少し早い
デグ視点です。
冬に近い街道をリキタの街に向け歩く。レイカ様の[龍星号]には引き取ったリグと乳母になる大地母神神官を乗せ自分が轡を取っている。ルチェ殿とチャガラ、下級女騎士は周りで護衛をしていた。
今年は少し冬が早い様だ。リキタの街で西に行く商隊を待つ予定だが、場合によっては春まで滞在する事になるかも知れない。
本当はソロス村で商隊を待つのが最善策だが、叔父である村長と同じ村で長くは過ごせない。奴はリグを引き渡すにあたり養育費として金貨10枚を請求し、自分らが支払うと笑ったのだ。
リグは先代村長の曾孫。厳密には血が繋がらないといえ一族のはずだ。それを止むなく引き渡すのでなく、在庫品が高く売れたかの様に喜ぶ。
自分は一刻も早く村から立ち去りたかった。そうで無ければ遠からず血を見る事態になる。その確信があった。
☆
[戦士よ。敵だ]
不意に[龍星号]が話かけてきた。物思いに沈んでいた意識を引き上げ頭を上げる。
[背の女と子は任せろ]
自分は轡を離し、背負っていた戦斧を構えた。
「デグ。流石っすね」
チャガラも気が付いた様だ。妖刀雫の鯉口を切り抜刀する。敵だ。ゴブリンなどではない。人間だ。
[火球]使1残6+1
弓を構えた冒険者達が茂みから立ち上がるがルチェ殿の杖を利用した魔術の方が早い。茂みが炎に包まれ、火達磨になった射手が絶叫と共に二人転がり出てくる
「気付かれたか!全員かかれ!」
左右の茂みから抜剣した冒険者がそれぞれ五名づつ飛び出してきた。指示をしているのは先日酒場で叩き伏せた冒険者だ。
「イェアエア!!!」
敵の動きは遅い。左に向かったチャガラが早速一人を斬り伏せた。自分も右から出てきた一人を戦斧で叩き切る。隣で女下級騎士は[おのぼり]冒険者と斬り結んでいるが優勢だ。
[稲妻招来](使2残4+1)
ルチェ殿が詠唱を終え、再度魔術を放った。チャガラ側の冒険者3人が黒焦げになり、絶命する。味方を巻き込まない精度は流石だ。
「イェアエア!!!」
残った一人を斬り伏せ、チャガラ側の冒険者は全滅。自分側の冒険者は女下級騎士が問題なく勝ったので残り三名。
「駄目だ。手練れだ」
「逃げろ!」
残り三人中、突然二人が逃げ出した。だが自分達も甘くはない。背を向けた二人を後から楽々と殺す。
と、最後の一人、指示を出していた男は降伏した。
「た、助けてくれ。金なら払う」
嘘だ。こいつには払う金など無い。しかし生き残った男は両手を上げ跪いて懇願する。
あたりは死体の山。焦げた人肉の嫌な臭いが漂う。自分はこれ以上無駄な殺生は必要ないと思った。
甘いかも知れないが、身包みを剥いで放り出せば幸運に恵まれない限り、冬は越せないからだ。
だが下級女騎士は違った。降伏した男を後手に縛った後、おもむろに王国法に照らし野盗は縛り首だと言う。
「デグ。どうするっすか?」
「騎士殿の決定に従う」
「デグさんモ、騎士ですヨ」
自分は考えるのが面倒になっていた。襲撃者の持つ荷物から縄を用意して男の首に巻き付ける。辺りに先程とは違う異臭が漂った。恐怖から冒険者が脱糞放尿したのだ。
「止めろ!止めてくれ!頼む〜!」
男は叫ぶが自分は近くの手頃な枝に縄をかける。街道から愚か者の末路が見える位置。ゴブリンが街道近くに来たなら、下ろしてくれるだろう。
「助けてくれ〜」
両手で縄を引っ張り上げると、あたりはようやく静かさを取り戻した。死体を集め大地母神神官殿が祈祷をした後。自分達は旅を再開した。
☆☆☆
[まわる水車亭]の片隅のテーブルで[竜の卵]は顔を合わせていた。迎えに行った時と同じくリグらは大地母神神殿に泊まっている。
「リグの様子はどうだ?」
自分の問いにルチェ殿が健康上問題無いと答える。赤毛に幼いながらも、整った顔立ち。兄者の血を引いているのは間違いない。
「あれぐらいのガキなら、物心ついた頃にはチャシブ姉を母親と思うはずっす」
そう。リグはブレナ殿とチャシブ殿の子として育つ。物心ついた後、自分が叔父だという事を明かすかどうかは分からない。
「魔力、神力判定はまだっすよね?」
「はイ、今判定してモ、明確になりませン。」
今判定しても数値は分かるが、6才位までは稀ではあるが、増える可能性がある。神力が4以上なら啓示を受ける可能性があり、魔力については最低5無いと魔術師ギルドに入学が認められない。
自分は魔力は無く、神力は3。だが使命を帯び聖戦士になった。聖戦士としては異例だが他人を癒やす能力もある。武器の戦斧もいつしか聖化されていた。全ては聖女様の為だ。
「ハルピア方面行きの商隊は来月になりそうっす。ただ、そうすると完全に冬っすから、ガキ連れては微妙っすね」
「冷夏さんモ、しばらくの間は鈴木島に留まると聞いてまス。ここで越冬で良くありませんカ」
冬を越す資金なら充分にある。だがやはりレイカ様が不在だと不安が残るのは何故だろうか?
「デグ。部屋なら空いてるぜ」
頼んでいた酒を運んで来たドワーフの親父が嗄れ声で呟いた。栗色髪のハーフエルフだけではホールが回らない程の客がいる。
やはり今年は少し冬が早い様だ。
景気の良い冒険者を手っ取り早く襲う。
短絡的な冒険者の末路です。
我々の社会にも居ますよね。残念ながら、吊るされませんが……。(闇バイトは犯罪です)
私の黒歴史がまた1ページ。




