再会
執筆中
広い荒野ポツンポツンとした黒い点が束になって集まっていた。相対的にそれよりも大きな黒い点がそれに近づくと一時的に止まり、また歩き出した。その黒い点は智也たちであった。彼らはファシーの両親と共に彼らの乗っていた列車に向けて移動している最中であった。ファシーは自分の両親をじっと見つめている。ファシーの両親はとても強く、智也らでは苦戦したであろうモンスターを簡単になぎ倒し目的地に向けて確実に歩を進めていた。ファシーは両親を尊敬している。この間の召喚も母親が使っていたのを見て、自分もやりたくなったのだ。しかし両親のようにはそう簡単にはなれなかった。彼女もそれをわかってはいるが、それを踏まえて両親のことを尊敬しているのだ。彼らはファシーのまなざしを受け止めたり、受け流したりまちまちだったが、ファシーのまなざしを尊敬の念を絶やさないよう工夫していた。彼女はエルフ族出身で多種族よりも寿命が長い。それもあってか彼女の両親やダリンは人間族よりもステータスは大きく上回っている。ファシーは100年近く生きてはいるが、そこまで強くはない。しかし彼らのように長い時間をかければ彼らのように強くなれるのかもしれない。荒野を進んで一週間が経ち、列車が遠くにかすかに現れた。智也とウォーラーは大喜びで列車に向けて走り出した。智也が口を開いた。
「おお、たぶんあれだよな」
ウォーラーが返事をした。
「おう、やっとおでましか」
ファシーが智也とウォーラーの会話を聞き、興味を持ったようだ。
「なあ智也、そこにお前の仲間はいるのか?」
「はい」
「智也の仲間って絶対面白いやつだろー。あー楽しみだなー」
「そうでもないですよ」
「またまたー。智也もすこし変な奴だから」
「お前が言うな」
「ははは・・・」
「俺行ってくる!」
「ウォーラー?」
「あいつに無事を伝えなきゃな」
そういってウォーラーは走り去った。
「私を置いていくなんて、百年早いわー」
ファシーが突然大声を出し、ウォーラーを猛スピードで追いかけた。ファシーの移動速度は馬のそれよりも格段に速く、バイクでかっ飛ばすくらいの速さだった。
「おい、俺を置いていくなよ!」
「ファシーか?」
「ていうかお前速いな。いつの間に俺の目の前に」
「そうだろそうだろ。すごいだろ」
「そうか」
そういってウォーラーがファシーの横をすり抜けて、走り出した。
「僕に勝てるとでも思ったら大間違いだぞ。きっと油断させて一番乗りするつもりだろ。んなもん俺が許すかー」
「ド―――ンッ」
「スタスタスタスタ・・・」
「ドドドドドド・・・」
ファシーが荒野をぐるぐる駆けまわった。ウォーラーは走りながらその光景を見ていて少し笑っていた。ファシーはウォーラーが笑っていたのを見て、にやけづいた。
「おーい、ファシー!こっち来ないかー!?」
ウォーラーがファシーに呼び掛けた。彼女がそれを聞いて一目散に彼の目の前に現れた。
「何か用か?」
ファシーがウォーラーに聞いた。
「そんな元気があるなら俺を担いで走ってくれよ」
「でもウォーラーお前重いじゃないか?」
「いわないでくれよ。俺もすこしは傷つくぞ」
「悪かったな」
「じゃあ俺と一緒に走らないか?」
「そういってゴール直前に私を負かすつもりだろ!」
「いや、勝つつもりなんてないし。ただ面白そうだと思っただけだ」
「さすが私の相棒だな」
「そういってうれしいぜ、ファシー」
彼らはそれから二人で智也ら一行を置いて走り去ってしまった。両親はファシーのことをどう思っているのだろうか。彼女はとても明るいがすこし不器用なところがあるそうだ。両親はファシーのことをずっと見届けていた。彼らが走り去った後は退屈そうに歩いていた。取り残された智也と両親は何事もなく列車にたどり着いた。智也らがたどり着く30分前にはたどり着いていたようだ。
「あ、2人が走ってくる」
「まさか、智也さんとウォーラーさんですか?」
「わかりません。でも一人はウォーラーさんのような気がします」
「本当ですか!」
彼女がそう言って、窓を開けてその2人の人影を覗き込むとウォーラーと思わしき人物がそこにいた。
「おーい、おーい」
「おーーーい!」
ウォーラーは叫びながら列車に向かっていった。
「ガチャンッ」
オリビアは大急ぎでドアを勢いよく閉め、外へ駆け出し全力でかけた。
「お、オリビア!」
ウォーラーは彼女の姿を確認し走りながら手を大きく開いた。それを見てオリビアも手を大きく開き返した。
「オリビアッ」
「グッ」
2人は久しぶりの再会に抱き合った。オリビアは瀕死の状態でウォーラーは助からないと思っていたので、ウォーラーが生きていたのを夢にも思っていなかった。それでも彼女はウォーラーの無事を祈り続けていた。彼女はその時智也のことが不思議と思い出された。彼はやはりやり遂げてくれたかととてもうれしい気持ちになったと同時に、なによりウォーラーが生きてくれていたことに心から喜んだ。ウォーラーはオリビアを心配させて心にわだかまりがあったのだろう。再開に二人は喜び合った。
「ジー―ッ」
ファシーはその様子をまじかで観察していた。旅友がいきなり少女に抱き着いたので、頭の中は混乱状態だった。
「ジー―ッ」
ファシーは彼らを見るのをやめなかった。しばらくして2人は気持ちが収まったようで、あたりを見回してみるとファシーが2人をじっと見つめていた。
「なんだ、ファシー?」
「なんだじゃないぞ!いきなり抱き合って何もなかったじゃすまされないぞ!」
「つい感極まって」
「ついじゃこんなことにならないぞ!だから若造は」
「智也は!?」
彩子が車外に出て彼らの元へ来た。ウォーラーと智也ではなくて、耳の長いエルフだったからだ。まさか智也が何かに巻き込まれたと思ってしまったようだ。
「智也ならもう少しで来るぞ」
「あの?」
「ああ、悪かったな。私はファシーっていうんだ。よろしくな」
「それで智也は?」
「彼なら私の両親と共にここに来るぞ。たぶんもう少しで」
「そうなんですね」
ウォーラーが会話に混ざりたいと言わんばかりに話し合っている2人に近づく。
「おう、智也ならもうすぐ来ると思うが」
ウォーラーがあたりを見回すと、3人の人影が見え始めた。次第にその人影が智也とファシーの両親だということっがわかった。
「っっしーーーっ」
智也が列車にたどり着いたので少し気持ちが落ち着いた。彼は一人で瀕死の人を抱えてモンスターに襲われないように気を付けながら、助けなければと思い必死だったあまり彩子とオリビアを見て気が休まった。
「智也!」
「なんだ、彩子か。どうしたんだ?」
「心配かけないでよ、もう!」
「おう、悪かったな」
「んーーーーっ、んーーーーっ」
「泣くなよ、俺が悪かった。無茶するからな。ごめんな」
「ごめんじゃないよー。んーーーっ」
皆は久しぶりの再会でこれまで蓄えた気持ちを吐き出した。しばらくして皆は車内に戻り、支援が来るのを待った。1週間ほどが経過し、冒険者一行がやってきた。車内の人は次第に冒険者の馬車にそれぞれ乗り、智也らも乗ることになった。
「それで、私は入れてくれるのか?」
「はい。大丈夫です」
「よっしゃ!」
「本当に大丈夫なんですか?」
智也はファシーのことが気になり、両親に問いただした。
「大丈夫ですよ。ファシーのやりたいようにやらせているんですから」
「じゃあ、行くということで」
「たりまえだよ!」
「ファシー」
「なに母さん?」
「私の召喚獣を持っていきなさい」
「私でもすごいの出せるよ」
「旅は危険なんだ。お前のレベルじゃあちょっとしたものでないと使役出来ないだろうよ。これを持っていけ」
そういって彼女は召喚を始めた。地面に魔法陣が描かれ光の概形が出てそれは獰猛なゴリラのようなモンスターに変貌した。
「それはランドというモンスターさ。頼りになるだろうよ」
「でも私だって」
「いいから持っていけ」
「わかった」
使役者変更の儀式が始まり、そこには少しの人だかりができた。儀式は無事成功し人だかりは次第に亡くなった。
「これで心配はいらなだろ。でももしヤバくなったら絶対に逃げろよ。それかお前だったら小さな召喚獣を出せるんだったよな。私たちに詳細をそれで伝えろ。わかったらすぐ駆けつける。心配すんな、私たちはそこらじゅうのチンピラには負けはしない」
「わかったよ」
「じゃあな、無事でいろよ」
ファシーの両親はファシーを含めた10名パーティーを見送りエルフの村に帰っていった。ファシーは仲間ができた反面、少し寂しそうに見えた。もう慕っていた両親にそう簡単に助けを呼ぶことはできない。そう考えるとファシーは心の余裕を少し持てなくなったような気がした。しかし新しい仲間が増えて、知れることもあると考えたらその不安もすこしずつ減ってきたような気もした。彼らを乗せた馬車は大都市ウェーゼに行くことが出来る町に到着した。
「あと少しでウェーゼだな」
「そうね」
「それであの冒険者に会って、そして危険を避けつつ旅をつつける」
「でも旅に危険はつきものよ」
「そんなもんわかっているよ」
「それでその冒険者の名は何なの?」
「ああ、彼は冒険者ムラセというようです」