表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔導書(電子書籍版)と契約し旅にでる  作者: 弓納持水面
第18章 竜の巣語り

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

378/385

鶏の行水

傭兵視点です。

「コケー」


 夜衛代わりに放っていた魔獣コカトリスが朝を告げる。猟師小屋とはいえ、昨夜は久しぶりに屋根のある場所で過ごせた。


 共同体所有の薪を勝手に使って、火を起こしており、村人が現れたなら一悶着は必須だ。なるべく早めに出発した方が良いだろう。


 と、近くで寝ていたはずのマレーネの姿が見えない。外から魔獣の気配がするので、逃げ去った訳ではなさそうだが、村人に姿を見られたら厄介だ。


 まだ幼い感じが残るとはいえ、マレーネはハーフダークエルフ。将来を見越して娼館にでも売り飛ばせば結構な大金になる。いや、今でも好事家なら大金を出すだろう。


 成育途上の若く美しい少女、少年を好む醜悪な金持ちは共和国で嫌になる程見てきた。そしてそれらに奉仕せざる得ない貧しい少年、少女達も。ハーフエルフともなれば希少性も加わるはず。


 傭兵として生きる為に色々悪さはしてきた。命乞いする相手を容赦なく吊るした事などもある。だが人の売買は何故か生理的に受け付けなかった。


 幼かった頃、優しかった姉や懐いていた妹が突然消えた朧気な記憶が関係しているのかも知れない。俺自身は生まれた帝国辺境の村が焼き尽くされた折に傭兵隊に拾われて今に至っている。



 大きく欠伸をした。昔の事を考えた事など、いつ以来だろう。生き延びる事に必死で、過去を顧みることなど久しくなかった。


 久しぶりに暖かくして寝ていた為だろうか?なかなかハッキリしない頭を振り、軋んだ身体を伸ばす。


 眠る時にかけていた粗末な布をたたみ湯を沸かす為、火を大きくしていると、外から微かに歌声が聴こえた。


「コケー」


 魔獣の啼き声と水音が混じった音の中に微かに混じる歌声。抑揚の少ないメロディとエルフ語であろう歌詞。


 マレーネは必要な事以外に話さず無口な為、ここ数日旅をしていても、ほぼ会話などしていない。ましてや歌声を聞くなど初めてだ。


 以前に酒場で聞いた妖魔セイレーンに魅入られた船乗りの様に、俺は水を汲む桶を掴むと、ふらふらと猟師小屋を出た。



 小屋を出て裏手に廻ると豊かな水を湛えた小さな泉があった。池のほとりには石で出来た大地母神のシンボルが建っている。


 そして泉には水浴びをしているマレーネとコカトリスがいる。朝日に照らされたマレーネは全裸で、無防備に歌いながら、コカトリスを洗っていた。


 なるほど、醜悪な金持ちの気持ちが分かった。これ程に美しいハーフエルフと言う生き物を手に入れ、自由に出来るのなら大金を払う気にもなろう。


 と、歌が止んだ。マレーネとコカトリスが俺の方を見つめている。どうやらマレーネを鑑賞していたのに気付かれた様だ。


「邪魔して済まなかった。水を汲んだら小屋に戻る」


 俺は何事もなかった様に装いながら、桶に水を汲んだ。前に熱が集まり始めているのは朝だからだけではないのは分かっている。


「大丈夫。ピヨちゃんはコカトリスだから。水浴びしても大丈夫」


 マレーネが意味の分からない説明をした。裸を見られた事は気にしていないらしい。


「湯を沸かしておく、水浴び終わったら食事にしよう」


 俺は足早に泉から去った。歩き方がぎこちない事に気が付かれてなければ良いが、と考えながら。


☆☆☆


 湯が沸き保存食の硬い黒パンと干し肉を噛じる頃にはマレーネは、いつもの無愛想で色気のないダークハーフエルフに戻り、俺もただの傭兵いや元傭兵に戻った。


 コカトリスのピヨちゃんは魔籠でパン屑をついばんでいる。魔獣には食料も水も必要ないと聞いていたが、マレーネが言うには、嗜好品として好みがあるらしい。人間が酒を飲む様なものだろうか。


「飯が終わったら、小屋を出るぞ」


 なるべく人目につかない様に街道や街道沿いを進まないといけない。だが街道から離れすぎれば、ゴブリンやオーガなどのテリトリーに入る。


 テリトリーに迷い込めば、わずか2人の旅人ではすぐに喰われてしまうだろう。そして魔獣コカトリスだけが野生に還って自由を得る。


「コケー」


「誰か来た」


 マレーネがコカトリスの声を聞き囁く。魔籠に入っていても、魔獣の方が感覚が鋭い様だ。俺は片手剣を掴み小屋の外に出る。


 猟師なら、いくらか薪代を払えばすむかも知れないがそうでないなら厄介だ。そして現れたのは厄介な方だ。俺は黙って剣を抜く。


「よう、クロス。警戒するな。俺達だ」


「それにクロスボウ使いのお前さんが剣抜いても怖かないぜ」


「ハーフエルフのガキ連れてんだろ。独り占めは良くないよな」


 親しげに話かけてくるのは古参兵に付いて逃げた元同僚達。追討隊からは、どうやら逃げおおせたらしい。見たところ3人共、無傷ではないが。


「マレーネもコカトリスも魔族からの借り物だ。返さない訳にはいかない」


 改めて剣を構える。俺の専門はクロスボウだが[嘆きの泉]で装備は馬車ごと失った。片手剣の腕前は傭兵としては中の下ぐらいだろう。


「借りたのはキューパラ隊長だろ?部隊は壊滅した。ガキは戦闘中行方不明で市場で()()()()売りに出されていたで済む話だ」


 3人共武器を構える。大剣に戦斧、短槍で白兵の専門家だ。戦えば数でも技量でも勝ち目はない。


「鶏の制御中、ガキは無防備だ。しかも長くは続かねぇ。鶏を持ち出しても持久戦にすりゃいい」


 手の内も知られている。ではマレーネを売るのか?あの美しい少女を。


 と。


「仲間割れで殺し合いっすか?あっしらも混ぜて欲しいっす」


 奴らのさらに後から、スラム訛りの女の声がした。


マレーネの「コカトリスだから大丈夫」はバシリスクなら大変な事になると知っての発言です。


私の黒歴史がまた1ページ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ