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ボイスリアクト  作者: 夕村奥
第三章
25/42

笑顔

執筆中

智也はどんな困難にでも立ち向かうつもりなのか。智也はなぜ見ず知らずの人を助けるためにここまでのことができるのだろうか。何の変哲もないあの時の日常を捨ててまで、私と智也で旅をすべきなのだろうか。彼はあのアイテムがあればきっと世界の役に立てると言っていた。昔から智也はいつも自分なりの価値観で物事を決めて、いくら現実が間違っていると拒んでもそれを曲げなかった。それがいつもの智也であって、彼の信念だと知ったとき私は複雑な気持ちに苛まれていた。5年前のある日のこと、二人で世界を一周しようとする大それた計画を智也が考えだし私に伝えた。あの時私は反対しその計画はおじゃんになったが彼の冒険心溢れる心を知る一つのきっかけになった。あのアイテム、ボイスリアクトを手に持って私に見せてきたときを私は覚えている。彼はちょっぴり恥ずかしそうに、でも嬉しそうにそれを見せてきた。その時の彼の目の輝きはいつものように、旅に出る際にちらっと周りに見せるものだった。ボイスリアクトは世界の価値観を変えるとか彼は言っていたけど、私は正直ピンとこない。あの家を出てから、ボイスリアクトによって生み出された力を認知した。この世界でこれまでに遭遇したことがない巨大な力を打ち消したこともあり、きっとあの力は今の私でも対処しきれないくらいの力であったことはわかる。旅をして、大から小まで様々な魔物と対峙しては、私と智也、それとパーティーの仲間たちで対抗し、無事に今ここまで来れている。ここはウェーゼの町の郊外。現在はフェリル山に向かっている。異世界に飛ばされて智也と私で建てた家はどうなっているのだろう。智也が近くの森からとってきた素材を使い、現実世界とは全く異なる異世界で一軒の家を作り上げた。智也によればその素材は自分の好みだそうだ。俺は素材マスターになるんだと自慢していた時期は自分にとっていい刺激になったと思っている。なぜ私は旅を進めているのだろうとふと疑問になることはあれ、私が智也の口車に乗せられたことでもあろう。この世界はなぜか旅を進めるに従いモンスターと戦闘状態になる。おまけに負けるとどうなるのかわからない。彼や他の人に聞いてもいまいちわからないそうだ。彼は数日前に比べ調子はいい。心配事はないほうがいい。調子がいいとはいえ、同じ異世界から来たプレイヤーに出会うことができずに気分がいいとはいえないだろう。彼がどう思っているのか気になっている。


僕は世の中の不条理が嫌いだ。世界は少しずつ混沌として変わってきている。ここ最近は各地にこれまでに出てきたことがない品々が取り扱われている。僕にもわからないことだらけな世の中だけど、このまま何も起きないとは思えない。少なくとも僕は何か世の中のためになりたいと思っている。でも僕にはそこまでの力がない。でも僕にもできることはある。サルトさんや智也さんは僕の絵を褒めてくれた。きっと僕も世の中のためになれる、ような気がしている。「創造値」という言葉を聞いたのはつい最近。僕は初めはまさかと思っていたけど、智也さんはきっと扱える。誰も使えない力ではなくて、使える人がいるんだったら試してみる。僕は元来ひとりでいることが多かった。友達や家族と話すことはあったけど、独りこもりきりの日々が一番充実していた。世の中が変化しているのにこのままでいい理由なんてない。僕はなにか不思議な力に引き寄せられて、ただ思いがまま作品を作り続けている。世界の情景、モンスターや人間、大地の風景の変化など僕にしか表現できないと思ったから僕はただ絵を描いている。周りに理解してくれる人はいるが、ほとんどいない。僕の考えは普通の人には理解しがたいものがあるのは知っている。僕は地元の町からすぐの河原で絵を描くことが多いが、近くの山の見晴らしのいい場所まで行き絵を描くこともある。そこで数年前から変わっていく街の情景を描いたり、モンスターを見かけるとスケッチした。これまで遭遇した中でツバメーンというモンスターが印象に残っている。長いくちばしに黒基調に羽毛に覆われるが、2メートルほどの巨体には似合わない可愛げな顔をしていた。1匹のツバメーンは森の奥からブワッと音を立て一斉に翼を見せると一気に姿を現し、空へと飛んで行った。僕の前を横切る直前の瞬間をとらえた写真は僕の机の引き出しに入っている。その清々しい一面はモンスターの見せる一つの姿だと僕は思っている。これはモンスターの一面を知った僕がこれをみんなに伝えたいと思うようになった出来事でもあった。僕はギルドのモンスター討伐のパーティーに参加したこともある。大会常連の熟練ばかりで腰は引けたけど、この体験は僕に強い刺激として残り、僕をこれまで以上に絵を描く動機を与えてくれたものだった。智也さんパーティーとの長旅でもたくさんの替えのきかない素晴らしい絵を描くことができた。僕の大きなリュックはもうパンパンで重くてしょうがない。

「アルフィー、今日は何を描いたのか?」

「ただ窓から見える景色だよ。さっきの宿屋からの」

「そうか。俺はずっとお前を応援しつづけるぜ。アルフィーの夢なんだろ。思いを伝えるのも悪くない」

「夢という訳じゃ...」

アルフィーは困った様子で遠慮する。

「まあ大げさに言っただけだぜ。気にすんな」

サルトは多少申し訳なさに謝る。

「怒ってはいないよ。ただ僕は描きたいから描いているだけなんだ。まあ稼ぐという目的もあるけど」

「お前の絵って買えるのか?俺、少し前気に入ったのあるんだよ」

サルトが手を合わせて懇願すると、アルフィーは面倒そうに対応する。

「全然余るほどあるけど」

アルフィーがリュックに背負ったバッグを山道の隅っこに置き、絵を取り出すとサルトが目を光らせた。

「おおこれだこれ。俺が気に入ったの」

サルトがお目当ての絵を指す。するとアルフィーがその絵を取り出してサルトに見せた。

「これ?」

「おおすげえ!きれいだな。感動したぜ」

「片言だけどどうしたの?」

サルトは指摘されたがそれを聞き流した。

「片言か?まあそういうのよりこの絵が欲しい」

「値段なんて決めてないよ」

「わかった。俺が決めてやる。金貨1枚はどうだ?」

サルトの予想のはるか上をいく値段に驚いた。アルフィーにとって金貨は高価なものだった。

「金貨1枚!?銀貨じゃなくて?」

「銀貨では一日寝床を確保すればなくなってしまうじゃないか。金貨だったらそう簡単にはなくならないだろ?」

「でもこの絵は結構昔に描いたもので、最高傑作では...」

「んなこと言わずにもらっときな。ほら」

そう言ってサルトが小銭入れから金貨を取り出し、アルフィーの手に乗せた。久しぶりの金貨は彼には黄金のように映った。

「ほんとにいいの?」

「ああ!」

サルトは笑顔で嬉しそうにそう答えた。サルトは手にアルフィーが数年前に描いた絵を広げてじっと眺めた。

「うーん。すげえな」

「えへへ」

「でも今のお前の絵の方が上達しているように俺は思う!」

「自分でも次第に上達している気はしているんだ」

「そうだろ。ついでだがお前の絵をもう一枚くれないか?ついさっき気に入った絵を見かけたんだ」

「ほんとに?」

そう言ってアルフィーはリュックに入れた絵をもう一度取り出し、重ならないように並べて置いた。左から右にかけて昔から現在に仕上げた順だ。

「これこれ」

サルトは新しめの絵を手に取った。

「それはまるで最近の。ウェーゼの町の展望台の」

「これが欲しいんだが。お前はどの値段で売りたい?」

「いくらとかないよ。銀貨がもらえれば十分だから」

アルフィーは謙虚に決して欲をサルトに出さなかった。サルトを信頼しているからなのか。気合で乗り切ろうとしているのか、彼を尊敬してるからなのか。

「通貨はためておいた方がいいぜ。この世界では宿に泊まるのにも食事をするにも通貨を使う。金貨、銀貨、銅貨、その他通貨はあった方が旅を続けやすいんだぜ。長旅にはそれなりのリスクが伴うんだ」

「だからといってリスクを取らなければいいんじゃない?取らない方が危ないモンスターに遭遇しないんでしょ?」

「あのな。アルフィーは旅の初心者だからわからないかもしれないが、避けられないリスクもあるんだ」

急激にサルトの様子が暗い容貌に変化した。彼は数か月前、彼に匹敵する強力な魔獣2体に襲われ命からがら逃げかえってきた。つい最近起こった不幸を彼は完全には否定しきれないのだ。

「僕の絵を鑑定してもらうと銀貨1~3枚が相場らしいので、できれば銀貨3枚でどうですか?僕的にはとてもうれしいんですが」

「とんでもない!俺は銀貨3枚じゃ不当だと思うな。この絵をどのような思いで作ってきたのか。この絵は最低でも金貨1枚は下らない!」

サルトはこれまでにない口調で周囲に声を轟かせた。サルトの声はやまびこのごとく山の遠くまで響き、彼らのもとへ帰還した。

「ちなみに金貨1枚ではどんなアイテムが手に入るんですか?僕はそこのとこ知らなくて」

「例えば高等級のロングソードは金貨1枚が相場だ。装備品だって数日分は余裕で買える。宿屋だって一か月くらいは金貨1枚で泊まれるぜ。まあ途中で追い出されるかもしれないがな」

「金貨ってそんなにすごいの?僕はてっきり銀貨の価値の5倍くらいだと」

「いやいや銀貨の最低20倍はあるぜ。俺は詳しいことは知らないけど」

サルトは苦笑いをする。

「サルトさん金貨100枚貯めて特定の場所へ行くと起こるイベントって知っていますか?」

「なんだその胡散臭いものは。危なかったら俺に言えよ」

「違うんです。聞いてください。金貨100枚ためてある場所へ行くとイベントが起こるらしいですよ」

「なんだ俺全く知らないぞ」

誰からも聞いたこともない情報を聞きつけ、サルトは困惑する。

「ウェーゼの近くにはないけど、ケントやトランドルっていう町の近くにあるらしいですよ。その場所」

「ほおほお。それで俺についてきてほしいと。でも大丈夫なのか。金貨100枚なんて貯めるのに随分と時間をかけるぞ」

「だから僕が強い冒険者になったらすることなの」

「ところでそのイベントについて詳しく教えてくれないか?」

戦闘好きのサルトには食いつきがいのある話だ。無論イベントに参加する腹づもりだ。

「僕が聞いた話だと金貨100枚を持ってその場所に行くと、ある場所に一瞬で転移するらしいよ。恐れられる魔獣が徘徊するエリアとか、珍しい宝石がゴロゴロとれる場所とか決まってはいないらしいけど、ボーナスイベントみたいな感じらしいよ」

「宝石とか都合よすぎないか。それに恐れられる魔物って、俺の手に負えるのか?」

「心配いらないよ。ボーナスステージとして設置されているだけだって聞いた。言ってもゴロゴロってわけでもないらしいし」

「何時間そこに滞在できるとかは決まっている感じなのか?」

「最長で10日間でいつでも離脱可能って聞いてるよ」

「しかし俺のまず気になるのは恐れられるモンスターがどれほど強いのかだ。強いモンスターであるほど、討伐後のドロップアイテムが高価なんだが、ステータス2200超える強敵と俺が複数メンバーと共に参戦しても、足手まといで勝算のない戦いになるだろうからな」

「僕にはわからないけど、ステージに転移するとプレイヤーは強力な装備やアイテムを複数から選べるらしいよ。エクスカリバーなどの超級アイテムから武器、防具、アイテムをそれぞれ選択するらしい」

「どうもあほくさい話だが、もし本当だとしたらめちゃくちゃ面白いな」

「でしょ」

「お前もし条件達成しても一人でその場所には行くなよ。俺や智也達に相談してから行けよ。あそこは間違いなく金貨を100枚貯められるプレイヤーのみが行くべきところだからな」

「うーんわかった。必ずそうする。僕頑張るよ」

アルフィーは強い口調のサルトに萎縮しながらも、立ち向かおうと胸を張ってそう語った。


フェリル山の山道に生息するモンスターは特性が多く戦闘の際は特に注意が必要である。ステータスに関係なく毒は一定量のダメージが与えられ、麻痺は一定時間行動不能になる。状態異常技を受けると、ポーションや仲間からの回復技が有効だ。現状、智也のパーティーにはヒールなどの回復技持ちメンバーがいないため、オリビアとオリバーはポーションをたくさん買い込んできた。毒持ちで厄介なモンスターはスパイダーだ。数えられないほどスパイダーは種類が多いため、色彩や模様は種別に大きく異なり、詳しいモンスター情報はギルドでは把握されていない。上級冒険者では難なく討伐でき、中級冒険者では本格的な戦闘が予想され、下級冒険者では戦闘から即座に立ち去ることが推奨されている。


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