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魔導書(電子書籍版)と契約し旅にでる  作者: 弓納持水面
第18章 竜の巣語り

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師匠の事

レイカル視点です。

「火酒割り1つにエール4つ。後、種無しパン5つ、大串焼き5つ」


 私達は昨日に続いて「鶏口牛後」に来ていました。まだ時間が早いので飲んでいる客より食べている客の方が多い感じです。


「セベロ、火酒の追加はなしだからね。明日から地下なんだから。」


「わかってる」


 そう言いつつもセベロさんは先に届いた火酒にすぐに口をつけ飲み干しました。ヒストリアさんは溜息をつきながら、追加でエールを頼みます。


「前より重くなりましたが、頑丈そうです。」


 ルドムさんは折れた片手半剣と交換で支給された両手剣の柄に滑り止めの布を巻きつけていました。私の見立てでは両手剣でも、ルドムさんにはまだ軽く、片手で楽に扱えると見ています。


 聞けば今までも何本か剣を折っているそうで、これでも折れてしまう様なら、鋼鉄製ではなくアダマンタイト合金にするしかありません。ただアダマンタイトは希少金属の為、高額になるでしょう。


「なぁ、魔族の姐ちゃん。姐ちゃんは本当に聖女じゃないのか?」


「ええ、違いますよ。聖女様は人間です。まぁ並の方ではありませんが」


 ジャム君の問いに私は改めて答えました。するとヒストリアさんが噂話の確認をしてきます。


「そういえば、レイカルは『聖女の弟子』だったわね?死んだとか、子供が出来たとか、言われてるけど、どうなの?」


「亡くなられてもなければ、妊娠もされてませんよ。[鈴木島]の領主に任じられたので、里帰りを兼ねて一時的に帰られてます。代官を置かねばなりませんから」


 店にはシーフギルドの耳が何人か飲んでいる様なので、聞こえる様に話ました。


「しかし妊娠説まであるのですね。お付き合いされてる方さえいないのに」


「え、護衛のゴツい戦士と出来てたりしないの?」


「デグ様ですか?デグ様には他に恋人がいて、聖女様もご存知です。異性面ですと……いていえばアヤメ様の弟さんと文通されてますね」


 私は自分の中にある[聖女様]の記憶のバックアップにアクセスします。バックアップとかアクセスと言う言葉自体が異世界由来ですが、不思議と意味は分かります。


 お師匠様の中ではデグさんは信頼出来る仲間ですが、異性としては意識されていません。無意識領域の話ですが、男性は性交出来そうならどんな相手にも異性を意識しますが、女性は性交が考えられる相手と考えられない相手を分けて考えます。


 お師匠様の無意識のカテゴリーではデグ様は考えられないに入っているので、少なくともお師匠様からアプローチする事はないでしょう。


(とはいえ、アプローチされると変わるかもしれない所が女心の不可思議だぞ)


「文通かぁ。魔族の姐ちゃん。俺も文字学べるかなぁ」


「何言ってんのよ。文字を学ぶには、お金がかかるでしょ?食べる事が先よ」


 ジャム少年には勉学心があります。ただ、それを叶えるだけの金銭的基盤がありません。その点、竜人達はどんなに貧しくとも最低限の文字の読み書きと算術を習うと聞きます。竜人族の祖も転生者と伝わりますが、異世界の事についてお師匠様の記憶にアクセスしても良いかも知れません。


☆☆☆


 [鶏口牛後]は正統派神殿に泊まるそうなので、私は[蛍火]をつけて[使1残594]郊外の大地母神神殿に向けて歩いていました。無論門は閉まっているはずですが、何時もの様に図書館で過ごすつもりです。


(しかし、冷夏オリジナルがアヤメの弟と文通してるなど初耳だぞ)


 お師匠様は手紙魔ですよ。普通手紙は安くないのですが、スズラン様とアヤメ様の所とはアジサイ様を通じて定期連絡をしています。弟さんの手紙の内容は日常の報告ぐらいで、弟さんにアプローチされてる自覚はないですね。弟さんもアプローチしてる自覚は、まだ怪しいと思いますが。


(アジサイ、ハルピアに商館と道場を持つ、アヤメの姉の上忍だな)


 その他にお師匠様の師であるケリー上級神官とも書簡をやり取りしています。こちらは学術的内容でスズラン様、アヤメ様の手紙と合わせると勉強になりますよ。


(デグとアリスの関係知ってるのは?)


 それは密かにアリスさんが訊ねてきたからで、際どい話をされ流石にその日は「むぅ」とかしばらく唸ってましたよ。


(知るところ冷夏オリジナルは、いつも唸ってる…………待ち伏せだぞ)


 確かに待ち伏せの様です。せっかく[蛍火]を灯していたのですが残念。無用な殺生をしなければならないでしょう。


 私は[蛍火]を付けずとも、あたりは見えるのですが、灯りなしに歩くと追い剥ぎの遭遇率が上がります。暗視のない人間は暗闇でなら襲いやすいと勘違いするからです。


 そして炎の灯りではなく、魔術の[蛍火]にしているのも理由わけがありました。知恵ある者は魔法の灯りの意味が分かるのです。が、今日はハズレの日でした。1人歩きの私に声がかかります。


「貴様。魔族だな?」


「いえ、違います」


 嘘はついていません。私は魔族ではなく魔獣なのですから。しかし曲がりなりにも魔族領とされるハルピアで、魔族狩りをしようとは、どれだけ愚かなのでしょう。


「見え透いた嘘をつくな!」


 声をかけてきた男が抜剣しました。抜剣した男以外に気配は4つ。全員片手剣を抜いてます。


「魔術で一網打尽になるとは考えないのですか?」


「魔術を使えば[魔族殺し]で貴様も吹き飛ぶぞ!大人しく捕まれば殺しはしない」


「魔族狩りではなく、奴隷狩りでしたか。どちらにしろ、お断りです」


[球状防壁][稲妻招来](使2残592)


 人間の使う小魔術と違い中魔術に詠唱は不要です。私の周りに紫がかった球状の防壁が展開されると同時に雷鳴と稲光がとどろき、あたりを一掃しました。


 と、魔族殺しが反応し目の前の男が爆発して、わずかな肉片を残し消え去ります。私にはかすり傷さえありません。


 上位の魔族が魔族殺しで死亡する事は開発された当初から実は稀なのです。戦闘魔術が不得手な下級魔族には脅威だったのですが。


 爆発した者以外も黒く焼け焦げ絶命しています。悪天候でもないのに稲妻が落ちたのは魔術の為とすぐ分かるでしょう。


(夜間巡回が来る前に去るのが吉だぞ)


 無論、長居は無用です。私は早々に立ち去りました。



この世界では魔族以外は郵便制度がないので、手紙を出すには冒険者を雇うか使者をつかわす必要があります。(つまり安くはありません)

決まった場所になら定期的に移動する商隊に預ける方法もあります。(こちらは比較的安い)

魔族は軍用郵便から発展した郵便制度がありますが、魔族の支配領域にしか届きませんし、ポストはありません。

冷夏は紫陽花商会の貿易の定期便と大地母神殿間の定期便を利用して手紙をやり取りしています。


私の黒歴史がまた1ページ。

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