芳醇
前門の魔獣、後門の村人。
夜の森は月光も届かず、村の方では松明が揺れている。
こちらは灯りが漏れるのを恐れて光源は1つに絞っている。
レイカの魔導具が発する僅かな光だけだ。
老神官が昔、森で泉の湧く洞窟を見つけた事があったという。
50年近く前の話で頼りないがもしあるなら、身を隠すのに最適だろう。
森の奥に進みしばらく彷徨った。
真夜中近くになって洞窟への道を見つけた。
魔女の家の方向から続いている。
「[前門の虎、後門の狼]ってアヤメなら言うかな?」
レイカがリザードマン語で何か呟く。
「とりあえず洞窟にゆき朝まで休もう。」
「家がある魔女が夜中に洞窟にはこないだろう。」
ロバートがそう言って道を進む。
甘い香りがする。
甘い果実酒の香りがする。
ぼんやりとした光が見える。
矢の風切り音がする。
「ジグさん!あぶないよ!」
レイカに突き飛ばされた。
正気に戻る。
ミケはロバートを突き飛ばしている。
こんな時にも、微かな嫉妬心があるから不思議だ。
赤髭には何本もの矢葉が刺さっている。
ククルの持つ魔術師の杖にも矢葉が刺さり、腰を抜かしている。
「弓矢草だ下がれ!」
ミケが叫ぶ。
夜になると幻覚を見せる花粉を飛散し、獲物が近づくと、矢に似た葉を打ち出す。
そうして殺した生物を養分にする魔物的植物。
魔力があると誘惑に耐えやすいとはいうが……。
先程まで、自分は弓矢草に完全に魅入られていた。
「ソバカス!さがったなら火球を放て!」
ミケが叫ぶ。
戦闘中のミケは雰囲気も言葉も一変する。
レイカは小刀を取り出し赤髭に刺さった矢葉を斬っている。
矢尻を抜かないと回復はかけられない。
大地母神殿で学んでいるのは無駄ではないらしい。
ククルが詠唱している。
小魔法はやはり、中魔法よりも遅い。
中魔法を使う魔族が恐れられる理由の1つだ。
[火球](使2 残3)
ククルが杖を示すと火の玉が弓矢草に飛ぶ。
小さな爆発音がして弓矢草が火に包まれる。
「詠唱速度だけは、まずまずね。」
ミケがククルの火球で燃える弓矢草を見ながら言う。
弓矢草が燃え尽きるのを待ち洞窟に入った。
その間レイカは赤髭の為に祈祷を行っていた。
洞窟の中は静かだった。
奥から流れてくる流水音だけが聴こえている。
やがて最奥に付くと澄んだ泉があった。
天井の一部に穴が空き、月光が差し込んでいる。
ミケが近づき泉の水をとり、口に含む。
月光に照らされた、神秘的な美しさ。
「魔力の泉ね。メデューサが住み着いたのはこの泉があるからね。」
「ククルもレイカも飲みなさい。少しだけど、回復するわよ。」
予定通り朝まで、この洞窟で休むことになった。
ロバートと見張りの順番を決め、泥の様に眠った。
弓矢草の元ネタの本が(ゲームだったかも)思い出せないです。
お心あたりのある方は感想等で教えてくださると幸いです。
私の黒歴史がまた1ページ。




