杜若
転移魔法の目的地は、それぞれの意識に強く刻まれた所になります。
魔術師なら魔術師ギルド施設が大半です。
冷夏視点です。
「どうしようマドウ?」
『冷夏、そなた1人なら転移で逃げられるぞ』
また、マドウは逃げる提案をしてきた。
『冷夏なら、大地母神のシンボルが祀られているか、大地母神の縁の地なら跳べる。』
私が欲しい提案はそうじゃない。
「大魔法って、ぶっ放し系か、跳んで逃げるしか出来ないの?」
マドウからは「隕石落としたり、極太レーザーを撃てる。」とは聞いていた。
だけど、目の前の人狼は倒せない。
『範囲殲滅以外にも、天候を変えるとか、永続付与とか出来るぞ。』
「じゃあいきなり朝にするとかは?……永続付与?」
『魔力を永続的に付与する事を言う。』
『勇者の剣は初代勇者の為に、先代の妖魔族盟主が[勇者の書]の大魔法で作った。』
『[勇者の書]に出来て、我に出来ぬはずあるまい?』
『まぁ、あの高位ダークエルフは魔術の達人だし、剣もドワーフ製の最高傑作。勇者の剣をもう1本とまでは……。』
「マドウ。魔剣を作るよ。」
私はマドウの話を遮った。
話長いんだよ。マドウって。
「アヤメの日本刀を魔剣にしちゃう。」
『……なるほど、考えたな冷夏。』
『(魔剣さえあれば、おかっぱ頭と人狼の勝負次第になるからな。しかし……)』
『危険はあるぞ。アヤメが負けたら一蓮托生。そなただけ跳躍なら確実に助かる。』
「もし、そうやって跳躍して助かっても、スマホは泉に投げ込んじゃうよ。マドウ。」
そんな事して助かっても自分が許せなくなる。
オーガとの戦いのあとそう思ったんだ。
『それは遠慮願う。冷夏。』
私はアヤメに作戦を話した。
承諾してくれたアヤメから、鞘ごと刀を受け取り詠唱を始める。
『冷夏。そなたは1日魔力を10使える。ただ1魔力は契約の継続や翻訳に使うから、残は9。』
『憑依詠唱で1。高速詠唱で1。永続魔力付与で6。残は1。』
『神力、魔力共に残1。後はないぞ冷夏。』
高く、低く、自分の声なのに自分ではない声。
不思議な旋律。淀みない詠唱。
アヤメは不安そうに軋む扉を見つめている。
言葉によりイメージが、魔力が沸き上がる。
沸き上がる。沸騰しそう。
『汝に銘と魔力を授ける。』
『杜若』
イメージが収束し銘と共に刀に宿る。
同時に扉が破れ人狼が飛び込んできた。
刀をアヤメに渡す。
「死神の閃光」(使1残0)
人狼に目くらましの同じ手は通じなかったけど、突進は止められた。
アヤメが抜刀し、八相に構えている。
いつ抜いたの?
人狼とアヤメが向き合い。
ほんの一瞬時が止まった。
時が動き、人狼はきれいに2つになった。
遅れたように鮮血が飛び散る。
アヤメは刀の血を払ったあとゆっくり刀を納めた。
マドウが勇者の剣をドワーフの最高傑作の剣と言及したのは、剣や刀の出来が悪いと魔力に耐えかね砕けるからです。
冷夏が1日1本魔剣作りとかは出来ません。
名剣、名刀のみが強い魔剣になるのです。
私の黒歴史がまた1ページ。




