表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ボイスリアクト  作者: 夕村奥
第一章
1/31

実現の難航

300年前の町のはずれに体長40メートルの黒い体で構成された化け物が出現した。そのモンスターは悪魔と呼ばれた伝説のモンスターである。

「ゴオオオオオオオォ・・・」

口から一瞬光が生じると同時に住宅街に赤黒い光線が住宅街をまっすぐに突き抜け、光線上には何一つ残らなかった。

「ドオオオオンッ」

とてつもない威力の赤黒い光線を勢いよく放たれ住宅街を火の海にした。

「ドガガガガガガ・・・」

また、腕力も桁外れていて一撃で頑丈な赤レンガの建物を木っ端みじんに粉砕した。そのモンスターは出現地点から各地に赤黒い光線を放ちながら、周辺の建物を粉々にした。街に所属する冒険者はそれぞれ100人規模のパーティーを組み応戦したのだが、防御障壁を何重にも張っても口から光が一瞬見えて誰もそれを観測できずに粉々にするほどの光線によって、パーティーを壊滅させた。大きく頑丈な腕は一撃でパーティーを半分ほど戦闘不能に陥らせた。冒険者の応戦も空しくモンスターは中心部まで確実に歩を進めていた。

「キンッ」

冒険者の一人と思われる剣士が建物から現れ、渾身の一撃をお見舞いした。

「ドカンッ」

その冒険者はまるでスコップで土がすくわれるようににあっさりとはるか遠くに弾き飛ばされた。モンスターの目の前の教会には魔導士20名が横一列に並んでいる光景が確認できた。

「ドオン」

「ドオオォン」

「バーン」

彼らは一斉にファイアボールを放ったがモンスターには傷一つつかない。

「グオオオオオオオン」

モンスターは激怒して魔導士の方に光線を放出し、彼らは防御障壁を張ったのだが圧倒的威力の光線の前にはなすすべなく住宅街ごと彼らは吹っ飛んだ。モンスターは何事もなかったかのように歩き出し、人が大勢すむ街の中心部まで向かった。

「サクサクッ」

ある冒険者の攻撃がモンスターの後ろ脚に命中し、攻撃が皮膚を貫通した。モンスターが後ろを振り返るとそこにはエルフの姿があった。エルフは突然飛び上がり、モンスターの顔に風のブレードをお見舞いした。

「キイイインッ」

モンスターはブレードを腕で木っ端みじんに吹き飛ばし、反対側の前足をエルフに向けて猛スピードで振り回した。エルフはガードできそうもなく吹き飛ばされるところエルフの前に一瞬で現れ大楯で攻撃から身を守った大楯使いがいた。大楯使いが話しかけた。

「大丈夫か?」

エルフが恥ずかしそうに答えた。

「大丈夫よ。あんな攻撃へでもないんだから」

「じゃあ今回は俺たちだけでできるか?」

「無理よ。やっぱりあの人じゃなくちゃ」

「だろ。あいつらが来るまでのもう少しの辛抱だ」

モンスターは2人にかまわず歩き出したようだ。エルフがすかさずモンスターの目の前に現れ、行く手を阻んだ。

「ブブウウウウンンッ」

モンスターはエルフを腕で弾き飛ばそうと彼女を腕を彼女の下の方に構えたのだが、エルフはぎりぎりでかわし腕の上にのり顔面に攻撃をしかけた。傷は少しついたものもそれだけではモンスターの行進を止めることはできなかった。大楯使いがエルフを援護しようとしたとき、2人の超人が彼らの前に姿を現した。

「遅くなったな、お前たち」

大楯使いが彼らをずっと待っていたかのようにうれしい気持ちで答えた。

「やっと来てくれたか。俺たちは援護するからお前はあいつに攻撃してくれ」

「わかった」

「私も忘れてませんか?私だって攻撃できますよ」

「そうだった。じゃあ君たち二人に任せる」

エルフと大楯使いが援護にまわり、その他二人が攻撃を仕掛けた。ピンクの機体と大剣を装備した者がモンスターに猛攻を仕掛けた。

「ドオオオンッ」

ピンクの機体は両腕からビームを放ち、それがモンスターに直撃した。しかしそれはけん制にしかならなかった。

「グオオオオオオン」

モンスターは突然大声で叫び、4人の感覚を麻痺させた。その時モンスターが大剣を装備した者を薙ぎ払おうとしたが大楯使いがどうにか攻撃を受けきった。モンスターが攻撃している機にエルフとピンクはモンスターに立ち向かった。

「ギインッ」

しかしもう一方の腕で攻撃を受け止めた。モンスターの口に光が一瞬垣間見え、あたりが真っ白になった。

「ドドドオオオオオンンッ」

その赤黒い光線は先ほど放ったものよりも数段上の威力だった。メンバーは大楯使いがスキルを使い何とか耐えることが出来たのだが、あたりは粉々で大楯はその場で倒れてしまい3人だけが残った。大剣を装備した人物があたりを見回し、大楯使いを見た瞬間、彼のオーラが赤く変色した。すると彼が大剣を上に振り上げ、必殺技の準備をした。剣に水色のオーラがまとわり始め街中が一瞬白く光り、モンスターのまわりを水色の光が覆った。

「ドオオオオオオオオオンンッッ!!」

とてつもなく轟音が街中を駆け抜け、モンスターに特大の必殺技が直撃した。一定時間がたちモンスターはさっぱり消えていた。それを見ていた市民は一斉に歓喜の声を上げ喜び合った。モンスターが現れる前も勇者の存在を望んだが、モンスターがその街に出現したときには大いに勇者を熱望していた。勇者はその声に応え、この地に一目散にやってきてすぐさま街を脅かすモンスターを倒してくれた。その存在はその後何十年も彼らの胸に刻まれたのだが、最近は市民の心から消えつつある。


この世界に降り立った俺は彩子と共にここを駆け抜ける。そう決めた俺と彩子。ボイスリアクトというアイテムはそれを可能にしてくれるのかもしれない。このアイテムは聞いたところによるとどんなモノでも生み出すことが出来るアイテムらしい。しかし、詳細は知らない。また、ボイスリアクトの上位互換、ウェーダーボイスリアクトというものも存在するらしい。数は5つでこの世界のすべてのモノを生み出すことが出来るらしい。下位互換であるボイスリアクトも生み出すことが出来るそうだが、これもまた詳細は不明である。この世界はボイスリアクトでもモノを生成でき、それを表現できることから文字通りゲームリフレクターと呼ばれている。俺の夢はボイスリアクトを使いこなし、ゲームリフレクターの世界観を構築することだ。このゲームリフレクターは仕様によると上も下も、外も中もないらしい。皆がこの世界でお互いに助け合って共生しているという。ボイスリアクトというアイテムを用い、この世界を自分で構築していきたい。上位互換であるウェーダーボイスリアクトはないが、ボイスリアクトを持っている俺なら何とかできるはずだ。

「やろうぜ、彩子!」

「何?」

「いや、何でもない」

俺はボイスリアクトを握り、モノを出す準備をした。

「クリエイト・・・・・ハウス」

「・・・・・」

「何も出ないじゃない」

彩子が俺に言いたいことがあるらしい。俺もいまだに使いこなすことが出来ないのは悔しい。

「それよりも俺の選んだ家どうよ」

「それまた聞くの?」

「あなたの選んだ家、いいなーとか思っているんだろ」

「そんなわけないじゃない」

俺たちがこの世界に来ていくらか時間がたった。ゲームリフレクターという世界は異世界というのをある程度再現できているらしい。忠実に再現されている家、窓、木、そのすべてが現実世界に近しい感じだ。だから、俺の神経を撫でてつい俺の欲望が出てきてしまう。彩子に俺の世界観というものを見せてやりたいと思っているのだ。どうせならおぼれ切ってほしいと。俺は転移する前、ゲームオタクだった。ゲームにはまりすぎていて、母親にバカにされたこともあった。ゲームプレイ時、やっぱり自分は欲が深くなっていると自覚することがある。現実世界とは反対にゲームの世界では欲を全開にして、世界を動き回った。しかし力不足になるという側面もあった。俺もこの世界に来て、それをうすうすと感じつつある。やはりこの世界のことを知らないので、どのようにボイスリアクトを使えばいいのかわからない。これまで様々な物を生み出すのに注力してきたのだが、生み出すことが出来るのは少数でできないものがほとんどなのだ。何が生み出せて生み出せないのかは把握していないが、原因はやはり自分がこの世界のことを知らず、能力も不足しているからだと考えている。

「クリエイト・・・・・リフリジェレイタ―」

やっぱり出すことはできないか。自分はこういうことすらできないと嘆くことが多いのだ。仲間が欲しい・・・。いろいろなことを考えていくうちに仲間が何の理由もなく欲しくなってくる。

「パーティー組まないか?」

「ん?」

やはり俺はせっかくこの世界に来たのだから、世界を変えていきたいと考えている。しかし俺一人の力では冷蔵庫一つも生み出すことが出来ないのだから、難しいだろう。際限のないゲームリフレクターなのだから、生み出し放題のこの世界でボイスリアクトを使わないという選択をすることはできない。どうしようもなくやりたくなってしまう。

「この家具、何処にしようか?」

「ここいいんじゃない?」

ああ、仲間が欲しい。仲間が欲しい。この世界を知りたい。そして俺の夢をかなえたい・・・。

「だからパーティー組まないか?」

「うーん。ここで過ごしていくのもいいんじゃないかな」

「俺は行きたい」

「そうなのね。いきましょう」

彩子が智也にガン詰めて忠告した。

「でも危険だと思ったら逃げてね」

「ここってそんな危険なのか?」

「危険じゃないとは言えないでしょう。世の中には予期しないことがよく起こるの」

「わかった。気を付ける」

「じゃあ支度しましょう!」

「おう!」

彩子が旅を了承してくれた。しかし俺はここでも不安なく過ごすことが出来るのに、俺自身が旅をすることを決めてしまった。自分はなぜ世界を構築したいのかわからない。現実世界では何もできなかった自分が、この世界ならなにか世界に貢献できるのかもしれないと考えたからなのか。どうしようもなく自分に襲い掛かってくる衝動が自分の中で巻き上がってくるのだ。このどうしようもない気持ちは皆に理解されるのだろうか。自分の気持ちを唯一理解してくれた彩子には十分に恩を返したいと思っている。彩子はいつでも俺の味方だった。俺はいつも自分だけで悩んでしまう性格だけど、彩子は理解していてくれているのかもしれない。だからなおさら彼女に何かしてあげたいと思っている。

「クリエイト・・・・・ジェントルマン」

「・・・・・」

智也の目のまえには何も現れなかった。智也は大きくため息をついた。

「どう、進んでる?」

「おう」

どうしようもない自分だけど、これはどうすることもできないのかもしれない。自分は機会があるのなら、やってやりたい。彩子も自分についてきてくれたらそんなにうれしいだろうか。ああ、仲間が欲しい。

「クリエイト・・・・・バッグ」

智也の目の前に大きなバッグが出現した。智也は神秘的光景に感動した。

「じゃあ、行こう彩子」

「そうね」

この先様々な困難が待ち受けるのかもしれない。しかしこの世のものを生み出すことが出来るボイスリアクトというアイテムを持ちながらこの世界に来たからにはあきらめるわけにはいかない。すばらしい仲間をつくることはできるのだろうか。できれば優秀な人がいいと思っている。いや、優秀な人がいいのだ。自分は欲が深いのでなるべく早く実現したいものがあるんだ。俺は昔、周りの人間の顔を見て物事を解釈するような人間だったのかもしれない。しかし機会を得たからにはそんな人間からは脱することが出来るのだ。何の理由もないのにも関わらず俺はこの世界の人間を幸せにしたいと考えている。世の中がおかしくなっている世界が嫌いなのだ、俺は。

「この家もずいぶんの間お別れね」

「でもきっと仲間を探して戻ってくるよ」

「そうね」

「じゃあ、行くか!」

「このままの状態で家が残ってるのかなあ」

「わからないけど、残っていてほしいわね」

「そうだな。早く帰ってこなくちゃな」


「この街大きいなあ」

「共成ドーム何個分?」

俺たちは家を出てちょっと歩いていくと、小さな町を見つけた。当然入ろうという話になり、町に入った。その町は商店街であふれており、大変活気のある町だった。周辺には屋台も多く、それ以外もお食事処や、異世界特有の店まで様々な物に囲まれていた。そこらには大きな人だかりが出来ていた。

「想像以上だったなあ」

「そうね」

「この世界にもともとこんなものがあったんだなあ。世界は広いんだな」

「あら、家から数キロの町だよ」

「そうだったな」

こんなにぎやかな街なので俺たちの目的が分からなくなるところだった。まずこのゲームリフレクターという世界がどうなっているのか知らないと始まらないだろう。聞き取りとかしようかな。

「ここなんてどう?」

「ギルドか?」

「入ってみましょう!」

「ノックしなくてもいいのか?」

「いいと思うよ」

「そうか。じゃあ開けるぜ」

「ガチャ」

「いらっしゃいませ」

窓を開けた俺は一目散にギルドのロビーに行った。

「お客様のご希望はいかがでしょう?」

「こちらの製品は受け付けていませんのでご注意ください」

これはボイスリアクトではないか。みんなこの世界に来た時に渡されたものだと思っていたのだが。こんなことがあろうとは思わなかった。みんなが欲しがるほどの貴重なものなんて思いはしなかった。俺は人前では緊張してしまうのだ。ましては知らない人とでは特に。どうすればいいのか。ここはひとつ。

「別の世界から来たものなのですが」

「この世界ってどうなっているのかわかりますか?」

俺は言葉選びが下手でたびたびこういうミスをすることがある。どうすることもできないものなのだろうか。

「そうですね、この世界に来たプレイヤーは皆いずれ各地のギルドにたどり着きます。そこで皆さんメンバー登録をしております。登録することでこの世界のお金を稼ぐことができます。特に異世界から人はこの世界に住む住民よりも比較的高い戦闘能力を有している場合が多いですから、ほとんどが冒険者として登録します」

「お客様のステータスを確認する装置がございます。確認していきますか?」

「はい、お願いします」

「ついでに彩子もお願いします」

「わかりました。少々お待ちください」

俺のステータスはどれくらいだろう。俺の見立てでは平均より少し上くらいだと自負している。しかし、俺にはこのボイスリアクトがある。もしステータスが低くてもこのアイテムさえ使いこなすことが出来れば物事は大きく前進する。彩子のステータスはどれくらいだろう。何気に俺よりも高いのかもしれない。

「お待たせしました。準備ができたのでこちらにどうぞ」

待ちに待ったステータスの発表会だ。俺、頼む平均以上であってくれ。

「あなたのステータスは550で平均並みです」

俺は落胆した。たとえボイスリアクトがあるとはいえ平均並みというのは少しショックである。

「彩子さんは・・・おおっ1690で平均を大きく超えています」

「はい?」

真に驚いてしまった。まさか優しい女性でもある彩子のステータスがこれほどまでに高いとは思わなかった。

「彼女はファイアドラゴンのステータスより少し劣りますが、通常のドラゴンであれば彼女一人で対処可能でしょう」

この世界の比較対象があれほどの狂暴なドラゴンというのが一番の驚きなのだが、彩子がこれほどまでのステータスを秘めているなんて。男の子の名が恥じるにもほどがある。この世界のステータスとはどうなっているのか。

「おう!」

「すごいじゃないか!」

「ステータスが高いのは少し安心するけどね」

仲間より簡単に弱いとわかってしまった。せっかく機会を与えてもらったのに、こんな感じだとは。

「ところでこの世界の詳細な情報というのはどこにあるのでしょう」

「それはギルド図書館というところの蔵書の中にその情報は書かれていると思うのですが、この図書館はレベル50以上のギルド会員しか見せられない仕組みになっていますのでご了承願います」

「そうなんですか」

この世界の情報はレベルで得ることが出来るのかできないのか決まるのだろうか。もしそうであれば情報格差につながる恐れがあるな。この世界も案外間違っているところはあるのか。やはり旅をして知ってみるべきだと感じた。

「わかりました。ありがとうございました」

「ああ、ステータス1000以上の方がパーティー参加の招待状が発行されております。このギルドなんてどうでしょう」

「いや、・・・」

ギルド職員というのはそんなにいい職業では何のかもしれない。少なくともゲームやアニメで見たギルドの華々しいものとはかけ離れているのだろう。ステータスの高さでギルドでの対応が変わってくる場合もあるらしい。この世界にはギルドはいくつあるのだろうか。各地のギルドによって対応は大きく変わってくると思うが。

「失礼します」

「ぜひ次もお越しください」

俺と彩子はギルドを出た。

「ちょっと顔色悪いんじゃない」

「大丈夫?」

「平気さ」

「そう」

俺は思い付きで彩子に提案してみた。

「それよりこの町をもう少し観察していかないか?掘り出し物とかあるのかもしれないぞ」

「賛成」

俺は自分のギルドでの対応と反対に町が繁盛しているのを見て、少し疑問が浮かんだ。

「繁盛しているとはどういうことなんだろうね」

「さあね」

「この世界に来て、考えさせられたような気がする」

「でもこの町にもいいところはたくさんあると思うわ。これまでは期待が高かったからなのかもね。ちょっとブラブラしましょう!」

「そうだな」

俺たちは繁盛している商店街から少し離れて、古臭いレトロな風景の店が並んだエリアまで足を運んだ。路地に入るとお食事処を見つけた。

「入ってみましょう!」

彩子がそう言うと、店の中に入った。

「いらっしゃい」

そういって店員がテーブルの上にコップを置いて立ち去っていった。その机は結構長く使われているようで、ところどころに傷があった。テーブルの側には大きな窓があり、街中の様子が見まもれるような配置だった。テーブルの端にメニューが立てかけられてあるのをみて、彩子はメニューを取ってテーブルの上に広げた。メニューには様々な料理が記入されていてとりどりの野菜がふんだんに使われているようでとても気分がよくなった。

「ポトフ2つ」

私たちはその中でもひときわおいしそうなポトフを頼んだ。15分ほど窓の外を眺めてはポトフがテーブルにやってきた。ポトフはメニュー通りたくさんの野菜が入っており、とても色合いもよかった。味見をしてみると、塩とコンソメの割合が絶妙で胡椒がアクセントになっていてそれに野菜をかき込みまたスープを飲む。これがとてもおいしかった。周りを見てみると客が結構店内にいるのを見て、そういうことだと実感した。この町は一概に悪くなかったのだと思った。先ほどのギルドの対応を見た感じだとこの町は悪い空気が漂っていると考えていたのだが、一概にそれだけで決めてはいけないなと感じた。期待していた風とは違っていたとはいえ、この町のことは少し悪いイメージを感じていた。しかしこの店を一通り見渡してみると違和感のある所は見つからない。これまで不振に感じていたものとは一体何だったのだろう。私は終始それについておおいに疑問に思いながらもポトフを食らった。


「このポトフおいしいか?」

智也がこちらに問いかけた。私はいつも通り返答した。

「おいしい」

彼は人に様々なことを問いかける。そしてそれに疑問を呈す人間だ。いえば常識知らずなのだ。彼が常識知らずに育った理由はわからないが、彼の両親は彼を本当に愛していたようだ。それに智也が気付けなかったのかもしれないが。それと彼の15の時、私と彼はおなじクラスになり2学期の初めの席替えで隣になった時があった。初対面での彼の印象はとてもおとなびていて、何でもこなせるような人に見えた。ひたすらに目標に向かって努力し続ける姿を見て、私は彼をいつからか好きになってしまった。それから少し時がたち、高校生になり彼は成績が私より少し良かったのもあって、通う高校は別々になった。卒業式の日、彼と私は次はいつ会えるかという話をした。

「今度会えないか?遊ぼうぜ」

「今日誕生会なんだ。クラスみんな誘ってるんだぜ」

「そう」

「いかないか?」

「私なんかがいいの?」

「当たり前だろ」

「ほんとに」

「うん、普通に」

彼は常識が備わっていない代わりに、普通の人にはもっていないものを持っているのかもしれない。優しさというか、顧みずに何かをこなし続けることだとか。私は智也と出会う前は平凡に過ごしていこうと思っていたのだが、彼との出会いで少し変わってしまったのかもしれない。物事を後ろ向きに考える癖があった私が、彼の前向きな姿勢を見て少しずつ変わっていったような気がする。

「好き・・・」

「ん?」

「だから普通に好き!」

「お前もこんな臭いセリフはけるんだな」

「告白したんだから、智也もしなさい」

「はあ?なんでお前に従わないといけないのか?」

「いいから!」

「俺は・・・」

「2人で何してるの?」

「わあ!」

その時私には彼の言動のすべてが魅力的に見えた。こんな人もいるんだなあと感心したのもつかのま、気づいたら好きになってしまったのだ。いまだに彼からの告白は一切聞けていないが、一つ言えることとしたら私は彼を一生愛し続けてしまうだろうということだ。私の不本意で愛してしまったことに嫌わないでいてくれるのだろうか。しかし少なくとも少しは愛してくれているだろうと思っている。

「おいしいだろ」

「そうね」

「だろ!」

「この世界でここまで再現されたものをつくることもできたなんて驚きだよな。これをつくったやつってどんな天才だ!?」

「さあね」

「俺もなんかこういうシステムまで作ってしまえるほどの存在になりたいと思うことだってあるんだ」

「そうなの?」

「そうだ」

「ふーん」

智也はいつも夢言葉を吐くことがある。その夢言葉はテンションが上がった日に特に多い。しかし彼は夢言葉が一つもかなわなかったという訳ではない。たぐいまれない集中力と持ち前の根性、何より曲げない一心で基本的に叶えられないと言われていることでも叶えてきた。もしかするとボイスリアクトもあることだし、何か一つ本当に成し遂げるのかもしれない。

「店主に何か聞いてみようぜ。なにか知っているかもしれない」

「そうね」

「すいません、ちょっとお時間いいですか。実は私、異世界から来たものでこの世界のことをよく知らないのです。少し教えていただけませんか?」

「そうなんですか。この店にはこれまでに3組のパーティーがいらっしゃいましたね。パーティーの人数はバラバラでしたがそのパーティーにはある共通点がありました。彼らは皆ボイスリアクトというものを探しているそうでした。私たちとしては何も知らないので、ご希望には添えなかったのですが」

「おい、ボイスリアクトって」

「そうね、あなたが持ってる」

「これ、この店主にいうべきなのか?貴重なものかもしれないんだぞ」

「そうかもしれないけど、何もわからないままよりはいいと思ってるんだけど」

「ボイスリアクトですが、それ、持っているのですが」

「そうですか、って、えーーーーーー?」

「じゃなくて、持っているんです、それ!」

「お客様も嘘を嗜むようで。いかにお客様といえど、嘘はいけませんぞ」

「だから、ここにあるんです!」

俺はポケットからボイスリアクトというものを店主に見えるように手を掲げて見せた。まさかここまでこの装置の価値が高いのか。世界を変えることができるウェダーボイスリアクトでもあるまいし、このゲームの世界に来てからなぜか右手で握って持っていたこのボイスリアクトがここまで価値のあるものだなんて俺は驚きで声を荒げてしまった。しかし、驚いてしまったあまり、店主にこんな高価なものを見せてしまって大丈夫なのだろうか。

「このアイテムはこれまでにこの店にいらっしゃった冒険者様によれば、世界に50個しかない代物らしく、これがあれば使用者の創造力というものを用い他人に干渉しない限りでほとんどのものを生み出す頃ができます。このアイテムを使用することができる方はあらかじめこの世界に召喚されたときに両手のどちらかに持たされているみたいで。で、その創造力というのは、使用者の経験値に依存するらしいです。皆この創造力の数値を創造値と呼ぶらしいです。経験値は単純にステータスではなく、この世界で何を見て聞いて、誰を仲間にし、どのようなことするかで大きく変わってくるらしいです。創造値が低いからといって、その人のボイスリアクトの価値が低いかといえばそういうわけではないらしいです。ある側面から見れば低いことはあっても、他の側面から見ればとても高いということはよくある話だからだそうです。それで、この創造値を測るにはこの町よりもはるかに大きな大都市ウェーゼとセリュコンという2つの都市の最先端のギルド専用測定器でしか測れないみたいで。測れたとしても、参考にならない場合がほとんどらしいです」

「その大都市というのはここからどのようにしていけばよいのでしょうか?」

「そうですね、まずこの町を出て森に囲まれた小さな道をすすんでゆけばいずれ大きな湖が見えるはずです。その湖を横切れば丸2日かかってしまいますが、湖にはとても強力なモンスターがいるといううわさが流れております。お気を付けください。湖を抜けてまた小さな道を進むと遠くの山脈がどんどん近づいてきて、やがて小さな洞窟が見えるでしょう。その洞窟には特別危険なモンスターはいませんが、昔から奇妙なうわさが流れておりまして、ある会員証がなければ本来会うべきではないモンスターが襲ってくる場合があるそうで、そのモンスターのレベルがとても高く、レベル80のベテラン冒険者でさえも無事に戻ってきたものはほんの僅かでした。本来お教えすべき内容ではないと思いますが、ボイスリアクターであれば、どんな困難でも超えてくれると期待してお教えいたしました。頼みます。どうかこの世界をお救いください」

この世界は予想よりもはるかに恐ろしい世の中になっているようだ。予想ではモンスターがたまに出没するくらいで冒険者の数のわずかだと思っていたのだが、冒険者にも階級があり、相当数の冒険者がいるということなのだろう。それに冒険者が階級別に襲われるというのも恐ろしい。これからは十分に注意していくべきだと悟った。

「ありがとうございました」

そういって彼らは店を出た。そしてつかの間、彼らは足を止めた、もう一度店に入った。

「よく考えれば、あのギルド会員証をもらうべきじゃないのか?レベル80の冒険者でもやばかったんだろ」

「さすがにそうだよね」

「カララン」

「いらっしゃい、ん?」

「また、すみません。その会員証はどこで手に入るのでしょうか?」

「ああ、そうだったな。この町のギルドで手に入れられます」

「そうですか、ありがとうございました」

「でも、君たちだったら大丈夫だと思うんだが」

「その理由は何があるんですか?」

「そのボイスリアクトには物事を変えることができる能力があるらしいんだ。この世界のステータスなんてある一つの側面だけで判断してるだけだからな。別の側面からみると全く違うらしいんだ。まあ、参考にしておいてくれ」

やはりあのギルドか。ギルド、特に冒険者中心にやばいオーラが漂ってくる。なぜここまでになっているのだろう。非常識な自分がいうのもなんだが世の中の常識は冒険者はかっこいいもので彼らは救世主みたいな扱いを受けることが多い。しかし店主の発言を聞くと冒険者というのはどうやらこの世界ではそういう役割ではないらしい。どちらかというと危険に会う確率が高く、あまり人気ではない職業だという。しかし、俺はそれでもやってのける。

「やはり行くのやめるか」

「そうね、なんか危険だよね」

「この先何が起こるかわからないから、この町で何か買っておきましょう」

「あの武器屋なんてどうかな」

「入ってみましょう」

「カララン」

「いらっしゃいませ」

評価よろしくおねがいします

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ