レアアンデッド
視点レイカルです。
[戦闘妖精]×4(使8残590)
[魔力付与]×3(使3残587)
[蛍火]より明るい光を放つ自律型攻撃妖精を4体呼び出して、3体を声がした方に飛ばしました。また飛び起きてヴァンパイアと斬り結んだヒストリアさん、セベロさん、ルドムさんの武器に魔力を付与します。
下水から現れた相手は下位とはいえヴァンパイア、通常の武器は通じず、怪力を持った恐るべきアンデッドなのです。
[稲妻防壁](使1残59)
戦闘妖精を飛ばした先で魔術防壁が張られ2体が撃墜されました。が、1体が掻い潜り、声の主に体当たりします。
すると体当たりされた胴体は燃え上がりましたが、首だけ空中に離脱しました。胴体は燃え尽きる前に戦闘妖精を包み込み道連れにします。
(あれはレアなアンデッド。[首だけ聖女]だぞ)
[首だけ聖女]
ジャック・オー・ランタンの上位種のアンデッド。
ハイ・ジャック・オー・ランタン
かつて異端として斬首された至高神の聖女が成り、復讐をしてまわった逸話から[首だけ聖女]と呼ばれる様になった。
マドウJr.の指摘に図書館の記録が頭をよぎります。確か新鮮な死体に取り憑くこともある厄介なアンデッドです。
(魔術攻撃が主体の相手だから、魔獣並に厄介だぞ)
私も魔獣ですよ。マドウJr.
「貴方、上位魔族ね……これで勝ったなどとは、思わないことよ!」
捨て台詞を吐き[首だけ聖女]は下水道の闇に消え去りました。文字通りアンデッドの司令頭になる存在なので、一筋縄ではいかないでしょう。
「魔族の姐ちゃん。ヒス姐ちゃんが殺られそうだ!」
ジャム少年が悲痛に叫びます。見ればルドムさんはレッサーヴァンパイアと互角に剣を打ち合いしています。セベロさんは巧みな剣技で攻撃をいなし反撃していました。
ヒストリアさんだけが防戦一方な状態なうえ、ざっくり斬られた複数の傷から出血しています。遠からず血が足りなくなるでしょう。
「大地母神よ、不死者に、[黄泉醜女の槍]を、投じ給え」(使2残46)
私は大地母神に祈り、ヒストリアさんの前のレッサーヴァンパイアに[黄泉醜女の槍]を投じました。至高神なら[戦乙女の槍]と呼ばれる光輝く槍は狙い違わずアンデッドを灰に変えます。
「大地母神よ、女戦士の傷を、癒やし給え」(使3残43)
疲労と出血で倒れそうなヒストリアさんを癒やすと、ほぼ同時に絶叫が2つ響きました。ルドムさんとセベロさんがレッサーヴァンパイアを仕留めたのです。
小傷を負った2人もそれぞれ癒やしましたが(使2残41)[南-303]は疲労困憊になりました。
「朝まで寝かせて欲しい」
「まだ少し血が足りない気がするわ」
「剣が歪んで鞘に収まらない」
「待てよ。魔族の姐ちゃんだって、疲れてるだろう!ちゃんと交代しろよ!」
休息を申し出た3人にジャム少年が苦情を言います。険悪ムードが漂ってきました。皆、余裕が無いのです。
「大丈夫ですよ。戦闘妖精が残ってますから、まだ余裕があります。ジャム君も寝て下さい」
アッサリと休息を譲ったので、ジャム少年だけは不満そうでしたがパーティは治まりました。私が魔獣でなければ揉めたでしょうけれども。
(お人好しだぞ。レイカル)
必要ないから、どうせ寝たフリするだけですよ。
その後は朝まで何事もなく過ぎました。
☆☆☆
翌朝
朝とはいえ日が登る訳ではない下水道内では、香り線香が燃え尽きたら朝と定義されています。
私は空気中の神力と魔力の入れ替わりが分かるので、地下でも昼夜分かりますが[鶏口牛後]には知られない方が良いでしょう。
力が入れ替わる時に半刻程、瞑想をしたので魔力、神力共に回復しています。新月が近いので、魔力の回復は少し遅かったのですが……。
「ヒス姐、どうするよ?」
朝食として堅いパンと干し肉を噛りながら、話し合いをしています。ジャム少年が昨日の戦いを経て撤退を申し出たのです。
「[首無し聖女]は手に余る。次、遭遇すれば死ぬ」
エールを一口だけ啜ったセベロさんが撤退を進言します。
「首だけ聖女な。でも、おいらもそう思う。魔族の姐ちゃんが居なきゃアンデッドになってたぜ」
「何言ってるのよ。撤退して、借金して違約金払って、他の依頼を探す。無理よ。冬も近いし、野垂れ死にするわ。セベロも酒代が出なくなるわよ」
「レイカルが居るのが、至高神の思し召し。[首だけ聖女]に勝つチャンスは今回限り」
ヒストリアさんとルドムさんは続行を支持しました。これで2対2。全員が私の方を一瞬見ました。
確かに[竜の卵]でもなければ、上位アンデッドに挑むのは無謀です。ただルドムさんの言う通り、私なら勝てるかも知れません。
(デポに遠慮しなきゃ、容易に勝てるぞ。秘密を知る事になる[鶏口牛後]をどうするかにもよるけど……)
うーん、迷います。私は沈黙を保ちました。[鶏口牛後]にとって私は部外者なのです。
「せめて本部に報告しょうぜ。ヒス姐。いくつかの部隊が消息不明になった理由は分かったんだから。高額な討伐依頼になるかも知れないぜ?」
「相手にされないわよ。契約は下水に巣食うアンデッドの排除だから、金額はゾンビでも不死者王でも変わらない。下手すれば、他部隊が怖気づかない様に帰還制限とか釘を刺されるわ」
剣の腕は今ひとつでもヒストリアさんは経験豊富な冒険者としての顔を見せています。
するとセベロさんが再び口を開きました。
「今まで通りに行こう。ただし[首無し]とは極力、遭遇を避ける。生き延びたら、ほとぼり冷めるまで下水清掃は無しだ」
息継ぎのタイミングでセベロさんは、またエールを一口飲みました。ヒストリアさんは顔を顰めます。
「依頼降りても緩やかな死。とはいえ、[首無し]は[鶏口牛後]の手には余る。なら雑魚狩りをしつつ30日を過ごすしかない」
「遭遇するかは至高神の思し召し。それに[首だけ聖女]です。セベロ」
わだかまりを残しながら、私達は朝食を終えました。次の拠点目指し進みます。
(うーん、バイアスかかった最悪の選択だぞ。『今まで大丈夫だから、今回も大丈夫』は遭難したりする心理的原因だよ)
マドウJr.私は部外者なのですよ?
(だから容認したんだよ。レイカルだけなら生還は容易で、金銭面も心配ない。最悪1人逃げ帰るのは違約にならないからね)
私はそっと溜息をつきました。
山歩き等で臨時のパーティを組むとマイノリティは口出ししにくくなりがちです。
また引き返すタイミングを誤る「経験あるから大丈夫」とか言うバイアスは遭難死につながったりします。
認めたくない事実を認められないリーダーに安易に従うのは危険なのです。
PS.
司令頭は司令塔の誤植ではありません(笑)
私の黒歴史がまた1ページ。




