仲間
「ブーンドドドドドド」
智也はモンスターとサルトのいる場所めがけてバイクを走らせた。まだ距離はあるがバイクならあっという間だろう。
「まだか。あそこまでまだかかるな」
ひたすら智也はバイクを走らせた。智也は必死だ。なぜならサルトにあのモンスターは危険だからだ。今のサルトではとてもじゃないが厳しい相手だ。しかしモンスターは今黒い渦の中に吸い込まれた。今はサルトは無事に違いない。そう智也は考えている。ひたすらに続く長い道。あきらめそうになるが智也はサルトのもとへポーションを持っていかなければならない。危険はあるが届けることができればサルトのヒットポイントは回復する。しかし油断は禁物だ。モンスターが出てくれば智也が今のステータスだととても相手にできるものではない。もし見つかって少しでも近づけば一撃で命を失う危険性がある。距離感は保ちたいことろだ。
「もう少しだ。もう少しだ。そろそろ…」
サルトのもとへバイク音が大きくなってくる。智也が近づいてきた証拠だ。黒い渦を見守っているサルトもバイク音を聞いて何があったのか心配になってきた。
「ブウウウンッ」
サルトの目の前にとまったバイク。それから降りてくる智也。幸いなことに智也が到着したとき、まだ、モンスターは黒い渦の中から出てきていなかった。
「大丈夫ですかサルトさん。回復のポーションを持ってきました」
「おお、助かる」
サルトは智也からポーションを受け取り、開けて辛口の中に液体をほおりこんだ。
「まだあのモンスターは出てこいていないようだ。それにしてもこの黒い渦は何なのだ。まさか智也がやったのか?」
「俺にもわかりません。気づいた時にはこうなっていましたから」
「この黒い渦がどんなものか分かればいいのだがな。それにいつ出てくるかわからないからこのままではいけないな。お前戻ってから調査隊を呼んできてくれないか?」
「いいんですか。俺がそばにいなくても。サルトさん一人に任せておくのは悪いですよ」
そういうと自信満々な様子でこう答えた。
「大丈夫だ。もしモンスターが出てきても何とか食い止める」
「そういえば救援をファシーが呼んできてくれたおかげで数人の超級冒険者が加勢してきてくれるらしいですよ」
「ほんとか、助かるがおそらくこのモンスターはステータス2100を下らないであろう間違いなく強力なモンスターだ。悪いが超級冒険者程度じゃかえって危険になる」
「俺もそう思いましたが遠くから援護であれば十分助けになるはずです」
「それもそうだな。わかった。ありがとう。じゃあ調査隊をここに呼んでくれよ」
「わかりました」
こうして智也は残り少ないバイクの燃料とともに山を下りに行った。燃料が少なく、智也は気がかりだったが背に腹は代えられないと思い、ひたすらに山を下って行った。少しするとウォーラーたちに出会った。
「おう。智也はサルトにポーション渡せたのか?それにモンスターはどうなった?倒したのか?」
「実をいうと倒してはいないんだ。なんか黒い渦に吸い込まれて。モンスターが」
「頼むファシー調査隊を呼んできてほしい。黒い渦が何なのか解析するためだ。頼めるか?」
ファシーはちょっと首をかしげたが、智也の頼みを受け入れた。
「わかった。私が調査隊を呼んでくる。なるべく急ぐから待っていてくれ」
ファシーは早速山を猛スピードで下った。
「それでどうなったんだ」
「まだ黒い渦の中にいる」
「じゃあ危険はないんだな。今のところは」
智也はうなずくと加勢に来てくれる冒険者の話を切り出した。
「それで冒険者はいつ来てくれるんだ?」
「飛竜で飛んできてくれるんだってよ。あと数分ってところだろいう」
「ヒーラーが欲しいな。サルトさんは回復ポーションを飲んだんだが全回復していないからな」
「全回復するにはポーションじゃダメみたいなんだ。仮に全回復するにはポーションが100本以上必要医になってくるらしいからな」
「どういうことですか?」
オリビアが興味津々に聞いてきた。
「あのモンスターの呪いみたいなものがサルトさんにかかっているようで、普通のポーションじゃ全回復できないんだ。ある程度しか回復できなかった。この呪いはおそらく回復妨害がかかっていると思われる。
「やっかいだな」
「回復妨害は是大敵に妨害するんじゃなくて少しは回復するんだけど、上級か超級回復魔法しか効かないと思われる」
「じゃあ超級冒険者のヒーラーが必要だな。あと数分で到着するはずだが」
すると智也の後方から数匹の飛竜が到着した。それぞれ飛竜はオリビアや智也を驚かせた。飛竜の上には数人の冒険者が乗っていた。青い髪の冒険者やサルトのような強いオーラを放つ者もいた。
「この中でヒールが使える方はどなたですか?」
オリビアが聞くと二人の冒険者が手を挙げた。青い髪の女性と赤い瞳の青年だった。オリビアは目を輝かせていて二人をじっと見つめた。
「お二人のランクは?」
「ステータス1930の超級冒険者のエリです。得意な魔法はヒールです。しかし攻撃魔法は使えません」
青い髪の女性は少し恥ずかしそうにこう言った。もう一人の青年はちょっと時間を空けてこう言った。
「超級冒険者のルバです。回復魔法、補助魔法が得意です。攻撃魔法は少し使えますが、期待に副えるかどうか」
オリビアは目を輝かせながらそれらを見た。するとほかの冒険者も自己紹介することになった。
「ステータス2020の火属性の冒険者、サトだ。ファイアの上位魔法フレイムが使える。よろしく」
彼は赤色の髪と黄色の瞳をしていて火属性に思い起こさせるような容姿をしていた。
「私は超級冒険者トールといいます。得意魔法は攻撃魔法です。一応遠距離魔法を使えます。よろしくお願いします」
「そろったねー。でも今回の相手のステータスは2100らしいからちょっと君たちじゃ厳しい。今回君たちに達成してほしい依頼はそのモンスターを無力化すること。お願いできますか?」
「わかりました!」
いまから飛竜に乗ってサルトさんのところに行くぞ」
智也はサルトの安否を心配している。もし、モンスターがあの黒い渦から出てしまうと、サルトが危険になる。どうかそれまでに俺たちが間に合ってくれと願う智也だった。もちろん数匹の飛竜に乗せられた数人の冒険者もサルトがぶじなのかきになっているようだった。
智也ら飛竜一行がサルトのいる場所に向かっている途中、なにやら大きな音が山中に鳴り響いた。いったい何が起こっているのだろうか。智也はもしやと思い、サルトのほうへ全速力で向かい始めた。時間がたつにつれ次第に山に響く音は大きくなり、やがて音は消えた。その直後、サルトがいる付近で何かが起こっている様子が空から観察された。智也一行は必死にサルトがいる場所についたとき、サルトはダメージを受けたのか、うつむきになって寝ていた。
「大丈夫ですか、サルトさん?」
「おお、智也。今来たのか。見たまんまモンスターが黒い渦の中から出た。その時俺は見張っていたのだが、とつぜん大きな音が鳴って、どんどん大きくなり黒い渦からモンスターが出てきてしまったんだ。俺はその時警戒していたのだが、俺は少しの間戦った。だが、モンスターのほうが一枚上手だった。俺はこのざまさ。国で7位の実力だから大丈夫だと思っていたんだ。だがそれがこのざまさ。情けないだろう…」
サルトは自虐的に語った。しかしそれを智也は許さなかった。
「サルトさんはなにも悪くありません。一人で何でもできると思わないでください。みんなを頼ってください。俺達には仲間がいます。一人で背負わずに仲間と一緒に戦いましょう」
智也はサルトのすごさが分かっているようだった。でも完璧な人間はいない。時には仲間に頼るべきとなんとなくわかっていた。むしろ旅をする中で仲間の大切さをわかっていたのだ。だからこそサルトに仲間の大切さを説いた。自分自身もなんとなくわかっていたのかもしれないが。智也は4人の仲間とサルトとともにモンスターに向き合った。
「行くぞ!」
山に大きな叫び声が鳴る。黒い渦はまだ残っているがモンスターは中から出てきてしまった。それだけ強力なモンスターということなのかもしれない。このモンスターは上位1パーセントに入るほど強力だ。これまではサルトだけがこのモンスターに相対していたが、今は4人の超級冒険者がいる。なかには超級回復魔法を使えるものや、高度な補助魔法を使えるものがいる。前とは戦い方が大きく異なる。しかしステータス2100以上の強力なモンスターにステータス2000前後の冒険者が挑むのは無謀といえるかもしれない。100の差は大きい。そのモンスターのステータスが仮に2150だとすると150もの差がある。それでは数回攻撃を食らえば戦闘不能状態になることも容易だ。サルトのステータスは2070あるのでそう簡単には倒れないだろうが。したがってサルト、ステータス2060の冒険者除く超級冒険者は遠距離からの攻撃か、補助や回復に回るのが最も適当にちがいない。サルトはステータス以上に強い。なぜなら必殺技、バーンスラッシュがあるからだ。炎の剣の化身を数回は発射する技で、結構な攻撃力がある。だが、このモンスターには効かないようだ。ではどうやってあのモンスターを倒すのだろうか。皆はそれについて移動中考えていた。そして一つの答えにたどり着いた。ステータスが2060の超級冒険者のルバは、補助魔法を使ってサルトを援護したり、攻撃魔法をぶつけたりサルトに回復魔法をかける。攻撃魔法を使えるサトは遠距離から攻撃魔法フレイムを使い決して近づかないようにする。それ以外のトールもサトと同様遠距離魔法を使い、ヒールが得意なエリは仲間のヒールに徹する。このように分担してあのモンスターを撃退する。サルトは補助魔法と回復魔法の恩恵で前よりも有利に戦えるだろう。智也は遠くで見守る。長距離魔法で少しはダメージになるだろう。しかしあのモンスターはステータス2100を超える規格外のモンスターだ。だからこそ今回の目的はモンスターを無力化すること。倒すことではない。無力化できればいいのだ。とはいっても倒すこと以外に無力化できることはあるのだろうか。




