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魔導書(電子書籍版)と契約し旅にでる  作者: 弓納持水面
第18章 竜の巣語り

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螺子

レイカル視点です。

 私が秘術の招喚術を行使した後も、[南−303]は下水清掃を契約切れまで続けました。討伐目標の[首だけ聖女]が発見出来なかったからです。


 ジャム少年の画像を解析しても、あの場に[首だけ聖女]は存在しませんでした。退魔の長の見解では離れていた場合、上位アンデッドは咆哮のみでは浄化されないだろうとの事。つまり仕留めきれたとは考えられなかったのです。


 ただ下水清掃の方は下位アンデッドが消滅していた為、楽になりました。ガス溜まりさえ避ければ良く、大鼠ジャイアントラットらも姿を見せません。野生化したスライムさえ、あまり見かけなくなりました。


 大鼠ジャイアントラットが下水から逃げ出して地上を騒がせていたのを知るのは依頼の後になってからです。


(スライムは一時的に海に逃げてたみたいだね)



「今回は儲かったわね。レイカルのおかげよ」


「やっと本物の酒にありつける。」


「なぁ、レイカル姐ちゃん。このまま仲間にならないか?」


「ジャム。湯が冷める。運ぶの手伝え」


 下水清掃の最終日。湯を買い交互に使います。粗末な石鹸込みで、銅貨10枚。もちろん男女別ですが、布で仕切られた程度ですので声は聴こえます。ヒストリアさんが言うには、臭いと疲れを取る儀式との事でした。


「これが最後になると思うと感慨深いわ」


「え?どうゆう意味だよヒス姐ちゃん!」


 ヒストリアさんの呟きにジャム少年が驚きました。実はある計画が進行していたのです。


「ジャム。この後[鶏口牛後]で飲みながら話す」


「セベロ。飲みながらでなく、食事をしながらね」


 ヒストリアさんとセベロさんに言われジャム少年は沈黙しました。私は部外者とはいえ話は知っています。


 実はヒストリアさんとセベロさんは正規の治安傭兵に取り立てられる事になりました。臨時雇いの冒険者からは引退です。そしてルドムさんは至高神正統派を棄教しました。


 あれ程熱心に祈っていた至高神ではなく、大地母神様の啓示を受けてしまったのです。ルドムさんは大地母神の聖印を付け薄緑(下級神官)と白(神官戦士)の紐を通す予定です。


(ケルベロスを見たからだと思うぞ)


 ルドムさんは[鶏口牛後]に籍を残しつつ大地母神神殿に勤める事になりました。そうそう私も[鶏口牛後]に名前だけは加わってます。



「え?じゃあオイラはどうなるんだよ?置き去りかよ」


 [鶏口牛後]で2枚セットと夕食を頼み、食事をしながら、ジャム少年に今後の説明すると不安げな声を発しました。その隣ではルドムさんが大地母神の下級神官服を着て座っています。腰にはオーナーから借りている魔剣が下げられ、思ったより違和感ありません。


「ジャム。あんたは冒険者から引退。ハーピー商会の丁稚になるのよ」


「え!オイラは……」


「あんた、ある魔族に何でもするって約束したでしょ?口約束でも契約よ」


 ジャム少年が私を見ます。そう、私がオーナーに話した結果、ジャム少年はハーピー商会で働きながら教育を受ける事になりました。ハーピー商会は人材育成にも力を入れてます。


「孤児院は魔術師ギルドから運営権をハーピー商会が買い取りました。働ける孤児たちは適性により働く様になります」


 病の癒えたジャム少年の妹はハーピー商会の奨学金で魔術師ギルドに通います。魔術師ギルドの奨学金という名の借金ではなく、正魔術師になれれば返済の必要がない本当の奨学金。魔力が9あったので妹さんの才能は充分でした。


 他にもハーピー商会出資の製麺所で働く者、大地母神殿で神官見習いになる者など様々です。本当に幼い者以外は働かなければ食べる事は出来ません。


「レイカルには感謝しかないわ。乾杯しましょう。ルドム音頭を取ってよ。」


「至高……、大地母神の御心のままに」


 私達[鶏口牛後]は[鶏口牛後]で杯を掲げました。


☆☆☆


「レイカルさん〜大量のお手紙届いてますよ〜分別してくれたら〜焚き付けにしますよ〜」


 下水清掃依頼が終わってから1ヶ月。私は大地母神殿での修行と[魅惑の伯爵夫人]の手伝いをして過ごしていました。大量の手紙は私の不用意な一言が原因なので、オーナーには呆れられています。


 ジャム少年が丁稚奉公に入る時、ヒストリアさんと一緒に挨拶に行ったのですが、励ますつもりで余計な事を言ったのです。


「これから文字と算術習いながら働くのは、遅いんじゃないか?」


「私は口先ではなく手紙の方が誠意を感じます。ジャム少年。私を口説くぐらい文を学んでください」


 その一言がどう漏れたのか翌日から手紙が大量に届く様になりました。当日大地母神殿から直行したので、フードやマスクをしないでいたのが悪かったのかも知れません。


(さりげなくウインクしたのが原因だと思うぞ)


「オーナー。護衛のルドムさんに文字を学んてもらいつつ分別してもらいます」


 一緒に来ていたルドムさんが少しウンザリした顔をしました。神殿からの帰りは護衛してもらう機会増えています。本当は私には必要ないのですが。


「レイカルさん〜文字からして〜丁稚奉公の少年ばかり〜紙もインクも〜そこまで安くないですし〜少年を誑かすのは〜感心しませんよ〜」


「オーナー。[妖魔ネジ女]ではないので、少年を誑かしてはいませんよ」


 私の冗談にオーナーは笑いました。私も笑いましたが、ルドムさんは不思議そうな顔をして訊いてきます。


「レイカル様[妖魔ネジ女]とは?」


 私は笑いながら語ります。[妖魔ネジ女]とは転生者が語った異界の話に出てくる妖魔だと。金髪に黒衣の美しい女で少年を甘言で誑かして拐い、最終的にはネジにしてしまう妖魔だと。


「ネジ?ドワーフが作る妖魔筒に使われる部品ですよね?何故そんな物に?」


 何故ネジなのかなど疑問は尽きませんが、異界の話なので詳しい事は不明です。


「分別前に〜ルドムさん〜賄いを食べて下さい〜ペティの作ったシンプル塩ラーメンですよ」


 厨房からスープの良い香りがしてきました。今は私とルドムさんが[鶏口牛後]のメンバーです。


妖魔ネジ女が出てくる物語は名作です。

映画も2作目までは間違いなく名作です。


召喚術と招喚術

召喚術は立場が上の者が、下位者を呼び出す術です。例)エルフが精霊を呼び出す術等。

招喚術は下位者が上位者を請い招く術です。

神獣ケルベロスを招くのはこちらにあたります。

招喚術には大抵、対価が必要になります。

来てもらうのですから。


私の黒歴史がまた1ページ。

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