表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔導書(電子書籍版)と契約し旅にでる  作者: 弓納持水面
第18章 竜の巣語り

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

369/385

洗濯

レイカル視点です。

「南-303。一時帰還したわよ。損耗なし。」


 ヒストリアさんが下水担当兵に口頭で帰還報告をしました。担当兵は私達から漂う悪臭に顔をしかめます。


 マドウJr.の心配はひとまず外れ、私達は5日間のアンデッド清掃を終え、南傭兵隊詰め所に無事に戻りました。明日は丸一日休みです。

(まだ、4セット、24日もあるぞ)


 と、下水担当副長が部下を引き連れ走ってきました。今度はヒストリアさんが顔をしかめます。

「やな予感するぜ」

ジャム少年が呟きました。


「無事戻ったか303。地下の様子はどうであったか。上位アンデッドは見ていないか?」


「副長がお出迎えとは……何があったのよ」


 明らかに態度が変です。ヒストリアさんは質問をはぐらかし、逆に質問しました。すると副長が一瞬言葉に詰まったあと、呻く様に答えます。


「今回派遣した清掃隊の5隊が未帰還。うち3隊は壊滅が確認されている。お前達も戻らぬのではないかと、心配していた」


 副長の話ではゾンビやスケルトンに誘導され、ガス溜まりに嵌った部隊が2組。レッサーヴァンパイアらしきアンデッドに急襲され力負けしたのが1組。


 残り2組は詳細不明だが、似た感じのアンデッドが歩み去るのが、目撃されているそうです。


「生き伸びて報告した者は()()しているが、正直要領を得ない。南東地区で無事帰還したのは貴様らだけだ」


「保護って……。事態を隠蔽する為に監禁してるだけじゃない。どうすんのよ」


 ヒストリアさんは強気を装っていますが、声が震えています。近い地区の見知った顔が多数死んだのです。無理もありません。


 実は[首だけ聖女]と遭遇戦の後は一度しかアンデッドと遭遇していなかったので、事態の深刻さに気付いていませんでした。


「おいら達も、ゾンビにガス溜まりに誘導されそうにはなったぜ」


 ジャム少年がヒストリアさんのフォローに口を出します。


 本能的にしか動かないゾンビ、スケルトンが有毒なガス溜まりに誘う訳がないので上位アンデッドを匂わせる発言です。


 下水道には所々にガスが溜まる事があり、不用意に踏み込めば昏倒し、そのまま死に至ります。呼吸器を害する毒なので、不死者たるアンデッドには全く効果ありません。


(レイカルも平気だぞ)


 [首だけ聖女]に遭遇したと正直に報告するのは止めよう。と、事前打ち合わせは済んでます。


 もし、上位アンデッドに遭遇した事が分かれば対処を求められます。契約はアンデッド清掃の為、[ゾンビ][スケルトン]でも[首だけ聖女]でも排除義務が生じるのです。


「至高神の思し召しにより、レッサーヴァンパイアは排除しました」


 力づくで対処した為、薄っすら曲がった両手剣をルドムさんは見せました。鞘には収まらなくなったので、布を巻いてます。


「酒を補充したい」

「早く、堅パンと干し肉以外の飯が食いてえ!」


 黙ってしまったヒストリアさんのかわりに、他のメンバーが騒ぎました。


「副長。私達[南−303]は簡易宿舎におります。追加報告あれば後程に……」


 私がそう告げると、副長は頷きます。


「あ、あぁ、ご苦労」


 私達は青い顔をしたヒストリアさんを連れ、その場を離れました。


☆☆☆


「うっひゃー冷てえ!」


 ジャム少年が井戸から汲んだ水を頭から被りました。冬も近いので水は冷たいのですが、湯は買わねばなりません。


 依頼の最終日には湯と石鹸を買うそうですが、途中休みは水で体を洗うか拭くかして、着替えるだけになるそうです。


(魔獣は自己洗浄機能があるから便利だぞ)

マドウJr.それでも体は拭きますよ。


「洗濯物は出して下さい。まとめて[洗濯魔法]かけますから」


 私がそう告げると、何故かルドムさんに両手を握られ握手されました。


「今回の当番、ルドムだったのよ。しかし[洗濯魔法]まで使えるの?普通に洗濯したら休日の半日は潰れるわ。水冷たいし……」


「そうですか?魔族の嗜みですよ。」


 洗濯魔法は[エルフ魔術]由来なのですが、下級魔族ならほぼ100%知っているポピュラーな魔術です。人間の魔術カリキュラムにはないのですが、学べる機会あれば必ず学びなさいと言われています。


「魔族の姐ちゃん。装備も洗濯に出して良いか?」


「装備は自分で磨きなさいよ。」


「じゃあヒス姐ちゃんは出さないのか?」


「出すに決まってるじゃない。革鎧は臭うのよ。洗浄後の手入れしなさいって言ってるの!セベロさえ装備の手入れはするんだから!」


 見ていて微笑ましい情景です。しかし、少年とはいえ履いていたパンツまで脱いで水浴びしているのはどうなのでしょう。


 まぁ、ヒストリアさんも、ルドムさんも下着姿での水浴びなので問題ないのかも知れませんが。ちなみに私は目の毒だからと、わざわざ張ったテント内で体を拭かされました。


 セベロさんは先に井戸を使わされ、今は井戸に人が近づかない様に見張りをしています。


(水浴びを覗きにきた兵から火酒もらい飲んだくれてるぞ。覗き見達はレイカルいなくてガッカリしてるけど……。)


「ジャム!頭もちゃんと拭きなさい!」


 まるで姉弟を見ているかの様です。


 私はルドムさんが抱えてきた洗濯物に魔法をかける準備をしました。


下水のガス溜まりには硫化水素が溜まっていて事故が起こる事があります。

また錆びたドラム缶などでも鉄が酸素を奪う事による(錆は酸化鉄)酸欠事故があったり、井戸の底に二酸化炭素が溜まってやはり酸欠事故があったりします。

全て気付いた時には昏倒し、装備なく助けに行った者も昏倒する(普通の人間は行動しながら、5分も10分も息を止められません)恐ろしい連鎖が起こる事もあります。

現実では、どうか気を付けて下さい。

(安全装備不全を現場の判断とか言われても死人は反論出来ません。酷い話です)


私の黒歴史がまた1ページ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ