訳あり物件
デポは魔族なので、中魔法がデフォルトです。
夕方になると、食事を取るお客さんで、お店が混み合い始めた。
エプロンをしたシャンヴィル・デポトワールさんが忙しく行き来している。
アヤメはお昼を食べた後に[五芒星]から離脱した。
お姉さんとお義兄さんが経営している商店にしばらく、滞在するという。
厨房では年若いハーフエルフさんが、泣きそうな顔で注文を捌いている。
デポさんが予備の椅子を3脚撫でると椅子がゴーレムになって料理を運び始めた。
「デポで良いわよ〜。」
自己紹介の後、気さくに笑って話してくれたが、その正体は[魅惑の伯爵夫人]の二つ名を持つ魔族だった。
お店の名前からきた二つ名かな?と思ったけど、マドウが言うには第一次魔王戦争の頃についた二つ名みたい。
何でも南方方面軍団の軍団長の娘さんで、この街がハルピアになる前、イブスル王国の王都だった時に、この街を陥落せしめたんだって。
う~ん、第一次魔王戦争ってすごく前だよ。
ロバートさんの言うとおり、見た目は別として、お姉さんには無理があるかな。
「もう少し良い〜ハーフエルフ買おうかしら〜」
デポさんが休憩しながら、家電でも買う様に話す。
「あの子はハーフエルフ屋で〜半額だったから買ったのよ〜。」
「ハーフエルフなのに病弱で〜長く持たなそうだったからって〜」
デポさんの声が聞こえているのか、若いハーフエルフさんは酷く怯えた顔を見せた。
なんでも、ハルピアにはハーフエルフを繁殖して売る店があるんだって。
捕虜から奴隷になった男性エルフが繁殖期になったら、引退前の娼婦をあてがうそうだ。
ハーフエルフを産めば、娼婦には良い退職金になるとか。
『冷夏、郷に入っては、だ。変な倫理感は無駄だぞ。』
理性ではわかっても、感情は別物。
だけど、アプリのマドウには伝わらない。
「種馬も種エルフも〜偉い人間様には同じよね~。種エルフが手に入りづらいだけ〜。」
人は馬ではないと言う考えは傲慢なのかな?
ピークを過ぎるとお店は徐々に空きはじめた。
[まわる水車亭]と違って宿泊客が少ないからだ。
この店は全室個室で結果、パーティーでは使いづらいのが原因だろう。
個室と言っても、料金は安いのだから。
「あの、ご主人さま、僕、もっと働きます、働きますから、買い替えないでください。」
厨房でデポさんが懇願を受けている。
「あらあら〜、あなたの料理目当てのお客さん〜多いのわからないかな〜?」
デポさんはハーフエルフの少年を売り払う気はない様だ。
少しだけど、ほっとした。
でも、買い主の気まぐれに振り回されるんだろうな彼は。
「さて、部屋に戻るわ。あなたは油断しちゃ駄目よ。」
ミケさんがジグさんにウインクして、笑って部屋に戻った。
部屋に戻るのに変な言い方?
大人の合図かな?
でも、ジグさんも変な顔をしている。
「そういえば、言ってなかったな。」
「この店、年に一度ぐらいの割合で客室に魔物が出るんだよ。」
え?
ロバートさんどういうこと?
「安いのに宿は空いてるだろう?まあ大丈夫。ここ一年ぐらい誰も見ていない。」
「それに襲われるのは必ず一人さ。」
それって、そろそろなんじゃ……。
「では、明日また会おう、なに、お嬢ちゃんは大丈夫。夜更しせず消灯前に部屋に戻れよ。」
ロバートさんも、笑いながら部屋に戻った。
ジグさんも、デグさんも知らなかったみたい。
デポさんに聞いても
「お客様〜、変な噂立てられては困ります〜。」
と言って笑うだけ。
この時間からまともな宿は探せないよぉ。
「消灯です〜。食堂は閉店です〜。」
え〜!
魔族が店主で椅子が働く店。
魔物が出ると噂される部屋。
ホラーにもコメディにもなりそうなのが、[魅惑の伯爵夫人]です。
私の黒歴史がまた1ページ。




