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魔導書(電子書籍版)と契約し旅にでる  作者: 弓納持水面
第18章 竜の巣語り

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魔術師との再会

デグ視点です。

鈴木島 島の魔族側の名称

竜哭島 島のリザードマン、竜人側の名称


「止まれ!」


 城の手前で揃いの皮鎧と槍を構えた兵士に声をかけられる。商隊との精算を終えた自分達はノウル城にロバート卿を訊ねて訪れていた。


「止まれ!冒険者共」


「なんすか?あっしらはロバート卿の依頼を受けてきたっすよ」


「またか。伯爵様の冒険者時代の知り合いとやらが訊ねてくるが、大抵は騙りだ。見逃してやるから街に帰れ!」


 チャガラ殿が兵士に向けて話すも、兵士は取り合わない。ルチェ殿が背負い袋を開け油紙に包んだ依頼書を出す。


「私達ハ、[竜の卵]でス。依頼の書類がありまス」


「書類だと?ちょっと待て。字が読める者を呼ぶ」


 数人いた兵士の1人が文字が読める者を呼びに行く様だ。ロバート卿が伯爵になったのは最近でしかも形式的だと聞いている。本来の辺境騎士爵なら兵士は大半が農民の三男以後か冒険者上がりが普通だ。


 土地持ちの跡取りや神力などの才能持ちなら教育を施すが、そうでないなら文字よりも農作業を学ばせる。かつての自分も兄者が居れば文字など知らなくても良いと考えていた。人間の平民で文字が読めるのは少数派だ。


と。


「デグ。それにチャガラも」

奥から声がかかる。


「ブレナ。久しいっす」

チャガラ殿が親しげに返答した。

自分は黙って頭を下げる。


「これは魔術師ブレナ様!この者達とはお知り合いで?」


「そうです。それに下級騎士デグ殿には伯爵様が依頼を出していますよ」


 ブレナ殿が説明すると兵士の態度が一変する。見るからに仕立ての良い魔術師の装いをしたブレナ殿はロバート卿の重臣の1人だろう。先の強圧的な声をかけた兵士の顔色が悪い。


「あっしらが騙りじゃないって分かったっすか?」


「失礼は許してやって下さい。商隊が着いたと聞いて様子を見に行く所だったのですが、遅かったのは私のせいなのですから」


 どうやら偶然通りかかった訳ではなさそうだ。そして結果としてブレナ殿を謝らせる事になった兵士達は恐縮している。


「兵士が不審者を誰何すいかするのは当たり前だ。気にしていない」

自分がそう呟くとブレナ殿は笑った。


「だそうです。さぁ、奥でロバート卿がお待ちです。参りましょう」


 自分達はブレナ殿に案内され、城の奥に進んで行った。


☆☆☆


「デグ、良くきたな」


 自分達は城の謁見の間ではなく、その近くの小部屋に通された。臨席しているのは[竜の卵]とロバート卿、そしてブレナ殿だ。黙って頷く自分を見てチャガラ殿が話しかける。


「茶渋姉もロバート卿に仕えていると聞いてるっすが、忙しいっすか?」


 ロバート卿が視線をブレナ殿に向けると、ブレナ殿は少し言い淀むがはっきりと告げた。


「妻は今伏せっている。その……悪阻つわりが酷くて」


「!。子が出来たっすか!」


 月に一度は懐妊機会のある人間と違い、竜人は年に一度しか懐妊しないと聞いている。子は授かりものと言うのでブレナ殿とチャシブ殿は縁が深かったのだろう。


「悪阻ですカ。妊娠中に使える薬には制限ありますガ、問題のない薬湯で症状を緩和出来まス」


 先に自己紹介を済ませていたルチェ殿が告げる。ルチェ殿はエルフ薬学だけでなく、リザードマン薬学も修めているので竜人向けの薬にも詳しいだろう。


「それは一度診察をお願いします」


「そうっすか……茶渋姉……良かったっす。家族が増えるっすね……。」


 珍しくチャガラ殿の目が潤んでいる様に見える。家族……。自分には実質兄者しか居なかったが、兄者はミケに殺され既に世に居ない。


 何ともいえない寂しさと怒りが沸き上がってきて苦しい。血は血でしか贖うことが出来ない。


「話が逸れましたね。デグ殿と[竜の卵]に依頼したいのは……」


「ちょっと待て、嬢ちゃんについて確認したい」


 ブレナ殿が冒険者の店に出した依頼書を改めて説明し始めるのを止めてロバート卿がレイカ様の事を訊ねてきた。


「嬢ちゃんについて、色々情報が飛び交ってる。『テロに巻き込まれ死んだのを大地母神神殿が隠している』から、『故郷に里帰りしているだけ』『魔王に招聘され魔王都に向かった』とかな」


「その様子では嬢ちゃんは死んではないみたいだが、どこに居るんだ?」


 自分達は顔を見合わせる。デポ姐さんの通信魔導具を信じるなら、鈴木島(竜哭島)に居て無事らしいのだが、しばらくは島で過ごすと連絡きている。


「竜哭島(鈴木島)に居まス。テロにあって飛ばされたのでス。少し前に鈴木島の領主に任じられたと聞いてまス」


「なるほどな……無作為転移か。名前に引っ張られたな。しかしデポの事だ。これを利用して実質的に()()()にするつもりだろうな」


 ルチェ殿の回答にロバート卿が独り言ちる。自分には政治的な事は分からないが、レイカ様の影響力が大きい事は理解している。


「冷夏の動向は依頼に関係ないっすよね?」


「関係はあるさ。レイカが居ないなら乳母役を別に派遣する必要がある。1歳ぐらいのガキのお守りは大変だと聞くぜ?」


「たしかにあっしには無理っすね。でもレイカが居ても無理っぽいっすよ」


 その後、リグを迎えに行く詳細をブレナ殿とルチェ殿が詰めた。細かい契約などは自分の手に余る。いつもはレイカ様の意向を最優先に決めているのだが……。


「リグはブレナの養子にする予定だ。俺の養子にしたかったんだが、リグは先代勇者の曾孫になるから貴族的に手続きが面倒でな」


「それが良いっすよ。茶渋姉は面倒見が良いっすから」


 話し合いが終わるタイミングを見て茶と砂糖を使った菓子が運ばれてきた。自分は無意識に1人銀貨2〜3枚はするだろうなと、あたりをつけていた。


オギノ博士の論文などにより、子供は創るものになりましたが、この世界では授かるものとして認識されています。

さらに異種族間の妊娠は研究が未発達です。


私の黒歴史がまた1ページ。

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