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魔導書(電子書籍版)と契約し旅にでる  作者: 弓納持水面
第18章 竜の巣語り

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ビンタ

レイカル視点です。

「汁にもっとカブと菜っ葉を入れて、芋とチーズは二つくれよ」


「ジャム、無料だからってガッツかないの!」


「至高神よ。糧に感謝します」


「これで酒が付けば文句なしだが……」


 身清めと洗濯が終わり、私達[南303]は少し遅い夕食の為に食堂に集まっていました。


 そして普段でも銅貨1枚と安い簡易宿舎の食堂が下水担当には特別に食べ放題で無料な事もあり、皆、黙々と食事を胃に詰め込んでゆきます。


 地下にいる時は水も制限された中で堅パンと干し肉だけの食事が続きました。芋とチーズと野菜汁がご馳走に感じられます。


(レイカルには別に必要ないはずだぞ)

食事は楽しみなのですよ。マドウJr.



「で、どうするのよ。ボンクラの所も皆死んだわ。借金してでも降りないと次は私らよ」


「残念ながら、違約金払っても解約は無理です。契約書に緊急事態時は契約解除権は制限出来る条項がありました」


 ヒストリアさんの問いに私は答えました。箝口令を敷いていますが、異常事態が進行中なのは漏れている様です。


 普通ならこの時間、昼番終わりの冒険者達で食堂は、もっと騒がしいはずなのですから。


「なんとか解約出来ねえのかよ。魔族の姐ちゃん」


「ジャム。[聖女の弟子]だけなら、大地母神教団に泣きつけば多分、可能なはずだ。が、そうしたら俺ら[鶏口牛後]に生き延びる目がなくなる」


 珍しく真面目な顔をしたセベロさんがジャム少年を諭します。ヒストリアさんとルドムさんは顔を見合わせました。なにか小声で話しています。


「私ら。やっぱり死ぬんじゃない?」

「至高神の奇跡では?」


 そしてジャム少年も、そんな様子のセベロさんを唖然とした顔で見ています。


「なぁ、セベロ。悪い酒でも飲んだか?」


 するとセベロさんは皮肉げに笑いました。身清めの覗き達から賄賂酒リベートをもらい飲んでいたはずですが、酔いは見られません。


「俺も絶えず酔いの雲の中を漂っていたい。だが、傭兵隊に居た時からそうだ。伸るか反るかの瀬戸際になると、いくら飲んでも酔えなくなる」


(うーん、ある種の天恵だぞ)


 すると、少し離れた所から怒声が響きました。役人風の男と治安傭兵が言い争っている感じです。


「昼巡回を全部隊、下水班に廻すってどうゆう事です?[冒険者の店ギルド]としては看過出来ません」


「非常事態条項に基づく配置転換だ。もちろん日当は3倍支払う。仲介手数料も上乗せされる」


 役人風の、恐らく[冒険者の店ギルド]の職員は非常事態宣言など出ていないと言い募っていますが、治安傭兵の担当官は南傭兵隊隊長権限で下水内で非常事態発生と発令済みだと突っぱねています。


「バカね。アンデッド側が増えるだけよ」


「至高神の死後の慰めが。祈祷が出来れば良いのですが」


「なぁセベロ。脱走とか出来ないかな?」


 それぞれに愚痴なり感想なりを述べますが、とはいえ状況に変化はありません。小声で脱走の提案をしたジャム少年はセベロさんに小突かれてます。


「逃げるにも金がいる。それに逃げたら少なくとも数年はハルピアに戻れなくなる。お前は病気の妹がいるとか言ってただろ?見捨てるのか」


「そいつは……病気は、その……魔族の姐ちゃんに……」


「ちょっと、レイカル!治したの?いくらになったのよ!」


 ヒストリアさんが青い顔で尋ねてきました。ジャム少年は仲間にも黙っていた様です。ロハにしたとは言えないので、それっぽく答えます。


「はい、死病で猶予なかったので。癒やしました。往診料サービスで銀貨91枚になります」


「この魔族が!」


 と、ルドムさんに胸ぐらをつかまれました。ジャム少年はヒストリアさんに頬を張られています。


「ただ口約束の証文なしにはしてあります」


 すると、ルドムさんは手を放してくれました。が、ジャム少年は今度は甲で頬を張られています。


(往復ビンタだぞ)


「銀貨91枚。金貨約3枚よ。訴え出れば金貨4枚も借金あれば借金奴隷に出来るのよ!レイカルの融通がきかなかったら、利息で1年たたずに借金奴隷だったのよ!ジャム!分かってるの!」


「わかってるよ。ヒス姐ちゃん。おいらだって人は見るよ」


 私が笑うとヒストリアさんに教団は大丈夫なのかと、聞かれました。私はイザとなればオーナーの製麺所計画の契約の一環にねじ込むから大丈夫と答えました。


☆☆☆


「[首だけ聖女]ですよ〜、人海戦術は愚策ですね~」


 夜中、外出禁止令が出ている簡易宿舎を抜け出しオーナーに報告に訪れました。わずか半刻前の事です。


 そして最低限に灯りの落とされた[魅惑の伯爵夫人]には治安傭兵総隊長が直立不動で立っていました。まわりにはハルピアの評議員やその代理が不機嫌そうに座り佇んでます。


 下水内で問題発生は噂されていたものの、報告は治安傭兵南地区で止まっていました。冬に向け室内は暖められていますが、総隊長の流れ落ちる汗は、そのせいではないでしょう。


「上位アンデッドだ。しかも既に100名近くの人員を失っている。下水からアンデッドが這い出てきても不思議ではないぞ!」


「何かあれば責任問題になる」


「至高神あたりに退魔師を要請する必要があるじゃろうが、高くつくのう。何より時間が必要じゃ」


「その件ですが〜うちのレイカル()に〜時間稼ぎさせます〜下位アンデッドを掃除させますから〜」


 いくつかの援助が約束され、依頼の続行は決まりました。経験の浅い下水清掃隊は解雇され、対アンデットに長けた冒険者が投入されるそうです。


が……。


「レイカルさん〜[首だけ聖女]仕留めるのですよ~貴女は冷夏さんの〜弟子なのですから〜」


 宿舎への帰り間際にオーナーに()()()()な顔で囁かれました。


(むぅ……。どうするレイカル)


「悪い報告程早く」とはいえ報告すればタダでは済まないのが世の常ですね……。

間近に上位アンデッド出現は夜中に評議員を緊急で集めるぐらいにはマズイ出来事です。


私の黒歴史がまた1ページ

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