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魔導書(電子書籍版)と契約し旅にでる  作者: 弓納持水面
第18章 竜の巣語り

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銀杏

視点デグです。

 夕方近くになり、自分は生まれた村、ソロスに着いた。


「打算なく、待っている人がいれば、そこが故郷だと思うよ」


 レイカ様が当時、冒険者仲間だったアヤメ様と、そう話されているのを聞いた事がある。その意味では、この村は故郷とは言えない。


 同行していたフォレスト商会の馬車は王都に向かい明後日には村を発つと言う。野盗騒動予定より10日以上遅れるから、商隊長の査定は下がるらしい。


 道中さりげなく口説かれていたチャガラの話によれば、まだ若い商隊長は[ヲタクレイカ]に出来る商館の副館長になり損ねたと、笑っていたそうだ。


 ただ、まだ堅苦しい商館勤務よりは旅暮らしが楽しいらしいので、笑って話せる部類の事らしい。



「ようデグ。ではまずかったな。デグ下級騎士殿、お久しぶりです」


「止めてくれ。デグでいい」


 村の酒場兼宿屋ソロス亭に一人入ると、知った顔の主人が声をかけてくれ、店の奥からエールを持ってきてくれた。


 この村の住人には公然の秘密だが、主人の居るカウンター下のエールは水で薄めてある。奥のエールもカウンターのエールも銅貨1枚だ。


「一人かい?」


「あぁ、仲間は簡易神殿に泊まる」


 ルチェ殿を含めた女性陣は簡易神殿に泊まる。商隊の到着で宿は混み合っていた。


 商隊本隊は村の広場に護衛も含め天幕テントを張り泊まるが、野盗の影響で足留めされていた同行者は宿をとる。冬が近い今、野宿は厳しいを通り越し危険だ。


「すまないが、個室しか空いてない。銅貨30枚で朝食付き」


 銀貨2枚を渡す。


「1枚は飯代だ。酒はエールで良いから、飯は豪華に頼む」


 兄者と訪れていた頃はかねがなく、遠慮しながら飯を食い飲んだものだ。それが飲み食いするかねの心配はなくなったが、兄者は居ない。


「そういや知ってるかい?村長が、とうとうリグを売りに、いや養子に出すらしい。お前さんの甥っ子だ」


「知っている。買い手の護衛だからな」


「それは、その……なんだ」


 主人は少し気まずくなったのか、貸してくれるテーブルを示すと、料理を用意すると言って離れた。村長には今までの養育代金が支払われると聞いている。


 エールだけが変わらない味がした。


☆☆☆


 香草で味付けされた猪肉をナイフで切り分け、口に運ぶ。肉は少し硬いが臭みはなく、肉を食べている実感がわく。


 さらに兎肉のスープに白いパンが運ばれてきた。移動中の硬焼き黒パンと塩辛い干し肉の保存食とは全く違う。


 まわりの食い詰めに近い冒険者や商売の為に食事を削ってる行商人から羨む様な視線を感じる。冒険者は食える時に食うのが常識だと自分は学んだ。


 と、チャガラが店に入ってきた。


「デグ。一人だけ良い飯食うのは無しっすよ」


 店内はざわめく、チャガラは黙っていれば、スタイルの良い美人冒険者だ。自分の前の席に座り、酒と料理を頼むが、料理が出されるよりも先に酔った冒険者が絡んできた。


「ねぇちゃん。そんなハゲじゃなくて俺らのテーブルに来なよ。奢るぜ」


「失せな」


 普段のスラム訛りではない口調でチャガラは答える。すると酔った冒険者は今度は自分に話かけてきた。


「オイ、ハゲ。席を開けろ!邪魔だ」


 自分は黙って席から立った。素直に見える対応に、まわりの冒険者や行商人がバカにした様な表情を見せる。


「わかってんじゃねえかハゲ。木偶のぼ……」


 自分は間合いを測り、絡んできた酔った冒険者の顔を()()平手で張った。拳では多分殺してしまうからだ。


 相手の頬で小気味よい音がして、酔った冒険者は受け身も取らず倒れた。ほんの少しの間白目を剥いていたが、すぐに気が付き立ち上がろうとする。


「この野郎!やる気か……あれ?脚に力が入らねぇ……。」


 立ち上がろうとした酔った冒険者が、もう一度崩れる様に膝をつく。その四つん這いになった冒険者の顔面をチャガラが容赦なく蹴りあげた。


 骨の砕ける音がして、今度は大の字に冒険者は倒れた。鼻は完全に潰れ、顎の骨も折れている様だ。後頭部も床に強打しているので、致命傷かも知れない。


 冷夏様が蜘蛛の膜と脳がどうのと、話されていたのを聞いた事がある。治療にあたり頭へのダメージは軽視してはいけないらしい。


「野郎!」


 酔った冒険者の仲間が2人近寄ってきた。剣を抜きそうな雰囲気だ。チャガラが刀の鯉口を切ったが……。


「料理が出来た。宿を追い出されたくないなら、喧嘩は止めろ!」


 宿の主人が一喝すると、仲間2人は剣から手を離した。チャガラも刀を収める。自分は再び椅子に座った。


 それほど酔ってない仲間には、冬近い夜の寒空に、唯一の宿から追い出される厳しさは分かるらしい。チャガラと自分は売られた喧嘩だ。続ける理由はない。


「お前ら、簡易神殿に急患だと連れてゆけ!下手すれば死ぬぞ」


 宿にも司祭らしき冒険者はいるし、なんならチャガラも闇司祭だが、仲間ではない為知らぬフリをしている。


 頼めば治療してくれるかも知れないが料金は吹っかけられるだろう。少なくとも簡易神殿なら正規料金で診てくれるはずだ。



 チャガラと2人で食事を楽しんでいると、治療を終えた冒険者と仲間が宿に帰ってきてコソコソと2階の宿に上がる。


 その後に付いてルチェ殿が入って来ると店はまたざわついた。ノウルより東ではリザードマンは珍しいからだ。


 ルチェ殿が銀杏いちょうの実とエールを頼み自分達のテーブルに付くと、チャガラが話かけた。


「ルチェが飲みにくるとは思わなかったす」


「致命傷はありませんでしたガ、鼓膜破裂、顎の粉砕骨折、打撲等で駐在神官様は神力を使い果たしてしまいましタ」


 ルチェ殿は運ばれてきた秋にしか出ない銀杏の実を焼いた物を口に入れ、エールを飲んだ。表情は良く分からないが、美味そうにみえる。


「聞けバ、デグとチャガラにやられたみたいだったのデ、見にきたのでス」


「理由つけなくとも、銀杏旨いすから」


 昔は兄者と秋の終わりには森に銀杏を拾いにいった。ちょっとした小遣い稼ぎになった。幼い時分から、兄者には食うことと金で苦労かけていた。


 金か…。


 叔母は平均的な神官だったはずだから、神力6。下級神官から、かわってないだろうから、銀貨61枚はかかったはずだ。


 食い詰めに近い冒険者には致命的な金額。冒険者は舐められてはいけないが、恨みを買うのも良くない。自分らは冷夏様と過ごすなか金銭感覚が麻痺している。自分は失敗した。


 リグを連れた帰りは少なくとも、リキタまで商隊の同行はない。エールのお代わりを頼んだルチェ殿とそれを、からかうチャガラのたわいない話を聞きながらそう思った。




脳が揺れると立てない場合あります。そして、外傷性くも膜下出血等の脳損傷は致命傷になります。プロのボクサーでも亡くなる事があります。

管理化にある格闘技以外では頭を蹴ったりしてはいけません。


私の黒歴史がまた1ページ。

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