籠城
ひいふうみいは、アヤメの刀術の掛け声みたいなものです。
アヤメ視点です。
ひいふうみい。
半ば無意識に身体が動いた。
固まってしまった2人の前に出て人狼に斬りつける。
無論人狼に攻撃が通る訳ではない。
ただ受け流し、時間を稼ぐ。そのぐらいは出来るはず。
「逃げて下さい。長くは持ちません。」
2人とも一瞬の逡巡は見せたが階段にむけて走る。
人狼は攻撃が効かないのを理解し間合いを詰めてくる。
左右の爪と噛みつこうとしてくる牙。
足捌きで対応を試みるが、躱しきれない。
爪で左肩をざっくり裂かれる。
左肩なら骨までは持っていかれないだろう。
悲鳴と何かが落ちる重い音。
「先生?先生?」
レイカさんの声。
先生が階段を踏み外した様だ。
人狼が突進してくる。
それに合わせて刀を突きだす。
弾かれて体勢を崩された。
思わず後ろに跳ぶと人狼は私をすり抜け階段に向う。
(しまった!)
「[死神の閃光]」(使1残7)
階段からレイカさんの声。
「[死神よ気弾を人狼に]」(使2残5)
更にレイカさんの声。
人狼の唸り声と苦痛の声がして気配が遠ざかる。
「アヤメちゃん。先生運ぶの手伝って。」
レイカさんが声をかけてくる。
2人で先生を1番奥の部屋まで運び自らも立て籠もる。
他の部屋に入りたくとも鍵束から鍵を探す時間が惜しい。
この部屋の鍵は吹き飛んでいるので、扉の前に障害物を積む。
「[大地母神よ致命傷だけ癒やし給え]」(使2残3)
目覚めない先生にレイカさんが治癒魔法を使う。
先生は目覚めないが、かいていたイビキはとまった。
咄嗟に立て籠もりはしたが状況は絶望的。
建物入口は頑強で、鍵もかけてきている。
隔離病棟と言う大きな檻。
人狼が外に放たれなかったのは幸いだが、朝までに3人とも喰い殺される。
人狼が外に出られないと理解し、戻る迄の命。
2人を斬り、私は腹を斬ろうか?
そんな事を考えていると、
「アヤメちゃん。怪我してる肩見せて。」
レイカさんが話してくる。
布を巻いて止血は済ませている。少し熱を持っているが、痛みは酷くない。
「ほっとくと、アヤメちゃんまで人狼になっちゃうよ。」
レイカさんは諦めていない。
少し逡巡したが左肩と傷を見せた。
「この鱗みたいなので止まったのかな?傷は深くないよ。」
「[大地母神よ人狼による傷を癒やし給え。]」(使2残1)
私は左肩の鱗を見せると共に、レイカさんに自分がハルピアの産まれではなく、竜の島出身の竜人だと告白した。
レイカさんは少し不思議そうな顔をしたが
「それがどういう意味なのか分からない。私は転生者でこの世界にきたばかりだから。」
と、自分の秘密も明かしてくれた。
互いの秘密を明かしたからか、レイカさんにより親近感を感じ初めていた。
竜人族の真祖と同じ転生者に大変不敬だとは思うが……。
頭を強く打って意識不明は現代でも一刻を争います。
神聖魔法なき現代では直ぐに医療機関へ。
私の黒歴史がまた1ページ。




