二つ名
商隊護衛は進む街道にもよりますが、新米冒険者向きの仕事です。
「ほら、出禁のデグよ。」
殿馬車のさらに後、本当の一番後ろを進む慰安馬車の妓女達が弟を指差して騒ぐ。
慰安馬車を除く商隊の馬車は10台。
護衛の冒険者は10組。
ロバート、弟と共に殿馬車の近くを歩く。
ミケがレイカを上手く商隊の前方に誘導している。
夜営時以外は、パーティーで固まる理由はない。
保存食は朝晩支給だが、日当1日銅貨10枚。主要都市到着時支払い。
入札を経て示された条件は最低だった。
大地母神殿からの[人狼斬り]同行依頼がなければ受けない条件だ。
こんな最低条件をのむのは、移動目的地が一致している冒険者以外は新米か、訳有りかになる。
10組中、5組が新米、3組が訳有りだった。
訳有り組の2組は商会への借金だ。
依頼に失敗し、神殿への治療費用を借りて返せない。
商会の荷物を破損してしまい賠償金がわりに働いている。
そんな感じだ。
訳有り組も、新米組も、レイカにそれとなく引抜きのアプローチをしてくる。
実力ある歩き巫女には、それだけ価値がある。
アヤメは雑馬車の御者台に載せられて[先生]と呼ばれている。
街に居るときに商隊に金をせびりにきたチンピラ達が、アヤメを見ただけで逃げ出したからだ。
本人は不本意そうな顔をしている。
「[出禁のデグ]ってなんだい?」
弟に尋ねる。
弟にいつの間にか不名誉そうな二つ名がついている。
弟は答えず、顔を赤くして首を振る。
「そのままさ、リキタの娼館で3つ、デグは出禁になっている。」
ロバートが答える。
どういうことだ?
普通、娼館で暴れるとかしないと出禁にはならない。
行為中に首を絞めるなど、何か問題ある性癖でもあるのだろうか?
「デグの好みは清楚な感じの……って、これはわかるか。」
デグは首から頭のてっぺんまで赤い。
「で、デグが買った妓女は3日は役に立たなくなる。」
ロバートがニヤリと笑う。
「一晩で声が枯れちまうし、しばらく惚けちまう。」
で、やり手ババアが言うわけだ。
「隣りの部屋の客からはうるさいと苦情がくるし、商売道具を3日も壊されたら、商売にならない。出禁だよ。」
そういえば、文字が読めないデグに何通も手紙がきていた時期があった。
「デグ、さっきの清楚っぽい娘『一回目はロハでいい』って言ってたぜ。」
ロバートがデグをからかう。
そんな緊張感のない旅の日々が何日か続いている。
国境を越えるまではこんな感じだろう。
商隊護衛の一番の敵は人間です。
ゴブリンは商品にはあまり興味がありませんから。
私の黒歴史がまた1ページ。




