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魔導書(電子書籍版)と契約し旅にでる  作者: 弓納持水面
第17章 聖女の不在

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村祭り

冷夏視点です。

「花江ちゃん。村に敵襲を伝えて。それと味噌樽に浸かる赤左衛門を呼んで来て。ラボで叫べば分かるから。」


「分かった。」


花江ちゃんを抱え畑の片隅に降りた私は、地面に下ろした花江ちゃんに伝言を頼むと、農作業小屋の屋根に戻った。


花江ちゃんは村の方に少し癖の残るフォームで走ってゆく。

脚の治療しておいて良かったよ。

癖を無くすには、もう少しリハビリが必要だと思うけど。


(村に逃げ込まぬのか?)


何言ってるの?

時間稼ぐよ、マドウ。


今、ゴブリンに村に雪崩込まれたら、多分村は壊滅する。

自警団は詰め所で酒盛りの準備をしていたぐらいだから、完全に機能しないだろう。

ゴブリン達に完全に裏をかかれた。


(一人でどうするつもりだ?)


マドウも居るでしょ。

それに、ぶっ放し系を今使わずにいつ使うのマドウ。


(なるほど、そうこなくてはな。確かに魔力なら、まだ68ある。上級魔族と言っても通用するだろう。)


妙にやる気のマドウを無視して、屋根から少し浮かび上がる。

屋根の上で使うと小屋が燃えてしまうだろうからだ。

鐘楼では周りの木が発火していたからね。


[耐熱シールド](使1残67)

[仮想バレル](使1残66)

[自動照準修正](使1残65)


マドウによる中魔法化で詠唱は無い。

ただ、大気中の魔力が光となり仮想バレルに集まってくる。

そしてそれに合わせ私の中のイメージも膨れ上がってきた。


行け!

[荷電魔粒子砲](使10残55)


溜まった力を吐き出す様にマンドラゴラ畑の中央付近を薙ぐ様にイメージを投射した。

近くにいたゴブリン達は全て死滅し、更に畑の半分弱のマンドラゴラが発火する。

私の周りの空気も熱で揺らいでいて、シールドがあっても熱を感じるほどだ。


と、


発火したマンドラゴラが断末魔の悲鳴を上げ始めた。

これだけ離れていても、魔力波に当てられ目眩がする。

思わず農作業小屋の屋根に着地した。


(なるほど、冷夏、考えたな。やはり腐っても異世界人。いざとなれば殺戮は得意なのだな。)


ん!?

なに言ってるのマドウ?

殺戮なんて得意じゃないよ。

それに腐ってないぞ。


(見ろ、畑に居たゴブリン達がマンドラゴラの断末魔で次々と死んでゆく。この一連の攻撃で40近くのゴブリンを駆逐した。この世界の人間では、こうはいかん。)


うーん、マドウ。

異世界人イメージに偏りあるぞ。


「…………」


うわ!

びっくりした。

いつの間にか、私の隣に赤左衛門が居て体を猫の様に擦りつけてきた。

そうか、触らないと赤左衛門からは意思伝達が出来ないんだった。

それにしても静音性能高い。

浮いてるから当然かも知れないけど。


(魔力残13だな。魔力譲渡した方が良いだろう。ゴブリンの第二陣が来るぞ!)


分かったよ。

[魔力譲渡](使1譲渡47残7)


「…………」

赤左衛門はネコミミをバタつかせ何故か喜んでいる。

エサをもらって尻尾を振る犬みたいだ。


(猫に犬に忙しいな。来たぞレイカ。)


「ゴブゴブ!ゴブゴブ!」


確かにゴブリンが雄叫びを上げながら、畑を走ってきている。

でも、私を狙っている為か比較的固まっていた。

赤左衛門の良い的だよ。


「ミーン」(使用1残59)


予測どおり何体ものゴブリンが倒れた。

今回、赤左衛門は敵を引き付ける役もあるから、突撃はしていない。

私もミエニー妖魔筒を用意して屋根の上から射撃を始める。


「退却せよ!」

突然、エルフ語の命令がひびいた。


(レイカ、どうやら総司令ダークエルフが居るぞ。魔力探知……)


私はマドウの言葉を待たずに、弾を撃ち込んでいた。

ゴブリンが来る間隔に変な隙間があり、違う足跡があるのを赤左衛門から聞いていたからだ。

やっぱり大きい分、赤左衛門の眼は良いみたい。


突然、ダークエルフが畑に倒れた姿を見せた。

負傷により魔術が解けたのだろう。


藻掻くダークエルフの頭に、もう一発ミエニー弾を撃ち込んだ。


☆☆☆



「マンドラゴラも半分から焼けちまったし、鍋にすんべ」


村の中央広場では大鍋で、ごった煮が作られている。

この島では肉が貴重なので、魚と野菜ベースと聞いたが良い匂いがしている。

もちろん普段では考えられない、ご馳走で例年なら収穫を祝うお祭りにしか食べられないそうだ。


あの後、駆けつけた自警団にダークエルフを討った事を伝えると大騒ぎになり、そしてすぐに水江さんも呼ばれ、首実検がおこなわれた。

水江さんが大将だからね。


一緒に来た花江ちゃんは、何故か赤左衛門に抱きついていた。

どうやら私を急ぎ助けてと頼んでいたらしい。

花江ちゃんと赤左衛門。

村の防衛には案外良いコンビかも知れない。

花江ちゃんって魔力が100あるんだよ。


「これでゴブリン達の脅威は無くなるでしょう。ハグレゴブリンによる散発的な襲撃はあるでしょうが、それほど問題ないはずです。」

水江さんの宣言に村は大喜び。


畑の隅に追加で穴を掘り、ゴブリンやダークエルフの死体を片付け祈祷すると、すっかり暗くなってしまったが、自警団は、なんとしても飲みたいみたいで大鍋を広場に出してきた。


水江さんは「私が居ると羽目を外せない」と、館に帰っているが、花江ちゃんと何故か赤左衛門は私と同じくお呼ばれしている。


「そろそろ煮えるだで、マンドラゴラ入れるべ」


ダメになったマンドラゴラを何本か引き抜いてきていて、簡単に水洗いして切り、鍋に放り込んでいる。

マンドラゴラは煮込み過ぎない方が歯触りが良いらしい。


ゴブリンが次々と死ぬ光景を見ているので、まだ生きているマンドラゴラを間違って引き抜いたら、大変な事にならないかと尋ねると、魔族の自警団員さんが笑った。


「自分らでマンドラゴラ植えてるから、魔力を出す前か後かは触れば分かる。触って大丈夫なもんしか抜かねえだよ」


「明日からはダメになったマンドラゴラを抜いて塩漬けにするだ。薬草としての売り物にはならんけど、漬物にして食うのは出来る。」


マンドラゴラの塩漬けは市場に出ない為、この島でしか食べられないそうだ。

食べてみたいと言うと、自家用の漬物を持って来てくれた。

大根と生姜を足した様な味だが、歯触りが良く美味しい。


「食べると魔力が少しだけど回復するよ」


花江ちゃんが教えてくれた。

大鍋の横では空中に浮いた赤左衛門がゆっくり周りまるで踊っているかの様だ。

竜人さんらがいつの間にかに出してきた横笛と太鼓で祭り囃子を始めた。

前世ではお祭りとか参加出来なかったから、感動している。


こうして祭りの夜は更けていった。

そう言えばマドウ。異世界人は殺戮が得意ってどういう意味?


(そのままの意味だぞ、初代勇者はもちろん、伝説の暗殺者、悪名を馳せた異端狩りの聖職者、最近では白いダークエルフなど殺戮を得意とする者は皆異世界からの転生者だ)


む、むぅ。

少なくとも私は前世で殺戮とか学んでないぞ。


(まぁ、レイカはそうだろな。花江が呼んでいるぞ)


((100人殺せば英雄とか言うのだろう?レイカは立派なゴブリン殺しの英雄なのだが、レイカの精神衛生の為黙っておくとしよう))


私の黒歴史がまた1ページ。

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