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魔導書(電子書籍版)と契約し旅にでる  作者: 弓納持水面
第18章 竜の巣語り

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酒宴の夜

レイカル視点です。


ご注意


お酒は20歳になってから。

良い子のお約束だぞ。


(その通りだレイカ。成人は18歳で一人で自己破産も出来る様になっても、お酒は20歳になってからだな)


む、むぅ

「酒は飲める?」


「はい。人並みには」


「魔族の姐ちゃん。治安傭兵から、もらった銀貨をテーブルの小鉢に置いて。」


 私がヒストリアさんの問いに答え、銀貨を小鉢に置くと胸を強調した衣装の女性店員が近づいてきました。


「2枚セット5つ。後、雑穀スープを5つ」


 すると店員は銀貨を1枚取り、釣り銭分の銅貨を置いて去ります。程なくして人数分のジョッキと串焼きが2本づつ。後、雑穀のスープが運ばれてきました。

厨房ではリザードマンが2人忙しそうに働いています。


「ヒス姐は、ここで臨時雇いで働いてたから計算が出来るんだ」


 少ない店員で計算の出来ない酔客を捌く為のシステムが小鉢から料金を引いてゆくシステムなのでしょう。そして[鶏口牛後]で多少なりとも資金管理が出来、リーダーシップもあるのがヒストリアさんの様です。


 と、セベロさんがジョッキを一気に飲み干しました。


「ちょっと、セベロ!まだ自己紹介も済んでないのよ!」


「割り火酒、もう一杯」


 店員が小鉢から銅貨2枚と空のジョッキを持ち去ります。ヒストリアさんが咎めますが、依存症者に自主的な待ては効きません。新しく来たジョッキはルドムさんが受け取りました。


「食事は御祈りが済んでからです」


 ルドムさんが怒りの目をセベロさんに向けます。ルドムさんの観点は少し違う気もしますが、ようやく自己紹介が始まる様です。


「私はミモザ村のヒストリア。[鶏口牛後]のリーダーをしている軽戦士。」


 そう告げると大地母神に軽く祈る仕草を見せジョッキを一口飲みました。


「オイラはハルピアのジャム。屑鉄拾いのジャムさ」


 ジャム少年は一瞬だけ目を瞑り、ジョッキに口をつけます。至高神も大地母神も妖魔神も未成年の飲酒は推奨していませんが、実際は働き始めると同時に飲む事を覚える者が大半だといいます。


「傭兵セベロ。ルドム、割り火酒のジョッキをくれよ」


「至高神の下僕たるルドムです。」


 ルドムさんは丁寧に至高神に祈ってから、セベロさんにジョッキを渡し、自らのジョッキを飲み干しました。至高神の二大宗派。聖王国派、聖神派は共に飲酒を禁じておりますが、余程熱心な信徒以外は司祭でも飲酒はします。


 私の印象ではルドムさんは熱心な信徒に見えたので、飲まない方かと思っていました。もしかしたら正統派の教義は違うのかも知れません。


「私はシャンヴィル、いえロイターのレイカル。大地母神の下級神官です。」


 顔半分を覆っていた布を外し、フードを取って挨拶をしました。すると、店が静まりかえってしまいます。


 私は慌てて認識阻害魔法[壁の花](使1残596)を発動しました。改めて私から声掛けして、[鶏口牛後]には認識してもらいます。


「ちょっと、あんた何者?」


「ヒス姐知らねえのか?この魔族の姐ちゃん。本当に[聖女]様の弟子みたいだ」


 どうやら先日の無料診断日で、お師匠様と同様に少し有名になってしまった様です。私は大地母神に御祈りをしてジョッキに口をつけました。私は魔獣なので酔いませんが味は分かります。


(強いだけの火酒を質の悪いエールで割ってる。酔うだけなら充分だけど、普通なら飲めたもんじゃないぞ)


 大地母神神殿では雑多な材料で炊き出しも行い味見もするので、私は気にならないのですがマドウJr.は舌が肥えてる様です。


(うーん、串焼きは蛙と鳥と鯨が部位など適当に混ぜて焼いてある。こっちは色々楽しめるぞ)


 うるさいですよ。マドウJr.


「セベロ!食事もする!勝手に頼まない!」


「ジャム、飲まないなら残った割り火酒をくれ」


「至高神について、レイカル殿はどう思われますか?」


「魔族の姐ちゃん。[鶏口牛後]って鶏肉は牛肉より後に口にしろって意味だろ」


 私は[魅惑の伯爵夫人]では決して出ない怪しげな料理を楽しみながら、[鶏口牛後]と親睦を深めるのでした。


☆☆☆


「なぁ、魔族の姐ちゃん。もし良かったら病人を診てくれないか?金なら必ず払うからさ」


 [鶏口牛後]からの帰り際、ジャム少年に、そっと言われました。ジャム少年は街外れの孤児院出身で今でもたまに顔を出しているとの事。


 普段は他の3人と共に焼けた至高神正統派の神殿跡に住み付いているそうです。一応はルドムさんは助祭なので勝手に住んでいる訳ではないそうですが。


(底辺冒険者だと宿に泊まるのも厳しいかな。とはいえ街中での野宿は治安傭兵に取り締まられ、下手をすれば鉱山に送られるんだぞ)


「大地母神殿の規定では、下級神官でも往診費と診察費で銀貨2枚。治療費は神力1につき銀貨10枚ですよ」


 神殿では布教に努める[歩き巫女]資格がない限り、力を安売りしてはならないとされています。また事前に予想出来る費用は伝えねばならないとも。


 今回の場合、往診に実費はかからないから費用は銀貨1枚。診察費用でもう1枚は最低でもかかります。


「往診費は『酔い冷ましに立ち寄った』でまけてくれよ」


 ジャム少年は教育機会には恵まれてませんが聡明な様です。下水掃除の日当が銅貨30枚=銀貨1枚。交渉次第で随分かわります。それに支払い意志は確認出来ました。


「ルドムさんには診てもらいましたか?」


 私は魔法で[螢火](使1残595)を浮かべました。ジャム少年と歩きながら話します。ルドムさんは見た所啓示を受けてますし、初対面の私より融通が効きそうですが。


「ルド姐は信仰心厚いけど、多分正式な啓示は受けてない。自己治癒と自己強化は使えるみたいだけど」


「なるほど、大地母神的に言うとルドムさんは[聖戦士]なのですね」


 [聖戦士]は稀に例外はある様ですが、基本的には他者は癒やせません。着ていたのが助祭服なのも、その為でしょう。


「診てもらいたいのは妹なんだ。いや、血は繫がってない……多分。孤児院長が言うには3歳ぐらいのオイラが赤ん坊抱えて来たんだとさ。覚えてないけど」


 繁華街を抜けハルピアから郊外に少し歩きます。途中あまり治安が良くない所を通りましたが、魔術による[螢火]と、わかりやすく武器を持ったジャム少年の姿を見て、潜んでいた冒険者崩れは躊躇した様です。


 ただ人数が揃えば襲ってくるだろう所は、人間もゴブリンも変わりません。それどころか抵抗が激しそうな相手を避ける術はゴブリンの方が優れていると思います。


「孤児院の運営母体は何処ですか?」


「うんえい?オイラには分からない」


「えーと、施設名はわかりますか?あと孤児院の院長は司祭か神官ですか?」


「名前は分かんねえ。看板あるけど読めねえし。院長は普通の爺さんだよ」


 孤児院は利益の出る事業ではないので、何処かの宗派か何処かのギルドあたりが運営母体なのが殆どです。宗派色がないなら、ギルドが母体でしょう。


「着いたよ。魔族の姐ちゃん」


 ひっそりとした森の中にその建物はありました。看板には「第2孤児院」とあり小さく魔術師ギルドの紋章が入っています。


 恐らくは孤児の中で魔力が少ないか持たない者を入れる施設なのでしょう。莫大な利益と力を持つ魔術師ギルドにしては、あまりにも粗末な建物でした。

鶏口牛後

「前世の看護師さんが言ってた。大病院の勤務医より開業医が良いって」

(冷夏、それは少し意味が違いそうだぞ)

「うーん、諺は難しいね」

(四字熟語だが……。)


私の黒歴史がまた1ページ。

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