再度の屈辱
……視点です。
私は時を待っていた。[永遠の神]の啓示を受けて、永遠の刻を得たものの安穏とは過ごせない。
至高神正統派の司祭として、信仰に生きた日々は、あの夜、突如終わりを告げた。敵対する異教徒の使徒の襲撃を受けたのだ。
憎むべきは、大地母神の聖女。表面上は穏やかな佇まいを見せる裏で、竜人忍びを操り、敵対者を容赦なく排除する。
異教の使徒に首を落とされた私は無念のあまり、至高神の御下には招かれず[永遠の神]の声を聞いた。下水道に逃げ込み、復讐の刃を研いだ。
だが聖女は追及の手を緩めない。自らの弟子の魔族を刺客に仕立て、下水道に送り込んできたのだ。遭遇戦は完敗。逃げるのがやっとだった。
刺客の力の程は上級魔族。[永遠の神]の啓示を得た私でも、力勝負では勝算は薄い。魔術主体の私と魔族は相性が悪いのだ。
だから私は時を待っていた。誘い込む正面には幾重にも配下の陣を敷いてある。生前読んだ異界の書にあった様に薄紙でも重ねれば零れたワインを吸収出来るはず。
だが。
静かだ……。静かすぎる。
時間的には罠の口が閉じ、正面の争いが始まって良い頃合いなはず。愚かにも罠に掛かりガス溜まりの露と消えたか?
魔族だけならあり得ないが、そういえば人間の仲間が居たはず。仲間とやらに引きずられ、英傑が死する事は確かにある。
私は様子を見る為に前線に赴く事にした。最悪、私自身が釣り餌になれば良い。
☆☆☆
幾つかのガス溜まりを覗いたが、罠には誰1人かかっていなかった。もしかすると補給の関係で一度引き返したのかも知れない。
だとすれば僥倖だ。下水近くの者を襲い私達の仲間を増やす。確率的に中級の仲間も増えるだろうし、上級の同志が出来れば負担も軽くなる。時間は私達の味方だ。
無論、上級の者は同志になるとは限らないが。
例えば 街外れに拠点を持つ、元ハーフエルフのヴァンパイア。その存在を知った夜。私は彼女を訪問したが、館にさえ入れず追い払われた。礼を持って訪ねた私をドブ臭い。鼠と同じ臭いがするなどと申して。
ひきこもりのヴァンパイアなどとは志を同じくは出来ない。ただ奴の眷属を3体ばかり、勝手に譲り受けた。魔術なら私に一日の長がある。いつか眷属ではなく、本人も這いつくばらせてみせよう。
☆
それは突然だった。狼の遠吠えが三重奏の様に聴こえ、その後、下水道中に、いやハルピア中に神力が満ちたのだ。私は咄嗟に、その時持っていた全魔力で相殺結界を展開した。(使50残0)
何が?何が起きた?私は完全には灰にはならなかったが、恐らくハルピア中の下級アンデッドは灰になり、彷徨える雑霊は浄化されたはず。
高位エルフの秘術にて神でも招喚されたか?だが、その秘術は失われて久しく、また儀式と星辰が整わねば大魔法を持ってしても不可能と秘伝書は告げていた。
それでは[聖女]。聖女の奇跡なのか!再度の屈辱。おのれ[聖女]め!
だが確かなのは私の引いた[聖女の弟子]用の堅陣も、灰燼に帰したであろう事。そして今の私では魔族どころか、ただの人間にも抗し得ないという事実。
私は下水道の更に下層。[永遠の神]の秘密神殿への道を急いだ。恐らく秘密神殿も無事ではない。だが無に帰してなければ、いずれ力を蓄えて必ず戻る。
いかに[聖女]と言えど、所詮は人の身。永遠の刻を得た私の様に不死ではない。
下水の薄汚い水面に、力なく浮遊する髑髏が映った。それが今の私の姿だった。
髑髏になる前は少なくとも人の頭部でした。時間が経てば人の頭部に戻ります。
うーん。なんか知らない所で怨みを買ってるよ。マドウ。
(そうだな。無自覚なのが恐ろしいところだな。)
私の黒歴史がまた1ページ。




