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魔法使いの系譜  作者: 真田 秋来
全ての始まり
4/38

──幕間──

 

アレク視点です。

 

「さて、どうしたものか……」



 間接照明だけの薄暗い室内は、地下に存在しているのも相俟って少し空気が澱んでいる。薬品や調合器材をテーブルに並べ終えたところで、椅子に座ったまま宙を睨む。



「まさか五百年後とは……。時の狭間に迷い込んだのは初めてじゃないけど、この時代に来たのも意味があるはず」



 まるで解れた糸を紡ぎ直すかのように、時の狭間に迷い込む度に難問を押し付けられている。以前は自分が生まれるよりも前の時代に迷い込み、とある少女に魔法を教えたことがあった。


 そういえばと、ロイを思い浮かべた。

 黒髪は癖毛なのか顎先まである髪は緩やかなウェーブが掛かっており、瞳の色は黄色に近い小金色で。線も細くパッと見た印象は女の子でも通用しそうだったが、恐ろしく口が悪い。まるで──、



「野良猫っぽいよね。うんうん」



 この世の全てを嫌っているかのような目をしながら、ボクが与える知識にはキラキラと純粋に目を瞬かせ飲み込んで。警戒心があるようで、変に抜けている野良猫。



「あのルクセンブルクの血筋にしては、変に歪んでなくて良い子なんだよね。警戒してる様なんて猫そのものだし、兄上もきっと好きに──……あ、」



 はたして、自分は元の時代に戻れるのだろうか。


 以前時の狭間に迷い込んだ際は、媒介となった魔石は壊れなかったから問題なかった。けれど、テーブルの上に置いたペンダントは主人を失ったかのように輝きを失っている。


 時の流れは均一で、時の狭間に迷い込んだ分だけ戻った時も時間が流れている。もし戻ることが出来ない場合、ボクは行方不明として死んだ者となるだろう。



「兄上怒ってるだろうなぁ……。それに、リスベッドも。魔法を教えてねって頼まれたばかりだったのに」



 敬愛する兄上の第一子である、リスベッド。皆に愛され生まれてきた女の子は、澄んだ薄紫色の瞳を輝かせながら、叔父であるボクに魔法を教わるのだと息巻いていたっけ。


 明日からロイに知識を──今の時代の魔法の常識だったり、歴史を教わるつもりだが、平民として生きてきた彼の知識には限度があるだろう。ならば、城にでも潜り込むかと思い付いたが、この容姿は些か目立つ。



「王族だけが身に付けていいって、何でそんな面倒くさいことしたんだろう」



 自身が着ている薄紫色のローブを見ながら、思考を巡らせる。王族と民を区別する為、と考えるのが妥当ではある。権力を振り翳すのは頂けないが、恐らく象徴的な意味合いが強いのだろう。しかし、ふとある考えが頭を過ぎった。



「まさか──ね。いくら何でも、"ボク"を探し易くする為なんてことは、ないよね」



 幼き頃から、ボクはこの色のローブを着ている。母上から最初に贈られたプレゼントだったからというのもあるが、単に色が気に入っているのだ。汚れたり破損した場合も同じ物を仕立て直して着ていたから、ボクを象徴する物といっても過言ではない。

 しかし、流石に考え過ぎかと頭を振った。幾ら兄上でも、ボクを捕獲する為にそこまでするとは思えない。



「ん〜……。目立ちたくないから、仕方ないか。ローブは新調して、髪色と瞳は魔法薬で変えよう。髪色は無難に茶色で、瞳は──うん、緑とかでいいね」



 ある程度思考が纏まったところで、さて調合だと体を伸ばす。朝起きてボクの見た目が変わっていたら、あの野良猫──ロイはきっと、また驚きながら溜息を吐くのだろうなと思い、笑ってしまった。

 悩んでいても仕方ない。帰りたい気持ちはあるし、ならば少しでも可能性を高めるのみ。



「ボクだけで難しいのならば、ボクと同じくらいにロイを育てれば良いだけだしね。うんうん」



 弟子となったあの野良猫を、深海やドラゴンの棲家まで引き摺り回してやろうと企みながら、ボクは早速魔法薬の調合を開始したのだった。

 

 


 


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