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魔法使いの系譜  作者: 真田 秋来
全ての始まり
3/38

 

 薄目を開けると、サラサラと風に靡く色素の薄い薄紫色の髪が目に入った。何処までも真っ直ぐで癖のない髪は触りたくなるような魅了があり、つい手を伸ばしてしまった。



「ん……?」

「起こしたか。つーか俺はいつの間に寝たんだ」

「話終わった後、急に寝たよ。運んであげたオニーサンにありがとうは?」

「それは、ありがとな。けど待て。何で隣で寝てんだ」

「……何となく?」

「おーまーえーはー……」



 何が悲しくて野郎と寝なきゃいけねえんだと、起き上がり恨めしげに見ながら憤慨していると、クスクスと愉快そうに笑ったアレクも起き上がった。



「これでも社交界では人気だったオニーサンになんてことを言うのかな、キミは」

「だろうな。令嬢共に持て囃されてそうな面してるのは分かってるっつーの」

「まあね。けどロイだって、磨けば光るけどな。何より、まだ"覚醒前"だからね。伸び代しかないじゃない」

「覚醒前?」



 俺の疑問は伝わったらしく、ポンと俺の頭に手を乗せてアレクは柔らかく笑った。決してドキッとしたとかはないぞ。断じて。



「一先ず、お腹空いたからご飯を作るよ。ロイは食べたい物ある?」

「食えれば別に……」

「ギリギリ食べれる苦いスープにしようか」

「すみませんでした。美味しい肉料理が良いです」

「素直でよろしい。我慢は身体に良くないんだから、これからは素直に言うように」

「……おう」



 転移ではなく普通に歩いて部屋を出ていったアレクを見送った後、俺は溜息を一つ吐き出した。まだベッドから抜け出す気にならず、視線だけを部屋に彷徨わせる。


 本棚や収納棚にクローゼット、勉強が捗りそうな机に椅子、それにソファもある。アレクが向かった扉とは別の扉があり、その先が気になり立ち上がって歩を進める。ドアノブを捻り恐る恐る開ければ、中はバスルームだった。



「一人暮らしのアパルトメントみてえなもんか」



 わりとこの部屋だけで生活が完結しそうではあるが、キッチンなどは付いていないので、あくまで俺個人の寝室なのだろう。

 

 折角バスルームに来たしシャワーでも浴びるかと着替えをとりに戻ったのだが、視界の端に映るクローゼットには身に覚えのない服がぎっちりと陳列していた。



「これ着ていいのかそもそも。まさかこれ全部魔法で揃えたとか言わねえよな……?」



 アイツならやりそうだなと、規格外の魔法使いが頭に浮かび苦笑してしまう。しかしまあ、出逢って初日にしてもはや慣れつつある自分も自分なのだろう。



 適当な服を選んでからシャワーを浴び、着替えてから部屋を出た。部屋は塔の最上階だったらしく、空腹により少し重い足に喝を入れながら階段を降りていくと、良い香りが鼻を擽る。

 この香りは何処から来るのかと歩き進めると、一階の扉が開いた。



「お。今呼びに行こうかと思ってたんだ」

「手伝いはいるか?」

「ロイが魔法を使えるようになったらね。さあ、中に入って」



 なんて事のないように魔法が使えるようになる前提で会話が進んでいるが、もうそこは気にしない事にした。招かれるまま部屋に入ると、長テーブルには湯気の立つ料理がこれでもかと並んでいた。



「……多くねえか」

「そお?」



 パッと見ただけでも4〜5人が満足出来る量で、育ち盛りだがそこまで量を食べない俺からすれば、口の端が引き攣ってしまう。



「ボク食べるの好きなんだよね。何より、ちゃんと食べないと魔力回復しないし」

「食べもんと関係あんのか?」

「馬鹿だなぁ。食事然り、睡眠然り、血となり肉となるんだから。生活の質の高さは魔法関係なく全ての基本だよ」

「この量は質の高さに関係あるのか……?」



 寧ろ食べ過ぎは良くないのではと訝しみながらも椅子に腰掛ける。食前酒が入ったボトルが一人でに動き出したのには、突っ込むまい。グラスに注がれた食前酒をぼんやりと見つめていると、アレクの準備も整ったようだった。



「では、記念すべきボク達の出逢いに」

「……ん。乾杯」



 何処ぞの令嬢ならば頬を染めそうな台詞だなと思いつつ、グラスを合わせる。淡い黄色の食前酒を一口含めば、スッと熱が喉で弾ける。スパークリングワインだろうそれは、初めて口にしたが案外飲み易いものだった。



「おや。お酒は強そうだね」

「分からん。初めて飲んだからな」

「折角の食事を酔い潰れたら勿体無いし、グラスが空いたら果実水に変えるといいかもね」

「そうする。いただきます」

「どうぞどうぞ」



 先ずは野菜から食べるかとサラダに目を向ければ、他の料理を押し退けて俺の目の前にある皿に勝手に野菜が乗る。生き物か……?と食べずに凝視すれば、アレクはクスクスと笑っていた。



「流石に野菜の妖精とかじゃないから安心して」

「勝手に皿に乗ったぞ」

「ボクが乗せただけだよ。ロイは揶揄い甲斐があるね」

「無垢な少年に何しやがる」

「罪深いオニーサンだからね」

「自分で言うな」



 気にしたら負けだと自分に言い聞かせ、黙々と食べ進める。サラダ一つすら美味い。野菜も新鮮だし、さっぱりしたドレッシングも良い。勧められるがままに肉料理を食べていくが、赤ワイン煮込みなのかコクがあり臭みもない。



「美味い」

「ふふっ。なら良かった」

「全部魔法か?」

「調理はね。素材は市場で買ってきたやつだよ。五百年前に」

「ご……っ!?」

「空間に収納するんだ。狭間のような場所で時の流れのない場所だから、腐ったりはしてないから安心して」



 王立魔法研究所が聞けば泣いて喜びそうだなと呆れながら、言われるがままに食べ進める。しかしきっちり一人前を平らげたところで満足し、まだまだ食べているアレクを横目に食後のデザートを食べる事にした。



「さっき言ってた、覚醒前ってのが何か訊いてもいいか?」

「んむっ。勿論」



 一瞬にして肉の塊を飲み込んだアレクに戦慄しつつ、先を促す。



「生まれて間もない頃は、魔力は生成出来ない。大体生まれてから二、三年掛けて自然に生成されるようになるんだけど、身体が魔力に馴染むというか、生み出された魔力によって瞳の色とか髪色とか変わってくるんだ」

「瞳の色も変わんのか……」

「不思議と顔付きだったり身長も変わったりね。ロイはその歳まで覚醒してないから、結構──」

「何だよ」

「痛いかもね。色々と」



 身長も変わるとしたら、そりゃあ痛みも伴うだろう。俺の身長は165cmだが、伸びるのならば嬉しい。



「アレクも覚醒で変わったのか?」

「髪色かな。生まれた時はロイと同じで黒かったよ」

「ほお。想像つかねえな」

「背が……伸びなかった……」

「まぁ、うん。それは何というか……」



 それまでの機嫌の良さは何処へやら、悲壮感漂うアレクに掛ける言葉が見つからない。俺より多少身長は高いが、目測だが170cmくらいだろう。品の良い知的な雰囲気こそあるが、格好良いよりも可愛いが似合う。まあ男に可愛いなんぞ口にしたら更に奈落まで突き落としそうなので、言いはしないが。



「嫌だなぁ、ロイが身長伸びたら」

「……どうだろうな。血筋的には高身長が多い気がすっけど」

「知ってるよ。ルクセンブルクの初代当主は兄上と同い年でね。背が高いだけの胡散臭い奴だから」

「嫌ってんのか」

「嫌うというより……何を考えてるやら、裏の顔がある男だよ。あまり信用はしてないかな」

「成る程な」



 初代当主から胡散臭いというか、王家の信用は得られてなかったらしい。その血筋である俺が言うべきことではないのかもしれないが。


そういえばと、ふと頭に浮かぶことがある。そもそも何で俺にコイツは興味を持ったのだろうと。



「あの、さ」

「ん?」

「何で俺に魔法を教えようって思ったんだ?出逢いは確かに唐突だったしあれだが、上手く誤魔化して森で別れることも出来たろ」



 俺の言葉にきょとんとした後、アレクはワインで喉を潤した。考えるような素振りをしながら、ゆっくりと口を開く。



「まあ、確かに。けど、上手く言えないけど──似てたから、かな?」

「似てた?誰にだよ」

「覚醒前のボクに。ボクも魔法を使えるようになったのは遅かったからね。歳で言えば、今のロイと変わらないくらいかな」

「つまり……覚醒後から五年で、そこまで魔法を使いこなしたってことか」

「まあ。けど、ボクより魔法が上手い人なんてザラにいるよ?表舞台に立つ機会があったから有名になっただけで」



 その事実に、俺は愕然とした。どうやら過去の魔法使い達はとんでもない魔法の腕前だったらしい。

 しかし、その技術はそのまま受け継がれていない。少なくとも俺が知る限り、ではあるが。



「魔力無しなんてキミが言うから、興味持ったんだ。流石に誰にでも知識をひけらかすなんてことはしないから。ロイに惹かれたから、今に至るってわけだね」

「お前が帰るか、俺が飽きるまでだろ?」

「ふふっ。そうだね。こーんな魅力的なオニーサンに飽きるかな?」

「……お前が言うと、何でこう……」

「なぁに?」



 食事を再開したのか、頬一杯にパスタを詰め込んでいるアレクを見て、俺は今日何度目か分からない溜息を吐いたのだった。


 


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