大梟
レイカル視点です。
「なぁヒス姐、魔族の姐ちゃん居ればランタンの鯨油、いらなかったんじゃねえの?」
「だから鯨油、いつもの2割しか買ってないでしょ?予備よ、予備」
私達[南-303]は割り当てられた悪臭漂う下水道を歩いています。浮かべた[蛍火](使1残598)があるのでランタンは点けていません。
昨夜、私は大地母神神殿の図書館で夜を過ごしましたが、朝一でオーナーに呼ばれ怒られました。
「レイカルさん〜稲妻に爆発〜心当たりありますよね〜治安傭兵大騒ぎですよ~もっと静かに〜火の粉払えるはずですが〜」
「下水道では〜お静かに〜お願いしますね〜その為の仲間ですよ~」
私は平身低頭です。
[強くても、弱くても、他人と違う者は慎重に振る舞い、身を護らないといけない]
これはスズラン様がお師匠様に手紙にてされた助言の一つ。確かに最近少し自由に振る舞い過ぎたかも知れません。
(たしかに悪目立ちしている。デポの言う事も一理あるぞ)
うるさいですよマドウJr.
☆
「天井にスライムがいる。落下に気をつけろ」
スライムは清掃用に開発された魔獣ですが、すっかり野生化して世界中に生息しています。魔獣は通常繁殖能力がありませんが、スライム、スキュラなど野生化した魔獣は繁殖能力を再獲得しているのです。
そしてアルコールが多少入っているにも拘わらず、セベロさんは別人の様にしっかりしています。先程もルドムさんと大鼠を追い払っていました。
「魔族の姐ちゃん。大鼠やスライム居る所にアンデッドは居ねえんだ」
「至高神の思し召しです」
「ちげえよ、ルド姐ちゃん。ゾンビぐらいじゃ喰われちまうからだよ」
なるほど、図書館にでは学べない現場での知識や知恵があります。そういえばジャム少年が鉄兜を被っているのはスライム対策かも知れません。
「この分なら拠点に早めに着きそうね」
ヒストリアさんが皆に声をかけました。ジャム少年に通常のスケジュールを訊いた所、期限の30日を5つに分け5日地下に潜ったら1日地上に戻り休むを繰り返すそうです。
そして地下にいる時も、不死者の時間である夜は、目星をつけてある拠点で交代で休む事にしているとの事。ジャム少年は護身用に短剣は持つものの、主な役割は水や燃料を運ぶ荷物持ちなのです。
「魔族の姐ちゃん。本当に下水初めてか?」
ヒストリアさんの言うとおり、少し早めに拠点に着いた私達は堅焼きの黒パンと干し肉で夕食を始めました。日持ちする様に焼かれたパンは硬く、干し肉は塩辛いです。水は貴重で慎重に飲まねばなりません。
「新人は、この酷い臭いで参っちまうのが多いが見た所大丈夫そうだな」
セベロさんが自前の水袋からエールを一口飲みジャム少年の言葉を継ぎました。お酒なしには出来ない様ですが、地上と違い抑制が効いています。
と、超音波が照射され、微かに羽音がしました。咄嗟にこちらからも超音波を発して撹乱します。
[ジャミング](使1残597)
「羽音がしましたが、この下水には大梟も棲み着いていますか?」
私の問いに座っていた私以外の全員が立ち上がりました。妖魔、大梟はサイレントオウルとも呼ばれ、主に大鼠を餌にしています。
「近くに居るの?」
「やべぇよ、姐ちゃん!」
「至高神よ!」
「ちくしょう!」
「大丈夫ですよ。魔術でジャミングしましたから、近づかれはしません」
私の反応に、やはり私以外の全員が顔を見合わせます。
「ジャミングってなによ?大梟避けのおまじない?」
「ホントか姐ちゃん。大梟はやべぇんだって」
私は大梟は超音波を発信して、その反射であたりを感じて飛行している事、そしてそれを阻害する術が私にはある事を伝えました。
すると、ジャム少年が逆に大梟の恐ろしさを伝えてくれます。曰く暗闇から前触れもなく現れ、その微かな羽音に気付いた時には1人は捉えられている事。捉えられてしまえば、肉食の大梟にほぼ100%食べられてしまう事を。
「番でいたら、最悪よ。何人も喰われる事になるわ」
「もしかして、危険な状況にありました?」
私の問いに私以外の全員が頷きます。聞けば下水が海に流れ出る所から入り込んだ大梟が大鼠や冒険者を餌に繁殖しているそうです。ただ大梟は縄張りがあるので、一定数以外は再び外に巣立ってしまうそうですが。
「魔族の姐ちゃん。ジャミングってどのぐらい効くんだ?」
「照射される度に行わねばなりませんが、今夜は大丈夫そうですよ」
少し離れた所を大鼠を掴んだ大梟が飛んでいます。それを指差すとヒストリアさんが悲鳴をあげヘタリ込みました。ルドムさんは壁に向かいひざまずき祈っています。
「肝が座り過ぎだぜ。姐ちゃん」
「ジャム、レイカル、最初の夜番頼む、俺は寝る」
うーん、もう少し弱さを演じた方が良かったでしょうか?
(レイカと同じで、無駄だと思うぞ)
妖魔大梟は夜行性で森では大鼠の他に鹿やゴブリンを捕食しています。
人間の村の近くに出没する事もありますが、真っ当人間は夜は行動しない為、あまり脅威には思われていません。
私の黒歴史がまた1ページ。




