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ボイスリアクト  作者: 夕村奥
第三章
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絶望

智也たちは大丈夫なんだろうか。フェリル山は智也たちが向かっているだろう未開拓領域が蔓延るところだ。もし彼らに何か危険が及ぶのならば間違いなくそこであろう。そこには強力なモンスターや危険な罠などが張り巡らされているに違いない。私は智也の助けになりたいと思っているのだが、肝心の智也は助けられることを望んでいない。きっと彼は周りを不幸にしたくないと考えているのだろう。でも私だって何かできるかもしれないし、いつかは二人で旅をしたいと思っている。きっとヘンリーさんだって一人で何かを背負うべきではないと思うだろうし、独りではないにしても彼は一人で何かを背負う人だ。これからもそうなのだろうが、だからこそ私は彼の助けになりたい。そしていつか、と思っている。一人で背負うことは自分の重荷になるし、なにより危険にさらす。だから私はこのままではいけないと思っている。助けに行きたいことはわかっているつもりだ。でも智也には自分を大切にしてほしい。こんな私でも何かの役は立つはずだ。それにしてもサルトさんの身に何が起きたのだろう。やっぱり私は智也と一緒に向かうべきだったのだろうか。オリビアさんやオリバーさんはここに残っている。私もここに残った方がいいのは分かってる。でも智也の側にいたい気持ちもある。このままでは智也の身に何かが起こるのではないかと疑っているのだが、智也はもしサルトさんでも太刀打ちできないモンスターに遭遇した時、うまく対処できるのだろうか。私は彼は一目散に助けに行き、仲間を守ると思う。これまでの彼の振る舞いがそう感じさせる。サルトさんの身になにもなければいいけど。


「彩子さん。大丈夫ですか。何か考え事をしているんですか?」

「いいえ、なんでもないです」

「本当ですか?」

オリビアは彩子の違和感を感じ取っているようだ。サルトや智也と離れて時間がたち彼女にも苛立ちを感じ始めてるようだ。しかし、彩子は感じ取られないように答えた。

「サルトさんの身に何かあれば、智也さんたちが帰ってくるはずです。それまで待ちましょう。でも私も彼の言動に少し違和感を感じました。彼は自分のことを考えていないような気がしました。でも大丈夫なはずです。彼にはボイスリアクトがあるのですから、もし危険が及んだとしても対処できるはずです。私も心配ですが、気長に待ちましょう。私も危険が及んでいることは薄々感じているのです。でも私たちは信じることしかできません。もし彼らの身に何があっても私たちは待つことしかできません。それにサルトさんに言われたじゃないですか、待機してくれって。私は皆の安全を信じています。不安ですが。私も行ってほしくないって考えたことはあります。何度だって彼らの身の安全を心配しました。でも大丈夫です。信じましょう」

オリビアは不安で頭の整理がついていない。彼女の心を惑わせている。

「私も智也たちやサルトさんの実力を知っています。でもここには強いモンスターがうじゃうじゃいるんじゃないですか?サルトさんに匹敵するモンスターも。私だって信じたいですが、智也にもし何かあれば」

彩子は智也の無事を祈っている。なぜなら彩子にとって彼はかけがえのない人だからだ。

「でも待つしかないですよ。私たちが向かえばサルトさんだって心配するはずです」

「それは智也たちも一緒ですよ。サルトさんは一人で向かうと言ってました。でも智也達は待機することを拒んだ。私は智也の力になりたいんです」

「わかりました。じゃあ向かいましょう」

「オリビアさん。いきなりどうしたんですか」

「智也さんの力になりたいんですよね。私だって仲間を助けに行かなければならないことはわかっているんです。このままじゃいけないことだって。でもモンスターと戦うのは最終手段です。できるだけ逃げながら、智也さんたちを連れてこのフェリル山から出るんです。このフェリル山は危険な場所だからすぐ抜けるに尽きるんですよ」

「ありがとうございますオリビアさん。私は彼の助けになりたいんです」

彩子は精一杯喜んだ。智也の力になれることを精一杯喜んだ。

「私はオリビアとみんなの共にいます」

オリバーが真剣そうにこう言った。

「ありがとうございます。オリバーさん」

「なあに私だってみんなを置き去りにするのは後ろめたい気持ちもありましたので。私オリバーはきっとみんなの剣となりましょう」

「じゃあ智也さんの所に向かいますよ」

「わかりました。向かいましょう」


「ここは危険だ。彼らを連れて逃げろ!」

サルトは鬼の形相で叫ぶ。

「嫌です。もう俺は。ここまで何のためにやってきたんだ俺は」

「だからこのままじゃ...」

「わかりました」

「ウォーラーさん!何を言っているんですか!?」

「俺たちが彼らを助けないとサルトがここから逃げられない。事態は深刻なんだ。あの人数を全員避難させるには無理だが。俺たちがあの人たちを避難させて仲間を呼んでこなければならないんだ」

「ありがとう。恩に着る」

「でも避難させている間サルトさんはどうするんですか。それまで持ちこたえる気なんですか!?」

智也はサルトを見捨てられないと考え、今すぐ助けたいと考えているようだ。

「はい。それが一番適切な判断だと」

「見損ないましたよウォーラーさん。俺はここであのモンスターと一緒に戦う。今度こそ見捨てたりはしない」

「何を言っているんだ智也。サルトさんなら大丈夫だ。それよりもサルトさんのことを考えろ。このまま戦ってもじり貧なんだ。彼らを避難させて助けを呼んで行くのが先決だ。俺だって仲間を見捨てたくない。でもこれが一番なんだ」

「俺はここに残ります」

「お前がここにいても邪魔なだけだ。サルトさんに迷惑をかける」

「でも俺はここに残ると決めました。誰一人として見捨てたりはしない。それが俺の使命だからだ」

「わかった。でも危なくなったら逃げろよ。それが約束だ。俺は彼らを連れて助けを呼んでくる」

ウォーラーはそういって向こうにいる怪我人を向かいに行った。

「僕は何をすればいいんですか?」

アルフィーは智也に聞いた。

「お前は逃げろ。ここにいちゃ危ない。あのサルトさんでも苦戦している相手なんだぞ。それと、怪我人をおぶってやってくれ。これが俺のたった一つの願いだ」

「わかりました」

アルフィーは怪我人の方に向かっていった。

「ヒールを使えるやつはいないか?」

「いいや俺は使えない」

「俺も」

「僕も」

「ヒールを使えればフェリル山でも無事に叩けるのだが。やっぱ無理か」

「この人数をおぶっていくのは無理だな。先に助けを呼んでいったほうがいいんじゃないか?」

「じゃあ私が助けを呼んでくる」

「ファシー。お前なら助けを早く呼んでこれるな」

「じゃあ行ってくる!」

「俺たちだけじゃこの人数を避難させることは無理だ。どうすればいいんだ。このときにもサルトさんの限界が近づいているというのに」

ウォーラーは絶望した。フェリル山にはモンスターがところどころにいて、かつセイフティーポイントがどこにあるのかもわからない。避難させようにもどこにすればいいのか。ファシーが仲間を呼んできているのだが、あの剣豪サルト、ステータスが2070もある超級冒険者が苦戦している相手に通用する冒険者がいるのか。危険がどんどん迫っている状況に息をのんだ。

「どうすればいいんだろうか。やっぱフェリル山を下りて行った方がよさそうだな」

「ここは危険だからまずとりあえずここよりも安全な場所、すなわち未開拓領域を出た場所がよさそうだな」

「あのモンスターはスピードが速すぎる。サルトさんがもし気を抜けば俺たちは全滅だろう。気を引いているうちにファシーが仲間を呼んでくれればいいが」

「なあ智也。お前は本当にここに残るのか?」

「もちろんだ」

智也は頑固一徹にウォーラーからの申し出を断る。

「わかった」

ウォーラーは何も言わずまず数人の冒険者を未開拓領域から出そうと試みた。

「じゃあ行くぞ」

「はい」

「うん」

ウォーラーやアルフィーたちはサルトと智也、その他の怪我人のいる場所から出ていった。



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