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魔導書(電子書籍版)と契約し旅にでる  作者: 弓納持水面
第18章 竜の巣語り

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梅干しトマト

レイカル視点です。

 ジャム少年と訪れた至高神正統派教団の敷地は思っていたよりも落ち着いた雰囲気でした。建物は焼けた跡が残っていますが修繕され、前庭には小さな畑もあり、鶏の声も聞こえます。


「おばさん。ジャムだけど、ルド姐達居る?」


「まぁ、異教徒で魔族。以前なら近づく事さえ許さなれなかったでしょう」


 ジャム少年は近くにいた神官着の女性に声をかけます。桶で水を運んでいた聖印と片手剣を下げた女性はこちらを見るなり、私に向かい言い放ちました。


「今は聖神派の女子修道院だろ?おいらだって至高神を信じちゃない」


「聖神派預かりになっただけで、正統派が失われた訳では……。まぁ良いでしょう。同志ルドは聖堂に、後の2人は裏で鶏の世話をしています」


 どうやら管理宗派が変わりさらに神殿から修道院に衣替えをしたらしく、自給自足を始めたところの様です。


 ただジャム少年曰く人手不足から女子修道士どころか、信徒以外でも出入り出来るそうで素泊まり宿として使う冒険者も居るのだとか。


「朝早いけど、銅貨4枚と安いし、ある程度働けばタダで泊まれるし、便利なんだぜ」


 大地母神神殿にも宿泊施設はあります。見習いや下級神官は宿泊料金を払うか奉仕活動で泊まる事が出来ます。


 それは修業者向け施設として運用する事で、宿屋ギルドや冒険者ギルドの権益と上手く折り合わせた結果です。


 襲撃と自らのテロで窮した至高神正統派は、それを拡大解釈して安価な闇宿屋にしているのでしょう。評判にならなければ、大丈夫だとは思いますが……。


(うーん、グレイだぞ)


 そうこうしているうちに、建物の裏庭に着きました。裏庭には畑と真新しい鶏小屋があり、複数の冒険者が働いています。冒険者になる者の大半は農村で食い詰めて止むなく都市に出てくる者なので農作業は手慣れたものです。


「ヒス姐、ルド姐ちゃん誘って飯行こうぜ」


 やはり手慣れた感じで鶏の世話を終えたヒストリアさんにジャム少年は声をかけました。近くにいるセベロさんは地面に座り込み中空を眺めています。


「そうね。明日から地下だし。どこ行く?」


「それなら、[魅惑の伯爵夫人]に行きませんか?オーナーに渡したい書類もあるので」


「反対だ。」


 私が提案すると、セベロさんが突然立ち上がり反対意見を述べました。腰に付けた革袋の水筒に口をつけます。


「反対だ。安酒を置いてない店に用はない。いつもどおり屋台で適当に食って飲む方が良い」


「セベロは誘ってねぇよ」


「駄目よ!午後から傭兵隊詰め所で顔合わせと区割り確認あるんだから。セベロが前後不覚じゃ困るのよ」


 セベロさんは誰かしらついていないと酒量コントロールが効かず、また下水掃除の区割り確認はある程度決まっているものの、狭間の区域は押し付け合いになる為、舐められるのは避けたいそうです。


「ちょっと高いけど、[魅惑の伯爵夫人]は有名な料理店だし、丁度良いんじゃない」


「恐るべき古魔族の店ですが、以前から興味はありました」


 朝の祈りを終え歩いて来ていたルドムさんも、いつの間にか会話に加わりました。相変わらず血の汚れが付いた助祭着を着たままです。


「じゃ、決まりだな。セベロ」


 不満そうなセベロさんにジャム少年は告げるのでした。


(デポさんは『冒険者の店です〜』と言うと思うぞ)


☆☆☆


「いらっしゃいませ〜レイカルはおかえり〜」


 私達[南-303]が店に入るとエプロン姿のオーナーが出迎えてくれました。朝食と昼食の合間で店内は比較的空いています。


「製麺所の敷地の件で、報告と提案があります」


 私が孤児院の院長に書いてもらった書類を渡すと、オーナーは一瞥後に虚空に仕舞いました。近日孤児院に対して対応アクションがあるでしょう。


 オーナーは歌う様な喋り方と気さくな感じで糊塗していますが、このハルピアの実力者の一人なのです。魔術師ギルドも木っ端施設にはこだわらないと思います。


「今日のオススメは〜羊肉ローストセットですよ~」


 1食エール付きで銅貨4枚ですが、値段に見合う味は間違いないので、それを5人分頼みます。ジャム少年は本気か?と言う顔をし、セベロさんはエールを追加しようとして、銅貨2枚なのを知り黙りました。


「レイカル〜明日からの仲間は〜彼らですか〜」


 オーナーの問いに私が肯定すると、少し考えた後、椅子ゴーレムを起動し配膳を任せてオーナーは厨房に入りました。


「梅干しトマトスープを〜サービスしますよ〜」


 私達南-303は皆驚きました。私以外のメンバーは椅子がゴーレムになって動き出した事に。私はオーナーが料理を振る舞う事に。ペティ君が料理人として育って以来、オーナーは気が向かない限り料理はしないのです。


 やがて羊肉ローストセットと梅干しトマトスープが出てきました。私は恐る恐るスープに手をつけます。オーナーの賄ではない本気の料理は魔王レイナ陛下か聖女おししょう様でもない限り望んでも食べられないからです。


 ()()()がきました。竜人の作った梅干しとトマトを合わせたシンプルなスープなのですが、梅の酸味とトマトの甘み、何らかの隠し味が合わさっているのです。


「うめぇよ。なんだこれ」


「冒険者になったかいがあったわ」


「今一瞬、神を忘れました。恐るべき、恐るべき料理です」


「…………」


 スープを食べた仲間が衝撃を受けています。美味しい事を予想していた私でも()()()がきたのですから、仲間達は堪らないでしょう。オーナーは満足げに微笑み、残りを味見したペティ君は悔しげにしています。


 羊肉ローストも十分美味しかったはずですが、記憶に残っていません。


(ちゃんと美味しかったぞ。スープとは比べられないけど……)


友人からスローライフ、働く女子(?)、実は強いの三拍子そろった[魔将女将]を書いたらと言われました。

冒険者が旅をする[遺跡探索]より人気出るだろうと。

どうですかねぇ〜


私の黒歴史がまた1ページ。

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