焦燥
執筆中
列車がゴトゴトと音を立てながらウェーゼへ向けて進行しているところ、ある女性が智也らに話しかけてきた。
「ああ、彼ならたぶん冒険者ムラセでしょう。あの冒険者はこの国では有名です。あなた異世界人でしょう。雰囲気が彼に似ているんですよ。なんかこう、・・・。こういう感じよ!」
女性はこれまで智也らと話したことがあるかのような口ぶりで彼らに近づき、身振り手振りジェスチャーをしながら必死に伝わるように躍起になっている。彼女は異世界から来たものについて知っているみたいなので智也は詳細を知りたく問いかけた。
「冒険者ムラセとは一言で言うとどういう人なのでしょう?」
「ああ、いけ好かない男っていうところですかね。いつも偉そうに何か持論を一方的に皆に吹聴したりします」
「意外ですね」
「でも冒険者ムラセにもいいところはあるんですよ」
「例えばどういうところなんですか?」
「彼は知っているのかもしれないけれどリアクターなんです。それで強力な武器を一瞬で生成したり、風の支配者という称号を持っています。それに彼は・・・」
女性は彼のことを語り始めると口は止まることを知らずに永遠に語り始め、だんだんと彼女の顔に笑みがこぼれたりもした。この様子だと彼女はきっと彼のことが好きなのだろう。巧妙に隠された尊敬の念が少しづつ周りにばれているのである。
「他に冒険者ムラセのことを知っていることってありますか?」
「彼は超越者の一人で度々この国に強力なモンスターが現れた時、彼がすぐに駆けつけてくれて倒してくくれました。その強力なモンスターはこれまで何度も冒険者での最上位の超級冒険者が挑んだのですが、手も足も出なかったみたいなんです。でも彼はそのモンスターを倒すことはできなかったけど追っ払ってくれました。最近は物騒で100年前の悪魔カイブツほどではないんですが、それに及ばずとも基本的な超級冒険者では敵わないモンスターが結構な頻度で出没してきています。自国の問題だから他国から強力な冒険者を呼ぶこともなかなかできずに強力なモンスターにまともに戦えるのは彼だけなんです。勇者は現在逃走中という噂ですし。彼一人だけで現在増えつつあるモンスターを全部処理するのは難しくなってくるんじゃないかって皆は思ってるんですが、今は彼一人だけで心もとないです。ああ、彼ならいつもウェーゼ近郊の山でアイテム採掘を行っています」
「彼って結構重要な人なんですね」
「そうなのよ。この国の貴重なボイスリアクト所持者なんですよ。10個あると言われているんだけど、そのうちの一つを彼が持っているの。私も所持者がいるんだったら会ってみたいなあ。なんて」
「あの、俺それ持っているんですが」
「あの!」
「・・・・・」
「まさかあ~」
智也は彼女に見えるように手を掲げてボイスリアクトを見せた。すると彼女は絶叫した。彼はウォーラーが無事で一安心したからなのか、他人にも平気でそれを見せるようになっていた。
「えーーーーーーーっ!」
「そんなことありますか!」
「いや、事実です」
「これ偽物ですよね」
「本当です」
「そんなはずが・・・。まさかね」
「もっと近くで見ますか?」
「見せないでくださいよー」
「これで信じてくれましたか?」
「まさかあなたも持っていたんですね。あなたのお名前は?」
「智也と言います」
「私、ギルド職員をしておりますマリーです。あなたをギルドに勧誘したいのですがよろしいですか?」
「・・・・・」
俺は彼女を信じていいのだろうか?初めの町のギルドはなにか物騒な感じがしてあれからギルドには悪いイメージがあったのだが、セレントリウスでのギルドは信用できるものもあったのでこの世界に来てギルドというものに興味を持っている。しかしこのアイテムはとても貴重なので完全に信用していないギルドに所属するという選択をすることはリスクがあるだろう。どうすればいいのだろうか。
「大丈夫?」
彩子が俺の心配をしてくれたようだ。これまでも俺が悩みで頭を抱えていた時もそれに気づいてくれた。彼女はとても人思いな女性なのだ。俺は彼女に甘えているのだろうか。
「あの、マリーさん。ギルドに案内してもらえませんか?」
「はい」
「あなたいいの?」
「おう。まずギルドの雰囲気を見てから決めようかと思って」
「そう」
俺は少しギルドのことを知ってみようと思って立候補した。まず知ってみないと何も始まらないと思って、俺はギルド職員の誘いに乗ろうということに決めた。しかし初めの日のインパクトでなかなか信じられない部分もある。
「ガタンッゴトン」
「ゴトッゴトッ」
「そういえばマリーさん。冒険者ムラセってマリーさんのギルドに所属しているのですか?」
「彼は無所属です。彼は所属するのを拒否していて、全国各地を転々としているのです」
「そうなんですね」
「あの人には何度も悩まされました。所属してくれたらもう少し早く情報を伝えられたのに、無所属で貫くからモンスターが出現したときも伝達が遅れて大変なことになりましたから」
「彼もそういうところもあるんですね」
「でも駆けつけてきてくれた時はとても頼もしくて、私達では手も足も出なかったモンスターを簡単に倒してくれました。かっこよかったです」
「そうですか」
「・・・・・」
「これは彼には内緒ですよ」
「はい」
「それならいいんです」
「もしかしてサシュさんって天然ですか?」
「そんなんじゃありません。立派な女性です!」
「そうですか」
智也とマリーが会話をしているところ、板を何枚もはさんだところにあるクロスシートでファシーとウォーラーの話が盛り上がっていた。
「早くつかないかなあ、ウェーゼ。もうくたびれっちゃったよー。なーウォーラー?」
「そんなんじゃ立派な大人にはなれないぞ。母親のようになりたいんだろ」
「そんなんじゃないよー」
「俺がお前の年くらいの時はこのくらいじゃ根を張らなかったぞ」
「絶対嘘だぞ。ウォーラーも絶対退屈とか言ってただろ」
「どうかな」
「あー図星だ。卑怯だぞ」
「なーいじいじすんな兄弟」
「あーもーうっせえなあ」
「ははは・・・」
2人の座っているクロスシートの隣でアルフィーとサルトがともに窓側の席で外を眺めていた。周りの盛況に一切耳を傾けずひたすら外の景色を見ていたその光景はまさに一意専心の一念というべきところがあった。ひたすら走る鉄道に揺られていく乗客たち。彼らに目指すところは同じだが、皆別々に夢があることを考えるとなにかもどかしい気分がする。オリビアは窓からボーッと景色を眺めながらそういう風に思っていた。その鉄道はやがて荒野を抜け大都市ウェーゼ郊外を通り、主要駅に到着した。智也らの念願の大都市ウェーゼ到着はここで叶えられた。皆はやっと到着したとほっとしていたのに対し、恐ろしいくらいに智也と彩子は喜んだ。異世界に何の前触れもなく転移して同じ異世界人に出会ったことはあったがその人物とは別れてしまった。冒険者ムラセがリアクターということを知り、やっと自分らと同じ境遇の人と会えるということだけで彼らの気持ちは大きく軽くなっていた。それと同時に胸が高鳴る。あの町を出てひたすら彼に会うことだけを夢見てきて仲間を犠牲にしながら旅を続けてきた彼らにはこのウェーゼの到着はこれまでのどれよりもうれしい事象だった。
「やったな、彩子!」
「そうね」
あれから何日がたったのだろうか。あの時は何もできなかった自分がたくさんの仲間に支えられてここまで来ることが出来た。それまでには大好きな人との別れもあったが、それでもここにたどり着くことが出来たのはとてもうれしい。あの人に伝えられたらどれだけうれしいのだろうか。あの人に伝えたい。
「あれ?」
悲しみと嬉しさが同時に胸にこみあげてきて泣き出しそうになった。彼、ヘンリーのことを思いだしてしまったのだ。この光景をあの人に見せてあげたい。そしてともに喜びたい。その一心でここまでやってきた。途中であきらめたいことは何度もあったが、ヘンリーのお陰で立ち止ることが出来た。もちろんそれ以外の人の支援もあってのことなのだが・・・。ヘンリーに会いたい。あいつに会いたい。
「ううっ」
「うぅっうっ」
「ズズッ」
「智也大丈夫?」
「平気さ」
「そう」
「じゃああの山に行きますか!」
「あのー」
マリーが俺たちに注意してくれた。
「冒険者ムラセのいる山なら歩いて数日かかりますよ」
「本当ですか?」
「はい」
「マジか!」
「でもなにか交通手段あるんですよね」
「はい。これも鉄道になります。5番ホームから出るギュメロ駅で降りてからが一番近いですよ」
「ちなみにどれくらい?」
「歩いて数時間ですね」
「そんなですか。・・・わかりました」
「じゃあ私はこれで」
「マリーさんどこに行くんですか?」
「ギルドがありますんで。あなたたちもご一緒に行きます?彼に会うのは後からでいいんですよ」
「いや、ここに来た理由は彼に会うためというのもあるんで」
「わかりました。ネタガトンデというギルドですのでお忘れなく」
「わかりました」
「じゃあまた」
「はい」
「5番ホームと言ってたな」
「そうね。あそこじゃない?」
「だな」
智也と彩子の耳に二人の会話声が聞こえてきた。
「ウォーラー、あの列車かわいいな」
「おう。しかし何か気になる様相だ」
「そうか?具体的にはどういうところが気になるのか?」
「あの列車は俺には一度も見たことがない。俺は何度も列車に乗ったことがあるのだが一度もないのだ。別の国のもので俺の知らないものがあったのかもな。しかしそれにしても不思議だ」
「そうですな」
オリバーがウォーラーにのった。
「あの列車あなたが言ったように何かが変です。私ちょっと気になりますのでちょっとお待ちください」
「オリバー!」
オリバーはその列車を確認しようとホームとホームの間を飛んで跨ぎ、その列車の前に立った。オリバーはその列車を注意深く見てから特段怪しい様子は見せず、智也らの方を向いたところ2人の黒い影がオリバーの後ろからオリバーを攻撃しようとしていた。しかし彼を攻撃することはなく、オリバーはもう一度飛んで戻ってきた。
「特段目立ったところはありませんでした。私の思い違いでしょう」
「オリバーさん慎重なんですね」
「そうですな。お嬢様をお守りする立場ですから自然と身に着いたのかもしれません」
「そうですよ。オリバーはいつも私を置いてけぼりにして危険なところに自分ひとりで行くんですよ」
それを聞いたときに智也はふとヘンリーのことを思いだした。ヘンリーは彼にとっては本当に信用のできる仲間だった。初めて会ったときはそれこそ狼の姿で警戒したのだが、彼の真摯な行動に智也は少しづつヘンリーを信頼した。ヘンリーを本当に愛していた時に彼は智也の前から姿を消してしまった。あの強力な召喚士から俺たちを安全に逃がしてくれて彼は彼の親友とともにその召喚士に立ち向かった。それから彼がどうなっているのかは智也は知らない。智也は彼はきっと無事だと思っているのだが、本当のところは当人たちしか知らない。
「智也!」
「おう、彩子か」
「またぼーっとして。最近調子悪いんじゃない?」
「ああ、ちょっとな」
「オリバー、大丈夫だったか?」
「はい。おそらく」
「俺もなんか違和感感じるんだよな」
「サルトさんも何かわかりますか?」
「俺は鉄道のことはさっぱり」
「そうですか」
「オリビア、そんなに気にするなよな。俺が心配性なだけだから」
「ウォーラーさんも気にしないでください」
「お互い様だな」
「でもこれからなんか冒険者ムラセっつーヤツに会いに行くんだよな。5番ホームに移動しようぜ」
「そうですね」
「はい」
「うん」
「だな」
「おう」
「っしゃー」
10人メンバーは5番ホームに移動しギュメロ駅に向かう列車に乗り、彼らはギュメロ駅で降りた。ギュメロ駅はウェーゼの主要駅に比べてとても小さく周りの建物も簡素だったが、十分に地力のある土地だった。山の最寄のギュメロ駅に着いた智也らは山に向かって歩き出した。ウェーゼはハワント王国の主要都市の一角で、様々な冒険者や商人がこの町にやってくる。山々に囲まれた広い敷地には多数の人々が暮らしている。ギュメロ駅から山までの道のりは智也らにとって過酷な道だった。運動に慣れていない彩子やオリビアは交通手段のない山までの道に堪えていた。オリビアの所有する(実際には彼女の両親が所有)する馬車はケントに置いてきているので、ゆったりとした旅はできない。
「おう智也、もう元気がないじゃないか」
ファシーは智也のだらしない姿を見て、すごしうれしいようだ。
「そりゃここまで遠いなんて思っていませんでしたよ。ここについてとんとん拍子であの人に会えると思っていたのに少しがっかりしてるんですよ」
智也はここまで犠牲をはらみながらも彼に会うことを望み、ここまでやってきた。しかし都市の中心部とは遠く離れた奥地に彼はいるらしい。彼の驚愕ぶりは一部を除くメンバーに伝わり、伝染した。
「ここまで馬車をいくら見たか、数えられないくらいになってるぜ」
ウォーラーは近々専用の馬車を買うつもりでいて、それで通りの馬車を眺めている。いくら歩いても山は近づいてこない。智也は休憩したくない様子で、パーティー全員が休憩したいような様子を見せても、絶対に彼は休憩しないだろう。ギュメロ駅から2時間ほど歩き続け、なにやら彩子が小屋を発見した。その小屋は馬小屋のようなものだったが、それにしては大きい。彼女は少し気になったので、智也にそのことについて伝えた。
「なにかこの小屋に気ならない?」
「あの小屋になにか変なところがあるのか?」
「馬小屋はところどころにあったが、確かにこの小屋は大きいな。この規模だとドラゴンが飼われているものなのかもしれない」
「ドラゴンが小屋で飼われているなんてことがあるんですか、ウォーラーさん?」
智也はゲームの異世界にやってきたことを今思いだした。ドラゴンが飼われているなんて男の欲望を刺激するものでしかない。ドラゴンは火を吐くモンスターで比較的強力な方の部類に入る。平均ステータスは1300でたいていのモンスターよりも強く、数もそれなりに多いのでドラゴンがこの世界の基準として用いられている。数が多いので種類も多く、強力な者からそうでないものまで上と下との格差がとても多いという特徴がある。ドラゴン族は戦いを好まないというのがこの世界の常識である。しかし、襲ってこない確証もなく、前触れもなく襲われる事例も見られる。有力なものはファイアドラゴンとフレイムドラゴンで平均ステータスがそれぞれ1860と1890でどちらも脅威度がとても高い。彼らと最も遭遇する場所は彼らのねぐらに冒険者やその他のパーティーが無意識に近づいていたパターンである。ドラゴンは攻撃的ではないので襲ってくることは少ないが、ねぐらに足を踏み入れると個体によっては襲ってくる場合もある。ドラゴンのねぐらの発見数は世界で年1000件を超える。そのため、ドラゴンのねぐらに近づかないための訓練も冒険者の中で常識となっている。冒険者は下級冒険者から超級冒険者まで分かれており、下級冒険者はまだ経験が浅い者、中級冒険者は経験値が冒険者に値する段階までたまった時に与えられる称号、上級冒険者はベテラン冒険者の名が与えられることもあり一人前の冒険者としての称号、超級冒険者は経験値とは軸が違い、とにかく他人とかけ離れているほど実力がある冒険者に与えられる称号だ。特に優れた冒険者が所属し、なかなか討伐できないモンスターで被害の多いものなんかを専門する場合が多い。しかし、上級冒険者やその他の冒険者に比べて数は少なくなる。ドラゴンのねぐらにこれらの冒険者らが無意識に足を踏み入れる件数の多さに、ギルドは対処法を迫られている。
「ドラゴンがこうやって飼われているのは珍しいが、見ないこともない。ドラゴンもモンスターだからおそらく実力のあるテイマーか召喚士が住んでいるのだろう」
「ドラゴン以外の可能性はありませんか?」
「そうなると数が多いか、それとも相当強力なモンスターだからこの都市には入れてはいけない決まりになっているはず。ウェーゼという都市に入れていいモンスターの条件はそのモンスターを十分に扱えるのと、それとステータスの基準があるんだ。たしかウェーゼではステータスが1500までだったような気がするのだが。ちなみにケントでは1600、セレントリウスでは1450だったような気がする。まあ参考にしておいてくれ」
ウォーらの話を聞き、智也らはおそらくドラゴンが飼われているものだと思った。高さは他の馬小屋よりも高く、多くの馬や家畜を飼っておくにはとても高すぎると思ったからだ。しかし彩子はいまだに違和感を抱く。智也は全く気にしていない様子だった。智也は自分は異世界というかゲームの世界にやってきたことを今一度思いだし、同じ異世界人へのたとえようもない気持ちが盛り上がってきて、頼りなかった足取りが少し頼りがいのある大股歩きに変わっていった。彼の気持ちの変わりようはほとんどのメンバーはわかっていた。サルトとファシーはそのことにはまったく気づいていなかったのだが。
「山はまだかーおーい」
智也の興奮は周囲のメンバーに伝わり、旅当初の活気を取り戻してきた。歩けど一向に近づいてこなかった山々の入り口が彼らの目の前に現れた時、真っ先に彩子の心のぞわぞわが落ち着いた。入り口には看板が立てられていて、この山の情報がびっしりと書かれてあった。智也は気持ちが高ぶっていたので看板を挑戦状に見立てて、一番に読んだ。
「フェリル山。モンスターの出現情報多数!!超級冒険者を必ず一人以上連れてきてください。下級冒険者はこの山に入るのは危険です!!山周辺には滞在しないでください!!
この道をまっすぐ進みしばらくすると3本の分かれ道がある。一つ目は花の祭壇。花の祭壇にはたくさんの虫系モンスターが生息しているが、チョチョーガとカナブーンというモンスターがおり、平均ステータスがそれぞれ300と410で対処は比較的容易。しかし花の祭壇付近に近づくにつれて強力なモンスターの出現情報が出ているので注意してください。花の祭壇にはスキルを覚醒できるものがあるはずですが、必要なアイテムがあります。詳しくはギルドで確認してください。二つ目は頂上につながる山道ですが、ここが最もモンスターの出没数が突き抜けて多いです。都市近郊でありながらステータスが1000を超えるものも多数報告されています。種類が多く、毒を吐くモンスターも発見されております。途中で道が分かれますが、左を選択してください。右は立ち入り禁止になっております。ドラゴンのねぐらがそこにあります。そのドラゴンは亜種のファイアドラゴンでステータスが2000を超えています。下級冒険者がメンバーにいる場合は真ん中の道だけは選ばないようにしてください。3つ目は山を抜けた先の小さな村に繋がっている。ラキ村には職人街という区画があり、特殊なアイテムが売られている。ラキ村へ御用の方は一番右へお進みください。」
「・・・」
「智也?」
「この山、危険すぎだろ!」
「見せて見せて」
「・・・」
「そうね」
「この山でアイテム採集をしている冒険者ムラセって何者だ。異世界人っぽい名前をしているのだが」
「異世界人であることは確かなんじゃない。だってボイスリアクトを持っていたのでしょう?」
「どうしようか。まずラキ村に行ってみたほうが安全なんじゃないか?」
途中でウォーラーが口を開いた。
「とにかくラキ村に行ってみよう。そこまではたぶん安全だろう。途中でモンスターに襲われても心配すんな。俺たちで守ってやる。な、サルト?」
「は、はい。そうですね」
「だろ。オリバーも頼むぞ。オリビアや智也たちを守ってやってくれ」
「わかりました」
この異世界に来てとにかく言いたかったことがある。この世界危険すぎるだろ。確かにゲームの世界だからこれくらい危険にしないと面白くないとかあるのかもしれないがそもそも俺たちはこの世界がゲームの世界なのかすら分からないんだ。なにもわからないままこの世界に来てわかったことはこの世界のちょっとした知識とアイテムの使い方がほんの少しだけだ。これでいいのか俺。このまま納得して。あの冒険者に話しをしたくてここまできてこの仕打ちは正直辛い。何とかしてこの世界のことを知らないと何も始まらない。お願いだ冒険者ムラセ。異世界人なのだろう。俺のことをわかって俺の目の前に現れてくれ。しかしこの願いはついさっきもしたのだが俺の願いは届かなかった。当たり前なのだが。
「おーい、行くぞー」
「わかりました、今行きます」
みてろよ。俺をこの世界に連れてきてこのような仕打ちを受けさせた報い、必ず返させてやる。俺はやるときはやるんだ。
「ラキ村ってウォーラーさんなにか知ってますか?」
「私知ってます!」
オリビアがひょこっと会話に入った。
「おお、オリビアさん!」
「ラキ村は先ほどの看板に記載してあった通り、職人が多く住む村です。私も詳しくは知りませんが伝統的な武具やアイテムをつくる人がいるそうです。それらは決して他の人にはまねできない代物だそうで。皆感激しておりました。私は数回オリバーらと一緒にこの村に行ったことがあったのですが、とにかく彼らがつくる武具は桁外れのようで、特に上級や超級冒険者からは重宝されているようです。しかしそれらの高級アイテムをつくるにはレアな鉱石が必要なようでそれらを多数つくっているわけでもないらしいのです。基本的にはレアな鉱石やドロップアイテムを持ち込んだ商人や冒険者らの要望に応えていくという体裁らしいのです。職人にもものすごいアイテムをつくることのできる人もいてなんでも超激レアな鉱石やドロップアイテムなんかも武器やアイテムに変換できる凄腕の職人も多いらしいです。その一人と私たちはお会いしまして、武器をつくってもらいました。その武器は今オリバーが持っております」
「はい、このロングソードはとても頑丈で、何年も使っているのですが決して劣化していません」
そう言ってオリバーはロングソードをそっと見せてきた。そのロングソードは丁寧に磨かれていて、なによりきれいだった。ずっと使っているはずのにまったく傷一つ、それは言い過ぎだが傷はほとんどついていなかった。
「オリバーの持っているロングソードはピリルという一般的に激レアに属する鉱石とカゴールという準レア鉱石でつくられたらしいです。ピリル鉱石はハワント王国ではないのですが、ある山で冒険者数名とオリバーと私で旅をしていたところ、偶然彼が見つけてきたものです。とてもきれいに光っていて美しかったです。調べたところピリル鉱石というものだとわかり、もともと持っていたカゴールという鉱石を組み合わせて職人につくってもらったという訳です」
「激レア鉱石というのは、どれほどの価値があるのでしょう?」
「そうですね。この世界の鉱石は普遍鉱石、準レア鉱石、レア鉱石、準激レア鉱石、激レア鉱石、超激レア鉱石とわけられておりまして、普遍鉱石が全体の約65%、準レア鉱石が全体の約15%、レア鉱石が全体の約8%準激レア鉱石が全体の約6%、激レア鉱石が全体の約4%、超激レア鉱石が全体の約1%、そして残りの約0.3%は伝説レア鉱石というめったに出会えないものです。しかもその鉱石は大体近くに強力なモンスターがいる場合がほとんどなのです。なので伝説レア鉱石はめったにお目にかかれません。私も2度見たことがあるのですが、どのような用途に使われたのかはわかりません」
オリバーが智也の方を向いてこういった。
「私も伝説レア鉱石は何度か見たことはあるのですが、やはり有力な商人か、超級冒険者の多数パーティーか、ほんとに発掘マニアが持っていたことがしかしりません。普通は手に入れることはできないので、伝説レアと呼ばれるのでしょう」
「それを聞けば俺も伝説レア鉱石欲しい気持になります」
「いや、超激レアでもいいです」
「いや、激レアが大したことないとかそんなこと言ってるわけではないですよ。あくまでその、目標というか」
「激レア鉱石が欲しいのならオリビアに頼むといいでしょう。最近オリビアは鉱石について興味をお示しになり始めたので、いい機会でしょう。もしかすると採掘しようという話に発展するのかもしれません」
「本当ですか!?」
「お嬢様を信じてください。彼女は今鉱石に虜になっています」
「オリバーなにか言った?」
「いいやなんでもありません」
あの頃を思い出す。はじめての武器屋に二人で入ったとき。二人でどの武器や防具にするのかあれこれと悩んでいたあの時は楽しかった。できれば彩子にいい装備をしてほしい。そのためにできるだけいい鉱石を集め、より強力な装備を新調したい。強力であればあるほどより安全に旅が続けられる。それに自分はともかく彩子には安全でいてほしんだ。あの冒険者と話すのはいい装備が手に入ってからでいいじゃないか。そもそもこの世界に何なのか分からないのに、装備が手薄なのは軽薄なのではないか。やはりより充実した準備が予測不可能な現実への対策になるのではないか。まずは装備は新調するために鉱石やドロップアイテムを集めることにするか。まずラキ村にいき、そもそも武器にどんな鉱石が必要かとか武器防具についてもろもろ聞かないとな。
「ラキ村はもうすぐですよ。」




