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魔導書(電子書籍版)と契約し旅にでる  作者: 弓納持水面
第18章 竜の巣語り

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簡易版

レイカル視点です。

お話の時間は少し戻ります。




「行方不明の[聖女レイカ]様が見つかったのは本当ですか?」


 私が神殿を歩いていると、神官戦士長[怠惰の]リリ様に声をかけられました。私の目からは二つ名に反して大変勤勉な方に見えます。


 神殿の道場では木剣を振るい、薬師の資格取得を目指し、更に神殿傭兵のアウトさんと、街の視察と称してお忍びデートをしているのですから。


「お師匠様は行方不明にはなっていません。ただ南の自領に所要で戻られたタイミングがテロと重なっただけです」


 もちろん()()とは異なりますが、弟子の私が事あるたびに公言する事で()()は塗り替えられます。私の周りには()()()()者達が何故か侍っているのです。


「え〜と、[聖女]様のご実家は鈴木島でしたよね。南の島の」


「お師匠様からは、そう伺ってます。私も名前しか知りませんが。」


 これも嘘。お師匠様の生まれはこの世界ではない。しいて言うならソロス村近郊の[大地母神の泉]

マドウ様の導きと大地母神様のお力で転生されて来た転生者なのだから。


「お戻りはいつ頃ですか?」


 私は首をかしげる。下級神官の同僚からは「あざとい、あざといよレイカル。その首の角度で落ちない男はいないから」と何故か絶叫された仕草だが、これはお師匠様譲り。


「風が良くても、片道3ヶ月はかかる島ですから……」


 そう答えると、リリ様は何故か溜息をつかれました。実際、魔力電信では「3ヶ月ぐらい後に大魔法で帰る」と聞いてはいるのですがオーナー曰く通信網がある事が一応軍事秘密の様です。


☆☆☆


「えーと、無料診断の受付に下水掃除ですか?」


「そう、貴女は聖女様の弟子でしょう?それぐらい一人でやってよ!」


 オーナーの許可を貰い下級神官として神殿に勤める様になってから、様々な仕事を頼まれます。

そして見た目が魔族なのが怖いのでしょうか?

何故か私を目のかたきにしてくる一団がいて、自分達がやりたくない仕事まで押し付けてきます。


 今回も数人が、つるんで話かけてきました。

近くにいた神官見習い達は、すかさず気配を消します。

弱者の戦術としては「逃げる、隠れる」は基本なので気にはなりませんが、神官としては少し残念な気もしました。


 さて、改めて言われた内容を検証すると、中々の内容です。


 大地母神歴で月に一度、半日行われる無料診断日の受付は名誉なき重労働。

お師匠様曰く[無料診断の肝]で割り振りの良し悪しで、患者さんの捌ける人数が変わるとか。

しかし大商会からの報酬は神聖魔法に支払われるので小銅貨一枚にもならない。

数人で担当しても、水も飲めない激務と知られているのですが、それを一人でと言うのは悪質な嫌がらせです。


 また、下水掃除とは本来の意味の掃除ではなく、治安傭兵と組みハルピア地下を巡る事。

ハルピアの地下には下水道があるのですが、祈祷されずに放棄されたりした死体がアンデット化して彷徨う事が、()()あります。


 そこで定期的に下級アンデット退治をするのですが、きつく、汚く、危険で誰もやりたがりません。

治安傭兵側は大抵臨時で冒険者を雇い、大地母神側は立場の弱い平民下級神官が対応します。


「分かりました。お引き受けします」


 私が微笑みながら、躊躇なくどちらも引き受けると、拍子抜けしたのか強気だった数人は、あっさりと立ち去りました。


「ちょっと、レイカル。大丈夫なの?」


 近くに隠れる様にいた同僚が声をかけてくれました。立場も気も弱いのですが、そっと気にかけてくれる人物です。

また空気の様だった神官見習いも実体化しました。


「大丈夫ですよ。修行になります」


 魔獣の私には純粋に修行になるのですが、同僚と見習い達は軽くどよめきました。

しかし受付にしても、下水掃除にしても、少し大変かも知れませんね。


☆☆☆


「午後の鐘が鳴ったら、庭を解放するわよ。準備はいい?」


 受付を押し付けられた数日後、私は一人受付に座っていました。

本来なら後四人は座っていなければならない席です。

流石に見かねたのか神官見習いが三名配置されていましたが、見習いに振り分けは期待出来ません。


 以前居た下級神官の同僚が、「聖女様が凄いのは神力が多い事ではなく、一瞬で訪問者の病を見抜く事」と話していましたが、全く持ってその通りで、お師匠様なら、マドウ様の力で一瞬で割り振りが叶います。


 私の場合、お師匠様の記憶とリンクすると同時に図書館で身につけた知識による問診が必要になるでしょう。

実地は経験を増す機会にはなりますが。

神官見習い達は青い顔をしています。


と、


 知った顔の皆さんが現れました。

[竜の卵]の皆さんです。


「デポ姐さんに言われた」

と、デグさん。


「手伝いまス、問診なら出来まス」

と、ルチェさん。


「あっしも、手伝うっすよ。後、『これを〜試して〜感想を〜』だそうっす」

と、茶殻さん。


 後、青白く透明な正四角形の立方体を託してくださったのはオーナーでしょう。

皆さんに感謝です。

それにしてもオーナーが試作品の[愚者の石]を貸してくださったのは予想外でした。


 私は急ぎ[愚者の石]を起動します。

「リンク=レイカル。[冷夏≒魔導]システム起動」(使10残590)


(むぅ、いきなり[無料診断日]で実戦投入とは酷いぞレイカル)


「無事、起動出来ましたね。力を貸して下さいお師匠様」


(違うぞレイカル、私は師匠ではなくマドウJr.。大魔導書[聖女の書]の簡易版だぞ)


「患者が来たっすよ」


 最初に私の前に現れたのは赤子を抱いた若い女性でした。早速、マドウJr.を試してみます(使1残589)。


(うーん、赤子は[軽いけど肺炎]で母親は[栄養失調]だぞ)


「あの神官様、子供の熱が……」

「赤子は肺炎ですので神聖魔法に案内を。お母さんには、その間に何か食べさせて上げて下さい」


「「「え?」」」


 神官見習い達の声が揃いました。

茶殻さんとルチェさんは問診を始めたばかりです。

デグさんは、入口の警備から、まるでお師匠様を護っている時の様に私の側に来ました。


「座っただけでピタリと分かるなんて」

「やっぱり、[聖女様の弟子]なんだ……」

「次の方どうぞ」


(むぅ、私と同じ様な失敗してるぞ。レイカル。因みに次は[軽い脊柱管狭窄症]だから、案内はマッサージの方が良いぞ)(使1残588)


 私は、お師匠様と同じ様な()()をしてしまった結果、夕方の鐘が鳴るまで、休憩なしで受付を続けました。

魔力が二桁前半になるまで[愚者の石]を使い続けたのです。

「誰よ![聖女の弟子]を受付に置いたの!」

「回転が早すぎてトイレにも立てない!」

「嘘でしょ?聖女様より診断早くない?」

「あのリザードマン、マニアックな調薬難しいのばかり指示してくるんだけど……」

「終わらない、途切れない、罰だ……聖女様の弟子を試すなんて、罰が当たったんだ……」

「ちょっと!この娘壊れましたわ!誰か、裏に連れてってくれませんこと!」

この日、男性信者の喜捨も詐病も最高値に達し、聖女冷夏が現れた日以来の伝説の一日になったとハルピア大地母神殿の公式記録にはある。


☆☆☆


そういえば喋る剣エクスカリバーJr.のネタとか分かる人どのくらいいますかね。

分かる方は「いいね」押して下さい(笑)


私の黒歴史がまた1ページ。

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