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魔導書(電子書籍版)と契約し旅にでる  作者: 弓納持水面
第18章 竜の巣語り

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拍子抜け

デグ視点です。

 改めて雇われた商隊と共に、リキタ伯爵の領都に着いた。冬が近いがこのあたりは雪が降る事は珍しいので、街から動けなくなる事は稀だ。


 ただ冬の旅は厳しく、また腹を空かしたゴブリンなどの妖魔が人里近くまで現れるので、街道を行き来する者は減る。


 だからこそ利益の為にリスクを取る行商人も、雇われる冒険者も、もちろん存在するのだが。


 自分と兄者が幼い頃、みぞれのなか、村長だった祖父を訪ねてきた行商人と冒険者の記憶が薄っすらとある。



 自分達[竜の卵]が[まわる水車亭]に入ると店は混みあっていた。席がないわけではないが、記憶にある中では一番の賑わいだ。そしてなんとなくではあるが、殺気だって見える。


「デグ。久しぶりだな。新しい仲間か?リザードマンとは珍しい」


 この店の主人であるドワーフからしわがれた声がかかる。テーブルに座ると、栗色の髪のハーフエルフがエールを人数分持ってきた。どうやら一杯奢ってくれるらしい。


「青の部族のルチェでス。」


「あっしは少し出てくるっす」


 ルチェ殿は挨拶をして席についたが、チャガラはエールを飲み干して外に出て行った。恐らくはシーフギルドなどで情報を集めるのだろう。


 リグの乳母になる予定の大地母神官と護衛の下級女騎士は冒険者の店ではなく神殿宿舎に泊まるそうで、先程神殿前で別れた。


 神官にはケリー上級神官にレイカ様からの文(電文を写した物)を渡すように依頼している。下級女騎士はロバート卿の奥方様の配下らしく護衛以外の任務は初めてとの事だ。


☆☆☆


「どうやら街道沿いに野盗が住み着いたらしいっす」


 チャガラが、街で集めた情報を披露する。自分は[ドワーフ風、豚と芋の煮込み]の夕食を取りながら、それを聞いていた。


 この店は安く、量があり、旨い。しかもドワーフ料理としては本格的らしく、ハルピアで会ったドワーフもその味を褒めていた程だ。


「それデ、この込み具合ですカ」


 野盗が出るとなれば、護衛が着く商隊でも、おいそれとは出発は出来ない。ましてや、それよりも規模の小さな行商人は足留めを余儀なくされる。


 そしてそれらに雇われる冒険者も、宿を兼ねる冒険者の店にまる事になり、店は混みあっているのだろう。


「野盗の規模は?」


「傭兵崩れが10 人かそこらっす。ただ魔物使いが居るらしいっす、ホントかウソか?魔獣を連れているとの話っす」


「本当ニ魔獣が居るなラ、討伐隊が必要でス」


 自分は以前のマンティコア戦や左衛門戦を思い出す。聖女レイカ様がいらしたからこそ勝利したが、魔獣討伐はちょっとした合戦と変わらない。


「リキタ伯爵は王都に居るっす。息子の子爵は知ってるとおりガキっすから。留守居が兵を出すかどうかっす」


「直接の脅威でないなラ、留守居に兵権はないでしょウ。討伐依頼が出る流れでス」


 留守居の権限などの、政治的な事は自分には理解出来ない。周りで、ざわめく冒険者達も大半がそうだろう。


 ただ討伐依頼や商隊護衛の強化などの飯の種には敏感だ。特に魔獣討伐となれば、成功すればそれだけで食うに困らなくなる。


「あっしらはけんすね。わりに合わねっす」


 そう、魔獣討伐に成功すれば食うに困らないが大半は死ぬ。大抵40〜50人の死者が弱らせた魔獣を討つのがセオリーだからだ。


「伯爵代行、子爵様の名で魔獣コカトリス討伐の依頼が出た。成功報酬は金20枚に下級騎士への登用だそうだ」


 ドワーフの店主が真新しい依頼用紙を張り出した。コカトリスがどんな魔獣か知らないが、一般的な魔獣なら、リスクと天秤にかけたら破格値とは言い難い。


 それでも歓声が上がり5〜6組の冒険者が早速応募手続きを始めた。チャガラもルチェ殿も黙って首を横に降る。

自分はハーフエルフを呼びエールのお代わりを頼んだ。


☆☆☆


 翌日


「デグ殿は伯爵の下級騎士だろう?応募しないのか?」


 女性下級騎士が非難めいた口調ではなく、純粋に疑問系で尋ねてきた。[まわる水車亭]の片隅で自分達[竜の卵]と大地母神殿に泊まった2人組5人で顔を合わせている。


 商隊はここリキタで足踏みする為、臨時雇いは全員解雇。臨時募集は中止され、討伐依頼を受注しなかった連中の大半は朝から飲んでいた。


「割に合わない」


 自分はそう答え、その後沈黙が続いた。大地母神官は気まずい顔をし、チャガラは面倒臭そうな顔をしている。


「野盗討伐ではなク、コカトリス討伐なのが巧妙でス」


 見かねたルチェ殿が説明を始めた。曰く、伯爵としては流通を阻害する野盗を討伐すれば良いのだから、本来野盗討伐をもっと安値で依頼すれば良い話だ。


 だが野盗討伐では、それ程人は集まらないし、相手が10人やそこらとはいえ、確実に排除するには冒険者なら2〜3組は欲しい。


 たいして今朝、コカトリス討伐に出発した討伐隊は他の冒険者の店の冒険者含め100名近い。それだけで真っ当な野盗なら戦わず退散する。


 そして、コカトリス退治の依頼で成功報酬だから、野盗を追い払っても伯爵は小銅貨1枚さえ支払わずにすむ。まぁ駄賃ぐらいは払うだろうが。


「近くに野盗の、ねぐらに丁度よい砦跡があるっす。でも野盗が慢心してない限り争いにはならないっす。うちらは今日は休みっすよ」


 女下級騎士は拍子抜けした顔をし、神官は何故か溜息をついた。自分は少し体を動かす為、大地母神殿の訓練施設に行こうと思う。



魔獣コカトリス

魔族が開発した鶏と大蛇を複合した魔獣で、馬ぐらいの体格がある。

そして、魔獣らしく魔力を操る他、鶏の嘴と蹴爪に石化能力がある為、不用意に近づくと石化されたあげく粉砕されてしまう(大蛇の牙には普通の毒がある)。

魔獣バシリスクと混同される事が多いが、これは魔族の魔獣開発において生じた型式設定の混同が原因とも言われている。


私の黒歴史がまた1ページ。

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