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ボイスリアクト  作者: 夕村奥
第二章
10/31

真価

今日もよく寝たな。今日は俺が先に起きたようだ。彩子がベッドで眠っている。俺が先に起きた時は俺は彩子にちょっかいをかけるときがちょくちょくある。しかし彩子はちょっかいを受け入れたことがない。俺の考えが間違っていたのだろうか。昔から俺は常識がないといろいろな人から言われてきたが、彩子にも言われてしまうと考えると、なるべくちょっかいをかけたくないと考えることがある。しかし俺は今日はオリビアと会う日だ。今日気合を入れないで何をするんだ。

「よう!彩子!」

「ん?」

「また智也いたずら?」

「おう!朝だぞ。起きる時間だぞ!」

「もう少し寝かせてよ。まだ朝になってない」

「ほんとに智也はいつも」

「スー――」

「また彩子寝ちまった」

しかし彩子に早起きという習慣はないらしい。俺は早起きはなるべくすべきだと考えていて、みんななぜしないのかわからない。しかし彩子はそういう考えはないらしい。彩子は早起きが素晴らしいとか幻想だとか言ってくる。俺はそういうこともあるかと思うが、基本的には得だと考えている。だから朝に彩子にちょっかいをかけるのかもしれない。大人になってまだ人にちょっかいしている幼いヤツだと思われていることは分かってはいるが、自分はちょっかいをかけないと気が済まないヤツなんだ。昔から短気で自分の気に入らないものを信じることが難しい性格でいる。この性格は受け入れられないことは分かっているが、ついこういうちょっかいをかけてしまうのである。その様子をヘンリーに見られたら何を思うのだろうか。ヘンリーは彩子にちょっかいをかける様子に一緒に喜んでくれていたのだが、本心ではどんなことを考えていたのだろうか。すくなくとも彼はこのような行為は一切行わなかった。俺もいつかヘンリーさんのような人間にならないといけないから、こんな様子ではだめだと思っているが変わることが出来ない現在である。

「おはよ、智也」

「おうおはよう」

「いま何時?」

「今は、・・・8時くらいだな」

「確か10時に中央広場で待ち合わせとかいってたよね。朝ごはん食べていかない?」

「そうだな。でも今日は俺が久しぶりにボイスリアクトで出してみるわ」

「お願い」

「クリエイト・・・・・フライドエッグアンドライス」

突如として彼らの目の前に目玉焼きとご飯が出現した。

「すごいわね。二つ同時に出せるようになったのね」

「二つ同時だけではないぞ」

「クリエイト・・・・・ウィンナー」

彼らの目の前に同様にウインナーが出現した。

「連続で出せるようになったのね」

「おう。これでやれることが増えるぞ」

「うれしいわ。なんか成長が見れて」

「たまに照れ臭いこと言うよな、お前」

「そんなに照れ臭いこと?そんなに気にするからもてないんじゃないの?」

「そんなこと言うなよ」

「はははは・・・」

俺たちは食事をしながら笑いあった。その時はとても楽しく、こんな気分になったのは久しぶりである。まるでヘンリーといたときみたいだ。いや、今日はオリビアと会ってこれからの旅の話をする予定だからこういう過去の話をするのはよそう。これからは新しい仲間と旅をするのだ。これから何があるのかはわからないが、これまでの経験を胸に頑張っていくつもりだ。そうだろ、彩子!

「じゃあ、行くか」

「うん」

「ガチャ」

「今日で宿の借用期間は終了です。次の機会もご利用ください」

「ありがとうございました」

「チリンッ」

「ザッッ」

俺たちはいつも通り中央広場に行き、あの馬車の前までたどり着いた。その馬車のキャビネットは白い車体が白銀に輝き、太陽の光を反射してまばゆい光となって俺たちの目にたたきつける。俺たちが馬車の目の前に来るとわかったように中からオリバーとオリビアが姿を現した。

「今日はいい天気ですね」

「そうですね。それで俺たちが過去に決めていた行程ですがまずこの町を出て荒野を抜けてセイユという町に行こうという話でした。それでそこで短期間ですが過ごして、それからオアシス都市トランドルという都市に行く予定でした。その都市からセレントリウス行きの列車が通っているとのことでしたから、列車に乗り、そこから列車でウェーゼに行こうという行程になっていました」

俺は以前に決めていた行程を事細かに話した。

「その行程には不備がいろいろありまして、まずオアシス都市まではセイユという町から150キロはありまして徒歩や馬車で向かうにはとても困難を極めるでしょう。それとトランドルという町ですが嫌な噂がありまして、お金を持っている人がたびたび誘拐されているそうです。それとセレントリウス~ウェーゼ間で最近なにやら不審な動きがありまして、列車がたびたび事故を起こして乗客が死亡する例も多々あるらしいのです。原因は分かっていないのですが、おそらく何者かがその列車を攻撃したのでしょう。襲われた列車にレベル60と55の冒険者を守らせていた時がありましたが、その冒険者も大けがを負っていたそうです。そのような連絡を聞きつけ、ステータスが1400以上の上級冒険者6名でその列車を守っていたのですが、上級冒険者だったので大けがをしたものは1名だけでしたが、なんらかの傷を負って帰ってきたらしいのです。超級冒険者であれば狙われることも少なくなるのですが、鉄道会社には超級冒険者を毎回のように雇っている余裕もなく今現在本数を3分の一まで減らしております。と、このような点が挙げられます。こちらの点はどう考えますか?」

「そんなことがあるんですか。知りませんでした」

「どうするの、智也」

「150キロくらい歩けるかな?」

「難しいでしょう。荒野の中を200キロも馬車で移動するのは困難です。それに夜にはシャドーウルフが出るとの噂です。その魔物がとても強力なので移動する途中に何度も襲われれば無事では済まないかもしれません。一応私も簡単な魔法も使えますが、シャドーウルフに効くかどうかは分かりません。オリバーはとても頼りになる騎士なので大丈夫と思いますが、200キロは危険だと思います」

「そのトランドルという町はそんなに危険なんですか?」

「栄えている都市は決して安全とは言えません。本当に安全な場所は案外都市から離れていたりするのです。特にお金を持っているものがいれば襲ってくると言われています。皆さまは大丈夫かもしれませんが、わたくしたちは狙われるかもしれません。できれば避けたいのですが」

「トランドル以外からウェーゼに行く道はあるのですか?」

「まずこの王国の王都のケントまでいってからそこからセレントリウスまで直行便の船があります。しかし馬車を乗せてはいけないので、ここで馬車は使えなくなります。王国のギルドで冒険者を募ってみましょう。少しはウェーゼまでついて行ってくれるかもしれません。しかしボイスリアクトがバレれば何が起こるのかわかりませんから本当に信頼できる冒険者を見つけないといけないですが。私でも精鋭とはいきませんが剣士や魔導士を募ってみます。ここからその首都ケントまでは100キロほどあります。しかしそこまでであれば多少馬車を飛ばせば2日ほどで到着することが出来ます。馬も限界があるのでケントが一番良いでしょう」

「ケントっていうところがあるんですか?ヘンリーさんからは全く話題にすら上がらなかったんですけど」

「それはそうでしょう。王都のケントはギルドの王国許可証が発行されていないとは入れませんから。王国許可証は案外手に入れるのが難しいんですよ」

「そちらの方がよさそうですよね」

「じゃあケントにいくということでよろしいですか?」

「はい!」

「じゃあまずそこに行ってから考えましょう」

「バンッ」

「ヒヒン」

「ドンッ」

馬車に振動が入り、内部は少々パニック状態になった。

「オリバー何が起きたの?」

「ブラックウルフの群れですね。少しお待ちください」

「ブラックウルフって結構ステータス高めだったような気がするのですが、大丈夫なんですか?」

俺は気になったオリビアに聞いた。

「大丈夫です。ブラックウルフならこれまでなん十匹もオリバーがやっつけてくださいましたから」

「気になるんなら、窓から覗き込んでもいいですよ」

彩子や俺は戸惑ってしまった。シャドーウルフと戦った時結構苦戦したのでその記憶がよみがえってしまったのだ。とても気になったので俺は窓から外を眺めた。すると体長1メートルほどの7匹のブラックウルフと馬に乗ったオリバーさんが見えた。オリバーさんは馬車に着けていた馬にまたがり、剣を大きく掲げ、7匹のブラックウルフを威嚇していた。次第にブラックウルフの方に剣先を向けて突然大声で叫んだ。

「カアァー―ーーッ」

「ズリャアーーーッ」

おそらく威嚇するためだろうがブラックウルフは動じない。その直後馬の後ろ脚が動いたと思ったら1匹目のブラックウルフの後方に現れ、剣を振り下ろしブラックウルフに一撃を食らわせた。そのブラックウルフはその攻撃で動けなくなった。

「ザッ」

6匹のブラックウルフが陣形を取った。おそらく本気で仕留めにかかるつもりだろう。2匹目のブラックウルフが馬の左、3匹目のブラックウルフが同じく右に移動し、4匹目のブラックウルフがじりじりと近づきながら、オリバーの集中が途切れる機会を探った。そこで5匹目と6匹目のブラックウルフがあたりを走り回りながら本気で敵の弱点を探ろうとしていたのがわかった。

「ブウンッ」

オリバーは危険と判断し、2匹目のブラックウルフを斬ろうとしたのだがあたりをまわっていたブラックウルフが一斉に馬の動体めがけてかみつこうとした。

「ガラウッ」

「グロロロゥ」

それに乗じ、オリバーの周りの3体と残りのブラックウルフが馬の脚にかみつこうとした。

「うおおりゃあっ」

彼が叫ぶと同時に周りの狼が近いものから斬られていった。余りにも速い剣さばきに狼たちは全く見極めることが出来ずに、周りの4匹は動けなくなった。残りの狼はその光景を見て、仲間を見捨てて帰っていった。

「オリバー強いでしょ?私の自慢の執事さんなんだ。オリバーが執事で本当によかったー」

オリビアはオリバーが戦闘で勝利し安堵している。

「ここまでオリバーさんが強いなら、これからの旅も安全ですね」

「ところがそうはいかないんですよね」

「どうしてですか?」

「先ほども言いましたがセレントリウスからウェーゼまでは列車でしかいくことはできません。その列車には熟練冒険者数人でも勝てないものが何らかの形で関与していると思われます。オリバーも熟練冒険者の一人ですが、ステータスを数年前にはかった数値だと1810くらいでそれでは列車の乗ってて襲われるとどうなるのですかわかりません。私は襲われないことを願います」

「でも襲われないこともあるんでしょう。襲われない方が確率高いですよね」

「最近は半分くらいは襲われていると聞きます。もちろん誇張なのでしょうがそれでも襲われる確率が高いことは言うまでもないでしょう。どのような形で襲われるのかも検討がついてませんし。ですからケントで仲間を募らないといけません。そこでなるべく戦力も増強させておく必要があります」

「それではボイスリアクトも戦力を増強させれる一つの手段ですよね」

「そうですが、使いこなすのがとても難しいと言われます。私の一つの能力、共感というものがあります。共感は人と人の考え方をつなげるものです。それを使いこなせればいろいろな人の考えを輸入できます。それができれば百人力ですがそのためには私のことを理解しなければいけません。ボイスリアクトは能力を使うには対象を理解したいなければ出現させることはできません。理解すると言っても一概にこうだとはいえませんが対象について興味を持っているのが重要だと言われています」

「あ、それヘンリーさんにも言われました」

「そうなんですね。私もそこまで詳しいことは分かりませんが」

「しかしこの装置のことってまったくわかりませんよね。何が正解なのかは全部その人自身にあるのかもしれませんね」

「たぶんその考えをヘンリーさんは好いていたのかもしれませんよ。普通の人に考えの及ばない概念を超えた考えかた。そういうところが関わっているんでしょうね」

「ザッザッザッ・・・」

「ゴロゴロゴロ・・・」

「あ、進み始めましたね。そういうことです。使い続けるうちにどんどんわかってくるはずです。他の人にばれない範囲でどんどん使っていきましょう」

「そうですね」

「ねえ、結局あのモンスターたちは倒せたのかな」

「オリバーが対処しました。ご安心ください」

「オリビアさんって結構オリバーさんのこと信用しているんですね」

「当然です。幼いころから私を大事に育ててくれたんですから」

「オリバーさんって優しい方だったのですね。だからオリビアさんも優しいんですね」

「え?それどういうことですか?私勝手に皆さまの旅について行ってるだけなんですが」

オリビアは謙遜した。

「そんなことないですよ。私たちがついて行ってるんですから」

「そうだな。こんな馬車にも乗せてくださって」

「感謝なんてしなくていいですよー。私すぐ気が昂っちゃう性格なんです」

「大丈夫ですよ。うちの智也なんてすぐ昂っちゃうんですよ」

「そんなことありません。智也さんは嘘をつけないだけですよ。なんかそういう性格なんですよね」

「おお。よくわかりますね、オリビアさん。あなたもしかして、占い師だったりして」

「そんなわけありません。私は生粋の貴族女性です」

「ははは・・・」

「ふふふ・・・」

俺たちはそれからずっと荒野をオリビアの馬車でひた走り、時間が経過し空腹になったところ、オリビアが口を開いた。

「そういえば智也さんはなにか出せるんですか。もしかして食べ物なんかも」

「出せますよ。これまでスパゲッティ、かつ丼、リゾット、目玉焼き、その他いろいろ出してきました」

「じゃあこの中のおすすめは?」

「あ、かつ丼ですね。勝ちたいときに食べるものです」

「あなた、冗談言うのはやめなさい」

「あ、さっきのは冗談で俺の好物だからです。結構うまいですよ」

「私食べてみたいです」

「じゃあ出しますね」

「クリエイト・・・・・カツドン」

彼らの目の前に一つのかつ丼が出現した。

「これがカツドンなんですか?」

「そうですよ。うまいですよ」

オリビアはかつ丼を見るやいなや目を光らせながら両手でどんぶりを抱え、片手に持ち替えてから大きな口をあけていただいた。口に入ったとき彼女の表情はとても真剣でまっすぐにかつ丼の方を向いていた。

「もぐもぐもぐ・・・」

「バクバクバク・・・」

「とてもおいしいです」

「それはよかった。俺もうれしいよ」

「ただ出しただけでシェフ気取りですか」

「それはもう聞き飽きた」

「はははははは」

俺たちは食事をとってからその馬車の中で就寝した。しらばくして馬車もとまり、馬も休むようだ。

「ヒヒン」

馬の声が響いた。その声を聴いて俺が起きるとなにやらオリバーが馬に世話をしているらしい。

「こらこらっ」

「おいおいあぶないだろ」

窓からその光景が見えることはなかったのだが、俺はオリバーのことを少しだけわかったような気がした。人間をワンシーンで全部がわかるわけはないとは思っていても全く分からないわけではない。俺はオリバーの優しいところを少しだけ理解できたような気がすると思った。俺はその姿を想像しながらそのまま眠りについた。


「起きてください智也さん。朝ですよ」

「おう、彩子か?」

「いいえ、オリビアさんよ?」

「うん?」

「おお!びっくりした。目の前で何をしているんですか?」

「少し、ずっと寝ていたので起こそうかなと思っただけです。なにか問題でしたか?」

「問題はないですが」

「それはさておきそろそろケントに到着しますよ。ここには何でもありますので」

俺は窓の外をのぞくとものすごく高い壁が立ち憚っていた。長く高い壁は大都市としての大きさを物語っていた。広大な都市を囲む高く長い壁の中から姿を現す高いビル、とてつもない大きな建物もそこら中にあった。俺が初めに来たあの町よりはるかに大きいものだった。しばらくその光景に見とれていると、都市を囲む高い壁のそばまでやってきた。その壁を近くで見るとまるで空中にそびえたつ摩天楼みたいでとても幻想的だった。

「この壁って何メートルあるんですか?」

「一般には40メートルくらいだと言われています。この世界はいかにゲームの世界だとは言え40メートルの壁なんて見たことがない。この世界よりも数段科学技術の発達した現代でもお目にかかったことは一度もないほどの高い壁。俺はその光景に心酔しきってしまった。今ここは異世界なんだと感じさせるには十分な景色を拝めた。それからゲートにたどり着き、王国許可証を見せた。そしていよいよ俺たちは王国のケントに橋を踏み入れたのである。オリビアさんによれば、この世界は多くの王国、帝国、民族で構成されていて、このハワント王国は人口8000万人を誇るらしい。ハワント王国のケントの人口は2000万ほどで他と比べて圧倒的な規模を誇っている。なのでこの広大な王国には門がいくつも配備されていて、俺たちは都市の中心から一番近い方を選んだ。ケントは中心部からその周辺10キロは放射状の体裁をとってあり、そのまわりは農村部で集落やマンション、家などが散らばって配置されている。俺たちは門に入ってからも王都の中心部まで相当馬車を進めなくてはならず、車窓に農地や川などがところどころに姿を現した。時々大きな高級住宅が現れることもあり、その時は珍しがった。やがて俺たちの馬車は住宅街にたどり着いた。その住宅街にはこれまでに見たことがないものが売っている商店がところどころに散在してあり、俺たちはそれに気になったので、馬車を降りることになった。

「よいしょ!」

「ザザッ」

俺たちが馬車を降りた時、日が高く昇っていてその日差しが顔にかかりそうで目をそらしそうになった。顔を見上げると彩子とオリビアの姿があった。

「それでは皆様、とりあえずこの町を散策しましょう。何かあればこの馬車に戻ってきてください」

「わかりました」

俺と彩子はそういって馬車を離れ、商店街にやってきた。その商店がには見たことのない果物や野菜、食器、遊戯道具などが売られていた。俺はそれが気になって商品を少し見回って満足してから、商店街を出て住宅街から出ようという話になった。

「なんか川が見えるよ」

「なんだ?」

俺は彩子の方に駆けて彩子の指さす方に目を向けると、小さな川があった。やがてその川の河川敷を散策してみようということになった。散策するとある少年を見つけた。その少年は座りながら川を眺めていた。すると彼はバッグから紙と板を取り出し、川に視点を合わせながらスケッチを始めた。俺はその光景を見てここで少し休んでみたいという衝動に駆られて河川敷に横になった。彼は山に視点を変えてスケッチをすると、そのまま数時間がたち彼も絵を完成させたのを機に寝転んだ。俺も寝転んでその姿を観察していたので、彼が寝転がってこちらの方を向いてきた。すると突然のことで俺も反応することが出来ずに彼と目が合ってしまった。彼はにっこり笑い、そのまま目を閉じた。俺は彼がぐっすり眠ってしまったのを見て、彩子の方を見やると彩子は遠くの山を眺めていた。俺は安心しきったのかそこで彼と同じように眠ってしまった。

「ググググッガガガアァ、ググッ」

「グウーーーーーッ、スピー」

「グウーーーーーッ、スピー」

「ん、智也寝ちゃったのか」

「私も寝ちゃおっかなー」

彩子がそう独り言をいってそこで眠ってしまった。しばらくすると彼らの後ろに馬車が現れた。オリビアがその馬車を降り、智也のところまでいくと、そこに膝を曲げて彼の顔を見つめた。智也のいびきを聞きつけてあの少年が起きたので、オリビアは話しかけてみた。

「そこにある絵はあなたが書いたの?」

その質問に彼は答えた。

「うん。僕が書いたんだよ」

「いい絵だね。それ」

「そう?僕もまだまだだと思ってるけどな」

「いいえ、とても上手だよ」


僕の夢は絵描きになることだ。僕は昔から物心ついたときから絵をかいていた。僕は周りの人よりも不器用でうまくいかないことがいろいろあった。でも絵をかくことでその気持ちを表現することができた。それに絵を描くことだけが僕の心の支えになっていたんだ。幼少期から僕は周りの人よりも孤独だったのかもしれない。だからこの気持ちを何かに表現しないと落ち着かなくて、他人が書いているのを見て僕も書いてみたいと思ったのかもしれない。僕はまだまだ未熟者だけど、これから立派な絵描きになりたい。その気持ちを伝えられる人がいたらいいと思っていたんだけど、絵を描く人なんて周りにいないし、絵にしか表現できない内気な奴だと思われることを考えて、誰にも伝えられない。だから僕には友達がいない。こんな僕には絵描きになる夢はあるけど目的もある。最近世の中の動きが激しくて様々なものがこの世界に生み出される。しかし生み出されたものこれまでにあった良いものを壊すこともある。僕は昔この世界にあった素晴らしいものを知っている。でも新しい流れがそれを洗い流そうとしている。その時に僕は胸に何かを感じる。この気持ちを絵にしてみんなに伝えなければ。そして、この世界に残されている素晴らしい何かをこの絵に表現し、世界に拡散させなければ、と思っている。未熟者なのでそれはまだかなわないが、いつか僕の考えが誰かひとりには届いてほしいと思っている。これは強欲ですか、創造主様。

「ファイト!」

彼はオリビアの応援を聞いて少し照れ臭そうにしながら、会釈をして自分の書いた絵を見た。そこにオリビアがやってきて顔を彼の頭の上まで持ってきて彼の絵をみた。彼は少し戸惑っていたがそのまま自分の絵を見つめ続けた。その絵はとても精錬で完成度は高かったのだが、まだ荒い部分も目立ち成長の兆しがよく見える絵だった。オリビアはその絵を見て、そう判断したのだった。彼女はしばらくその絵を見つめると、智也と彩子のところまで彼らを起こしに行き、それから馬車に戻り、河川敷を離れた。去り際に彼女がその少年に手を振りながらこう言った。

「またねー」

その少年は彼女に少し会釈をして、彼も帰る支度を始めた。馬車の中には二人が眠そうに座っていた。結局彼らはあの少年のことが絵を描くこと以外わからず仕舞いだ。もう少し話したかったのだろうが、彼らにはそんな時間的余裕はない。なぜなら彼らには王宮でパーティーが開かれる予定なのだが、彼らもそれに参加するからなのである。その日時が今日の夕方6時で、さすがに王宮のパーティーに遅刻するわけにはいかない。王宮まで一直線に向かって馬車を進めても間に合うかどうか。彼らは随分と冷や汗をかきながら王国の中心部にたどり着いたのが午後5時30分。それから王宮までの距離は3キロほどで彼らは15分でそこまでたどり着いた。しかし王宮は地上から50メートルの所にあり、とても階段がつらく、おそらく彼らにもつらい道のりだったろう。50メートルの階段を上った先に待ち受けていたのは、彼女の失態だった。彼女はパーティーの招待状を馬車に置き忘れたのだ。すかさず50メートルの階段を下りて、馬車までに戻って5分。そこからまた上るのに5分かかった。しかしパーティーの開始まであと5分は残っている、まだ大丈夫だ。そう思っていたのだがそのパーティーは6時きっかりのはずが5分前には到着するようになったいたようで、俺たちはぎりぎり間に合わなかったのだ。俺たちはそのパーティーでいい人を演じてギルド関係者や冒険者に気に入られて、旅に同行してもらおうという算段だったのだが、余裕のない人間と映ってしまったようだ。

「ぎりぎり間に合いましたね!これで計画が成功しましたよ!」

「いや多分無理でした。もうみんな集まっていますこれ」

「それにバテバテだしたぶん余裕のないヤツらって思われてますよ」

「いやー私の計画が」

「大丈夫です、オリビアさん。次の計画もあるんですよね。必ず強力な冒険者を旅に同行させましょう」

「はい!」

これが彼らがパーティー会場にたどり着くまでの様子とそれ以降の会話である。彼らも災難だったようだ。そのパーティーには王国ギルドの団長や役員、王国貴族や騎士などあまたの実力者が集まっていて、そのパーティーに呼ばれたことに彩子と智也は驚いたようだ。今からこの人たちに話をつけにいくと考えて少しビビってしまったようだった。しかし彼らにも度胸はある。せっかくのチャンスなんだからできると思っていたのだが全く話しかけられなかったらしい。オリビアは特に王国騎士に話をつけにいったようだ。彼らの中には了承するものとそうでないものがいたが、3名ほど捕まえることが出来た。彼らはケントを旅立つときから一緒に来てくれるらしい。対照的に智也と彩子は一人も捕まえられなかった。彼らは困難が前に憚らないと真価を発揮できないタイプだ。彼らには困難を避けるべき動機はある。彼らはあの都市ウェーゼまで無事にたどり着き、あの冒険者に会ってこの世界のことを知らないといけないのである。また、ボイスリアクトを使って、どうやってあの道具を出したのかなどを知ることが出来たならとてもこの先役に立つので、その冒険者になるべく早く確実に会う必要があるのだ。彼はそこにいないのかもしれないが、だからこそそこに早くたどり着かなければ、その人物がどこに行ったのか見当がつかなくなる。彼らには飛躍スキルもなければ、移動手段も燃料の残り少ないバイクだけだ。だからこの道をたどる必要があるのだろう。その後パーティ王国騎士3名のみの確保で終了した。彼らはそのことにほっとしていない。やはりもっと確保しておかなければいけないのだ。明日はギルドで募集をする計画らしいが果たしてうまくいくのだろうか。そして信頼できる仲間を選抜することが出来るのだろうか。彼らの旅はまだまだ続く。二人はこれから困難に立ち向かっていくことが出来るのだろうか。まだ彼らには受け入れていない部分があるのかもしれない。しかし彼らならどんな困難が立ち憚ったとしてもくじけずに乗り越えてくれるだろう。なぜならそれは彼ら自身が望んでいることだし、彼ら以外のものも望んでいるからである。




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