恐るべし
絹は竜人の里とエルフの里、ダークエルフの里でしか生産されない高級品です。
特にエルフシルクは超高級品として知られています。
「いいお湯だね~。しかも貸し切りだよぅ。アヤメ。」
ヒューヒュ殿にダークエルフの商館に招待されてまず案内されたのは大浴場だった。
確かに私は汗臭く、冷夏は玉薬の臭いがしたから当然かもしれない。
着替えも用意してくれると言うし、着ていた物は洗濯魔法をかけてくれると言う。
洗濯物がキレイになる魔法。
エルフ魔法の一つで、使えれば貴族や大商人から引っ張りだこになるというが、魔術師ギルドのカリキュラムには何故か入っていないと聞いている。
「お二人とも、湯加減は大丈夫ですか?」
ヒューヒュ殿が入ってきた。
凝視するのは失礼だとわかっているが、しばらく固まってしまった。
大きい。
褐色の肌にバランス良くピンクの花が咲いている。
ヒューヒュ殿は私の左肩にちらりと視線を飛ばした。
エルフから[妖魔の神]との契約により、進化したのがダークエルフと言われている。
[妖魔の神]恐るべし。
「ちょうど良いです。ありがとうございます〜。」
冷夏が物怖じしないで答える。
転生前は、貴族か武士だったに違いない。
「祖母が造った源泉石から沸く湯を、水で冷まして使っているので熱ければ遠慮なく。」
ヒューヒュ殿は身体を洗い始めた。
「ヒューヒュさんは偉い人だよね?」
一緒に湯船に入ったタイミングで、単刀直入に冷夏は尋ねる。
「私はそうでもない。冷夏殿こそ要注意人物だろう?」
「[転生者]で祖母と同じく[契約者]、先日の大魔法を見て、里では今頃、緊急族長会議が開催されている頃だな。」
笑いながら怖い事をいう。
ダークエルフ諸部族長会議は、対魔王や対勇者など重大事態にのみ開催されるはず。
そういえば湯殿で暗殺された勇者も歴史上存在する。
急な招待はまさか……。
「アヤメ殿、恐い顔はなしに願いたい。暗殺するなら、私が湯船にいるのはおかしいだろう。」
ヒューヒュ殿が目だけ笑いながらこちらを見る。
真意が読めない。
こういう腹芸めいた事は姉なら得意なのだが……。
「私は、ただの冒険者だよ。2人とも発想が怖すぎだよ。」
頬をわざと膨らませ、さらっと言う冷夏。
私とヒューヒュは顔を見合わせ笑った。
湯からあがると、用意されていた着替えは絹製で、さすがの冷夏も面食らっている。
着替えを終え、品の良い調度品が整えられた小部屋でしばらく待つと、案内役のダークエルフがきて賓客用の食堂に案内された。
「スタイル良いと、メイド服着ててもすごいね。アヤメ。」
案内役のダークエルフよりも冷夏の肝の太さの方が凄い。
中ではヒューヒュが既に席に付き待っていた。
食事が始まる。
作法的な事は気にしなくても良いと先に言われいて、ヒューヒュも、そう振る舞ってくれているので助かる。
「冷夏殿、[種子島]はヲタクドワーフに、魔族のコンペに破れた商品の流れ品と聞いた。」
親切な店主の呼び名がヲタクドワーフで定着している。
「う~ん、火薬、えっと玉薬の調達にお金かかり過ぎるんだって。」
冷夏が蒸した食用カタツムリを食べながら話す。
初見の私が少し躊躇した食材を遠慮なく冷夏は食べてゆく。
おそるおそる食べるとすごく美味しい。
「発射タイミングの遅さでなく、ランニングコスト?」
冷夏と話ながら、ヒューヒュが一瞬こちらを見て、目に笑みを浮かべた。
もし、ヒューヒュが竜の島にきたら報復に鯛の刺し身を出してやろうと決める。
「発射遅いのは数を揃えて、乱れ撃ちにすれば補えるよ、ヒューヒュさん。」
さらっと、冷夏が運用方法を話す。
私も連射性に疑問があると思っていた。
しかし当たり前に対策あるとは。
冷夏のいた世界は[種子島]が溢れていて当たり前に運用されてるに違いない。
「魔王領では硝石が輸入になるから高いんだって。ヲタクドワーフさんはゴブリンの巣から硝石作る方法もあると言ってたけど。」
ヒューヒュの手が止まっている。
給仕のメイドダークエルフが、口に合わなかったのかと心配そうに見つめている。
「冷夏殿、アヤメ、少し席を外す。」
「すぐ戻るから食事は続けておいてくれ」
ヒューヒュが部屋を出た。
「ヲタクドワーフを呼べ、まずは店の[種子島]を買占め……」
ドアがしまる。
しばらく後、満面の笑みを浮かべてヒューヒュが戻った。
食事をデザートまで堪能して、冷夏も満面の笑み。
さらに、商隊が出発するまで商館に客人として留まる様ヒューヒュに言われ、部屋も既に準備されていた。
やはり冷夏は竜なのだろう。
ヒューヒュと楽しげに話す冷夏を見てそう思う。
それから数日2人は[種子島]三昧だった。
再度のお風呂回です。
小説に必要かは微妙ですね。
アヤメの言った、竜についてはストック内でギリギリ触れられそうです。
私の黒歴史がまた1ページ。




