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魔導書(電子書籍版)と契約し旅にでる  作者: 弓納持水面
第18章 竜の巣語り

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秘術

レイカル視点です。

ちなみにこの世界では、秒の概念は魔族と魔術師ギルドの一部しか持っていません

「作戦は簡単です。待ち受ける[首だけ聖女]達を横合いから、魔術で一掃します」


「簡単に言うわね。ヘタに大爆発させたら私達も死ぬわよ」


 ヒストリアさんの言う通り単に爆発させる訳にはゆきません。例えば大魔法の爆発魔術。魔力障壁内で重水素と3重水素をヘリウムに変換する魔術は()()()()()です。


 結果は数gの質量がエネルギーに変わるだけですが、ハルピアが全て吹き飛びお釣りがくるでしょう。


(水爆っていうやつだね。障壁がレーザーでなく魔力なんだよ)


 お師匠様得意の[荷電魔粒子砲]も考えましたが、狭い下水道内では排気熱だけでなく水蒸気爆発の危険リスクも考えねばなりません。


「なんか考えあるんだよな?レイカル姐ちゃん」


「はい。お師匠様から学んだ対アンデッドの魔術を試してみようと思います」


 これは半分、いえ半分以上嘘です。試すのは、お師匠様が泣女バンシー対策に取り寄せた書籍とお師匠様の記憶から編み出したオリジナル魔術なのです。


「[聖女]様の魔術かぁ……。なんか凄そうだなぁ。」


 ジャム少年の呟きに応えるだけの効果は出るでしょうか?そして更に注意点を伝えました。解析前の大魔法は詠唱時間がかかります。


「ゴーレムのスケルトンウォリアーには効かないかも知れません。あくまでアンデッド用の術ですので」


「分かった。スケルトンウォリアーは任せろ」


「あたしはジャムを護るから」


「至高神の思し召しやあらん」


 私達は出発しました。[南−303]は[蛍火]に導かれる様に進みます。秘術[底無し穴の霊]は成功するでしょうか?


☆☆☆


 複数の水音が暗闇に反響し、聴こえてきます。灯りはもちろんありません。その空間には多数の不死者が佇むだけで、生者の気配は一切しないのです。


 と、幾つかの気配が、こちらに気づきました。飛ばしている[蛍火]に近づく亡者共の姿が映ります。


「なんて数なの!」


「[首無し]が居ない」


「至高神よ。御照覧あれ!」


 隣では記録石を覗くジャム少年が沈黙を保っています。震えていますが、画像はブレずに済むでしょう。アンデッド達が思わぬ方角から現れた私達に近づくまで少し時間がありそうです。


 [首だけ聖女]は何故か居らず、攻勢魔術もきません。事前の防御魔術が無駄になってしまいました。司令塔ならぬ司令頭が不在なら、邪魔は入らなそうです。


「冥闇の門。生者を通さず、死者を逃さぬ、底無しの霊。我が声に応え顕現し給え。冥闇の理より逃れし、亡者共を疾く早く、冥闇の闇に還し、繋ぎ留め給え。出でよ。底無しの霊。神獣ケルベロス!」(使60残527)


 古代魔術語で紡がれた魔術の力が冥闇に通づる門を開きました。魔族の研究者が作製した魔獣ケルベロスとは違う本物の気配がします。


 そして中空に浮かび上がる紋様が光ると、神獣ケルベロスが、神の眷属が顕現しました。


 かつてお師匠様が比良坂を下ったおり、小さな小屋で眠っていた仔犬。神獣ケルベロス。


 穏やかなお師匠様のイメージとは違う顕現した三つ首の真っ黒な神獣が、それぞれの頭から咆哮します。


(む、むぅ。1秒毎に魔力が1減るぞ。300秒が限界。送還含めて360はかかる……)


 神の眷属を呼びだしたのですから、それぐらいは安いものです。現に咆哮だけで[下水の滝]の広間に居たアンデッドは下級、中級を問わず全て灰になりました。


 そして死者を使用したスケルトンウォリアーも、瞬く間に駆逐してゆきます。死する者は神でさえ冥闇に留め置くと言われる神獣ケルベロス。300秒後には生者以外、全てが居なくなりました。

(残167)



〘魔獣レイカル。我を顕現させし対価を求める〙


「対価は何を?」


〘魂か、それに類する物を三つ〙


「オーナーから頂いた[蜂蜜菓子]を三つ差し上げましょう。ポーチに入っているはずです」


〘……[蜂蜜菓子]もらい受けた……〙



「……姐ち……レイカル姉ちゃん……」


 ふと、私は気が付きました。どうやら気を失うという経験をしていた様です。


「大丈夫か?レイカル姐ちゃん」


「大丈夫です。燃費に関して少し改良の余地がありそうですが……」


 私はルドムさんに抱きかかえられていた状態から、もぞもぞと起き上がりました。セベロさんはあたりを警戒し、ヒストリアさんは失禁して、腰を抜かしています。


「聖女レイカル様。貴女に仕える様に至高神様がおっしゃってます」


 立ち上がった私の足元にルドムさんが跪きました。神獣ケルベロスは大地母神様の眷属にあたるはずですが、神威にアテられたのでしょう。


「神様っているんだな。おいらも信じそうだ」


 笑いながらジャム少年が呟きます。


「ほら飲め。飲んで着替えろ」


 セベロさんがヒストリアさんに水筒のワインを飲ませています。


 [蛍火](使3残164)


 私は改めて幾つか灯りを飛ばしました。広間には水音だけが響いています。


 その後夜まで、あたりを見回りましたが[首だけ聖女]は見つかりませんでした。



ケルベロスには底無し穴の霊という意味があるそうです。

蜂蜜菓子と魂が等価なのはケルベロスが甘い菓子が好きという逸話にもとづいてます。

レイカルは準備していたんですね。

(ダメなら[鶏口牛後]の内3人の魂が取られるという想定も……)


私の黒歴史がまた1ページ。

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