南−303
レイカル視点です。
パーティ名[聖女の弟子]は大地母神殿の担当者が考えなしに登録しています。
「オーナー、ただいま戻りました」
私が大地母神殿から、デポ様の[魅惑の伯爵夫人]に帰ったのは無料診療日から3日後の事でした。無料診療日の後、[治癒の長]に命じられ診療に努めていたからです。
私は眠らない魔獣なので苦にはなりませんが、無料診療日の当直、翌日の日勤、夜勤と忙しくしていました。どうやら[聖女様の弟子]というのは[聖女]様には頼みづらい事を頼める便利な存在らしいです。
ちなみに魔力は満月近くでしたので、夜間に密かに屋根に登り、充填していました。愚者の石に宿るマドウJr.の機能には魔力が欠かせませんから。
(むぅ。いくらレイカルが高性能でも、流石に3連投はブラック過ぎるぞ)
そして[竜の巣]には誰もいませんでした。[聖女]様が留守でも、どうやら[竜の卵]には依頼がきて、出かけられた様です。
「おかえりなさい〜一息ついたら〜感想を教えて下さい〜それに下水掃除の件も〜大地母神殿から聞いてます〜」
デポ様が[聖女]様の助言を受け試作したラーメンを何杯かご馳走してくれました。貸していただいた[愚者の石]の使い勝手はそこそこにラーメンの感想を求められたのがオーナーらしいです。
ちなみに、私は豚骨が好みでした。
(むぅ、冷夏は醤油派、レイカルは豚骨派かぁ。でも味噌が最強だと思うぞ)
うるさいですよ。マドウJr.
☆☆☆
翌日、私は顔半分を布で隠し、フードを深くかぶって治安維持事務所を訪れました。下級神官の神官着とフードがあっても治安維持傭兵の態度は、よそよそしく魔族に対する畏怖を感じます。
(そうかなぁ?いわく有りげに見えるからだと思うぞ)
「パーティ名は[聖女の弟子]で登録人数は3名。欠員2名で間違いないな」
治安維持傭兵は溜息と共に書類を確認しました。大地母神殿を含むハルピアの各宗派は下水掃除に冒険者パーティを組んで神官や司祭を派遣する約束になっています。
ですが実際は神官や司祭が派遣される事は稀で大抵は下請けの安価なパーティが派遣されたり、たまに派遣される時は左遷の一環だったり派閥争いの敗者だったりします。私も訳あり派遣に見られているのでしょう。見た目魔族ですし。
「[鶏口牛後]が、そろそろ来るはずだ。人数は実数で4名。顔合わせの銀貨2枚の受領サインをくれ。コールナンバーは[南−303]清掃隊になる」
治安傭兵は実数でを強調して、大地母神殿に対する嫌味を私にぶつけると、書類と銀貨2枚を出してきました。書類には日給と期限、担当地域が書かれています。
(うーん、日給1人銅貨30枚、危険手当込み。期限は30日。担当地域は南下水道第3地区。典型的底辺冒険者の仕事だぞ)
「早くサインしろ。何か質問でもあるのか?」
「拾得物の扱いと、手に負えない相手への対応はどうなりますか?」
「拾い物は余程の物でなければ、申告なしで役得にしていい。かわりにワイトが出ようが自己責任。怪我も自己責任だが、死者が出た時だけは報告しろ。行方不明3日で契約解除、10日で死亡扱い」
面倒臭さを隠さずに、2枚目、3枚目の書類を出してきました。本来は3枚綴りの書類だった様です。
「[鶏口牛後]が確認してませんけど?」
「問題ない。奴らは誰1人文字が読めない。確認するだけ時間の無駄だ。」
確かに自分の名前しか書けない様な冒険者が大半なのは知っていましたが、改めてそれを実感しました。大地母神の神殿に居るのは見習いを含め皆、上澄みなのです。
(レイカル、[魅惑の伯爵夫人]の冒険者の識字率が高いのは、デポさんが、さり気なく所属冒険者を選んでるんだぞ)
「最後に。登録7名。2名分の日給はどうなりますか?」
「う、な、7名になっていたか。書き間違いだ。」
慌てた様子で担当治安傭兵は書類の登録人数を5名に訂正しました。この分では担当者がサービス料を受け取るのが常習化しているでしょう。ただ変にヘイトを買うのは得策ではありません。
「疲れていると、うっかりしますよね。サインはこれで大丈夫ですか?」
魅惑流し目(使1残598)を使用しながら、声をかけました。大抵の男性はこれで印象が改善するはずです。
「あ、ああ。問題ない。期待しているぞ南−303」
私は近くに座り[鶏口牛後]を待つ事にしました。
担当治安傭兵は真面目な小悪党です。欠員を嘆く真面目さとサービス料を掠めるセコさが同居しています。
モデルがいるかは秘密です(笑)
私の黒歴史がまた1ページ。




