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ボイスリアクト  作者: 夕村奥
第二章
15/31

違和感

執筆中

今日のオリビアは調子が良かったようだ。俺は騎士団学校の時に始めて彼女に出会った。その頃の彼女はまだ幼くとても小さく俺がよくかわいがったもんだ。両親に連れられて彼女はいつも騎士団学校に顔を出した。休憩時にその姿を見たことがあった。彼女は俺の方を向くとすぐそっぽを向いた。突然の彼女の対応に心底傷ついたのだが、俺のことにかまってくれて少しうれしかった。それから俺は彼女の顔を向くようになった。すると彼女がきまってそっぽを向き続けた。俺たちの出会いはこのそっぽ向きから始まったんだ。次第に彼女が成長し、少しづつそっぽを向いてくれなくなった。しかし今度はこちらに顔を向けずにちらっと俺の顔を見たので俺が気付いたら、目を合わせないようにして元の位置に戻した。彼女はそういう人間なのだ。自分自身よりも他人の様子が気になるのだ。興味を持ったものはとことん追求し、それを調べ上げようとする。その中で彼女は少しづつ成長していった。俺が18の時、彼女の両親と彼女と俺とで屋敷で一日過ごしたことがあった。俺は初めて彼女の屋敷を訪れた時、当時の俺には感じられないような光景が広がった。俺は彼女に歓迎されてとても喜んだとともに、少し申し訳なさを感じた。彼女も俺に興味を持っていたと思うのだが、どちらかというと俺が一方的に彼女の方を向いていたのだ。しかしもちろん彼女の両親もだが、彼女も俺を懸命に受け入れてくれたのだ。その時彼女らの本当の優しさを感じた。当時感じたことのない柔らかな感情が俺を覆いつくした。屋敷の中に入るとまず目の前には大きな階段が現れた。彼女はその階段を上り、数段目で止まって俺の方を向いてきた。

「こっちですよ、ウォーラーさん!」

「おお」

俺は彼女ほ後をつけて2階に上がった。そこには幅1メートルほどの廊下に四方にはドアがそれぞれついており、彼女は2番目のドアに入った。ドアを開けると大きなベッドとぬいぐるみを見つけた。大きなぬいぐるみはベッドの上に置いてあって、それ以外の小さなぬいぐるみは部屋の隅に並べて置いてあった。大きなぬいぐるみはどうやら何かの星のような形状をしていた。色は紫色で少し緑と黄色が混じっていたようだ。彼女はそのぬいぐるみに触れずそれ以外の熊や犬や木のぬいぐるみに触れ始めた。彼女はぎゅっと熊のぬいぐるみを抱いて、犬のぬいぐるみを抱いて、最期に木のぬいぐるみにすこし左手を触れた。するとこちら側を向いてきて

「あ、ごめんなさい。ちょっと準備がありますのでここで待っててください」

「はい」

彼女はちょっと赤い顔で恥ずかしそうに俺に言った。彼女がその部屋を去った後、おそらく彼女の部屋であろう部屋をさっと見回してみた。すっと目に入ってきたのはあの星のぬいぐるみだった。そのぬいぐるみは少し違和感があった。この部屋には異質な存在感を放っていた。もちろん彼女の趣味もあるだろうが、それにしても目の前にグッと力をかけてきた。気になって触ろうとしたのだが、その時彼女がこの部屋に戻ってきた。彼女は顔を赤らめながらこちらに目を向けてきて

「あの、いいですか。これ、ちょっと」

そういうと彼女は小さな植木鉢に入っていた植木を俺に差し出してきた。突然のことで驚いたが、受け取った。彼女はその後この部屋をすばやく立ち去っていった。後から調べるとどうやらモミの木の苗木のようだった。彼女はそのままここに戻ってくることはなかった。オリバーにきくといつもの部屋で窓の外を凝視していたようだ。純粋さや意地っ張りなところがやはりオリビアだなと思わせてくれた。俺はオリビアのそういうところが好きなのかもしれない。屋敷の出来事以来、これからオリビアのことをできるだけ守りたい。そう思った。しかし彼女はそれを拒否してくることが多い。たぶん俺を巻き込みたくないからなのだろう。でも俺はオリビアの責任者としてこれまでやってきたつもりだから、何があろうと守り抜いて見せる。

「ウォーラーさん!」

「おお、オリビアか」

「今日の食事が出来ましたよ」

「おう、ありがとう」

しばらくしてドアのノックオンが聞こえた。

「ドンドン」

「ガチャ」

「食事が出来ましたよ」

「おう、オリビアから聞いたぞ」

「・・・はい」

「ガチャ」

智也はちょっと不器用なところがあるようだ。ダイニングに行くとそこにはいつものように様々な料理が広いテーブルに並べられていた。その料理は当番が決まっており、基本的には料理が得意な人が担当する。しかし智也はボイスリアクターがあるので、料理という料理をする必要がないのだが、料理スキルを身に着けるさせるためにあえて料理をさせているようだ。それも彩子の差し金なのだが。今日は2人衆の一人、ショーンが担当するようだ。彼は料理が騎士団の中でトップクラスで得意でどんなものでも見様見真似でつくれるのだ。試しに智也が出したかつ丼を味見をしてレシピを聞いてたった30分で完璧に仕上げたことがある実力の持ち主だ。彼の得意料理はパエリアで王宮で出したこともあるらしい。俺は自慢じゃないがウォーラー弁の創業者で味には自信がある。パエリアを早速味見したのだが、味は見事だった。彼らもパエリアを完食し今日のモーニングは終了した。

「あの、今日からの行程なのですが・・・」

オリビアが発言した。

「今日の12時30分からのウェーゼ行きの列車があります。時期もあり今日はこの便で最後で明日はありません。今日でいいでしょうか?」

「・・・」

「どなたか意見はありますか?」

「・・・」

返事が一向にない。それはそうだ、この決断が命を分けるのかもしれないのだ。そう簡単に決められるはずがない。しかしこの路線で行くことは決まっている。

「はい。俺は今日にしようと思ってます」

そう発言したのはサルトだった。

「このままだれてもしょうがないですよ、皆さん、しっかりしましょうよ」

その時智也の目の前にヘンリーが現れたように感じた。彼の頭の片隅に落ち着いてきた彼の像が、彼の表層意識を覆いかぶさるように彼の頭の中を覆いつくした。智也にはヘンリーが目の前に現れているように錯覚しているみたいだ。

「やりましょうよ。智也さんならできますよ」

「私にお任せください。絶対に守って見せます」

ヘンリーの像が彼に語り掛け、彼の心にカツが入った。

「俺もサルトさんに賛成です。このままではらちが明かないです。今日出発にしましょう」

「私はなるべく危険は避けるべきだと思う。命を失うなら中断するのもありだと思う」

「皆さまはどうですか?」

「俺はオリビアがどうしたいかだよな」

「兄貴、どうしますか?」

「じゃあ、行くか!」

「そうですか、兄貴」

「都合のいい時だけ兄貴呼ばわりすんな!」

「ははは・・・」

「彩子さんはどうですか?行きたくなかったら行かなくいてもいいんですよ」

「私は・・・」

「彩子、行こうぜ」

「あなた・・・」

「いざとなったら俺が守るから」

「そんなこと言ってまた失敗するんでしょ」

「今度こそはまもるから」

「またそんなこと言って・・・」

「私も今日にします」

「彩子さん、いいんですか?」

「みんなも決まっているみたいだし」

「今日12時30分の便にしますよ。いいですか?」

「はい」

「うん」

「おう!」

こうして今日の12時30分発ウェーゼ行き列車に乗ることが決定した。大都市ウェーゼまでは列車で1週間。途中駅なくひたすら荒野が続く一度も降りられない。降りるとあの荒野のモンスターは最近になっりステータスが別格に高くなっておりブラックウルフでも平均ステータス1080もあるらしい。シャドーウルフであれば1440、荒野エージェイル特有のモンスター、ドラムスコーピオンがおり平均ステータスが1510で野生ではかなり強力だ。幸いだったのはドラムスコーピオンが単独行動を好むという点だ。ドラムスコーピオンは上半身はかなり大きく体当たりなどの打撃系にとても耐性があり、それに尻尾の突起から毒を高頻度で噴射し、突起で攻撃してくる場合もある。もし当たれば大きな致命傷になるだろう。彼らは傷薬をもっていっているのだろうか。もし持っていないのなら今すぐアイテムショップに行って仕入れるべきだ。最近ドラムスコーピオンの目撃情報が多数寄せられており、大きいものでは体長15メートルほどのものがおるらしい。数年前には大きくても8メートルほどのものしか目撃されなかったのだが、今では8メートルのものが当たり前のように目撃されており、15メートルのほどまで確認されるようになった。これから次第に大きくなっていく勢いだ。しかしそれは上級冒険者数人で対処することが出来ている。あの列車に損害を与えているのはドラムスコーピオンではないのである。襲われた当人は、襲ったものの動きを検知できなかったらしい。偶然見たことが出来たものがいた。しかしその人物がいったい何者なのかはわからなかった。見たことのないものに体が覆われており、顔が隠れていたのだ。得体のしれないものが高速で襲ってきて、反撃もできずにやられていったようだ。その中には殺されてしまったものもいた。どうしようもない戦力差に誰もがかたずをのんだらしい。旅のメンバーは超級冒険者2(3)名含む計9名でどうにかなるかもしれないが、実質戦力は剣豪サルトとオリバーくらいだろう。圧倒的な戦力差があれば争いにすら発展しないのだ。彼らがどれほど通用するのかわからない。会うことがないことを祈るだけだ。


彼らは屋敷を出て、駅に向かった、大都市セレントリウスの主要駅の一つヴァラド駅で駅周辺は発展を終えており、建物の老朽化が進んでいる。しかしまだ都市の中でも大きな区画で様々な物が行き交っている。彼らはその建物群を眺めながら一直線にヴァラド駅に向かって歩いた。ヴァラド駅はものすごく大きな駅で線路が何車線にもわかれていて別々の方面の列車が止まっていた。駅構内に入り、しばらく歩くと乗り場が見えてきた。切符を買い、乗り場に向かった。数々の列車から大都市ウェーゼ行きの列車を選び、狭いドアを一人ずつ抜けてそれぞれ席に座った。しばらくすると列車は音を立てながら動き出した。

「パ―ン」

「ルルル・・・」

「ガタン、ゴトン・・・」

「ガタンゴトンッ・・・」

彼らを乗せた列車は走り出した。大都市セレントリウスの街並みを抜けていき、しばらくするとトンネルに入った。トンネルを抜けると、一面の荒野が広がっていた。何もない真っ平な大地に赤い乾燥した土が覆われている。たまに岩を見るくらいで、とてつもなく広い荒野だと皆は実感した。列車はとまることなく進んでいき、2時間ほどが経った。彼らも何もすることがないのか、荒野を一思いに眺めているばかりだ。退屈しのぎにポツンポツンとある岩石の数を数えたり、かすかに見える山を眺めたりしていた。彼らがこのまま無事にたどり着くんじゃないかと思うほど順調に進む列車。止まることがなくひたすら走る列車。そのことに感銘を受けた人物がいた。その男は揺られる自分と進み続ける列車に共通点を見出したみたいだ。彼は自分自身を肯定してくれる仲間が欲しかった。彩子はずっと彼のそばにいてくれているが、彼の望むものとは少し違うらしい。彼の望むものを周りの人間は与えることが出来ないでいる。しかし彼の助けにはなっているはずである。だが本当の彼の思いを理解するのはとても難しい。だから皆は彼から距離を取る。友達と高頻度で遊びに行く彼だが、彼らとの間には少しの壁がある。彼の友達は彼に遠慮しているのだ。友達の対応を受けて自分を見つめなおすことがあるが、わからなかったことの方が多かった。結局、誰も彼のことを理解してくれない。そう思ってたのだがやはり唯一彩子だけが理解をしてくれる。どうしても信じられない他人と自分自身にたびたび嫌気がさす彼の葛藤が彼自身をリアクターに選んだのかもしれない。周りの人が選んだのかもしれない。自身のすべきことに苛まれながらここまでの人生を生きてきた彼に賞賛の言葉をかけることが出来る人間がいったいいくらいるのだろうか。

「ガタンゴトンッ」

「ガタンッゴトンッ」

「ガタンッゴトンッ」

「ガタゴトッガタゴトッ」

列車はとまることなく限りなく続く荒野の上を地平線の彼方まで走り続けた。荒野にまたがる一本の線路。その上を一直線に走る一本の列車。彼らを乗せたそれが止めどもなく大地を横切る光景はどうしようもなくめんどくさい彼の意志そのものだった。彼らは全体が5両の4両目に乗っており、その車両では数ペアが談笑をして楽しんでいた。智也のパーティーは比較的静かで暇な時間を持て余した。列車は黒い塗装に金色のラインが一本車両側面中央をひかれていて、重厚感のあるつくりだった。側面には窓ガラスが張られていて、反射率が高く自分の顔が映るくらい磨かれたものだった。

「ゴトン」

美しい音色と共に夜には静寂の時が訪れた。低く落ち着きのあるジョイント音が静かな車内に心地よく響いている。彼らは心地よさで普段より早く眠ってしまったようだ。こうして一日目を無事に乗り越えることが出来た。残り約6日。最近はモンスターの出撃情報も多く、奇妙な事件も立て続けに起こっている。昼間の緊張感と裏腹に夜の皆の寝顔は暖かかった。一日目の夜は車掌が巡回に来て2度車内を行き来しただけで皆無事だった。やがて日が姿を現すようになり、車内に朝日が訪れた。サルトが朝日の光を感じ目を覚ますと、オリバーが無心でこちらを向いていた。サルトはこっくりをして、再び目を瞑った。しかし彼は寝るふりをしているだけで、本当には寝ていない。十分時間がたちウォーラー達が目を覚ましたようだ。彼らはいつものように3人で談笑している。彼らの談笑で車内の活気がついたようだ。その活気でたメンバー全員が目を覚ました。昨夜何もなく夜を明かせてよかったと彼らは思った。1時間ほどが経ち、車内の朝食が出た。それを食べ終えると何事もなかったかのようにいつもの時間に戻った。昨日と同じように静かなものとうるさいものが車内に混じっていた。時々うるさいものの声が聞こえてくることがある。これはとあるパーティーの会話の一部始終である。

「最近立て続けにモンスターが現れているらしいぜ。やばいんじゃねえか?俺時間がなくてこれしかなかったんだよ」

「俺も」

「うん」

「だよな。モンスターの出現場所が明白じゃなくていつ襲われるかわかったもんじゃないよな」

「でも冒険者毎回雇ってるらしいじゃん。大丈夫じゃね」

「冒険者でどうにかなってるらしいがわかんねー」

「鎧のバケモン聞いた?」

「は?なにそれ」

「教えて教えて」

「そいつ最近現れたみたいだけど、チート過ぎてお手上げらしい」

「んなわけ」

「いや、わからない。そういうのよく聞くよな」

「ギルドの募集みたんだよ。そしたら他より報酬が2、3倍あった。絶対なにかあるわ」

「ほんとか?」

「マジ」

「やば」

「もしあったらどうすんの」

「列車が止まったらなるべく遠くに逃げるしかないんじゃね」

「お前レベル53もあるからいけるんじゃね」

「無理。上級冒険者でも歯が立たんっていってた」

「マジか」

「そういえば今回冒険者ってどんな奴雇われてるの?」

「いつも通りだよ。上級5人」

「俺、覚悟決まってねー」

「俺も」

「僕もそうだよ」

「もし出会ったら真っ先に逃げようぜ」

「だな」

その会話を聞いていたオリバーは顔面蒼白になりながら、サルトの顔を凝視した。

「あの、オリバーさん」

「おお、すみません」

「何かあるんでしょう」

「いや何でもないです」

「そういやあの人らの聞きましたか?鎧のなんとか」

「おお、あなたもお聞きになっていましたか。鎧の化け物というのは昔から何度も報告されている鎧にまとわれた生命体です。数種類あるのですが、総じてとても強力です。緑色の胴体に特段大きく鋭い爪をもった腕が特徴のものは今から数か月前に発見されていて一撃で家を半壊させたそうです。その街にいた上級冒険者ら20名ほどで取り押さえましたが、逃げられてしまいました。赤く鋭い眼光で両腕からビームを放つものも有名です。威力はけた違いで村を半壊させたこともあるらしいです。ステータスは総じて2000越えです。その中でも圧倒的なのはオレンジ色の胴体に片腕に大きくとても長い剣を持ち反対の腕に大きな武器が取り付けられたものです。何をしているのかわからず詳細は不明です。伝承にはオレンジの機体には注意しろとの記述がありました。誰がその機体をつくったのかはわかりませんが、この世界の技術ではないのかもしれません。どこか違う世界から持ち込まれたものなのか、それとも知られてなかっただけなのか。しかしオレンジであればもう逃げ場はないでしょう。私達では手も足も出ないでしょうから。それに長い間目撃情報もありませんから大丈夫でしょう」

「2000オーバーですか。逃げたほうがよさそうですね」

「基本的には皆を早めに逃がして私たちで食い止めることを考えましょう」

「そうですね。できればそいつが撤退してくれたらいいですけどね」

「私もあなたにお手伝いします。必ずパーティーを守り抜きましょう」

「はい」

「ねえ、オリバーなんの話してるの?」

オリビアが椅子から顔をひょっこり出してオリバーに問いかけた。

「ああ、オリビアには関係ないです」

「なんだ」

「はい。ウェーゼ楽しみですね」

「楽しみ。3年前に行ったきりそこには行かなかったからね。学術都市で有名でそこの図書館は王国でも随一の図書館でよくいったよね」

「はい」

するとオリビアは定位置に座った。向かいには智也と彩子が座っていた。

「皆さまはウェーゼに御用があるんですよね。それでは王国最大級の王国図書館にお行きになられては」

「そこはなんか特殊なんですか?」

「とんでもないです。全国すべての本がそこに置いてありますのでボイスリアクトについての本もあるはずです。それにその他この世界の情報も読み切れないほど沢山あります。」

「そんなこと聞いたらワクワクしてきました」

「智也さんらしいですね」

「そうですか」

彩子は彼らのおしゃべりの最中窓の外を眺めていた。すると大分向こうに大きなサソリのようなものが見えた。体長が10メートルくらいで胴体が比較的大きかった。モンスターが出るとは聞いていたが、こんなに大きなモンスターは荒野では見たことがなかったので心配したが列車が走るとやがて見えなくなった。安堵したとともに恐怖を感じた。

「ねえサソリってここに出るの?」

「サソリ?俺にはわからん。オリビアさんここって何か出るんですか?」

「この荒野エージェイルには有名なものでドラムスコーピオンがよく出没します。それ以外にも強力なブラックウルフやシャドーウルフなども出没しますね」

「ドラムスコーピオンってどんなモンスターですか?」

「なにより強力な毒が厄介ですね。あのモンスターの毒は猛毒なんです。浴びるだけで耐性を持っていないすぐ痺れます」

「長い尻尾の突起を対象に振り回してきます。図体のわりに速いので油断をすれば避けられないです。荒野でブラックウルフを討伐した冒険者が2名ほど突起に当たりまして、一瞬で麻痺して動かなくなったそうです」

「相当危険ですね。俺たちは解毒薬は2つ残っているんですけど、さっきの町で買っておけばよかったですね」

「念のために私9つ買いましたよ。これで全員襲われても大丈夫です」

「オリビアさん、ありがとうございます」

「私もお二人についていくと決めたんですから、そんなの当たり前ですよ」

「もしかして長いしっぽって言ってなかった?それならさっき見たよ」

「彩子、本当か?」

「うん」

「そろそろまずいかもしれないですね。危険区域に入ったのかもしれません。以前はここまで広がってなかったはずなんですが、今はもうここまで広がってたんですね」

「危険区域って?」

「荒野にはモンスターが出現しやすい場所がありまして、危険区域は比較的出現しやすいんです。混乱期になるほど危険度が増すのもこの区域の特徴なんですよ」

「今ってやっぱり混乱期なんですか?」

「そうですね。モンスターが以前に比べ巨大化しています。それに狂暴性が増しています」

「以前はここまで危険じゃなかったんですか?」

「はい。ここは私とオリバーで3年前に通った路線なんですけど、ブラックウルフがたまに現れるくらいでドラムスコーピオンを見ることはありませんでした。発見報告はまれにありましたが、せいぜい8メートルくらいの大きさのものが報告されるくらいで上級冒険者数名でも十分対応可能でした。しかし今現在は10メートル超えのドラムスコーピオンよく出没するようになり、上級冒険者では対処できなくなってきました。なんとかそのモンスターは対処できているのですが、これからだんだんと巨大化していくでしょうからいつまで耐えきれるかですね。それに最近は未確認物体がこの列車を襲うようになりまして、上級冒険者ではとても足りないということになりましたが、超級冒険者を雇うには財政の悪化もありまして難しい面もあり、どうしても必要と判断したときにはボランティアを募っているらしいのです。ボランティアには様々な超級冒険者が参加しまして、レベル80のマーガットやヨシキ、サルシャなどが参加が多いです。マーガットは笛吹の天才でモンスターの発生を抑える能力を持っています。それにモンスターの感覚を狂わせて、元の正常なラインまでステータスを下げる能力も持っています。また、身体能力も高いですから、まだこの時代でも十分に活躍しています。彼女が一番頻度が高いですが、ヨシキも月に一度ペースでボランティアに参加しているようです。ヨシキはとても有名な実力者ですから荒野のモンスターや襲撃者にも対応することが出来ていました。リーダーシップもあり他の冒険者と力を合わせてモンスターや襲撃者と戦ってくれました。サルシャは獣人族出身の強力な冒険者です。獣人族は近年勢いを落としておりまして、獣人の地位は年々低下していきました。しかし獣人サルシャは国の惨事に駆けつけては対処してくれました。それに獣人族の中ではトップクラスの実力を持っており、獣人族の危機にも駆けつけ、惨事に対応してくれました。それでいつしか英雄と呼ばれるようになり、同族含めて国中から賞賛されるようになったそうです。そのサルシャも月に1度ほどボランティアとして用心棒になっているのです。3人は例外と言ってもいいですが、襲撃者を追っ払ってくれてるんですから、彼らの耳には聞こえていないかもしれませんが皆からひそかに感謝されているそうです」

「つまり超級冒険者の中でも上の方の人でやっと戦えるってことですか」

「そういうことです。彼らで力を合わせて襲撃者を追っ払っているのです。しかしその他は襲われている確率が高いですね」

「でもサルトさんも十分頼りになりますよね」

「はい。剣豪サルトは国のギルド戦で上位を維持していますから、彼らに劣らぬ活躍をしてくれるでしょう」

「何の力になれないのって悔しいな」

「え?」

「だからサルトさんやオリバーさんの力になれないのってリアクターとして恥だよなって」

智也は彩子の顔を向いてこういった。彩子は終始驚いているようだった。急に智也の一面を見て、彼の焦りを感じ取った。そして彼を励まそうとすると、オリビアが先をとったようだ。

「大丈夫です。智也さんはとても貴重なボイスリアクトを持っていますからそう簡単に危険に触れさせません」

彩子は彼女が先に智也を励ましたのを見て少し安心したとともに、不安を感じた。自分が必要とされているのかわからなくなってきているのだ。智也はこくりと首を傾けて、窓の外を眺めた。窓の外は少しきれいな色の荒野が広がっているように見えた。普通の荒野でも今の彼には色が違って見えたのだ。なぜ色が変わったように錯覚を起こしたのか、彼にはわからなかった。智也は3人で旅をしていた時と違ってオリビアに頼り過ぎていると思っている。それに少し違和感を覚えたようだ。しかし彼らの目標はウェーゼに行くというので同じだ。目的が同じなのだから、旅路も一緒であるが自分自身を奮い立たせないでいる。こんなに弱いのか自分はと嘆くこともあった。船でも屋敷でも列車でもいつかした3人の旅を思い出して、懐かしんでいる。自分自身の弱さと向き合いながら戦っていく智也。彩子はそれを見守るのだが一向に彼が彼女に話をしないので彩子は智也をフォローできない。やはり旅というのはとても難しいものだということを彼らは実感したようだ。困難が立ちふさがるから心が揺れ、あらぬ感情に流される。そして昔の記憶を忘れ、感情がぐちゃぐちゃになり昔の関係を維持するのも難しくなる。そうすれば心は離れていくのは当たり前で、その流れを止めることはとても難しい。彼らが自分自身に精一杯なのだから、関係に気を使うことが出来ないのだ。オリビアは彼らの様子を見て、何が起きているのか少しずつ分かりつつあった。そしてオリビアは姿勢を正し、前を向いた。




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