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魔導書(電子書籍版)と契約し旅にでる  作者: 弓納持水面
第18章 竜の巣語り

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幕間 ヒヨコ

傭兵視点です。

 魔都ハルピアの傭兵宿。その片隅にあるテーブル近くに俺は居た。眼の前テーブルでは新たなる雇い主であろう商人と俺らの隊長が商談をしている。


 大陸の西の果てにある帝国と、いくつかの衛生国家を挟んで存在する共和国の停戦が少し前に成立し、仕事にあぶれた傭兵達が東に流れてきていた。


 仲の悪い大国どうし、停戦がそう長くは続かないのは分かってはいたが、しがない傭兵稼業は、その束の間の平和の間も食い繋がなくてはならない。


 俺らの隊もその例に漏れず、流れてきた口だが問題はその人数の少なさだ。元々は100名近く居た仲間も1人、また1人と消え、ニキタの街に着いた時は半分近くに減っていた。


 そしてその残りも、あのアンデッドが湧く[嘆きの泉]で大半が命を落とした。バンシーの出る呪われた泉だと旅の俺らは知らずに夜営したからだ。多くの装備も馬車ごと失い、今では10人かそこらしか居ない。


「フォレスト商会の商隊を遅延させれば良いんだな?」


「はい、ただ人間の支配地域、出来ればリキタ伯爵領内で足留めをお願いします」


「直接襲っても構わないか?」


「えぇ、勿論です。ただ護衛冒険者に、同行組の冒険者達。最低でも30名は戦えます。力押しは大変かと。」


「心配するな、戦力に()()はある」


「なら良いのですが。」


 流石、商人は耳が早い。俺らも誤魔化してはいるが、兵数が少ない事を感づいている。ただ商人も本気で心配している訳ではない様だ。傭兵など使い捨ての道具にすぎない。


「こちらは現金で前金。後金はこちらの手形で。ジナリー王国王都の傭兵宿で換金出来ます」


「空手形じゃなかろうな?」


「もちろんです。ただ期日前にフォレスト商会の商隊が王都に着いた場合は紙切れになります」


 正直、金額は渋く条件は悪い。手形を割り引こうにも、典型的な傭兵手形である為、難しいだろう。流石は商人と言ったところだ。


 契約成立の握手を交わし商人は裏口から出て行った。隊長には駆け出しの頃から世話になったが潮時だ。今回を最後に俺も隊を抜ける。


 前金から給金を貰うと、隊長は渋い顔をしていた。残金が隊に必要な経費ギリギリの様だ。隊長も含め皆、これが傭兵隊としての最後の仕事になるとは分かっているだろう。


 俺らは黙ったまま、東に向かい出発した。


☆☆☆


 魔都ハルピアとノウル伯爵領の中間地点にある妖魔の治める街[ヲタクレイカ]。


 ダークエルフのアルガ族の資本により、人間と魔族双方との交易用に整備されつつある街らしい。


 街の中央には抽象画を立体化したような聖女像が置かれ、近くにはドワーフの工房や商店が軒を連ねている。


 隊長が今日はここで一泊すると宣言した。妖魔族には人間のギルドの力は及ばない為、商店や市で探せばドワーフ製の掘り出し物もあるだろう。


 ただ、俺も含め傭兵隊には金がない。せいぜい冷やかしに軒先を覗いて見るぐらいだ。


 と、隊長がついて来いと言う。俺だけドワーフの火酒を奢られる訳にはいかないと冗談で返すと、ハンドサインで[護衛頼む]とさりげなく告げられる。


 いつでも抜剣出来る様に構え、隊長について行くと、やがてがメイド服を着た魔族が現れた。


「キューパラ傭兵隊長殿ですね?」


「あぁ。うしろは護衛だ」


 簡単なやり取り後、街外れにある商館の様な建物に案内された。庭まで付いた館には魔王国大使館の看板がかけられている。


 何故と言う疑問が消えぬまま大使館の控えの間で待つことしばし。


「お待たせいたしました。ご案内いたします。」


 魔族のメイドに客間に案内され、大使館の駐在武官らしい魔王軍将校の軍服姿の魔族と面会をした。


「久しいなキューパラ。共和国で会って以来だ。西の方はどうだ?」


「皇帝が病で死に、共和国の強硬派の元老も死んで停戦に合意した。商売上がったりだ」


「皇帝は持病持ち、元老の爺さんも確か80近かったし、さもありなん。だがどうせ戦力が整うまでだろう。」


「皇太子は芸術家肌の軟弱、元老達は権力争い、どうだろうな」


 魔族武官と隊長は豪華な椅子に座り、香茶を飲みながら話始めた。俺は隊長の後で直立不動で立っている。


「話は聞いている。『ヒヨコ』を貸し出して欲しいそうだな。キューパラ、お前さんには借りがある。オペレーターごと貸してやるよ」


「すまないな。恩にきる」


「少し待て、オペレーターを呼んでくる」


 魔族武官が席を外した。隊長が振り返り説明をしてくれる。


「ハルピアで戦力にアテがあると依頼人に話した事憶えてるか?」


「ハッタリだとばかり……いつ知り合ったんです?」


「共和国の元老に雇われてた時に知りあってな。魔王国としては人間どうし争う方が良いんだろう。知ってのとおり、色々やったよ」


 傭兵稼業に敵味方はないが、やはりお得意様はある。俺らは共和国派に付く事が多かったが、共和国は元老の数だけ派閥があると言われる混沌の巣。


 雇い主に言われ共和国議員を襲った事もある。その時の雇い主は帝国人を装っていたが怪しいものだ。


 と、魔族武官が少女を連れて戻ってきた。浅黒い肌と耳の形からハーフダークエルフらしい。


 手には小さな鳥籠を持っており中には小さなコカトリスが入っている。所々に魔印が打たれているから、魔獣持ち運び用の籠なのだろう。


「名前は?」


「ピヨちゃん」


 俺は隊長の問いかけにそう答えた少女の名前が[ピヨチャン]だと、しばらく勘違いしていた。


傭兵宿と呼ばれる酒場宛に振り出される手形は正式名称ではないが「傭兵手形」と呼ばれている。

傭兵以外が使う事はまず無い。


共和国は二院制で貴族院の議員は元老。庶民院の議員はそのまま議員と呼ばれる。


私の黒歴史がまた1ページ

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