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魔法使いの系譜  作者: 真田 秋来
其々の道
32/38

 

 ロイ視点です。

 


「毎度あり!気を付けていってこいよ!」

「ありがとう。おっちゃんも元気で!」



 塔を出た俺は、旅に必要な物を買い込んだ。二、三日の食糧や水を入れるボトル、それに指開きの格闘グリーブ。魔力を通せば淡く光るランタン、サバイバルナイフを買い、革の鞄に詰め込んで背中に背負う。


(まあ、こんなもんか。直ぐに見つけられるかどうかは、運次第ってとこだな)


 街の広いメインストリートに立ち並ぶ出店のおっちゃんに見送られながら、俺は南門へ向かった。途中冒険者ギルドに寄ろうかと思ったが、ミルディさんからアレクに情報が伝わるかもしれないことを危惧し、寄り道はしなかった。


 目指すは首都の南に広がる、ネルガ大森林だ。そこを越えればアトランティル王国の交易都市、シルフィードがある。しかし俺の目的はネルガ大森林で、もっと言えば、森ならば何処でも当て嵌まる。


(森の主が、魔女は全ての森に居るって言ってたし。まあ、あの魔女かどうかは分かんねえけど)


 魔法を知るには、アレクやシリウスさんすら凌駕しているであろう魔女を頼ろうと決めた。門前払いされる可能性の方が高いが、そこは何とか交渉を試みるしかない。


(あの魔女なら、シリウスさんの情報で手を打てねえかな)


 そんな悪どい事を考えつつ、南門を出て森へ続く道を歩き続ける。煉瓦で舗装された道は次第に土に変わり、森へと辿り着く頃には馬車が通るのがやっとの幅へと変わっていった。



「普通の道を歩いてても、会えねえだろうし。こっからは、魔力遮断もやめて奥に行くしかねえか」



 アレクから貰った魔力遮断効果のある指輪は、塔に置いてきた。ここまでの道のりで、拙いながらも魔力で自己強化をして魔力遮断が出来るようになっていたが、目的である魔女と会うには反対に、魔力を感知しなければならない。それしか、手がないのだから。



「森の濃い匂いか……。ちょいちょいするけど、分かんねえな」



 木を隠すなら森の中と東の国の冒険者が口にしていたのを聞いたことがあるが、正にそれだと今実感している。歩き進めていく中であの魔女の魔力の匂いがする瞬間はあれど、そもそも森の中で自然の匂いに包まれているので、分かり辛いことこの上ない。



「一旦、川とか水辺を探すか。水分は確保しておかねえと」



 ネルガ大森林の簡易的な地図は予め持ってきていて、広げて現在地を確認する。森に入って三十分は経つが、まだまだ森の入り口付近であるのは間違いない。魔物が居ないのが証拠であり、何度か薬草採取で来たことがある場所だからだ。


 過去の記憶を遡り、もう少し奥へ進めば泉があることを思い出したので、地図を折り畳み胸ポケットへ入れ、足を進める。すれ違う樹々から時折香る魔女の魔力に、何故か導かれているような気がした。





「──お?あれか」



 あれからどれほど経過したかは分からないが、空から陽が落ち始めているのを見るに、相当歩いたらしい。泉が見えたことに安堵しつつ、魔物が居ないか注意深く確認してから、小走りで泉へ近寄った。


 水辺へしゃがみ、泉を見る。澄んだ水は夕陽を反射していて輝いていて、警戒しつつ指で水を触れれば、夏も近いというのに冷えて気持ち良く、ホッと息を吐いた。



「水の精霊だっけ。見たことねえけど、此処に居るかもしれないし、ちゃんと断りは入れておくか」



 魔法の座学をアレクにしてもらっている時に、所謂現代で属性と区別しているものには全て精霊がいるのだと教えてもらった。


 水、火、雷、土、風、光、闇と、七つの属性がある。そこから派生したものもあるらしいが、大まかにはこの七つであり、それぞれに精霊がいるらしい。


(「自然には常に敬意を払うことを忘れてはいけないよ」って、アレクがよく言ってたからな……)


 水辺に俺は跪き、目を閉じる。



「──水の精霊、様。少しだけ、その〜……使わせてください。汚したりとかはしないんで、安心してください」



(合ってるのか、これ)


 多少疑問に思いながら目を開けると、魚の形をした水の塊が、ふよふよと水の表面に漂っていた。目の錯覚かとゴシゴシと腕で目を擦ったが、どうやら現実らしい。



「あ、えっと……使っても、良い、ですか?」



 パシャンッと可愛らしく跳ねた魚は、そのままふよふよと俺の近くまで泳いできたので、そっと指を泉の中に入れる。


 そのままジッと動かなくなってしまったので、他に何か必要なのかと手持ちの荷物を頭に浮かべるが、魚が好むものは生憎持ち合わせていないし、そもそもこの魚は魚じゃない。


(ずっと俺の指見てるけど、何か意味あんのか……?)


 物は試しと思い、ゆっくりと少しだけ魔力を流す。すると、指先に口を付けた魚は嬉しそうにぐるぐると尾ビレを動かしていて、正解は魔力だったかと胸を撫で下ろした。


 無事に泉の使用許可も得たようなので、顔を洗い水を入れるボトルに澄んだ水を入れ、喉を潤す。ここまで来る間に殆ど飲み干していたので、しっかりと水分補給が出来るのは有難い。



「ありがとう、水の精霊様。俺はロイって名前で、魔女を探して此処まで来たんだ」



 俺の話を聞いているのかは分からないが、魚は水辺に座る俺の近くで顔を覗かせている。



「シリウスさんって何て呼ばれてたっけな……。ああ、アレだ。白銀の狼って呼ばれてる人の、恋人……になるのか……?まあ、うん。そんな感じの関係がある、魔女を探してるんだ。知ってたりするか?」



 魚はパシャンッと跳ねて、泉の底に沈んでしまった。どうやら振られてしまったらしい。そもそも、言葉が伝わっていたかも分からないが。



「──……少し、疲れたな」



 パタリと地面に倒れ、空を見上げる。

 泉の周りだけ樹々は生えていなくて、空は橙色から夜空の深い青へとグラデーションになっており、とても綺麗だった。


(少しだけ、眠るか……)


 精霊がある場所には、魔物は近付かないとアレクは言っていた。全て鵜呑みにしているわけではないが、何故かこの場所は安全だと確信があり、俺は目を閉じた。





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