すれ違い
音の再生魔石はポケットに入る大きさで、様々な音楽がきけます。
(リンゴのマークはついてません。)
私が石化から戻って以来、赤毛がすっかり無能になってしまっている。
弟の事が気になるのか、私が甘くし過ぎたのか?
比べたら男としても、冒険者としても仲間の方が優れている。
ただ残念なことに、仲間と縒りを戻すことは難しい。
赤毛に仲間の勘の鋭さの半分でもあれば……と思う。
話し合いでも私の顔ばかり見ていて、的外れな質問までした。
私自身、危機的状況への苛立ちが少し漏れているかもしれない。
「追い詰められても、冷静に。」
私の養父の言葉だ。
私の養父はハイエルフで犯罪者。
エルフ法のもっとも重い刑罰、[剥奪の刑]を受けた白いダークエルフ。
エルフ法はエルフに対する死刑を廃止している。
通常は耳に切り込みを入れて追放が一番重い罰。
剥奪の刑はエルフ権を剥奪し、死刑を可能にする罰。
「追い詰められても……」は、処刑前に大魔法で悠々と脱出してきて吐いた言葉。
その罪の原因となったのは大魔法書[妖魔の書]。
学問の神の禁書図書館に封じられていたものを盗み出し、研究していたのが発覚してしまった。
[妖魔の書]が盗まれた日、図書館内の全員が殺害された記録が人間には残っているという。
(殺害したのは魔族の仕業になっている。)
魔術も、初めての夜も、生き延びる術も、養父に全てを教わった。
人間でも、エルフでもない、哀れな生き物の私には過ぎた養父。
魔女の家が見えてきた。
[状況確認と解析](使1残6)
簡易ウッドゴーレム
能力(魔0聖0)
待機中。
偽装魔術もなく、魔女の家の入口に小型のウッドゴーレムが立っている。
近づくと問答無用で攻撃してきたが、仲間と赤毛であっさり破壊出来た。
外から呼びかけても返事はない。
魔女が留守にしているなら千載一遇の好機。
魔女の家に潜入する。
ラボがなければ村でよくあるただの家。
ラボには禿頭の石像、大地母神の経典、壺に入ったワインの残り、旧魔王軍の軍服。
リュートやバラライカの楽器に音の再生魔石、古い魔王軍の戦術教本。
「大地母神よ石化を癒やし給え」[使5 残3 ]
禿頭が石像から人間に戻る。
「ありがとうございますレイカさま。」
「怪我も治すよ。大地母神よ怪我を癒やし給え」[使1残2 ]
転生者は神官として様になってきている。
「大丈夫かデグ」
赤毛が気遣わしげに訊く。
違う。
今は見てわかる事を訊く時じゃない。
「メデューサはどうした?どのくらいで戻るかわかるか?」
仲間が問いただす。
仲間に比べて赤毛の緊迫感のなさにうんざりする。
「ミモザは村に。」
禿頭が答えた。
「洞窟に戻り婆さんを回収する。レイカには幸運の神の加護もあるのかミケ?」
今度また解析をかけても良いかも知れない。
禿頭を気遣う赤毛を眺めながらそう思った。
エルフ権はエルフに産まれたものに、与えたられた権利。
と、エルフ法は言いますが、ダークエルフのエルフ権は認めていません。
ダークエルフの方がエルフに寛容だったりします。
私の黒歴史がまた1ページ。




