積み重ね
レイカル視点です。
「レイカルさん〜[鶏口牛後]に〜指名依頼ですよ〜」
大地母神殿から休暇で帰ってきた私と同行したルドムさんにオーナーが1枚の書面を持ってきました。
見るとハルピアからリキタの街に出る商隊の臨時便の護衛依頼です。よくある商隊護衛依頼に指名依頼は珍しいのでルドムさんは首を傾げました。私は依頼主が商隊を出すフォレスト商会ではなく、ハルピア評議会なので何となく察しましたが。
「リキタ近郊に〜魔獣コカトリスが出た影響で〜リキタでは冬に向け食料が不足しそうです〜なので商隊臨時便が出ます〜」
「確かに、今月の無理診断日近いですからね」
私の返答にオーナーがニッコリ微笑みました。どうやら私の予測通りの様で、指名依頼の名を借りた実質命令書が評議会から来たのです。
前回、私の失敗もあり大地母神殿の無料診断日は大盛況に終わりました。無料診断日はハルピア評議会の大商人達が費用負担するイベントです。また至高神二派とのバランスを鑑み連続して大盛況は好ましくないと考えたのでしょう。
無論、民衆は無料治癒の機会を欲し、大地母神殿側は勢力拡大を望んでいます。つまるところ理由なく不参加は問題になりそうなので、無理なく私をハルピアから遠ざける口実が欲しかったのです。
(デポさんが後ろ楯で無かったら、暗殺者が送られる案件かもだぞ)
確かに私には、お師匠様の様に竜影党が付いてないですから、あり得ますね。マドウJr.。
「しかしレイカル様[鶏口牛後]は2人パーティ。依頼を受けるには後2人は必要です」
ルドムさんが呟きました。秘術以来ルドムさんは私をレイカル様と呼び、仲間と言うより従者の様に振る舞います。正直、面映ゆい感じがして少し困惑しています。その態度がルドムさんの魔剣の所有者、魔剣の借主たるオーナーになら分かるのですが。
「東に行く〜リザードマン傭兵を〜2人臨時で加入させますよ〜帰りは[竜の卵]と合同パーティで〜」
その後サヴラとシイと言うリザードマン傭兵をオーナーから紹介されました。2人共に槍を持ちさらに、リザードマン刀の大小を下げています。
話を聞けば最近ジナリー王国は北のクリーナ聖王国と揉めていて傭兵を集めているとの事。春になれば、少なくとも一度は戦いになるだろうとリザードマン達は話しました。
リザードマン達曰く、大小あれど争いの火種は尽きることがないので、傭兵は食うには困らないとの事です。
☆☆☆
ハルピアから約1ヶ月。私達[鶏口牛後]はリキタの街に到着しました。冬が近いので、普段の商隊ペースよりは2割は早いそうです。
途中何事もありませんでしたが、旅慣れない私には新鮮な経験でした。やはり何事も修行になります。
(何事もないは嘘だぞ。フード無しで歩いて護衛冒険者を魅了し決闘騒ぎになったり、同じ魔獣グリフォンに威嚇されたりしたぞ)
……。うるさいですよマドウJr.
[まわる風車亭]で[竜の卵]と合流し、後1ヶ月もすればお師匠様が鈴木島から戻る事を伝えると、リキタでの越冬は取り止め、ハルピアに明後日出発で、トンボ返りする商隊に同行する事になりました。
食料品を慌ただしく下ろした商隊は帰りは木材や紙、木工製品を積んで帰るはずです。リザードマン傭兵のお二人とはここでお別れ。
王都から来るはずの商隊は天候不順で遅れると早馬が来たそうで、冬はリキタ止まりでしょう。今年は冬が早く厳しいとの予想が大地母神殿から出ています。
☆
「レイカル様、明日は大地母神殿を訪ねるのですよね?」
「神殿の門が閉まる夕の鐘には間に合いませんでしたから。それにお師匠様の師匠ケリー先生に孫弟子として、ご挨拶したいのです」
冷夏様とその友人菖蒲様の師匠。石化病を解き明かした[薬学日誌]の著者、鈴蘭の研究者。
リキタに来て会わずに帰る手はありません。
「著名な方なのですか?」
「いえ、[教育の長]だそうですが、普通の方だと聞いてます。ただ冷夏様曰く『私の先生だよ』との事。何かあっても驚きません」
[まわる風車亭]、同部屋のルドムさんが質問してきます。四人部屋の他の2人、チャガラさんは飲みに出かけてますし、ルチェさんも杖に魔力を込めに中庭に行きました。
ルチェさんの杖の魔術は魔術師ギルドとは違う系統の研究で、魔術付与された杖に魔力を込めておき中魔法の様に使う技です。
どうやらルチェさんの杖には魔力が2蓄えられる様ですので、魔力を2消費する魔術までは無詠唱で咄嗟に使えるはずです。
基本が無詠唱の中魔法である魔族や魔獣には意味のない技ですが、詠唱が必要な人間などの小魔法では秘技にあたるでしょう。
下級魔族程の魔力もない人間の魔術師や魔術士の方が技巧に優れていたり、術式が省力化されているのは不断の努力の賜物です。
オーナーが言うには人間は短い生ゆえに経験を早く積み、更に記録して続く者に残す種族との事。魔族、魔獣も他山の石として研鑽を積まねばならないと常々話されてます。
「聖女様の師、私もお会いして大丈夫ですか?」
そう告げるルドムさんに反対する理由は何もありません。私は頷き、瞑想する為、目を閉じました。
リザードマン傭兵達は再登場です。
どこに登場していたかは読み返して見て下さい。
(露骨に誘導だぞ。チアーズ目当てと勘繰られるぞ)
残念ながら、そこまで読者は多くないのですよ。
作者は読んで下さる方には感謝している様ですが。
(むぅ。)
私の黒歴史がまた1ページ。




