疫病
この世界の月は魔力を発しています。
ちなみに太陽は神力を発しています。
だからアンデッドは太陽光が苦手なのです。
冷夏視点です。
「話しは聞きましたかレイカ?」
私が首を横にふると
「では説明します。アヤメは着替えて来なさい。」
大地母神殿の裏門から入ると、学問所の先生をしているケリー上級神官が出迎えてくれた。
ちなみに正門はこの時間は閉じていて、朝の鐘で開き夕の鐘で閉まる。
神聖魔法をその身に宿して戦う聖戦士を除き、大地母神殿の神官は全員女性だから男性は夜は敷地内に居ない。
……事になっているらしい。
個室ある上級神官の部屋に朝まで……。
とかの話は定番な盛り上がる話だったりするから。
うん、みんな、耳年増だよ。
「10日ほど前から1人の歩き巫女が熱を出して寝込んでいたのですが……」
ケリー先生が神殿の敷地の端の方に向かって歩きながら話す。
私はそのあとに続いて歩いてゆく。
実はちょっと早足なので息が苦しいんだけど……。
先生は歩くのが早い。
後ろからアヤメちゃんが走ってくる。
あれ?まだ帯刀している。
「……どうやらライカンスロープ症のおそれがあるのです。」
私は神妙に頷く。
もちろん、さっぱりわからない。
「(マドウ。ウイキ的解説お願いね。)」
『ライカンスロープ症とは人間が半獣半人に変化してしまう呪い的な病の総称。』
『狼や虎、珍しくは鰐などに変化する症例があるが、多いのは狼だな。』
ケリー先生と私、そしてアヤメちゃんの3人は大地母神殿の端にある旧隔離病棟に到着した。
新しい隔離病棟はもう少し通常病棟に近い。
旧隔離病棟は通常は物置きとして使われている。
ここに入れられるのは緊急性あり、さらにやばい患者だって噂だったけど……。
先生が鍵束を取り出す。
『ライカンスロープ症は発症者から傷をつけられる。または母子感染で感染する。』
『母子感染なら子供は幼い頃変身し、理性ある獣人になる。』
『感染させるリスクから獣人は大抵、隔絶された村でまとまって、暮らしている。』
暗い廊下を蝋燭を頼りに進んでいく。
格子のはまった窓からは月明かりが入ってきている。
「病室は3階の1番奥の突き当りです。」
アヤメちゃんが教えてくれた。
前世なら怪談の1つや2つありそうな建物。
こちらの世界の幽霊は首絞めてきたり積極的だから、怪談なんてない。
『問題は発症者に傷つけられた場合。』
『第1段階では傷口が熱を持ち腫れる。この治癒には神力2〜4が必要。』
『次に第2段階。高熱を発し動けなくなる。この段階での治癒には神力4〜6が必要。』
『そして第3段階。月からの魔力で、不可逆的変身を遂げる。変身後の治癒は不可能。』
『ちなみに月の魔力は満月時が最大で新月時はゼロだ。』
階段を登り終わり、3階に着いた。
先生の足が止まる。
『変身後のライカンスロープは理性を無くしており、朝になって変身が解けるまでは、通常武器無効の化け物になる。』
「ねぇマドウ?それって……」
「あの廊下の奥に立っているあれのこと?」
蝋燭の灯りに気がついた、半獣半身の二足歩行の狼がこちらに向けて駆け出してきていた。
昼間のライカンスロープは変身がとけ多少は理性が戻ります。
昼間の任意の変身は個人の魔力を消費し、魔力が尽きると変身が解けます。
私の黒歴史がまた1ページ。




