責任
パーティーの皆は木陰を警戒した。ここにはありとあらゆるモンスターが生息する。サルトは先を進もうと皆を励ます。
「頂上にはどんな絶景が待ち受けているんですかね。俺も久しぶりに山のてっぺんに登るんですよ」
「僕も登りたい」
アルフィーは胸を張りサルトに言った。
「いいな。フェリル山の頂上からはすごい景色が見れるだろうぜ」
「本当に行ってくれるの?山の頂上までモンスターがうようよいるんでしょ。無事にたどり着けるの?」
「おう。俺に任せろ」
意気揚々とサルトは返事をした。
「そこには何があるのかな。遠くの町は見えるのかな」
「おう。広々としたウェーゼの町が良く見えるだろうぜ。感動的に映る絵を俺に書いてほしい」
一瞬アルフィーは戸惑った。サルトが本当に自分の絵を評価してくれているとは思っていなかったからだ。
「なんだ。俺、なにか顔に米粒でもついてるのか?」
顔をまじまじと覗いていたアルフィーだったが、サルトは不思議そうに聞いた。
「なにもないよ。ただサルトさんの顔がかっこいいなと思っていただけ」
アルフィーは顔を赤らめながらそう言った。
「なんだと。俺はいつもの俺だが」
若干恥じらいの念がアルフィーに届いた。サルトは強がってはいるがアルフィーにはすでにばれている。
「違うよ。今日のサルトさんはいつもより生き生きとしているんだよ。顔がなんかさっぱりしてる」
「なんだ。俺をからかってるのか。俺にはそういうの通じないぜ」
サルトは冷静を取り戻しアルフィーをじっと見つめた。
「なに?」
アルフィーは不可思議なものを見る目で尋ねた。
「後で伝えようと思っていたのだが今言う。山頂でこれまででも最高の絵を描いてくれ。俺はお前の絵が欲しいんだ」
これまでにない真剣さが伝わったアルフィーは当然受け入れた。
「いいよ。僕も何枚か描こうと思っていたし」
「っしゃい。ありがとなアルフィー」
「いいよ全然。僕もみんなの助けになりたいんだ。僕にはこんな絵を描くような才能しかないんだ」
「そこまで自分を卑下するな。俺はお前の絵がいつか日の目を浴びて世界に羽ばたくのを信じている。それが俺の願いなんだ」
「えへへ。そういうのは僕得意じゃないんだ。サルトさんが僕の絵を好きなことはわかったよ」
アルフィーは小さな笑みを浮かべた。
二人が話している内に魔獣が近くまで接近していたようだ。サルトの足元まで迫っていたのだ。
「ザザザッ」
サルトの側の木々の丈の高い草から全長3メートルほどのモンスターが突如現れサルトに向け突進した。
「ドンッ」
サルトの大剣が間一髪で受け止めた。
「大丈夫?」
アルフィーは心配している。
「平気さ。これくらいなんとでもなるさ」
黒いモンスターの正体は黒いワーム、ここではブラックワームという種族の魔物だった。草木に隠れるとまず気づかないほど隠密行動に優れたモンスターで、噛まれると時に毒を受けることがある。
「そらっ!」
サルトはブラックワームを一撃でなぎ倒そうとしたが、ブラックワームは隙を見てサルトの剣に絡みついた。
「おっやるなこいつ。俺の見せた一瞬のスキを察知しやがった」
サルトは興奮した。久しぶりの戦闘に心を高ぶらせているのだ。
「どりゃあ!」
サルトは自慢のサルトアイに炎を纏わせた。
「ギュピィッ」
ブラックワームは即座にまとわりついた身を離脱した。それから数秒足らずの間に草むらに身を潜めた。
「ふう。久々に楽しんだぜ」
「サルトさんって剣に炎を纏わせることができるんですか?」
サルトの魔術に驚いたオリバー。オリバーにはそのような芸当はできない。
「俺は炎をサルトアイに纏わせることくらいできますよ。なにも必殺技の時だけしか使えないわけじゃないんですから」
「そうですか。私にも使えたらと思っているのですが」
「これはバーンスラッシュが使えないと難しいですね。その技が前提になっているんですぜ」
「そうなんですね。やはりサルトさんには恐れ入ります。私も修練で体を鍛えているんですが、一向にサルトさんに追いつくことはないでしょう」
「謙遜はいいんですぜオリバーさん。あなたは十分にお強い方です。俺と比べる必要はないですよ」
「このようなお言葉をサルトさんからいただけるなんて光栄です。これからも精進していきますので、稽古の時はよろしくお願いします」
「わかりました。俺でいいんでしたらいつでもいいですぜ」
「先に進みますよオリバー。サルトさんもついてきてくださいね」
ブラックワームの出現から数分が経ち、モンスターが集まる前に場を去る必要があったためオリビアが声を掛けた。
「わかりました。すぐに進みましょう」
そう言ってオリバーは素早くパーティーの先頭まで小走りした。パーティーはしばらく道なりに進んでいった。
「人間の心ってどうなんだろうな。モンスターだってかわいいヤツもいるんだけどな」
「急にどうしたのサルトさん!?」
「さあな。智也達と旅を進めていく中で何か俺の中で変わったらしい。モンスターを絶対に敵だと決めつけるのってどうなんだろうな」
「僕はモンスターは怖い。だから敵認定しないと落ち着かない」
「この話は忘れてくれ。さあ、前に進もうぜ」
「なんではぐらかすのさ」
「智也達は先に進んでいってるぜ。俺たちも行かなくちゃな」
「待ってよ」
サルトとアルフィーは先に進む皆を追いかけていった。しばらく歩くと大きな音がやまびこのように智也達に響く。
「ドンッドンッ」
その音は木々に何かとてつもなく大きなものが激突しているような、そんな音だった。山道をひたすら進み、数キロほど先にある地点での出来事のようだ。
「この道をひたすら進んでしばらくしたところで巨大なモンスターが荒らしているようです。行ってみましょうか」
「誰か襲われているんでしょうか?」
「わからないですね。皆さま心当たりはありますか?」
「未だに分かれ道に一度もたどり着いてないので、ファイアドラゴンではないのは間違いないですね。他に思い当たる節なにかありますか?」
「ドンッガンッ」
「ドガガガガガガガガ」
音は次第に激しさを増していく。直線距離では数キロもないが、決して音が届くような距離ではない。
「随分遠くからだろうが、これやばすぎないか?」
ウォーラー額に冷や汗が垂れる。
「俺が行ってきましょうか。もしモンスターだとしたら、ステータスは俺よりも高い可能性が高いです。俺一人の方が安全でしょう」
「数キロ先だとしたら、途中で分かれ道を通るでしょう。するともしかすると未開拓領域からの可能性があります」
サルトはここぞとばかり活躍を望む。彼の選択はこれからのパーティーの運命にどう影響を与えるのか。
「サルトさん待ってよ。未開拓領域だとしたらサルトさんでも危ないよ。それにオリバーさんとウォーラーさんだけでこのパーティーを守り切れるの?」
アルフィーはフェリル山の雰囲気に取り込まれているようだ。この山は荒野エージェイルほどではないが、危険なモンスターがうようよいる場所として有名で、未開拓領域が比較的多い傾向にある。荒野や平原には未開拓領域はほとんどなく、山林や渓谷、海洋などには多くの未開拓領域がある。ウォーラーがその質問に答えた。
「ここはまだ俺たちの脅威となる魔獣の生息域ではない。でも油断すると命取りとなるかもしれない」
「毒や麻痺持ちの魔獣もいるという噂だし」
「ここはサルトさんが様子を見に行くのが賢明でしょう。ここは私オリバーが守り抜いて見せます。心配はいりませんよ、王国騎士3名と私がいるんですから」
オリバーは彼の不安を拭うと彼を送り出した。
「ではすぐ戻ります」
そう言ってサルトは猛スピードで最短距離でその場まで駆けて行った。
「私たちはどうしましょうか。まあひとまず彼が戻るのを待ちましょう」
オリバーは皆を休ませた。
「これからどうしましょう。周囲のモンスターを警戒する事しかできませんね」
周囲を囲むのは一様に生える山林や魔獣の潜む草木。木陰にはシャドーウルフが隠れていることが知られている。智也らのいる地点の標高はステータスが1000を少し下回る程度のモンスターの生息する。ステータス1000オーバーの王国騎士が3名と1800を超えるオリバーがいるため、リスクとしては低いのではないかとオリビアとオリバーやウォーラーは推測している。状態異常持ちを見越してもおそらく無事であろうということだ。この辺で想定外に強力なモンスターが出現するような区域(未開拓領域)はここから1~2キロほど離れていて万が一にも踏み込むようなことはない。
「警戒する事しかできないですよね。私とオリバーで特に木陰の方を張っておきますので皆さまは遠くの草陰の方をお願いします。もしものことがあれば、ウォーラーもしくはオリバーの方に頼ってください。オリバーはモンスターの所持する技や状態異常を熟知しております。ぜひ我々を頼ってください。サルトさんがいなくても大丈夫だということをわからせてあげようじゃないですか!」
オリビアの負けず嫌いな一面を感じられた皆はどことなく励まされたような気がした。
「さすがオリビアだな。これからもお願いな」
ウォーラーが顔をそむくような姿勢でそう言った。
「わかっていますよ。私はいつでも皆さまを引っ張っていきますよ」
彼女自身、とても期待されていると思っていたが、皆のだれた返事にそこまでの期待をされていないことに気づいたようだ。
「なんですかオリバーじゃ物足りないのはわかりますが、これでも立派な超級冒険者ですよ。それに長い冒険者生活で培った豊富な知識を備えているんですよ」
「お嬢様、お恥ずかしい限りです。このような話はおやめください」
「いいじゃないですか。私だってオリバーのためになりたいんですから」
サルトが離れて数分が経ち、皆はまだかと彼の帰りを待っているが帰ってくる様子はない。相変わらずあたりは閑散と物寂しい。この辺の地図は完璧に把握できてないのでいまいち信用できない。
「サルトさんが帰ってきませんよ。あの人は百メートルを2秒で走れるんでしたよね」
「ああ、サルトは百メートルを2秒で走れるんだ。だったら今頃帰ってきててもおかしくないのだが」
「竜人族は身体能力が高いと聞いたのですが」
智也が思いついたようにウォーラーに尋ねた。
「おお竜人族について興味があるのか。あの種族はこの世界で最も身体能力の高い人族で、普通の人でも百メートルを8秒で走ることができるそうだ」
「8秒ですか!?」
智也は予想外の事実に仰天した。
「冒険者だけの話だけどな。竜人族の冒険者は基本的に我々と比べて平均ステータスが高いんだ。確か800を超えていたような気がするな」
「800を超えていたらそれほどの速度で移動できるということですか?」
「超級冒険者では3秒くらいかな。最も早い人では1秒を切るらしいが」
「あなたは何秒ですか?」
「いきなり粋なことを聞くなお前。俺は10秒くらいだぜ。おなかの脂肪がじゃまして昔よりも数段と落ちてしまった。だがステータスや知識は上がったぞ」
「昔からどれくらい上がったんですか?」
「20代の頃はまあ900いかないくらいだったが、今となっては1200を超えてしまった。まあ俺も一応冒険者ということで」
「俺はまだ全然かないません」
「なあに心配しなくていいぜ。俺だって昔は弱かったんだ」
「私はサルトよりもっとはやく走れるぞ」
ファシーは目を輝かせながら二人の間に入ってきた。
「本当なのか?俺はさすがにサルトには勝てないと思ってるんだが」
「故郷を一周で30秒だぞ」
「ちなみに一周がどれくらいなのか?」
「わからない」
「わからんのかい!」
ウォーラーは派手に突っ込んだ。それをみた智也は笑みを見せた。
「俺は実はそこまで早く走れないんですよ。一般男性の平均くらいです」
「これからお前は強くなっていくんだ。情けないところを見せるんじゃない。ステータスだけで物事は決まらないんだ。なにが俊敏性だ、バカにしやがって」
「私がすばしっこいのを侮辱するのか?私だって役に立つぞ」
「なんでお前はそういう受け止め方をするんだ」
ウォーラーはしばらく怒りを見せていないが、久々に彼女の前で怒りを放出した。
「だって私を無視してるんだもん。少しくらいはかまってよ」
ファシーの返答を疑問に思ったウォーラーは少し脱力しファシーの方を向いた。
「いちいちお前にかまっている暇はないんだ。特にこの辺はモンスターがうようよいるんだ。いいかげんわかってくれよ」
答えを聞いたファシーは激怒する。
「この辺ってどのへんなの?」
「この辺はこの辺だ。モンスターの出てくる場所は予め設定されてるんだ。知らなかったのか」
「ウォーラーは永遠と窮地をさまよってるのか?」
ウォーラーは張りつめていた想い糸が爆発した。
「冒険者とは冒険者ギルドで登録された人のことをいい、ステータスという基準が用いられる。下級、中級、上級と定められていて俺はちなみに上級に位置する。冒険者はパーティーを組むこともあるが、ソロで探検することも珍しくない。冒険者はパーティーを組む時はお互いに意志を尊重してなければならない。一人の冒険者として行動しているから、他人の邪魔をすることは好ましくない。パーティーの輪を乱されるようなことはしてほしくないんだ。俺とお前ファシーだけでパーティーが成り立っているわけではないんだ。それくらいわかっててくれ」
「答えになってないじゃないか。みんながそう言ったのか?」
「これは俺の勝手な思い込みだが、役に立つこともある。冒険者はこのように定義されているんだ」
「定義ってどういう意味があるのか?俺はいまピンときていないんだぜ」
「それはだな。そのように決まっているということだ。これ以上に深い意味はない」
「なにさ。俺をバカにしてるんだろ。結局。私は許さないぞ!」
「これから冒険者人生を送っていくうちにわかる」
「答えになってないぞ」
「わかる。わかるようになっている。兄弟よ」
「いきなり距離を縮めようたって無駄だぞ。私は今お前が怒ってるってことわかってるんだ!」
ファシーは自慢げにそう言った。
「それはお前が怒っていることだって俺も知っているぞ」
「そうなのか?本当にそうなのか?」
「当たり前だろ。兄弟のことなんだから」
「いきなり丸め込もうとして。いい加減にしろ!」
「ごめんな。俺だって悪気があるわけじゃないんだ」
いつものように智也が置いていかれている状況にため息をした。
「はあぁ」
「おお智也どうしたのか。俺たちの喧嘩の事なら気にしないでくれ。俺たちだけのことだから」
魔獣を警戒しているがこのところ出てくるような雰囲気はない。ところがサルトが帰ってくるような感じもなくパーティー全体に不安が広がっていく。サルトの偵察から20分が経過した。そろそろ皆としては帰ってきてほしいところだ。彼自身無事で帰ってくるのか懸念もありふれるほどある。
「そろそろ帰ってきてもおかしくないのだが」
「そうね。でも全然帰ってくる気配がないわ。探しに行った方がいいのかしら」
彼のような強い冒険者の脅威は見つからないはず。ただ彼をしのぐ脅威だったら…と彩子にも思い当たることがある。
「あの人なら大丈夫だ。彼ならきっとどんな相手だったとしても」
「どうなのかな。ここには危ない場所があるんでしょ?」
「おう。2つ目の分かれ道。ドリル山の方もフェリル山の方もサルトさんでも手が付けられないモンスターが生息するエリアがある。だったら今頃ここまで戻ってきてるはずだよな」
「そうね。彼なら戻ってきててもおかしくないね。なにかあったのかな」
「俺にはわからん。サルトさんが無事に帰ってくるのを待つだけだ」
「誰かに聞いた方がいいのかな。私サルトさんに何かがあったと思う」
「そうなのか?俺は大丈夫だと思うが。何度もそこに行ったことがあるみたいだし」
「オリビアさんちょっと聞きたいことがあるのですが」
道の側で彼の帰りを待つオリビアは智也と彩子の方へ駆け寄った。彼の離脱から爆音はかなり止んだがしばらくはなり続いている。もしかするとサルトが戦っているかもしれないと思う彩子。サルトは敵わない敵とよほどのことがない限り戦おうとしない。彼はいつも冷静沈着で無難な争いは避ける傾向にある。智也やウォーラー、オリビアやアルフィーなどは彼は無事に帰ると思っている。彼ならリスクを避け、いつでも冷静に行動することを知っているからである。
「未開拓領域でしたっけ、恐ろしいモンスターが出現するところって。私、ちょっと探しに行ってもいいですか?」
「サルトさんをですか!?」
オリビアは突拍子もない質問に腰を抜かした。
「私気になるんです」
「確かにこれまで帰ってきてないのはおかしいですね。でもおひとりで行くのは危険ですよ」
「未開拓領域に出現する魔物が危険で、そこに踏み込まなければいいんですよね」
「この辺にはそのような解明されていないスポットはいくつかあるらしいんです。危なくない場所はチェックマークがついているはずですが」
「では確認していけば」
「しかしそのマークが必ずしも本当なのかわからないのです。チェックマークは盗賊や賢い魔物でもつけれたりしますので」
「この辺に盗賊が出るんですか?」
「盗賊は基本的にどこにでも出現します。特に森林など見晴らしの悪いよく解明されていないところなんかを通っていたらよく出没します。賢い魔物とかはフェリル山では少ないですが、何度か遭遇した報告がギルドに届いているみたいです。巨大なモンスターにも賢いのもいるみたいです」
「未開拓領域にいるモンスターが賢いというのも?」
「ありえますね。単にステータスが高いモンスターであればよほどに俊敏性に差がなければ逃げられるのですが、立ち回りで逃げられないことだってありますからね。賢いと見つかりやすかったりしますから」
「であればサルトさんでも危ないじゃないですか」
「そうですね。でも我々が出来ることは待つしかないですね」
オリビアは残念そうに彩子に伝える。
「王国騎士のショーンさんについてきてもらいます」
「本当に森の奥なんかは危険ですよ。ものすごいモンスターがきっと生息していますよ」
「森に入らないくらいでやめますから」
智也は彩子に唐突に言う。
「彩子が自分から言うなんてよほどのことがあるんだな。でもやめたほうがいい。俺が行ってくる」
「あなたが行くのはもっと危険よ。私だったらこの辺のモンスターならステータスでも十分に対処できると思うわ」
「俺が行く。王国騎士のショーンさんはついてきてくれますか?」
二人の会話はショーンの元まで届いていた。
「智也さんっていいましたか。いいですよ、僕でよければ」
オリビアはショーンの顔に近づき、ジーとにらんだ。
「智也さんはまだ旅の初心者ですよ。まだまだ知らないことだってたくさんあるんですよ。いくんだったら私とオリバーが行ってきます。ウォーラーさん方が3名いるんですからなんとでもなりましょう。いいえ、きっとどうにでもなります!」
オリビアはいつもながらきっぱりとした感じで振る舞い皆は励まされた。
「俺は危険だというのはわかってます。でもここは俺が行くべきだと思っていますから」
「智也はいつも無理して迷惑をかけるの」
彩子からの本音に智也は激怒した。
「彩子から言い出したことだろ。俺はサルトさんが帰ってくると思ってるけど、お前を...」
「なんなのあなた?」
智也は彩子の急な質問に絶句した。
「あの、あのな、俺とショーンさんで行くということだ」
智也は相変わらずのようだ。オリビアは少し面白がっている。3人で談笑しているとアルフィーが智也に話しかけた。
「どんな話してるの。僕も混ぜて」
「俺が今からショーンさんとサルトさんを探しに行くんだ」
「へえ。僕も行きたいな」
「おう。この辺のモンスターは俺でも対処するのは難しいんだ。アルフィー、お前を守り切れるかわからない。お前はどうしたい?」
智也はアルフィーから頼られてうれしい反面、ちょっと残念な気持ちらしい。
「強いモンスターがたくさん出るんでしょ。僕はこの辺のブラックウルフとかスパイダーとかまだ難しいよ」
「ステータスが俺たちよりも大きく勝る魔獣や盗賊にだって襲われるのかもしれない。正直俺たちが行くべきではないんだ」
唐突に彩子が割り込んだ。
「あら、あなた全然頼りにならなさそうね」
「うるせえ。俺は頼りになる男なんだ」
「これ、僕が持ってるアイテム」
アルフィーは自身のカバンから数々のアイテムを取り出した。薬草やポーションなど、数種類のアイテムを複数彼は持っていた。
「これ、ポーションじゃないか。オリバーからもらおうと思っていたところなんだが...」
「うん。僕はいつもこのアイテムを持っているんだ。いざというときのために」
「ストイックだな。俺はここまで準備をすることはできない」
「ほんと?」
「でもアルフィーはちょっと危険な気がするんだが」
智也はこの辺のことをよく知らない。ショーンはその辺のことは詳しいようだ。
「この辺だと、毒持ちは多いですが、麻痺持ちは比べて少ない印象ですね。魔獣のステータスは総じて700前後でしょうか。ただ、危険区域になりますと1500ほどの魔獣もちらほらいる気がしますね。しかし私は未開拓領域のことはよく知りません」
「ステータス700では俺と大差ないですが、アルフィーはどうなのでしょう?」
「あなたはどれくらいでしょうか」
「570です」
「それくらいになりますと、数回の技、一発の大技では平気でしょうが、受けすぎてしまうと瀕死状態になってしまうので注意が必要です」
「結構詳しいですね」
「人並みです。ウォーラーの方が詳しいですよ」
「僕は400くらいだよ」
「ステータス300では大技を複数回受けないように気を付けてください。状態異常もそのステータスだと少し気になりますね。ポーションはいつでも使える状態にしておいてください」
「ちなみに猛毒持ちは、遭遇する事ってありますかね?」
「可能性の事でしょうか。可能性はあるとしかいえません。ですがかなりの低確率でしょう。アルフィーさんは猛毒の対象ポーションはお持ちでしょうか。お持ちになられないのでしたら、少ないですが私のポーションをお貸しします」
「持ってます。猛毒持ち」
「本当ですか?」
「麻痺毒持ちやすごいポーションも持ってますよ」
「では、大技を受けないようサポートいたします」
「アルフィー、本当についてくるのか?」
「うん。僕は智也さんの助けになりたいんだ」
「わかりました。では私が前、智也さんが後ろでアルフィーさんが中間で横から魔物を警戒してください。賢い魔物もいますから、十分に警戒してください」
「待ってくれ。俺も行かせてくれ」
3人の前にウォーラーが立っていた。
「お前たちだけではちょっと不安でな。残りはオリバーとあいつでなんとかしてくれるだろ。周囲数百メートル以内には俺たち以外は誰もいないことを確認した。大丈夫さ、オリバーとあいつなら」
「いいのか、ウォーラー」
ショーンが真剣に聞いた。
「いいさ。ここで探しに行かないで俺は何になるんだ」
「もしかすると盗賊かもしれませんよ。それかとんでもなく強く賢い魔物とか!」
無謀かもしれないことにオリビアはひどく心配する。
「私はここに何度も来たことがありますが、我々を超えるステータスを持つ盗賊を見たことがありません。賢い魔物でしたら、数十年見てきた限りで我々で十分対処できます」
「ここらへんの状況はあそこほどでもないですが昔と変わっているかもしれないんですよ。何が起きるのかわかりません。待っておいたほうがいいです!」
「どうしましょう。俺はこの辺の情報を知りませんし、ここら辺がどうなっているかなんて」
「智也さん、アルフィーさん。どうしますか」
「私を置いていくな!」
ファシーが草陰から素早く飛び出した。
「おい、びっくりさせんな!」
「私が先に見に行ってやろうか」
「そういえばファシーはあいつくらい速かったよな。でもお前だけなら危ないだろ、何言ってんだよ」
「私としては、智也さんとアルフィーさん、ファシーさんに決めてもらいたいのです」
「私は大丈夫だぞ。サルトのためならどこへでも行ってやるぜ」
「いや、まだ1時間くらいしかたっていないのだがな。サルトが帰ってくるには遅いなというだけなんだが、あいつが道草食ってるだけかもしれないし。だがすぐ帰ってくるとは言ったが、1時間も帰ってこないのは違和感がある」
「爆音もやんだり鳴ったりだし。ちょっと気になるわ」
「できれば俺は彩子にここにいてほしいが、そもそもここが大丈夫なのかが確定ではないからどうすべきなのか」
智也は先の読めない展開に頭を悩ませる。これからどうすればいいのか。3人は選択的自由を与えられているのだが、選択に伴う責任は大いにあるのかもしれない。なぜなら一人一人の選択によってパーティーの行く末が変わるのだから。




