火を吐く
実在する日本刀にも逸話による二つ名ありますよね。
アヤメ視点です。
私とレイカは神殿に駆け込み宿直の神官に旧隔離病棟の事を話した。
すぐに騒ぎになり、担当の上級神官が起こされ、ケリー先生は治癒された。
後遺症もない。
先生は今、病棟で休んでいる。
「夜だから神力残った神官がいない。」
医療神官に最初にライカンスロープ症の恐れありと、報告した時はそう返答された。
しかし、ケリー先生は真夜中なのに、治癒魔法かけられている。
もちろん先生が治って良かったとは思う。
思うが……。
(やはり見習いふぜいと、侮られていた)
無用な危険に巻き込んでしまったレイカに申し訳が無い。
「いいお湯だね~。しかも貸し切りだよぅ。アヤメ。」
返り血による感染を防ぐ為、神官寮にある上級神官専用大浴場にレイカと2人放り込まれている。
「湯船に入れるお風呂なんていつ以来だろう。」
レイカはくつろいでいる。
時間外に沸かし直し、しかも平神官と神官見習いを放り込む。
高待遇には、上層部にも、後ろめたさがあるのだろうか?
「どうしたの?左肩痛む?」
私が渋い顔しているのが気になるのかレイカが話かけてくる。
「いえ、私も湯船に入るのは島を出て以来です。」
「竜の島は温泉もあり、よく入っていました。」
「温泉かぁ~。入ってみたいなぁ。」
レイカが大きく伸びをしながら言う。
「レイカなら、竜人族の里で大歓迎されますよ。」
転生者で、多分元日本人。
真祖の再来として騒ぎになるだろう。
「そうかなぁ~。私は転生者だけど、無双要素ないんだよ?」
レイカは冗談とは思えない口調で話す。
「レイカは四半刻さえかけず、永続魔力付与しましたよね?」
「う~ん?」
湯気で上気した不思議そうな顔。
「複数名の魔術師が儀式で3日はかかる工程をすっ飛ばしましたよね?レイカ。」
「やはり[転生者の当然は、竜が火を吐く如し]ですね。」
「竜人って火も吐けるの?」
不思議そうなレイカから、斜め上を行く質問がきた。
「吐けませんよ。身体のどこかに鱗があるか、頭に角が生えてくるか、ぐらいです。」
「後は、多少人間より老化は遅いとは言われてます。」
「[湯船で哲学は出来ない]」
お風呂と他愛ない話で、いつの間にか気分が和らいでしまっていた。
朝。
私がレイカを宿まで送り、神殿に帰ると周りがざわついていた。
護身用に佩いていた杜若を外して、右手に持ち替える。
昨夜はあの後、レイカに魔剣銘を聞き、杜若の手入れをした。
魔剣の自己修復、自己浄化作用があったので、手入れと言っても、布で刀身を清めたぐらいだったけど。
今までは人を斬った後は手入れが大変だった。
仮眠は取ったが正直眠い。
神官見習いの二段ベッドの上段に杜若をおいて外に出るとやはり騒がしい。
朝の祈りのときにも囁きがする。
「あれが人狼斬り?」
「魔剣持ちって、アヤメってハルピアの大商人の娘か何かだったの?」
「魔剣って伯爵様の宝物庫にも2本しかないんだって。」
昨夜の話が漏れて、しかも尾ヒレがついている。
「神官見習いアヤメ。神官戦士長がお呼びです。[人狼斬り]を持ち、速やかに出頭する様に。」
竜が当たり前に吐く炎と、転生者が当たり前に行うことは周りに大変な影響を与える。
私はレイカの炎に当てられたらしい。
お風呂回です(笑)。
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私の黒歴史がまた1ページ。




