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ボイスリアクト  作者: 夕村奥
第三章
21/42

鑑定

執筆中

パーティー一行はフェリル山の側道をひたすら歩くこと1時間、ラキ村が彼らの目のまえに姿を見せた。智也と彩子が初めてこの世界に来た時に訪れた町と比べて、フェリル山近郊に佇んでいるこの村は規模的にも引けを取らなかった。この村は他の街や都市と同様に様々な種族が共に生活していて,活気もあって数多くの店がかまえていた。フェリル山はこの村の発展の礎で、そこでとれた鉱石やアイテムをこの村まで持ってきて様々な武器やアイテムに作り替えてこの村のアイテムショップや武器屋で観光客向けに売り出している。智也と彩子はラキ村に直接用事はなく、ひとまずフェリル山の聞き込み調査としてこの村までやってきた。村にしては広く商店街が並び、この地区には大きな建物がそびえたつ。パーティー一行がその商店街を歩いていくと、獣人や竜人がこの商店街になじんでいる。時々見せるアイテムショップや武器屋はこの村のシンボルともいえるほど栄えていて、横切る際必ず一人はそこに出入りしていた。

「どこまで進むつもりですオリビアさん?」

パーティー一行はオリビアとオリバーに連れられてこの村に到着してからも永遠とこの商店街を歩いている。逆に言うとそれくらいこの村の商店街は栄えていて、敷地面積が広いことを意味している。

「この商店街を抜けた先にとても見晴らしのいい景色を展望できる場所がありまして、とりあえずそこに向かおうと思います」

「そうですか」

智也と彩子は久しく休憩をできるので一安心する。

「そこで昼食でも取るつもりですか?」

「はい。私とオリバーで昼食を準備いたしますので」

「ちなみに昼食は何ですか。俺気になっちゃって」

「ラキ村名物おにぎり饅頭です。とてもおいしいですよ。だいぶ昔ですがこの村に来た時、おにぎり饅頭をいただいたんですが、これまでに食べたどんな食べ物よりも美味しかったんです。ちなみに私のお気に入りはおかかとレーズンチーズのものです」

するとすかさずオリバーが割り込んできた。

「私はりんげんとジューラの和え物です。これが一番でしょう」

「りんげんとは何ですか?」

「りんげんとは赤くてかたい皮に白くしゃきしゃきの実と大きな粒々が入っている果物です」

「私の世界では赤くてかたい皮という言葉で似たようなものがあります」

「そうですか。この世界にはそちらの世界や他の世界から持ち込まれた食べ物がたくさんあるらしいですよ。我々が知らないものがどんどん増えているんです」

「そろそろ商店街を抜けますよ」

「もしよろしければ私がオリビアに言ってりんげんとジューラの和え物のおにぎり饅頭を買ってきましょうか?」

「俺は他の商品もみたいんですが。ちょっと気になったんです」

「では我々と一緒に行きましょうか?」

「いいんですか?」

「はい。我々は智也さんと彩子さんのためにここに来たんですから」

「ありがとうございます。少し楽しみです。彩子も一緒にどうですか?」

「どうぞどうぞ彩子さんも一緒に」

パーティー一行はしばらく商店街を歩くと、眼前にフェリル山脈が遠くにひかえる景色が見えてきた。フェリル山脈は学術都市ウェーゼとラキ村や他の村などを囲むハワント王国の代表的な山脈で、場所を選べば雄大で美しい山脈を見ることが出来る。

「こんなところがあったのか知らなかったなー」

ウォーラーは多少不満げな様子だ。これまでなんで知らせてくれなかったのかとかいうニュアンスが含まれている。

パーティーは休憩時間をここに決め、オリバーとオリビアは昼食を買いに、智也と彩子、サルトはぼーっと遠くにそびえるフェリル山脈を眺める。王国騎士3人衆は互いに談笑などをした。アルフィーは一人フェリル山脈を眺めながら、絵を描き始めた。ファシーはウォーラーらが騒いでいるところを横から観察していた。9人が暇をつぶしている頃、彼はひたすら絵を描き続けた。壮観たる山脈が見えるこの景色はこれまでにアルフィーが用いたもののなによりも美しくふさわしい題材だった。彼の手は止まることを知らず、他の9人を置いてけぼりにする執念で絵は完成に近づいていった。初め彼の尋常ではない雰囲気を感じ取ったのは智也だった。智也はアルフィーの絵に対する思いを感じ、アルフィーをじっと見守った。まるでアルフィーが智也の息子のように、智也は真剣にアルフィーを見守った。彩子は智也がアルフィーを見守っている様子を目撃し、荒れた心を取り戻した。智也はこれまでの長旅で自分を見失っていたが、今はまるで変っていた。やがて彩子も智也と同じようにアルフィーが絵と真摯に向き合っている様子を見守った。しばらくして、2人が名物のおにぎり饅頭を持って戻ってきたとき、智也と彩子はアルフィーの方を向いて眠っていた。オリビアは彼らのアルフィーに対する興味を感じ取り、笑みを浮かべた。王国騎士の3名はしょこりもなく2人が帰ってきたときも騒ぎあっていて、3人の強固な繋がりを皆に知らせるいいきっかけになった。サルトは自前のサルトアイをじっと見つめながらフェリル山脈を交互に見る。きっとフェリル山脈で戦いのだろうという気持ちが彷彿と感じられる。オリビアは絵の完成の間際、アルフィーが休憩している時、彼の真後ろに来て絵をじっと見つめた。アルフィーはしばらく気づかなかったが、智也の助言で彼は彼女の存在を観測した。

「アルフィー、オリビアさんが見てるぞ。大丈夫か?」

アルフィーは咄嗟に絵を隠そうとしたが、オリビアは既に絵を見ていたので、隠す必要もなかった。オリビアのいたずら心は他の誰よりも勝り、昔からこうである。興味の向く対象には躊躇なくちょっかいをかけてくる。オリビアは彼の絵を見て喜びを感じていた。

「僕の絵、どうですか?」

アルフィーが絵を見せてきた。しかしその相手はサルトだった。アルフィーとサルトは出会ってからというもの、長旅を一番長く共にし仲が深まったのだろう。最も信頼のできるサルトに見せたのだ。

「おう、すごいな。俺には絶対かけないぜ」

「どこか足りないところがある気がするんだ。何か心の中にぽつんと大きな穴が開いているんだ」

「そうなのか。俺にはわからないが頑張れよ。分らないところは徹底的にチャレンジするんだ。すると次第にできるようになる」

「今の僕にできるのかな」

「心配すんな」

智也はアルフィーが真っ先にサルトに頼っているのを見て嫉妬していた。なぜ初めに自分じゃないのか。なぜサルトなのか。智也は自分が頼りにされていないことでじっとしていられない。智也の心の焦りを感じた彩子はいつもどおりの彼に戻っていて心の安寧を取り戻す。

「よし」

智也が急に腰を上げアルフィーとサルトのいるところまでやってきた。

「俺にも見せてください」

「どうぞ」

「すごいな、頑張ったな。気持ちだけ受け取ってくれよ。な」

「はい。ありがとうございます」

こうして智也は彩子のいる場所まで戻ってきた。責務を果たした気持ちと言えなかった気持ちが交互に混ざり合い、得も言えない感情が彼の中に包まれた。しばらくすると、おにぎり饅頭とその他の惣菜がテーブルに並んだ。ファシーのいただきますの掛け声を聞きつけ、ウォーラーをはじめ王国騎士3人衆がテーブルにつく。遅れてサルトがにいじんの焦げた匂いを嗅ぎつけた。すかさずにいじんの炒め物に駆けつけた。

「みなさん用意が出来ましたよ」

おにぎり饅頭は名物だけあって好評だった。買われたおにぎり饅頭にはトマトとイチゴのカラメルソースのものやニレと卵の醤油炒めのものなど全10種類があった。

「ダメだぞ、これは私のものだぞ」

「いや俺がいただく」よ

おにぎり饅頭はおにぎりのように脆い。おにぎり饅頭は二人の勢いで砕けてしまった。

「だから私に差し上げろといったんだ。智也のせいだからな!」

「ファシーさんはひとついただいたんですからいいじゃないですか!俺に渡してください!」

とばっちりを受けないのかと心配する人もいるが、彼らはおかまいなしに喧嘩をする。これではせっかくの景色も台無しである。しかしながらもパーティメンバーはお互いに長旅を通して絆を深めていた。類は友を呼ぶ、喧嘩をするほど仲がいい。今は彼らの独壇場。それを眺めるその他のメンバーたち。しかしこのままの関係性では問題も山積みだ。アルフィーやサルトは山の景色を見る。いつか僕たちもあそこで旅をしたいなと望んでいるはずだ。

「二人とも落ち着いてください。周りには私達だけですが、少し離れたところには他のお客さんもいるんですよ。静かにしましょう」

「わかってますけど、ファシーさんが俺の言うことを全く聞かないんです」

「私は2個食べたいだけなの!」

「わかりました。もう一度その商品を買ってきますので」

「オリビアさんはわざわざ買ってこなくてもいいです。俺が行ってきます」

「いいですよ。わたしが行きますよ」

「俺が行きます。これは俺の使命なんです」

「ダダッ」

ピクニックは当初の予定とは大きく違うものになってしまった。静かに楽しんでいる一方で騒いでいる者、その様子をうかがう者。それから見て楽しむ者。しかし旅の当初の目的は達成しているのであった。


ラキ村を大きく囲むフェリル山脈を眺め楽しみつつ、ラキ村という活気のある自然豊かな村に親しみを覚えた智也と彩子。以前から旅をあまりしてこなかったアルフィーにとっても長旅の後の雄大で心地の良い景色は彼の心に深く刻まれた。決して忘れない記憶となって、彼らの心の中に残り続けるだろう。長く続く商店街を抜けた先にあるフェリル山を眺めることが出来るスポットは智也らのいるここだけではなく、他にも複数のスポットがある。しかしオリビアのイチ押しスポットでもあるここは最もフェリル山やそれを広く囲む草原を見ることが出来る。草原には民家ぽつぽつと佇んでいて、まるで草原が民家を押し上げているようにも感じるように幻想的な雰囲気だった。オリバーとオリビアがこのメンバーの現時点での案内役なので、ラキ村での行程は彼らに任せられる。オリビアの思い描く行程は、まず初めに今いるスポットでピクニックをすることで、その予定は完了した。次は商店街で物産巡りとラキ村で特に有名かつ重要な店を巡るというもの。近郊にはドロップアイテムなどが多く獲得できるフェリル山脈があるラキ村は、比較的アイテムショップや武器屋に勢いがあり規模が大きい。オリビアはフェリル山脈の近くという立地を生かした行程を思い描いている。その後、パーティーは疲れた体を癒しに宿屋に一泊してから、明日にあの冒険者を探すことに没頭するという計画を立てている。オリバーは商店街の物産巡りと重要スポットを優先的に巡るという点ではオリビアと変わらないが、今日中に冒険者ムラセのと事前に特別な宿屋を予約しようと考えている。一つ目の理由としては、オリビアは優柔不断な性格なので彼女が明日にも探し始めるかは分からないので、今日中に大事なことを終わらせておこうということにある。二つ目には、折角の機会に特別な宿屋を慎重に見定め、ゆったりとした食後と就寝で明日に備えておこうという試みだ。オリバーの要望はオリビアが了承すると行程に組み込まれる。可能であれば是非とも組み込んでもらいたいとオリバーは考えている。初めはメンバー全員で行動した。外観に興味を持つ者や店内の商品に目をつける者もいた。ウォーラーは王国騎士として多くの業務に携わっており、建物の外壁を専門に扱う場面もある。商店街の建物は比較的古いが、丁寧につくられていて参考になるところもあったようだ。サルトはアイテムショップに目を泳がせていた。アイテムショップといっても大きなものから小さなものまで特に大規模な都市なら幅広く出店している。サルトがすっと止まった。目の前には村一番のアイテムショップ。見た目から高価なアイテムを扱っているのが目に見えるように分かった。外壁が頑丈につくられていて、窓ガラスも特注品であることが明らかだ。ステータス1500までの攻撃を完璧に跳ね返す能力が備えてある。「待って下さい。アイテムを様子見しにいきます。少し待っていただけませんか?」

「どうぞどうぞ。私は待ってますので」

アイテムショップに入店したサルト。店内の商品や人はあまり見えず、厳かな雰囲気を醸し出す。サルトにはピッタリのベテラン冒険者向けの店なのかもしれない。数分待ってもサルトは店からでで来ないので、気になったのか智也と彩子は店に入る。アルフィーも遅れてその厳かな外観の店内に入る。

「ガララン」

「いらっしゃい」

格調高いが少し恐れ多い外観を保っていた外装だったが、中に入ると見たことのないアイテムに溢れていた高級アイテムショップだった。予想していたよりも広くサルトを探すのに手間取ってしまった。彼を探す途中、智也の目の前に一本の聖剣が現れた。その剣はサルトアイを大きく上回る神聖さと恐ろしさを持っていた。たった一振りでどんな魔物も倒せると智也に思わせるほどの尊厳ぶり。智也がその剣に意識が完全に向けられているところ、彩子が不安そうにこう語りかける。

「その剣がどうかしたの?」

「ああ、この剣は他の何よりも恐ろしい。見ない方がいい」

「ほんとに?」

彩子が不可思議にその剣を見ると恐ろしい念を感じ取った。

「ビンビンビンビンビンッ!!」

「グワングワングワンッッ」

「うっ」

彩子はその剣の恐ろしい念を感じ取り、少し調子を崩してしまった。智也はその剣から離れ、彩子と共にサルトのいる方向へ進んだ。ここのアイテムショップには高級アイテムが多く揃っているが、あの聖剣には及ばなかった。まるでサルトが素人に見えるくらいにあの聖剣は規格外だ。ステータスでいうと攻撃力で見ると剣単体で2200は軽く超えるだろう。これを強力な冒険者が扱えば、大抵のモンスターは倒すことが叶うだろう。扱うことが出来ればの話だが。

「サルトさん」

智也と彩子はようやくサルトのところに来た。その時にはサルトはどのアイテムを買うのかを決めていた。今はそのアイテムを清算しているところだ。

「サルトさん。どのアイテムを買ったんですか?」

「おお智也は気になるのか。俺が買ったのは腕に装着する防具さ。攻撃力を多少上げたくて前のと交換したんだ。前の防具をその時に売ったので少し安くなったぜ」

「そうなんですか。ちなみに今の俺に必要なアイテムなんかわかりますか?」

「すまん。俺にはわからん。オリバーとかなら教えてくれるかもよ」

「もしかしてステータスとか測定できたりします?」

「できるぜ。スキル鑑定を持っているからステータス2150までなら攻撃力や防御力やスキルなんかを鑑定できるぜ」

「詳細にお願いしたいのですが」

「おう。結構欲張りだな智也って」

冒険者としての熱い思いを受け取ったサルトは智也のステータスを鑑定した。鑑定段階は5段階で構成され、サルトは4段階で鑑定が可能である。鑑定段階とは、ステータス、攻撃力、防御力、俊敏性、スキル、必殺技などをどの程度詳細に表示させられるかを計る評価軸である。1段階ではステータスを100単位で表示させられる。攻撃力や防御力、スキルなどは表示できない。2段階ではステータスを50単位で表示され、攻撃力や防御力などの数値をある程度概算できる。3段階ではステータスを10単位、攻撃力と防御力、俊敏性、スキル、必殺技などを詳細に表示させられる。3段階目までは使用者のステータスから500以上離れるとステータスは表示できない。攻撃力や防御力の表示もステータス差が広がるほど難しくなる。4段階ではステータス差がある時もステータスを10単位で表示できる。しかし上限が決まっており一般的に2200までと定められている。攻撃力や防御力なども詳細に表示でき、必殺技やスキルも重複していたとしても表示される。5段階目スキル鑑定を所持するプレイヤーはハワント王国でも50名ほどといわれており、とても貴重である。ステータスを2300まで鑑定でき、基本的に鑑定不能の特殊スキルを詳細に表示させることが出来る。このようにスキル鑑定は5段階で構成され、サルトは4段階目のスキル鑑定を所持している。サルトは智也をじっと見つめた。きっと鑑定に違いない。

「お前、ちょっと外見変わったな。長旅に慣れて冒険者らしい顔つきになってきたじゃねえか」

「はあ、そうですか・・・」

「鑑定だったな。鑑定!」

「・・・・・」

「あの・・・」

「まだだ。ちょっと待てい!予想外の事が起きているんだ」

「予想外の事とは?」

「お前は黙っていろ!」

「はい」

「・・・・・」

「やっと鑑定が終わった。なんかな、お前の所持品の中にステータスに干渉されるアイテムが入っているようなんだ。後で確認してほしいんだが。スキルの項目もまるっきり違うんだ。君はスキル項目が普通の人では2~5個なんだが智也は100はあるんだ。しかもあるのかないのかはっきりしていない」

「どういうことですか?」

「つまりお前は特別な人っていうことだ」

サルトは冗談めかしてそう言ったが彼は間違いなく恐怖におののいていた。

「じゃあ結果を教えるぞ。ステータスは570。攻撃力320、防御力270、俊敏性350。スキルはなし。でも俺のスキル鑑定では推定ステータス570~1500くらいはあるだろうと予想している。まあ、かすかに1500という数値が見えるだけなんだが、潜在的にはこの程度は間違いなくあると予測している。俺にもなぜこのようなことがあるのかは分からない。スキル欄も特殊で見たこともない。智也はウェーゼで精密鑑定を受けてもらうべきだ」

「なあ彩子、これ間違いなくボイスリアクトの力だろ?」

「そうね」

「これサルトさんに伝えるべきだと思うか?」

「わからない。アルフィーさんはサルトさんのことを本当に信頼していたわ」

サルトが気になった風に智也にきいた。

「どうかしたのか?」

サルトに悪いことをしたなと思い、もう一度質問を投げかけた。

「彩子のステータスを鑑定してくれますか?」

「もちろんいいぜ」

サルトは2度も鑑定を承諾してくれた。多分優しい人なのであろう。冒険者として一流であり、人格も優れていてアルフィーに信頼されていて、ウォーラーと同じく智也らの助けになっている存在だ。

「鑑定!」

「出たぜ」

「もう出たんですか?」

「おう!」

「えーっと彩子さんのステータスは1730。攻撃力920、防御力1230、俊敏性1100、スキル攻撃力、俊敏性1.5倍。とても優秀なステータスだ。あなたのステータスはここまで高かったんですか!」

サルトは智也のステータスを評価した時と同じくらい驚いた。このステータスは間違いなく超級冒険者並みである。この世界の超級冒険者の割合は極少数だからだ。

「防御力は高いな。彩子さんは前衛に出たいですか、後衛に出たいですか。もちろん彩子さんのステータスならよほどの強敵に出会わなければ大丈夫だと思いますよ」

「できれば智也をサポートできればと思っています」

「なら防御力を強化しましょう。こちらカーボナというとても軽い素材でできた軽装備です。伸縮性も高く、俊敏性を下げません。防御力も+100ほど強化することができます」

「あの、私このロングソードを持っているんですが。こちらの防御力ってわかったりしますか?」

「では測ってみます」

「鑑定!」

「攻撃力120、防御力280でした。それにしてもこのロングソードの防御力高すぎますね。どこで手に入れたんでしょうか。すごく気になります」

「ちょっととある町の武器屋で・・・」

「その武器屋後で俺に教えてくれませんか?」

「わかりました」

サルトと彩子がお互いに合意したところ智也はこの店の聖剣のことを尋ねた。

「度々すみませんサルトさん。俺が少し気になった剣があったんですが、ちょっと鑑定できませんかね」

「なんだおまえもか。あの聖剣の事だろ。あれは鑑定できない代物なんだ。5段階目のスキル鑑定でも全く鑑定表示がされないんだが、情報は出回っていてそれを知るとあの聖剣がいかにやばいものなのかわかる。」

「知りたいです。教えてください」

智也が懇願するとサルトは久々に渋い顔をして話し始めた。

「あの聖剣Gエクスカリバーは選ばれた人しか扱えない伝説の剣らしい。推定攻撃力は2450。とても武器とは思えない性能をしていて攻撃力だけでなく俊敏性は2190、スキルにも攻撃力2倍のスキルもついている。この圧倒的な聖剣Gエクスカリバーはこの王国でも数本といわれていてそのうちの一本がここにあるということらしい。使える人で明らかになっているのは勇者、剣聖。しかし剣聖に関しては使用できる人は限られていて、全世界で数人といわれている。それとこの聖剣には創造値というよくわからん数値が関係していることも明らかになっているようだ。創造値を用いると攻撃力が1000増加することも珍しくないそうだ。創造値はステータスと関連のないところにも届くもので、極端な例だが防御力1万のモンスターをも撃退することもできるものらしい。ちなみにステータスというのは冒険者がステータスを見て冒険をしやすいように数値化されたものなので防御力1万をステータスとして換算することはできない。俺も創造値を使いこなしたいとは何度も思った。でもいくら書物を調べても人に聞いても教えてもらっても創造値を一瞬たりとも使うことはできなかった。唯一わかったことは自分は創造値とは無縁の人間だってことくらいだ。話がそれたがこの聖剣はあり得ないくらい強力だということだ」

サルトの話はいつになく真剣だった。サルトのその時の面持ちはこれまで一緒に旅をしてきた中で見たことのないほどだった。聖剣Gエクスカリバーはこのハワント王国で数本といわれていて、攻撃力は2000を軽く超える。その他にも様々な協力な要素で構成される代物だ。智也と彩子はこの世界の広さを思い知った。この強力な剣は間違いなく、この世界で一番の剣だといえるのだろうか。もし一番出ないとしたら、どれだけこの世界は物騒なものなのか知ることが出来るだろう。ウェダーボイスリアクト、ボイスリアクト。聖剣とそれらのどちらが強力なアイテムなのかは賛否両論あるだろう。しかしウェダーボイスリアクトがもし聖剣Gエクスカリバーを簡単に生み出せるとしたら、ウェダーボイスリアクトはとんでもないアイテムだということが証明される。


「彩子は結局何を買ったんだ?」

「サルトさんに紹介してもらったカーボナスーツよ。俊敏性が下がらないのがうれしいの」

「俺は結局何も買わなかったな。俺に必須のアイテムなんてあるのか?」

「私は分からないわ。智也自身で決めないといけないんじゃない?」

「おう!」

店内でアイテムを購入したサルトと彩子。サルトは防御力を前回比50ほど増加させた。彩子はカーボナスーツを着て防御力を前回比で100増加させた。アイテムを購入した二人とは別個にまじまじと二人を見つめる人物が一人。彩子が購入した商品を試着したとき、俺は心を躍らせたがいざ自分だけ何も買ってこなかったら落胆するに決まっている。しかし俺はこのボイスリアクトがある。下手にアイテムを購入するくらいだったらこのアイテムを少しでも使いこなす方が大事に決まっている。でも孤立していて寂しい部分もあり何とも言えない。


「カララン」

「あれ、アルフィーはどこ行ったのか?」

サルトがパーティーが待機する場所まで戻りアルフィーの姿がないことを確認し、気がかりな様子だ。

「ここを少し行ったところに武器屋があるんですが、そこに入っていきました」

智也はアルフィーの他にもファシーの姿がないことを発見した。

「そう言えばファシーさんもいないな」

「ファシーさんならお隣の駄菓子屋に入っていきましたよ」

「このやろう!」

智也は一目散に隣の駄菓子屋まで駆けた。見たことのない駄菓子が並ぶ店内。元の世界では決して見たことのない商品に囲まれる店内は、智也を異世界への召喚者としての自覚を際立たせる。たこ焼きのような駄菓子から元の世界でいう飴のような形状をしたものまで一通り巡回するだけでおなか一杯の気分になった。ファシーはレジ前にいた。店員によるとファシーはそこからずっと動いていないらしい。不自然な態度でレジ前に長時間いることからなんとなく察しがついた智也は、ファシーにこう語りかける。

「よければ俺が払いますよ。ファシーさんは何が欲しいのですか?」

「丁度現金を持っていなかったのだ。サンキュー」

そう言ってファシーは手に握りしめていたイカ焼きをレジに置き、会計を済ませる。もし自分が駄菓子屋に来なかったらずっとこのままだったのかと智也はあきれる。でも急遽途中からであるが旅の仲間であるファシーの顔からほつりと笑みを浮かべたのが見えて、智也は少しうれしい気分になった。見たところ駄菓子屋の店員は何年もこの店を一人で経営しているようだった。この店に対する愛情が半端じゃないからだ。ファシーはイカ焼きを持ち、メンバーのいる場所まですかさず飛び出す。智也は彼女のスピードに追い付くことが出来ずに途中で追いかけるのをあきらめた。そのまま智也はある武器屋に行くことにした。その店はアルフィーがいるであろう所在地だ。駄菓子屋から武器屋までの道のりは智也にとって悪くない時間だった。





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