って話がしたいのだが、俺はここで待機しておいたほうがいいだろう。この黒い渦の正体について調査隊に見てもらわないといけないし、聞き取り調査もあるみたいだからここに残る必要があるらしい。いったい何時間ここで調査隊の聞き取り調査に協力しなければならないのか。調査には倒したモンスターや目の前にある黒い渦についてや、ここ付近の聞き込みが主な対象だ。今すぐにでもここを抜け出して彩子に会いたいのだが、ある程度の時間がかかることは想定している。調査隊によれば大きな魔石も検査をしたところ、サルト達が戦ったモンスターのステータスはおおよそ2150前後だといわれた。それに回復能力についてサルトが話したところ、調査隊は一部のモンスターには回復能力がとびぬけた個体がまれにいるらしい。一瞬で高度な回復を制限なしに行える能力も鑑み、調査隊はあのモンスターのステータスを2170と決定した。俺はサルトやほかの超級冒険者が戦っているのを見ていたのだが、サルトが補助魔法をかけてもらってからのサルトの必殺技の威力が数段上昇したように見えた。確かに、サルトの攻撃を受けたモンスターが大きくひるんでいたし、1発の威力が増しているように見えた。補助魔法の使い手は確かルバだったか。彼はすさまじい実力者だ。超級冒険者でも群を抜いて強いだろう。彼は国で何番目に強いのだろうか。そもそも大会とかには出場しているのか。俺はルバの実力では国で10位前後に入ると思っている。回復魔法もだが、なにより補助魔法がすさまじいからだ。サトの火力も超級冒険者にふさわしい威力だった。トールやエリも役に立っていた。俺だけが何もせずただ後ろで応援していただけだったんだ。こんな俺でもみんなは受け入れてくれるのだろうか。俺はこのままではいけない。いつか強い冒険者になって世界を救いたい。そのためにはボイスリアクトの力が必要だ。なんとかこのボイスリアクトを使いこなして、すごい能力で誰も倒せないモンスターや敵を倒してみたい。今はちょっとしたアイテムや食べ物を出せるだけだが、いつか最強の冒険者になって見せる。そういえばあの冒険者村瀬って人はどこにいるのだろうか。おれもあの人のように強くなりたい。今の俺ではステータス的には超級冒険者の仲間入りさえ難しいだろう。何十年語ってやっと超級認定がもらえる可能性があるぐらいで、短い時間で認定を受けるのは無理だろう。だったらこのボイスリアクトを使って追い越してやる。ボイスリアクトの適正がある俺はいつかきっと強力な冒険者になれるだろう。そういえば、大都市ウェーゼには適正を調べることができる機械があるみたいだった。たしか創造値を調べられるものだったっけ。よし、彩子たちと合流して、大都市ウェーゼを散策しよう!
「サルトさんってこんなに強かったんですね。俺、びっくりしました」
「いいや、俺だけでは決して倒すことができなかった。みんなのおかげだ。ありがとな!」
「そういえばフェリル山には鉱物がたくさん撮れるって知ってるか。赤い鉱石だったり青い水晶だったりとか。この広いフェリル山にはいろんなものが取れるんだよ」
「本当ですか!ちょっと興味があります」
トールが前のめりになった。ほかの人はちょっと引いていた。トールはお金のこととなるとしばしば興奮する様子を見せる。
「そういえばあの魔石って何ですか?ほら、そこにある」
サルトが大きな魔石を持って、みんなの前に置いた」
「モンスターを完全に消滅させたときに出る石のことだ。強いモンスターであるほど大きな魔力量を持ち、価値が高くなる。これはステータス2170のモンスターの魔石なので金貨が最低100枚で換金させてもらえるはずだぞ」
「金貨100枚!?」
「この魔石を使って武器を作ることもできるぞ。主に剣かな。この魔石から作った剣はとんでもない剣になりそうだ。魔剣になるかもしれない」
「それほどなんですか!?」
「そうだ」
「でもこの魔石ってどうするんですか。みんなで山分けしたほうがいいと思うのですが」
エリはサルトに語り掛けた。
「俺も賛成」
魔石が一人の手に渡るのを危惧したサトはエリの提案に賛同した。6人の中でこの二人が正義感が強いのかもしんれない。サトは曲がったことが嫌いな性格で平等を好んでいる。
「サルトさんが一番活躍したので最も配分されるべきですよ」
「俺が最前線で戦っていたのは本当だが、ルバの補助魔法がなかったらダメだった。ルバが一番もらうべきだと思う」
「ダメでず!みんな公平に分配しましょう」
「わかった。そうしような」
「ありがとうございます!」
みんなの賛同を得られたエリは少し笑みを浮かべていた。
「彩子!」
「智也、無事だったのね。よかった」
智也は久しく彩子に会っていなかったので、彩子の無事な様子を見て安堵した。もちろん逆もしかりで危ないところに向かっていった智也が無事で彩子も同じく安堵した。
「それでみんなの容体は?」
智也は彩子のほうを見つめると彩子はこう答えた。
「大丈夫。少しでも遅れてると助からなかった人もいたけど、今はみんな無事」
「よかった」
「そういえば謎の黒い渦の事を調査隊が調べたんだけど、まったくわからないみたいだった。いったい何なのだろうか。あれには俺もサルトさんも助かったからな。あれが出現しなかったらサルトさんはやられてしまったのかもしれない」
「なんにしても智也が無事でよかった。今度からはあんまり無茶はしないでね」
「わかった」
「本当にわかってる?あなたはいつも危険を顧みず、飛び込んでいくよね。それも一人で。いつものことだけど、自分のことを大事にして。智也がいなくなると悲しむ人もいるんだよ。私はその一人。わかった?」
智也の目をじっと見ながら彩子はこういった。智也は彩子に大切にされていてうれしいと思った。智也はいつも一人で考え込んだり、危険を孕んでまで目的を達成しようとする。智也は世界のために自分自身で考えていることは彩子にもわかっている。しかし彩子は智也が大事なのだ。危険を冒してまず進む彼に心配している。彼も彼自身で考えていることは彩子にもわかっている。それは同時に素晴らしいことでもあるのだが、しかし彩子にとって智也は世界よりも必要で大事なのだ。
「私の言っていること、わかった?」
「おう、信じろ!」
「なんかあなた自信満々ね。なにかあった?」
「そうか。俺はいつも通りだけど」
「そう…」
智也は彩子に感謝の思いを強く持っている。しかし彩子の前にそれを表そうとしない。おそらく恥ずかしいからだろう。智也がなぜ自信満々なのかというと彼はボイスリアクトを持っているのがあるだろう。また、ボイスリアクトを持っていれば冒険者ムラセのように強い冒険者になれるのを本気で信じているだからだ。世界は広い。世界には智也と同じボイスリアクト所持者が1000人いる。だが、使いこなせているのは少数派だろう。智也がいつかボイスリアクターとして世界の役立てることを信じている。それは彩子も同じだが。1000人もいるとボイスリアクターの価値が霞んで見えるが、国に10人しかいないと考えれば、これはとんでもないものだということが理解できるだろう。また、ボイスリアクトはステータスに干渉しない能力もある。つまり、どんな強いモンスターでも普通の事のように対処できるということだ。それがボイスリアクトのすごいところの一部である。
「ひとまずけが人が大丈夫そうでよかったよ。俺たちは今からどうする?」
「サルトはここで寝ていてください。大きなダメージに呪いも少し残っているかもしれないから」
サルトは残念そうにこう言った。
「俺も連れて行ってくれよ。冒険者ギルドに俺も行きたい」
「寝ていてくださいサルトさん。俺たちで冒険者ギルドに行って報告しに行きますから。安心してください」
「わかった。気を付けて行けよ」
「そういえばサルトさん。フェリル山の事もっと教えてください。楽しみにしていますよ」
アルフィーがわくわくしながらサルトに言った。
「おう、また会ったらいつでも話してやるぜ」
「うん!」
アルフィーはウキウキしながら治療室を後にした。




